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6-15 風見乙女の詩 前半

 本日もよろしくお願いします。

 魔物の大群の発生。

 その連絡を受けた風見女学園防衛小隊の隊長は、屋上で観測している冒険者協会の職員に敵の進攻ルートを注視してもらう。

 偵察に行ければベストなのだが、偵察に行くと魔物を誘引しかねないため動くに動けないのだ。


 学園の前に走る大通りは、400メートルほど進むと交差点にぶつかる。

 その交差点は大きく、他にも風見町のビバリーヒルズにも繋がっていた。


『しょ、小隊長さん! どうやら敵は半分以上がこっちに向かっているようです』


 屋上の見張りからそう連絡が来る。

 見張りは、ドローンなどを駆使して家の陰に隠れた魔物の姿を見ている。もちろん、目視もしている。


「敵の数は?」


『4……いや、500……くらいはいそうです』


「敵圧4か……分かりました。E級はどの程度いるか分かりますか?」


『20ちょっとだと思います』


「20と少し……残りの群れはどっちに向かっていますか?」


『青嵐のほうです。数は……200ほどかと』


「分かりました。引き続き見張りをお願いします」


『了解。そちらも頑張ってください』


 小隊長は、もうそんなレベルなのかと難しい顔をした。


 敵圧1は、自衛官の過半数が寝てても対処できるようなレベル。

 2は、全員で当たれば問題ないレベル。

 3は、少し背後に抜けられてしまうレベル。

 4は、かなり抜けられてしまうレベル。

 5は、他所の救援が必要なレベル。

 ゼットは、もうどうにもならないレベル。


 魔物が500となれば救援を呼ぶほどではないが、かなり背後に抜けられてしまうだろう。

 小隊長は、遊撃班10人を全て大通り側に移動させた。

 これにより、校庭側の自衛官は20名となる。この学校を囲むように防衛している全ての自衛官を集めれば対処も容易だがそうすると別の場所から全て抜けられてしまうため、それはできなかった。


「隊長隊長」


 指揮をする隊長に、命子が声を掛ける。


「どうしました?」


「敵がいっぱい来るなら、魔法少女部隊を使えばいいじゃん」


「いや、それは危険すぎます」


「だからこういう陣形にするのさ」


 命子は、グラウンドに地図をササッと描いた。


 ★★★


―――――――――――――――――――――――

   大通り

校門―――――――――――――――――――――

道◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇■■■■

道◇                ◇■部室■

道◇     校庭         ◇■ 棟■

道◇                ◇■  ■

道◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇■■■■

道―――――道――――――――道――――――門

 ■■■玄関■■■■玄関■■■■■  ■■■■

 玄     校舎       ■□□■  ■

 関 ■■■■■■■■■■■■■■ □■体育■

 ■ ■     渡り廊下→□   □■  ■

 ■■■    中庭    □   □■室内■

  □           □   □■プー■

  □ ■■■■玄関■■■■■■■ □■ル ■

  □□■   第二校舎    ■□□■■■■

    ■■■■■■■■■玄関■■


・裏庭にテニスコート、弓道場あり。

・校舎の左方向に駐車場、車入場門あり。

・校庭と校舎の間に10段の階段あり。

・敷地は全て植え込みとフェンスで囲まれている。

・少し離れた場所に学校の畑あり。

※フォーマットの都合上で小さい建物などあり。


 ★★★


 風見女学園の校庭は多くの学校がそうであるように、校舎から階段を下りた先の低い場所にある。

 命子は、この階段の上に魔法少女部隊を並べ、階段の下に自衛隊を配置したらどうかと提案した。


 来るのは500体規模の軍勢。

 まだ1時間しか経っていないのに、ここで自衛隊に損耗されたら後々困ってしまう。


「いや、しかし、この作戦だと……」


 この作戦だと、生徒が魔法を放った際にE級に当たる危険性がある。

 そうすると、その個体は生徒を狙うのだ。


「言いたいことは分かりますけど、そこは階段の下で守ってる自衛隊が頑張れば良いと思いますよ。雑魚は魔法少女部隊、自衛隊はE級の魔物。分業です。それに一発や二発もらっても、みんな装備を付けてるんだから、のた打ち回るだけですから」


