6-3 能力測定とマナの仮説
本日もよろしくお願いします。
命子たちは風見町を離れ、富士山の辺りにある自衛隊の基地に来ていた。
身体検査や能力テストを行うためだ。
風見町でも身体検査はできるのだが、能力テストを行うには風見町はあまり良くなかった。どうせなら良い設備ということでお出かけだ。そう遠くもないし。
ちなみに、各地のダンジョン周辺には研究施設が建つ予定で風見町もその例に漏れないが、なにせまだダンジョンができて半年も経っていないため、建造中だ。
現在は仮設のプレハブを使っているので危険度の高い研究などはしておらず、データ採集などがメインとなっている。
基地のゲートで検問される。
ブラックシートの貼られた窓越しに自衛官と目が合い、命子はビシッと敬礼した。通って良しっ!
基地に来た命子たちは、早速、身体検査を行なった。
健康診断と同じようなことから、採血、心電図、レントゲンなど高校生の命子たちにはあまり馴染みのないことも行う。
特に、目の周りの検診は重点的に行われた。命子はもちろんだが、ついでに他のメンバーも。
その解析は他の研究員に回され、命子たちは脳トレみたいなテストに移る。
タブレットに表示された問題を、ペンでテシテシとタップして解いていく。
ゲーム好きな命子はニコニコし、ささらは模試でも受けているように真剣に、ルルは眉間にしわを寄せてむむむっとして、紫蓮は無表情に淡々と。
この解析も他の研究員に回され、命子たちは地下に潜る。
この基地にある研究所の地下には、自衛官の身体能力を測定するための施設があった。
ダンジョンができる前から存在し、現在では目まぐるしく変わる自衛官のデータを測定するうえで大変役に立っていた。
円形のそこそこ広い部屋で、壁のそこかしこに測定用のセンサーやギミックが設置されている。
命子たちは身体の各所にベルトやパッチを着けられる。
これで運動をすることにより、身体能力が測れるのだという。ただし、この場では魔法や武技などの技術は測れない。
さらに、武器も測定専用の棒だ。剣タイプや槍タイプなど様々なものがある。魔導書は実物を使用するが、魔法の発動は不可だ。
命子は、半年ほど前のことを思い出す。
その頃、命子と教授が行なった能力測定はもっとアナログだった。
学校のスポーツテストに毛が生えたようなものだったのだ。
命子が頑張って走り、教授がストップウォッチを止め、そのタイムを見て2人で大はしゃぎしたものだ。
そんなことを懐かしく思いながらクスリと笑う命子の下に、測定を始めると放送が入る。
測定のプランは2つ提示されていた。
放送で出される指示に従って運動するか、【イメージトレーニング】を使用するか。
命子たちが身に着けている機器はとにかく運動すれば良いというものなので、どちらでも構わない。
指示に従うのも退屈そうだし、命子は【イメージトレーニング】を使用した。
想定するのは無限鳥居の市松人形。
中途半端な攻撃なら初手に限りほぼ間違いなく回避してくる市松人形は、1人で戦う場合、攻防速技と様々な練度が伴っていなければキツイ相手だ。
観測器が埋め込まれた部屋の中で、命子が斬撃、バックステップ、刺突、連撃、と凄い速さで行なっていく。
分厚いガラスの向こうにある別室では、研究者たちがワクテカしながらパソコンに飛んでくるデータを見つめる。
敵を倒し終わると、命子は『市松人形×2体!』などと声を出して、自分が次に戦う敵の情報を伝える。
「魔法を測定できないのが口惜しい限りですね!」
女性研究員が命子のデータを見て、興奮気味に言う。
命子は、魔導書を巧みに操っているがその全てが魔法を放つための配置であり、配置するだけで終わっている。
一応、この部屋の物は全て【合成強化】によって強度を上げているが、ベースが地上産の物のため魔法攻撃に耐え切れないのだ。
現状で、魔法の測定は砲弾の威力測定みたいなことでしか計測できないため、別個に測定する必要があった。
さて、命子スタイルは、遠・中距離を魔法で制し、近距離では本体と2冊の魔導書で嵐のような猛攻を加えるオールレンジ戦法だ。
