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6-14 風見町防衛戦

 本日もよろしくお願いします。

 AM4:00


 事前の取り決めで、この時間になると町中に放送が流れた。

 夜明けまで残り約1時間30分。

 各々が最終準備のために早起きをお願いされているわけだ。


 命子も一応スマホでアラームを設定しておいた。

 修行のためにいつも5時に起きる命子なので、それよりも1時間早く起きてちょっと眠い。


 シャボン玉でも召喚しそうなおネム顔で目をクシクシと擦って周りを見回せば、すでに続々と起き始めている人の姿がある。

 寝起きが良い人もいるけれど、多くの人は緊張してほとんど眠れなかった。


「ルル、朝だよ。いや、朝じゃあないか。とにかく起きて」


「ニャム……チュッチュ……美味いニェス……」


 命子は図太く眠りこけているルルを揺すって起こすが、寝言が返ってきた。


「メーコちゃん、任せるデスぞ!」


 ルルママが選手交代してルルの上半身を起こしてその背後に座り、ユッサユッサし始めた。

 これはキスミアで寝坊助な子供を起こす時の手法らしく、本日はキスミア人のママによる完璧な実演である。

 ルルは手をぶるぶるぅと震わせて、水をぶっ掛けられたように目を覚ました。効果は抜群である。


「にゃ、にゃぐぅ、ママ。もう子供じゃないんだからやめるデスッ!」


「お友達が起こしてくれてるのに起きないのは子供なのデスゥ!」


「むぅーっ!」


 友人の私生活を覗き見たような感じで、命子は苦笑いした。


 命子たちは朝のあれこれを済ませ、修行部のロッカールームに入った。

 そこではすでに多くの女子たちが戦装束を身につけ始めている。

 大体のメンバーが、制服、短パン、ダンボールアーマー、ダンボールサークレット、魔狩人の黒衣という組み合わせだ。


 膜の外からかなりの数の体装備が送られてきたが、全員には回せなかった。

 装備は、自衛官が現在使っている体装備が関東や東海、信越辺りからかき集められたのだが、屈強な男性サイズが大半を占めていたのだ。

 無理やり着ることも可能ではあるが、それをするくらいなら戦う男性に回したほうが良いと魔法少女たちは考えた。貴重な女性サイズは、戦える女性に回してしまった。

 他にも戦わないお年寄りはこれを辞退する人が多く、代わりに風見ダンジョンで貸し出しているエプロンやヘルメットを装備した。


 その代わりに装備しているのが、前述の通り、自分たちで揃えたダンボールアーマーと魔狩人の黒衣だ。防御力としては、無限鳥居をクリアした当時の命子たちの装備と同程度だ。