 以前、命子たちはE級の攻撃がどれくらい痛いか天狗に教えられた。

 ちゃんとした体装備を付けていれば、すんごい痛いが死にはしない。痛みに強い格闘家なら我慢して戦えるかもしれない。

 そのまま袋叩きにあえば死ぬかもしれないが、直ちに死ぬことはなかった。

 さらに、回復薬は各避難所に潤沢に配布されているため、対処さえ早ければ死ぬ危険性は少ない。


「それにほら、みんなもうやる気満々だよ?」


 命子がビッと後ろを指さすと、校庭を挟んだ階段の上で魔法少女たちが横一列に並んでいた。

 その中央では、部長がどこぞの司令官みたいにコートをマントのように肩にかけ、腕を組んで仁王立ちしている。

 小隊長は、えー、とのけぞった。


 そして、部長がバッと右腕を横に払うと、魔法少女たちは元気いっぱいに歌い始めた。


『乙女よ淑女たれ。その心に凛と咲く誇りを宿せ。

 乙女よ修羅たれ。その体を暗雲切り裂く刃となせ。

 乙女よ修行せい。己を磨き、新たな時代を華麗に生き抜くのだ。

 我ら風見女学園修行部、魔法少女部隊!』


 今では235名にまで膨れ上がった魔法少女たちの大合唱が、町に轟く。


 戦う覚悟を決めていた人も、怯えていた人も、不安に思っていた子供たちも。

 少女たちの姿は、見ている者たちの心を震わせる。

 なお、この歌は最後の名乗りがふわふわして定まっていない。


 小隊長は、天を仰いだ。

 命子は、部長のカッコ良すぎる中二っぷりに激しく嫉妬した。


 それと同時に、見張りから魔物の接近が知らされる。


 各小隊長は、それぞれの防衛地点でどのように民間人を参加させるか権限を貰っていた。

 目まぐるしく動くと予想される戦場で、総指揮官にいちいち了解を得られる時間があるとも限らないからだ。

 小隊長は、心配に思いながらも決断した。


「分かりました。その案で行きましょう」


「そう来なくっちゃぃ!」


「全員、直ちに階段下に陣を張る。校門から校庭へ引っ張るのは新垣、武田、お前らがやれ」


「りょ#$%&せぇ!」


 少女たちの詩に震えた自衛官2人は、気合の入り過ぎた返事を返した。命子には何を言ったのかまるで分からなかった。


 校庭方面防衛員は、魔法少女たちを守るために階段の下で陣を張る。

 命子たちもその陣に参加するが、まずは部長と並んで魔法を放つ。


「これより魔物の軍勢がやってきます。みなさんの魔法の有効威力射程は恐らく40メートル程度でしょう」


 魔法は射程がある。

『見習い魔法使い』の場合、直線軌道で60メートル程度は飛ばせるが、有効的な威力になるのは総飛距離の3分の2程度までである。それ以上になるとガクンと威力が落ち、最後には普通に水の球を掛けられた程度の威力にしかならなくなる。

 これは修練や魔法の杖で飛距離を延ばすことができるが、彼女たちは素人の域を出ないと判断した隊長は40メートルが減衰の大きくなり始める地点と考えた。


「合図は私がします。それと同時にどんどん魔法を連射してください。必ず我々がお守りします!」


「俺たちもやるぜ! なぁ?」


「ったりめぇだろ。女の子たちにばかり良いかっこさせてられっかよ!」


 冒険者たちが言う。

 小隊長は、大きく頷き答える。


「冒険者は魔法少女部隊の後ろについて、魔法射出後、速やかに入れ替わってください。ダンジョン指導員の方々は、階段を3段ほど降りて万が一に備えてください」


 小隊長は、冒険者やダンジョン指導員にお願いする。


 ダンジョン指導員は、冒険者たちよりもダンジョンに潜る機会がある職種の人だが、そこまで強くはない。研修以外でG級の1層以外に潜らず、さらに修行する時間もそう多く取れないからだ。しかし、こと身を挺して他者を守ることに関しては自衛隊を凌駕するほど上手かった。