ここから魔法という要素を抜かすと、命子はそこそこ強い程度であった。
レベルが上がっていない人からすれば枝を一本持っていただけであっても化け物染みて強く感じるだろうが、近接特化の自衛官などからするとそうでもないのである。
だから魔力を交えた戦闘ができないこの測定では、ロリッ娘が凄く強いと分かる程度の結果にしかならなかった。
研究員たちは、万全なデータ収集ができないのが悔しかった。
『市松人形×5体!』
汗を煌めかせながら、命子が叫ぶ。
そうして、乱戦を始める命子の瞳にチロリと紫色の炎が灯った。
「「「おぉおおおお!」」」
地球さんTVで見た謎の現象に、研究員たちのテンションが爆発した。
そんな中で教授は冷静にジッと命子の瞳を見つめる。
炎が出現する前と後で、命子の動きは劇的に変わった。
出現する前は、左右と背後に回避しながら戦っていた。大きくバックステップすることもあった。
【イメージトレーニング】が使用されているため、解析をしなければどのような戦闘状態なのか本当のところは分からないが、乱戦であることは見て分かった。
しかし、炎が出現すると徐々にゆらりゆらりと動き始め、まるで最小限の回避を繰り返しているように見えた。
これを見た教授は、ハッとしてすぐにキーボードを叩く。
準備を整えた教授は、命子の顔の向きに注視して特定の方向を向いた瞬間、エンターキーを押した。
その瞬間、命子を囲む壁60度の範囲から40発のゴムボールが同時に射出される。その速度は時速80kmから120kmとバラバラだ。
研究員たちは教授の突然の凶行にギョッとしつつ、次の瞬間、息を飲んだ。
命子は迫りくるゴムボールをギンッと睨み、1歩だけ斜め後方に移動して身を屈めると、剣を振るった。
39発のボールが命子の横や頭の上をすり抜け、1発のボールが剣によって叩き落とされる。
「命子君、終了だ!」
跳ね返ったボールが足元に転がっているので、教授はマイクで終了を呼びかけた。
そのまま幻影の市松人形たちとの戦いを再開しようとしていた命子は、ふぅっと息を吐く。それと同時に、紫の炎が鎮火する。
命子はにぱぁっと笑って、教授に手を振るのだった。
教授はゾクゾクしながら片手を上げて応える。
その後、ルル、ささら、紫蓮が順番に測定していく。
ルルとささらはやはり強く、紫蓮は中学生サンプルとして研究員たちを唸らせるのだった。
3人の測定が終わると、地上に戻って攻撃力測定を行う。
物をぶっ壊す測定方法だ。
そうして、今日予定していた全ての診断が終了した。
「確証はないが、君のその目は視空間認知力をとんでもなく高めていると思われる」
教授が突然のボール射出を謝りつつ、命子に告げる。
命子は、シュババと片眼に手を添えて指の隙間から目を見開いた。
そのポージングのまま、命子は言う。
「視空間認知力ってなんですか?」
「簡単に言えば、目で見た物の情報を分析して、それが空間に占めている関係を素早く把握する能力だね」
「早い話が、空間把握能力みたいなもの?」
「ほぼ同義だね」
「なるほど。教授、それ地味じゃないですか?」
「いや、それは分からんが。でも凄い能力だと思うよ。ちょっとこれを見たまえ」
教授は2台のパソコンの画面を命子たちに見せる。
2台とも画面の中では剣を振りきった命子の姿が静止した状態で映っていた。ただ、カメラの位置が違う。1台は真上から、もう1台は真後ろから撮影されている。
特に注目なのは、真上からのほうだ。紫の光が円を描くように残光となって命子の身体の周りで尾を引いている。
「我ながら凄くカッコいい件」
「激しく同意」
ついに自分も目の光で残光を作れるようになったか、と命子は感慨深かった。
紫蓮はひたすら羨ましい。
「この後にボールが飛んでくる」
教授がキーボードを押すと、画面がスローで動き出す。
たくさんのボールが命子へ向けて射出され、命子はそれを視認した瞬間、斜め右後ろに引きながら身体を深く沈めた。スローなのにかなりの速さだ。