「おっ、命子ちゃん! どうどう? 決戦仕様だよ!」


 部長が命子に自分の装備を見せびらかした。


 部長や一部の魔法少女たちは、自分で10層まで行って装備を買ってきている。

 風見ダンジョンの店売り装備は、妙に綺麗な中世ヨーロッパ風ファンタジーのコスプレっぽい衣装である。

 それを着た上で、ダンボールアーマーと普通のコートを着ている。

 防具は各部位2重まで防御力が有効なので、コートはお揃い感を出すためだけの普通の物になっている。

 武器はダンジョン産の杖だ。魔法使いが使う魔法の威力が上昇する効果がある。なお、失くさないように名前が書かれている。


「おーっ、強ユニットみたいな感じがする」


「星5ね。我ながら廃課金者製造機だわぁ」


 命子はソシャゲをやらぬ。

 だから炎な紋章のタクティクスを想像して言ったのだが、部長はこの前ガチャでしょぼんぬさせられたソシャゲを想像して答えた。


 ただ、自前で初級装備を持っている人は欠点もあった。

 初級装備は【合成強化】が重いため、装備が育ち切っていない場合が多いのだ。

 これなら、自衛隊から借りたほうが得なのである。

 とはいえ、自分の弱い装備を他者に貸して、自分はより良い物を着るというのは中々できることではない。


「おっと、アネゴ先生!」


「誰がアネゴか」


「じゃあ戦乙女先生です」


「いや、うぅーん……」


 修行部の顧問であるアネゴ先生も、みんなと同じ装備に着替えていた。制服部分だけが違う。

 ヤンキーっぽい眼つきとは裏腹に喧嘩とか嫌いな先生だが、生徒が戦うのに同じ訓練をした自分が傍観するのは嫌だった。


 命子たちも大きなロッカーから自分の装備を取り出して装備していく。


 命子は陰陽師風の和装に龍鱗の胸当て。

 部位装備として、長足袋、厚底草履、チョーカー、指貫手袋。

 さらにこの前、手甲とハチガネを買ったので、それも装着。

 腰にサーベルを2本差し、他に魔導書を2冊。


 ルルは露出過多のクノイチ衣装スパッツ付きに、龍鱗の胸当て。

 手甲、脚甲、ハチガネ、長足袋、草履、チョーカー、を装着。

 背中に忍者刀、腰に短刀、小鎌、と武器がたくさんだ。

 ルルはかんざしで長い髪を結っている。


 萌々子は聖女風の初級体装備にダンボールアーマー。

 足はハイソックス、頭にはダンボールサークレットと命子があげたタヌキミミ。

 武器は鉄の棒と短刀と魔導書。

 なお、今回の騒動で武器の貸し借りは緊急事態として緩和されている。ただし、確実に返却できるように名簿に記帳されている。


 最後に、命子とルルは本日の戦いで、キスミアのダンジョンで買ったネコミミを頭に装備することにした。

 命子の持っていたタヌキミミは萌々子に、ルルのウサギミミはルルママに渡される。

 またルルのお尻にはネコシッポがついており、命子はウサギシッポ。

 部長たちは、命子がお土産でネコミミを買ってきたことでネコミミにハマり、みんなで市販のネコミミやイヌミミをつけている。防御力はない。


「ふぇええ、命子ちゃんたちこそ強ユニット感半端ないじゃん! お正月の限定キャラで出てきそう!」


 命子はソシャゲをやらぬ。

 据え置きゲームしかやらないので、季節ごとにキャラが加わるのが今一分からない。

 だから、とりあえずポージング。


 同時刻、少し離れた青嵐で装備を装着していくささらと紫蓮。


 ささらは、桜の袴衣装に龍鱗の胸当て。

 そこに、手甲、ブーツ、ハチガネ、チョーカー、指貫手袋を装備。

 武器は、サーベルと短刀。

 また、今回から盾を導入した。若干衣装に合わないがラウンドシールドだ。

 頭にはウサギミミ、お尻にもウサギシッポを装着。


 紫蓮は、お転婆シーフ風衣装に龍鱗の胸当て。

 そこに、ハチガネとチョーカー、自分で作ったダンボールの手甲と脚甲を装着。

 武器は龍牙の薙刀・龍命雷と、水の魔導書。

 頭にはネコミミを装着だ。


 また、指貫手袋で隠れた4人の指には、この前作った絆の指輪が装備されている。


 さて、着替え終わった命子たちは、部室からぞろぞろと出てくる。

 すっかりフォームチェンジした女子高生たちが廊下を練り歩くと、否応なしに注目を集めた。


 命子とルルと萌々子を先頭に、そのすぐ後ろに部長とアネゴ先生、そして魔法少女部隊。

 ダンジョンで敵をやっつけ、一生懸命修行してきたことがみんなの顔に自信を宿らせている。


 レベル教育に来ていた他県の学生が、男女問わずポーっと見惚れ。

 青空修行道場の大人たちは、孫のように可愛がった少女たちの立派な姿に感激し。

 彼女たちの親は心配でたまらないけれど、誇らしい気持ちになる。


 学校サイドでは、すぐに冒険者にならなかったことを後悔する子もいるし、純粋に憧れの先輩や友人たちの晴れ姿に感激する子もいる。

 教師陣は、彼女たちほど戦えない自分たちは何をしているのか自問する者が多くいた。


 魔法少女たちは校庭に出ると、準備運動を開始する。

 これにつられて、青空修行道場の面々や冒険者たちも参加していく。


 命子とルルは少し離れて、【イメージトレーニング】をする。