 そして、彼らはレベル教育者の数の3分の1いるため、各避難所で活躍が期待されている。


 最後に、小隊長は部下たちに視線を向ける。

 全員が女の子たちを確実に守る意志を宿し、大きく頷いた。


「来たぞ!」


 そう言ったのは誰だったか。

 全員が校門に視線を向けた。


 校庭の左にあるアスファルトの道の先にある校門から、1体、2体、3体……10体目を超えたあたりから数えるのも馬鹿らしくなるほど魔物が大挙して入ってきた。


 魔物は、誘引のために突出した自衛官に向かって進攻し始め、アスファルトの道から校庭の中に入ってくる。

 2名の自衛官は、自身もまた魔法を放って敵を減らしつつ魔物を誘引する。


「いかん、誘引しきれていない。戦闘犬を出せ」


 群れの7割は校庭におびき出したが、途中で校庭に出現した魔物のせいで自衛官のルートが崩れ、後方の3割は校門から延びるアスファルトの道をまっすぐに下ってきてしまった。

 これに対処するべく、小隊長は戦闘犬を出動させる。

 戦闘犬たちもまた誘引力があるため、かなりの速度で校庭を駆け抜け、残り3割の魔物を校庭に引っ張り出した。


 ほぼ全ての魔物が校庭に入ると、いよいよ誘引役の自衛官が校舎のほうへ戻ってくる。

 それを追いかけて、足の速いE級の魔物が突出した。

 その数、15。他の魔物と足並みを揃えているE級は10ほどいる。


「小隊長、E級が先に来ちゃってますけど魔法は撃って大丈夫!?」


 命子が尋ねると、小隊長は自分の駒を見て、頷く。


「はい、お願いします! 水野、山田、斎藤は『ヘイトオーラ』を適宜使え! 魔法少女部隊は先陣に2発ずつ魔法を使用! 無理に左右に向けず、真っすぐに放ってください!」


「「「了解!」」」


 ヘイトオーラは、盾騎士などが覚える【盾技】の一つだ。

 魔力を毎秒2消費して周囲の敵を引き付ける。ただし、すぐ目の前の敵と戦っている魔物を別の場所にいる盾騎士に注目させるほどの万能性はない。


 15体の魔物が校庭を疾駆する。

 尻尾をうねらせ走るオオトカゲ、骸骨の仮面をかぶった四足の獣、石が数珠繋がりになったような身体を持つ大蛇、手がやたらと大きい浮遊する人形……

 ステータス画面で見たE級の敵たちがぞろぞろとやってくる。


「魔法準備!」


「「「水よ!」」」


 235人の魔法少女たちが、杖や手を前方に掲げる。

 淡い水色の光が周囲を染めていく。


 一体の魔物ではそう大きくならない足音が軍勢になったことで不吉に感じるほど大きく聞こえる。

 魔法少女たちはギュッと唇を噛んだり、あるいは前列を守る自衛隊の背中を見て、その重圧を跳ねのける。


 そして、その時は来た。


「放てぇ!」


「「「水弾!」」」


 小隊長の号令で、235発の水弾が一斉に発射される。

 命子や一部の自衛官、冒険者もまた魔法を放つ。


『見習い水魔法使い』の放つ魔法は、時速200kmにもなる。

 そのスピードの魔法が階段の上から校庭に向けて、斜めに飛んでいく。


 ドドドドドドドドッ!

 ドドドドドドドドッ!


 けたたましい音と共に、魔物たちが滅多打ちにされていく。

 水弾は高いノックバック性能を持っているため、連続で撃たれた魔物は進攻すらままならない。それどころか強かに撃たれて、おかしなバウンドをして跳ねる魔物すらいる。

 それと同時に、外れた魔法が校庭の土を大きく抉った。


「やった、当たった!」


「私のも当たった!」


「サエコちゃん、2発目だよ!」


「はっ、ユリ、そうだった!」


「全員、2発目用意!」


 自分の魔法が当たった!