ボールは命子の横と頭の上をスローで抜けていく。
おーっと仲間たちが歓声を上げる。
命子はシュババと片眼に手を添えて、てれてれした。
そんな仲間たちの中で、ルルが唸る。
「メーコはなんでこっちに移動できたんデス?」
「魔眼の導き故に」
「ルル君は気づいたか」
命子の発言をスルーして、教授は頷く。
「偉そうに。私が気づかなかったらアンタだって気づいてないじゃない」
馬場がそう言うが教授はこれもスルー。
教授が片方のパソコンを操作すると、ボールが射出されてからの3D映像が出てきた。
「40発のボールが射出されたわけだが、これはその内の38発分の軌道をシミュレーションしたものだ」
3D映像の中ではボールが通った線を残しつつ、命子の後ろに抜けていく。
そこまで見ると、全員が気づく。
命子は右後ろ下段に避けたのだが、真左に避けたほうが安全なのだ。ボールが全く通過していないのである。
それに対して右後ろ下段に避けた命子は剣でボールを1つ弾くことになっている。
ルルと馬場も、ボールが射出された瞬間にこのビジョンは見えていた。
だからこそ、この後の展開を予測した命子に驚きを隠せなかった。
「しかし、ここに残り2発が加わるとこうなる」
残り2発を加え、つまり本番と同じボールの軌道を描いた3D映像が展開されると、全員が目を見張った。
この2発が途中で他のボールに当たったことで連鎖的に複数のボールが複雑にヒットし合う。
そして、真左に避けた場合、4つのボールが同時に襲いかかることになったのだ。
全員が驚く中、命子はむふぅっとドヤ顔をしながら、紫蓮の脇腹をこちょこちょした。照れ隠しである。
やられた紫蓮は命子以上に教授の話に夢中なため、若干ウザく感じた。
「命子君が避難した場所は、結果的に最善の場所だったんだよ。命子君はこれをボールが射出されてから0.05秒で判断していると思われる。60度から掃射されたにもかかわらずね。人には盲点というものもあるし、これは常人ではまあまず無理だ」
こんなことばかりを10年訓練し続ければ常人でもあるいはできるようになるかもしれないが、命子の場合はこれを初見で見切っていた。
「さらにだ。ボールが射出される前に命子君が戦っていた市松人形をシミュレートしてみたのがこれだ」
命子の立ち回りから、見えない市松人形の位置を研究者たちは予測してみた。これは武術素人の研究員たちだけではどうにもならず、強い自衛官が数人意見している。
その結果、命子はボールを回避しつつ、すぐに市松人形に対応できるであろう場所を選んでいた。
実のところ、命子は市松人形を無視するならば、思い切り右側に横っ飛びすれば余裕でボールを回避できたのである。
「これを踏まえたうえで、こっちのデータだ。先ほど行なった適性診断テストだね」
脳トレっぽいテストの結果が全員に配られる。
注目なのは命子である。
「命子君は、空間認識力がずば抜けて高いと結果が出た。模様がたくさん出てきた問題があっただろう? 全員があれで良い点をあげたが、命子君はあれを全部2秒以内に答え、全問正解している」
「今日は褒められデイだったのです!」
褒められ過ぎた命子は恥ずかしくなり、ささらの太ももに顔を埋めた。
ささらは適当に背中をトントンと叩いてあやす。
「しかし、このテストが良い結果だったところでボールの件を瞬時に判断できるとは到底思えない。よって、私は例の炎は視空間認知力を増強しているのではないかと考えたわけだ」
おーっと感心する一同は、自然と命子に視線を向ける。
命子は口をムニムニして、冗談を言う。
「まったく気づかなかったよ。いつも一生懸命の人生なんです!」
命子が目に炎を宿したのは萌々子のピンチからだ。
あの時は本人が言うように、無我夢中で視空間認知力がアップしているなんて微塵も考えなかった。がむしゃら過ぎて凄く調子が良いとすら思わなかった。これはその後のネチュマス戦でも同じだ。
「言われてみれば、命子さんはウジャウジャいるネズミの中から魔法ネズミだけすぐに見つけて迎撃してましたわね。あちらからの魔法も全部避けていましたし」