「精が出るわね」


「馬場さん!」


 シュバシュバ動く命子の下へやってきたのは、馬場であった。


「私は命子ちゃん付きだからね。一緒に戦うわ」


「そいつぁ心強いね。ペシペシやんの?」


「できればムチで戦いたいけど、無理そうならショートソードね」


「オッケー。頑張りましょう、馬場さん」


「命子ちゃんはほどほどにね」


 馬場は苦笑いした。


 そんな馬場の装備は、秘書風のダンジョン装備だ。

 武器は鞭、ショートソード、短刀、魔導書。

 遠中距離が馬場の本領だが、そう動かせてくれるかは始まってみないとわからない。




 東の空が金色に染まり始める。

 その頃には準備運動を終え、各員は所定の位置についていた。


 どこの防衛チームも、まずは自衛官が建物近辺で警戒態勢から始めている。

 これは実際のところどれほどの規模の戦いになるのか分からないからだ。

 建物から離れた場所に配置して、自衛官と建物の間に敵が出たとあったら間抜けだし。


『各員に告げる。こんなことを言いたくないが、死ぬのは我々が一番初めだ』


 各自衛官に指揮官である一等陸佐から無線で言葉が贈られる。


『しかし、我々が死ねばその背中で守る人々も死ぬと心得ろ。だから死ぬな。意地でも生きて、戦い抜け。以上、健闘を祈る』


 自衛官たちは一拍目を閉じ、再び開いた眼に強い意志の力を宿らせた。

 その瞬間、世界に放送が流れた。


『みんな、ついさっきぶり! もう少しで膜の中のみんなから太陽さんが見えるようになるよ。それを合図に始めるからね。期間は地球さんがクルーッと一回転するまで。ではでは、健闘を祈るぅーっ!』


「陽気なんだよなぁ。こいつめ!」


 命子はペシッと地球さんを引っ叩いた。

 その5分後、風見町で一番高い山のてっぺんに太陽の光が差した。




 AM5:37


『こちら青嵐観測班。魔物の出現を確認。敵圧1』


 青嵐の屋上で町の全体を警戒している自衛官が無線で呼びかける。

 魔物の軍勢レベルを数値で暫定的に定義したそれは『敵の圧力レベル1』という意味で、自衛隊だけで容易に、それこそ一服しながら対処できる程度の数を表している。


 その後、どのように敵が出現したか町全体に説明される。


 紫色の靄が地面から出てきて、それが凝固すると魔物に変わった。

 発生から完成まで1分ほどの時間があるようだ。

 そんな光景が町の各場所で観測できた。


 魔物の出現方法は直ちにテレビ放送され、膜の内外で共有されていく。


 命子たちが守る学校の校庭にも紫色の靄が現れた。

 それを見た命子は、魔物の血液を思い出す。血を流す魔物はみんな紫色の血をしているのだ。


「これより戦闘に入ります。一先ずこの場は我々にお任せください」


 風見女学園の小隊長が一同に向けて指示を出す。


 校庭に出た魔物は、3体。

 G級が2体にF級が1体だ。

 結果から言うと、あっという間に片付いた。


 窓から固唾を飲んで見守っていた避難者たちは軽く歓声を上げる。


 それからも散発的に魔物が出てきた。

 律儀に校庭からだけ出てくるわけではなく、道路から出てきた魔物が校門から入り込むこともあったし、裏庭から出てくることもあった。

 自衛隊は、校庭が戦場になるとは限らないという考えで人員を配置しているため、問題なく対処していく。


『実験班から中間報告。魔物の攻撃力は通常通りだね。ブロック塀で隠れた隊員は壁ごと殴られた。何かしら生体反応を察知する術がありそうだが原理は不明。また認識の件は完全に眠らなければ恐らく無意味だ。目隠しを取って無理やり認識させるように行動するのを確認した。ただし、近場に他の敵がいる場合はその行動をするとは限らなかった。以上、実験を続けるよ』


 教授がつらつらと結果を作戦本部に通達する。

 研究の役に立ててもらうようにその実験風景は世界中に流された。

 他にも、靄を散らすことができるかもすぐに実験したが、タカギ柱と同じように全く干渉できなかった。

 なお、全ての実験は自衛官が身体を張っている。

 

 戦闘が始まって直ちに活動を開始した自衛隊は、魔物を問題なく対処していく。


 その間にも教授たち実験班は様々な法則を発見する。

 中でも、魔物のターゲッティング仕様が早々に知れたのは大きかった。

 E級の魔物は、レベル12の自衛官が1メートルの範囲内に居ても決して襲わず、少し離れた位置にいるレベル13以上の自衛官の下へすぐに向かい始めた。

 このことから、敵が近くにいないからといって中途半端にその場でまごつくようなことはないと推測された。


『各小隊長に連絡。これより陣を敷く。各戦闘地域の地形に合わせて民間人を動かせ。また、再度E級に手出ししないことを厳守するように伝えろ。以上、行動開始』


 無線を聞いた各小隊長たちは頷き、各々が避難所にいる戦闘参加者に呼びかける。

 風見女学園の小隊長もまた同じだ。


「みなさん、敵の出現方法はご覧になった通りです。校庭内で発生する数よりも、外部で発生した個体が群れになってこの場に進攻してくる数の方が多くなるだろうと判断しました。よって、これから予定通り陣形を作ります」