 そう喜ぶ魔法少女たちに、すぐに部長が指示を出す。

 部長は、魔法を当てて喜んじゃうみんなの習性をよく理解していた。

 興奮のあまり2発目を撃つのをすっかり忘れていた一部の魔法少女たちは、慌てて前方へ手を向け、水弾を射出した。


 自衛官や冒険者たちも合わせて約500発の魔法を受けた魔物たちは、生き延びた5体を除いて全て光に還っていった。

 一撃では倒せなくても、滅多打ちにされればランクが離れていても倒せるのだ。


 残った5体の内、瀕死の1体を除いた4体が駆けてくる。

 E級ともなれば各属性のいずれかに高い耐性を持つ魔物も混じり始めるため、その内の2体はほとんどダメージを受けていない。


 階段を少し下がった場所に待機していたダンジョン指導員が魔法少女部隊の前に展開して防御を固め、魔法少女たちはわたわたしながら少し下がり、冒険者とスイッチする。


 前衛の自衛官がすぐに対処を始め、数の優位で瞬く間に対処し終えた。


「前衛、引け! 魔法少女部隊、再度魔法用意!」


 小隊長の指揮で、前衛の自衛官は階段下に再度陣を張る。

 その姿は、校庭を蹂躙した水のせいでドロドロだ。


 綺麗に並んだ自衛官の一方で、冒険者とスイッチした魔法少女部隊の動きが悪い。

 わたわたと興奮して、騒いでしまっている。

 そこに部長の声が轟いた。


「魔法少女部隊、魔法流星の陣・準備!」


「「「はわっ! は、はい!」」」


「まだ敵がいるんだった!」


「陣形だよ!」


「急げ急げ!」


 魔法少女たちは、部長の指揮によって大急ぎで陣を組む。

 なお、魔法流星の陣は横一列の陣だ。名前は昨晩、みんなで考えた。


 魔法少女部隊は再び、冒険者とスイッチし終わる。

 約500体の敵はもう予定の40メートル地点まで迫っていた。


「魔法流星、展開!」


「「「水よ!」」」


 いつの間にか部長が大声で指揮を始め、魔法少女たちが前方に杖や手を掲げる。

 みるみると各員に魔法が宿り始める。


「「放てぇ!」」


「「「水弾!」」」


 小隊長と部長の声が重なり、魔法少女部隊から水弾が流星群の如く魔物の軍勢に降り注ぐ。


 後から来た約500体の魔物の構成は、G級とF級が大半を占める。E級はわずかだ。

 その軍勢に235+αの魔法が、計4セット降り注いだ。


 1000を超える魔法の嵐。

 大半を占める水弾のせいで辺りの気温は下がり、破裂してできた水しぶきが霧のように校庭に立ち込める。


「撃ち方やめっ!」


「撃ち方やめーぃ!」


 小隊長が指示を出したので、部長がそれに追随して指示を出す。

 部長の指示で魔法少女部隊はピタッと攻撃を止めた。


 ただちに、魔法少女部隊が冒険者とスイッチする中。


「「「うぉおおおお!」」」


 校舎の窓から固唾を呑んで見守っていた避難者たちが、大歓声を上げる。

 いや、避難者だけではない。この映像を見ているほぼ全ての人が彼女たちの活躍に驚愕する。


 しかし、役目を終えた魔法少女部隊はダンジョン指導員や冒険者に守られて後ろに下がってしまったため、自分たちのもたらした結果を知らなかった。


 約500体の魔物の群れは、残り37体にまで減っていた。

 霧が舞う校庭には、太陽光を浴びて小さな虹がいくつも掛かっていた。そして、その中を魔物を倒したことでできた光の粒が一斉に空へと消えていく。


 後に全世界で考案されていく魔物殲滅戦陣の元祖・魔法流星の陣の最初の戦果であった。

 読んでくださりありがとうございます!


 ブクマ、評価、感想大変励みになっております。

 誤字報告も助かっています、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 弾幕は正義!!
[良い点] 鶴翼の陣とかたこつぼ地形に誘引しての包囲殲滅陣とか、車輪陣とかテルシオとか対空の輪形陣とか対潜水艦の単横陣とかイベント限定の警戒陣とか憧れるよね
[良い点] 魔法少女部隊、見事な働きですね 恐らくはどの国でも軍という大組織と民間の冒険者パーティ(数人規模の少数部隊)の二種類が活動している状況の中で 民間人が大規模な組織として軍と連携して戦う様は…
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