ささらが地球さんTVで見た命子の活躍を思い出して、言った。
ささらやルルは、命子の実力を恐らく誰よりも知っている。
その2人からすると、絶え間なく飛んでくる魔法を命子が避け続けるのは無理だったように思えてきた。しかも魔法を撃ち返しながら。
「でもでも、教授。私、内緒にしてたんだけど、過去に3回東京で迷子になってるんだよ? それなのに視空間……えっと空間把握能力云々って言われてもね」
命子はカミングアウトした。
なお、視空間認知という言葉に馴染みがなかったので、言いやすいほうを選ぶ。
教授もそれならと、命子と同じように呼ぶことにした。
「野球選手がボールにバットを当てるのも空間把握能力の一つさ。彼らはそれが非常に優れているわけだが、方向音痴や迷子になる人はいる。他にも地図をすぐに理解できる人が、目の前にある物を見つけられない場合だってある。同じ空間把握能力という括りでも、得意不得意はあるのさ」
教授の話を聞いて、そういうもんかと命子は納得した。
「とはいえ、これは推測の域を出ないがね。まだまだ検証は必要だろう」
命子の話は一旦終わり、他のメンバーの話に移る。
命子は特殊過ぎるためこんな話になったが、ささらたちは他に添付されたデータと共に分かりやすい話になる。
そのデータは、この施設で能力測定をした自衛官たちの最高値や平均値だ。
まずは紫蓮だが、自衛隊の平均値よりも若干下回る。
レベルが10を超えたのは最近のため、これは仕方ないことだった。
適性診断テストでは、命子に次いで空間把握能力が高い。紫蓮もまたその分野で満点だったが、答えるまでの秒数が命子よりも遅かった。紫蓮の場合は、それよりも注意力が非常に高かった。
次にささらは、戦闘力が平均値を大きく上回っている。
レベル15になったのが非常に早かったのが如実に表れた結果だ。
特に攻撃力が非常に優秀であった。
適性診断テストでは、満遍なく高得点だ。しかし、研究者たちはこういうテストに慣れている子の匂いを感じ取っていた。それでもオリジナルの問題をやっているのに高得点なのだから十分に凄いのだが。
なお、現状で防御力を測定する方法はなかった。防御系スキルから予測するしかない。
最後にルルだ。
ルルもまたささらと同様に平均値を大きく上回る。
特に素早さに優れており、身体の動かし方をよく理解しているため強烈な一撃も可能としている。
適性診断テストでは、判断力に優れていると出た。
実際にルルは、敵に隙が生じた際に踏み込むか見送るかを瞬時に判断してきた。他にもダンジョンの曲がり角では敵の数や距離を見て、後続の仲間にどうするか伝える役などをやっている。
そういった経験が能力を高めていた。
ついでに、命子だが。
命子もまた平均値を上回っていた。
特に紫色の炎が出てきてからの命子の動きは、データ上では大した運動量ではないが、【イメージトレーニング】の敵の動きを推測した自衛官たちからは、尋常じゃないと評価されている。
能力測定と適性診断の話は終わり、次に健康診断の結果に移る。
4人とも健康体で、背筋のラインなどとても素晴らしい。
以前の紫蓮は若干猫背気味だったのだが、修行をしていくうちに矯正されていた。
そんな中で特に注目なのが命子の目の診断結果だ。
視力は両眼ともに2.5とかなり良かった。
しかし、人外っぽいデータは取れない。
「ふむ……」
教授は命子のデータを眺めて、顎を摩る。
「何か気になりますか?」
そう尋ねる命子に、教授は検査結果の書かれた紙を渡して、言った。
命子は紙に視線を落とすが、見てもよく分からないので顔を上げる。
「今回の検査で、君の目やその周辺の細胞にはなんの変化もなかったよ。これから変化するのか、ずっとこのままなのか。要経過観測だね」
「そうですか。でも、教授のその顔は何かに納得した顔ですよ」
命子が言う。
教授は自分の表情の変化からそんなことを言ってきた命子を可愛く思った。しかし、残念。本人は気づかないが、知り合いなら普通に誰でも分かるくらいには表情に出る人なのであった。