 冒険者や青空修行道場の面々は黙って頷く。


「事前に注意があったように、決してE級の魔物には手を出さないようにお願いします。E級は放っておけば自衛官の下へやってきます。E級は我々が対処します。ただ一点、羊谷命子さん、流ルルさん。貴女方の下へもE級は来てしまいます」


「はい。レベル高いですし。私たちは前線ですか?」


 あっけらかんと言う命子と対照的に、小隊長は申し訳なさそうな顔で答える。


「申し訳ありませんがお願いします。必ず我々がお守りしますので」


「大丈夫ですよ。馬場さんもいるし、私たちもそこそこやるし。みなさんはお仕事に集中してください」


 命子たちが中衛にいると、E級を誘引してしまう。

 命子たちとすぐにバトルになってくれれば良いが、戦場を移動している最中に攻撃を与えられたら、与えた者もE級のターゲットになってしまう。

 自衛隊はこれを避けたかった。

 だから、命子たちは自衛隊と同じポジションなのだ。


 話が終わり、陣形が作られていく。


 学校の敷地をぐるりと取り囲むように、40人の自衛官が並ぶ。少し敷地に入っているくらいか。校庭で言うと校門から20メートルほど内側だ。

 さらに、10名と戦闘犬4匹が遊撃として各所で待機している。

 かなりの幅が空いてしまうが仕方がない。自衛官が魔物を誘引し、背後に魔物を少数ずつ送る作戦となっている。


 冒険者は校舎や体育館、屋内プールなど人が避難している建物から20メートルほど離れている。

 校庭方面では、校舎前にある10段ほどの階段の上と下で陣取っている。


 冒険者以外は、最後の砦だ。

 各建物の入り口や、少し出た辺りにいる。


 また冒険者と自警団は、数が多いので建物内に交代組がかなりいる。

 他にも学校の屋上には、冒険者協会の職員が見張りをしていたりする。


 そして、命子は前線付近に配置だ。


「無理するなよ。無理だと思ったら逃げてくるんだぞ?」


 お父さんが、命子に言う。


 お父さんは青空修行道場のメンバーを3人纏める班長である。

 お父さんが妖精店売りの棒を持っている以外は、メンバー全員が物干し竿を装備している。防具はお父さん以外、国から借りたちゃんとした軽体装備を纏っている。


「私ってばちゃっかりしてるから、そこら辺は大丈夫だよ」


「そうか……」


「うん。お父さんも頑張ってね。E級は手出ししない。G級とF級はいっぱい倒す。ちゃんと守るんだよ?」


「ああ」


「モモちゃんも無理しちゃダメだよ」


「私はお母さんと一緒だし大丈夫だよ。お姉ちゃんこそ大はしゃぎしそうで心配。ねえ、光子?」


「っっっ!」


 萌々子の問いに、光子は自分の身体を構成する光で剣を作り、えいえいと振った。


「おっ、みっちゃんはやる気満々だね。モモちゃんをお願いね」


 命子は、光子に魔力を20ほどプレゼントして喜ばせると、家族と離れた。


 隣で、ルルもまた家族に挨拶している。

 ルルの両親はどちらも戦闘班だ。ルルママは、小太刀二刀流のクノイチさんである。


 挨拶を終えて、命子たちは馬場と合流した。


「行くデス!」


「おうよ、背中は任せたぜ、相棒!」


「ニャウ! 任せろデス!」


「えー、じゃあ私は命子ちゃんの前のほうを守ろうかしら?」


 そんなことを言いながら、3人は前線へ移動した。


 すると、移動の途中で紫色の靄が地面から出てきた。

 教授の調べによると、この靄の量で魔物の等級が変わるらしく、命子たちのそばに出たのはこのイベントで一番強いE級だった。


「ほっほう! 丁度良いウォーミングアップだね」


「E級は戦ったことないデスからね。ババ殿、戦っていいデス?」


 ルルが馬場に問うと、馬場は敵圧が低い今のうちが命子たちにE級の魔物がどれほどのものか知ってもらうチャンスと思い、許可を出した。


 1分ほどして靄が固まり現れたのは、コモドドラゴンに似たオオトカゲの魔物だった。

 頭から尻尾の先端まで合わせると2.5メートルほどありそうだ。

 尻尾がメイン武器で、バク転したり薙ぎ払ったり非常に器用な動きをするトカゲだと、外国の動画で紹介されていたのを命子たちは思い出す。


 ちなみに、魔物はE級から移動速度に温情がなくなる。