「やっぱり何も分からないことに納得したというべきか。そう……私は……というよりも多くの学者が同一の仮説を立てている」
教授は前置きをする。
同席している馬場は、相変わらずまどろっこしい喋り方するなぁ、とイラついた。
命子と紫蓮は中二病なので、こういった喋り口は好きだった。
ささらとルルはどちらでもないが、興味は示している。
「マナや魔力とは、物体の持つ魂魄的な物に働きかけているのではないかと」
「おっと、科学者の口からオカルトな言葉が飛び出ましたね」
「そうでもないさ。科学者の中には神を信じる者は多くいる。信仰心と論理的思考力は別物だ」
「ふーん」
命子は難しくなって椅子から伸びる足をプラプラした。
――マナや魔力は魂魄的な物に働きかけている。
ステータスなんてものが全世界の人や動物に付与され、さらにその中にはカルマなんて項目があったわけだし、学者でなくてもこの仮説は思いつく。
しかし、学者の場合は、強い人物の細胞の解析が命子の目と同じような結果になり、一般人よりもその想いは強かった。
もちろん、現代の機材ではスペックが足りないだけだと考える学者だって多くいる。
どちらが正解か分からない以上、どちらも必要な考えだ。
なんにしても、マナと魔力が関わることは現代科学で簡単に解明することはできず、ラノベで語られるような魔石などからエネルギーを取り出すなんてことはできていなかった。
現代科学は決して万能ではないのだ。特に魂魄説が事実ならば無力である。まずはそういった分野を発展させ、その後に科学と融合する必要があった。
「その場合、魂魄というのは我々が考えていたようなふわふわしたものではなく、遥かにパワフルなものになるわけだが……まあ、立証の糸口が掴めない以上、あまり語るべきではないか」
教授は、コーヒーを飲んで話を一段落させた。
「魂魄説だったら、やっぱりダンジョンジョブを発展させていかないとダメなのかな?」
「錬金術師とかありそう」
どうすれば良いのか考える命子に紫蓮が言う。
紫蓮も科学的な話は分からないけれど、物語で語られる錬金術師ならばきっとマナも解き明かせると思った。
「紫蓮君が考えていることも色々な国で試されているよ。かくいう私もダンジョンに割と潜っているんだ。そうして、ヘトヘトになって帰ってくる」
教授は、特定ジョブスキルのスキル化方法の発見や、レベルアップによる各年代及び体格別の身体能力推移の発表、レベルと魔力上昇率の関係性の発見……他多数の成果を出しており、かなり国から期待されていた。
しかし、残念ながら今のところ『錬金術師』というジョブは発見されていない。
「なんにしてもだ。今日は有意義だった。特に紫色の炎が再び出たのは大きな発見だよ」
「え、そうなんですか?」
「それはそうさ。最初は必死さから来る偶然だったかもしれないが、二度目はこんなテストで簡単に出た。つまり、一度、門が開けばこの能力は再現が容易なのかもしれない、と前例が出たのだからね。まあ君自身は意識的に使えているわけではないようだが。そうだ、ちょっと自分の意志で出してごらん?」
「炎よ出ろ、んーっ!」
命子は目に力を込めた。
が、涙目になるだけで何も出ず。
「やはり今の君には意識的に使いこなすのは無理と、これも大きな発見だ。あとは魔導書に飛び火した炎も再現してくれたら面白かったんだが、まあ魔導書が活躍するようなテストではなかったから仕方あるまい」
キスミア事件で命子が目に出した紫色の炎は、その後、魔導書にも出現した。
そちらについての性能は全く分からない。
命子は教授のお話を聞いて、紫の炎がどういう状況で出るのか、その時の自分はどうなっているのか、そういったことを出来る限り意識するようにしてみることにした。
こうして命子たちは、各種検査やテストを終え、帰路につくのだった。
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誤字報告も助かっています。ありがとうございます。