 いや、実はそれでも調整されているのかもしれないが、G、F級の魔物のように昔の命子でも全力で逃げれば逃げきれてしまうような移動速度ではなくなるのだ。

 概念流れというキーワードを知った研究者たちの中には、等級が上がるにつれて異世界の魔物本来の力に近づけていっているのではないかと推測する者もいるが、定かではない。


 多くの避難者、テレビの向こうの世界中の人たちが見守る中、命子とルルはオオトカゲと戦い始める。


 挟撃するよう左右から攻めた命子たち。

 ルルが腕を振り、地面から水芸をバシュッと噴出させる。


 オオトカゲはそれに驚き、大きく飛び跳ねた。

 命子はそれを好機と捉えたが、斬りかかるモーションに入る前にキャンセルして、大きく身を屈めた。

 驚いて飛び跳ねたと思ったトカゲだったが、空中でぐるりと身体を横回転させると長い尻尾を薙ぎ払ってきたのだ。


 命子の頭上でオオトカゲの尻尾がブォンと風を斬りながら通過する。

 命子はその様子をしっかり目で追いながら、剣の握りを調整する。


 頭上で尻尾が通過し、一回転したオオトカゲの顔が命子のほうを向いた。

 その瞬間、命子は身体を起こす動作と共に、オオトカゲの顔を下から斬り上げる。

 同じく薙ぎ払い攻撃を四足の獣のように深く身を沈めて回避したルルは、滞空状態で攻撃を終えたオオトカゲの腹に小鎌を突き入れ、腹に刃を引っかけながら尻尾方向へと離脱した。


 校庭の中央で、未だ滞空中のオオトカゲの顔と腹から紫の血が大量に噴き出す。

 その頭と尻尾の両端では、2人の少女が剣と小鎌を振り切り、次なるモーションに入る姿がある。


 命子は魔導書をトカゲの頭上へ配置して、土弾を放ち。

 ルルはぐるりと横に回転しながら忍者刀で斬りつけようとしている。


 ルルの斬撃がオオトカゲの後ろ脚を両断し、それに少し遅れて命子の土弾がオオトカゲの頭部を打ち据えた。

 オオトカゲは、土弾の衝撃で地面に叩きつけられ、そのまま光になって消えた。


 シンと静まる風見女学園。

 学校の子たちも、青空修行道場のメンバーも、冒険者も、画面上では見たことがあるけれど、生で命子たちの本気の戦いを見たことはなかった。一緒にダンジョンに潜った部長だって本気の戦いは見たことがなかった。


 オオトカゲのジャンプから始まって、わずか2秒程度で2人は回避と強烈な攻撃を2発繰り出し、あっという間に倒してしまった。

 強すぎる。

 一同を絶句させるには十分だった。


 そんな中で、命子は予備として控えさせておいた水弾を解除して、ルルと議論を始める。


「これは確かに普通の人じゃ無理かもしれんなっ」


「攻撃速かったデス。ワタシたちも下手をすれば当たってたデスよ」


「だね。気を付けないと」


 そんなことを話していると、学校中で大歓声が上がった。

 命子とルルはその声にビョーンとジャンプして驚き、どうやら褒められているのだと理解すると、2人でキメポーズを取った。


 まるでラストバトルが終わったテンションだが、これからが始まりである。


 それを告げるように、風見女学園に緊急連絡が入る。


『緊急報告。風見女学園前大通り北交差点に魔物の大群が出現しました。風見女学園は進攻想定ルートの一つになっています。各員は戦闘に備えてください。繰り返します――』


 AM6:34。

 魔物が出現してから1時間が経ち、本格的に戦闘が始まりそうな気配だった。


 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想大変励みになっております。

 誤字報告も助かっています、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 二巻を読んだので続きを見返してて思ったのですが命子たちは魔狩人の黒衣『陣羽織バーション』を着ていないようなのですが貸出したって事なんでしょうか?
[気になる点] いつの間にかパパ呼ばわりからお父さんにジョブチェンジしてることに気づいた…。そして馬場さんのサブウェポンはサーベルだった気がするのがいつの間にかショートソードに…w本当に気がついたら変…
[一言] 自衛官テイマーさん&野生動物の戦闘が、楽しみです。 ……ありますよね?
感想一覧
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