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5-27 エピローグ

 本日もよろしくお願いします。

「みんな忘れ物はありませんか?」


 命子たちの部屋にやってきた滝沢が、言う。


「荷物良し! 装備も良し! アリアちゃんも良し! 大丈夫です!」


 命子は、アリアをお膝の上で抱っこしてきっぱりと言い切った。


 アリアは別れを惜しんで、昨夜、萌々子の部屋にお泊りしたのだ。

 これはメリスも同じで、ささらとルルも交えて、昨日は一つの部屋で女子会だった。

 あまりアリアとお話しする機会がなかった命子は、アリアを大層気に入ってお持ち帰りを決めたのだった。


「ダメですぅ!」


 まあ、ダメなのだが。


 同じ頃、隣の部屋でも馬場がささらたちに最終確認をさせていた。


「みんな忘れ物はないわね?」


「な、ないデスよ?」


「あ、ありませんわねぇ」


 ささらとルルはキョドキョドする。

 その視線はチラチラと自分たちのカバンに向けられている。


 これは怪しい。

 というか、カバンがやたらともっこりしていてバレバレだ。


「これはなぁに?」


「お土産ですわ! 日本へ連れて帰るんですわ!」


「連れて帰るって言っちゃってるっ!」


 ささらがヒシッとカバンに抱き着いて必死に言い募り、馬場が思わずツッコンだ。

 パンパンなカバンの中では、シャ、シャーラ……、などと感激したような声が聞こえた。


 馬場はささらをペイッと退かし、カバンを開けた。

 中にはメリスが手足を猫のように丸めて入っていた。


 メリスがしょんぼりしながら出てきたことで、ささらとルルは意気消沈だ。

 まあ無理なのはわかっていたのだが。


「メリスちゃんだって冒険者なんだから、お金を貯めて日本へいらっしゃい。だから今は我慢なさい。ね?」


 馬場は、子供たちの頭を撫でて言い含める。

 まあ無理なのはちゃんとわかっていたのだが!


 そんなお昼の一幕がありつつ、数日間お世話になったホテルをチェックアウトした。


 全員が乗り込んだバスがホテルを発つと、沿道では多くの人が手を振って別れの言葉を贈ってくれた。パレードの時は厳かだったのに、帰りは手を振ってくれる不思議な民である。

 命子たちはその声に応えて、さようなら、さようなら、と手を振る。


 アリアとメリスは、そんな様子を車中から眺めて、自分たちもそのさようならの一つなのだと実感する。


 見上げるほど大きな山を眺めながら、バスは数日前に来た道を戻っていく。

 猫じゃらし畑や名前も知らない異国の町を通り過ぎていく。


 空港に着くと、命子は萌々子の分も荷物を持ってあげることにした。それを命子父が代わってくれる。

 身軽になった萌々子は、アリアと手を繋いで空港のラウンジを歩く。


「キスミアは楽しかったれすか?」


「うん、すっごく楽しかったよ! アリアちゃんのおかげだね?」


 萌々子の問いかけに、アリアは目を細めて、ニャウと答えた。




 ついにお別れの時間がやってきた。

 特別扱いしてもらった一行のお見送りは、搭乗ゲート前までだ。


「メリスちゃん、楽しかったよ。メリスちゃんもいつか日本へおいで。日本で冒険しよう」


 命子はメリスにお別れをする。

 メリスはグズゥと鼻を啜り、命子と握手した。


「ニャウ。お主に負けないくらい強くなるデス。元気でね、メーコ」


 パレードでメリスの隣の席だったということもあって必死で慰めた紫蓮もまた、メリスにお別れを言った。


「我もメリスに負けないように頑張る。メリスも頑張って」


「シレンも頑張ってデスな? 達者で暮らせデスよ?」


 命子たちよりも弱い紫蓮は、同程度の実力のメリスにシンパシーを覚えていた。

 無限鳥居での経験が命子たちを強くし、そういったことのない紫蓮とメリスはたくさん修行して追い付かなくてはならない。

 メリスも同じように思っていたのか、紫蓮の手を握り返したメリスの手は力強かった。言ってることはアニメでよく聞くセリフだったが。


 もう片方の手で紫蓮の肩をポンポンと叩いてから、メリスはルルに向き直った。


『ちゃんとご飯を食べるんだよ?』


『にゅふふっ、メリスは私のママかよ』


『また、連絡してね』


『うん。いつもの時間にね』


 時差が8時間くらいある2人は、お互いの負担にならないよう連絡する時間を決めていた。

 それをまた再開して、会いたくなったら会いに来ればいい。幸いにして、今はダンジョンラッシュの時代だ。メリスも、高校生ではそうそう持てないお金が貯まりつつあるし、先ほど馬場が言っていたように、会いたくなればメリスから来ても良いのだ。


 メリスは最後にささらを見つめた。

 そうして、ギュッと抱きしめる。


 目をぱちくりしたささらは、すぐに優しく微笑んでその背中を撫でた。

 そんなささらの耳元で、メリスは囁く。


「ルルをよろしくデス。シャーラも連絡してデスよ?」


「もちろんですわ。メリス、貴女とお友達になれてこの旅は本当に楽しかったですわ。また、お会いしましょう」


「シャーラ……」


「あんなに喧嘩してたのにラブラブデスね」


 2人にルルも混ざり、むぎゅーと抱擁し合う。


 そんな風にして抱き合う3人を見つめるささらママは、キッと険しい顔をした。

 まあなんてふしだらな、と思っているわけではない。泣きそうなのだ。


 自分に似てとても不器用なささらは中学の頃、お友達がいなかった。

 ささらは、少し高飛車な喋り方とキリリとした眼つきなので近寄りがたく、良き理解者がいなければ人は周りに集まらなかったのだ。


 それが、今こうして涙を流すほど別れを惜しむ友に出会い、再会を誓い合っている。

 そんな娘の成長がたまらなく嬉しいのだ。


 ささらママの肩をささらパパが抱き寄せる。

 ささらパパは出来る男だった。

 

「お別れだね」


「ニャウ……」


 萌々子とアリアもまたお別れの時間がやってきた。

 しょんぼりするアリアの手を握る萌々子も涙ぐむ。


「帰ったら、一番に連絡するね」


「ニャウ……楽しみにしてるのれす」


 ぽつりぽつりと言葉を口にしてお別れの心の準備をする2人に、命子や両親はもらい泣きした。


「みんなそろそろ行きましょう」


 辛い役目を受け持った馬場が、告げる。


 萌々子とアリアの手が離れる。

 アリアは、寂しさを押し込めて、笑顔で手を振った。


「さようならなのれす」


 それを聞いた萌々子もまた笑顔で応えた。


「さようならじゃないよ。またね、だよ」


「ニャ、ニャウッ! またね! またね、モモコちゃん!」


「うん、またね! アリアちゃん!」


 萌々子とアリアは精一杯の笑顔で別れるのだった。




 飛行機の中、萌々子はポロポロ泣いた。

 命子は、そんな萌々子の背中をよしよしと摩る。当の命子ももらい泣きで忙しそうに涙を拭っている。


「ひぅぐぅ……モモちゃん、また来ようね?」


「ふにゅ、ふ、ふぇ、う、うん……」


 両手で涙を拭いながら、萌々子はコクンと頷く。


 命子の隣では、紫蓮もまたもらい泣きでグズグズだ。

 さらに、通路を挟んだささらもメリスとお別れして、ボロボロ泣いている。


 一方のルルは、もらい泣き程度である。

 すでに引っ越しの時に通った道だし、スマホで毎日のように連絡を取っているので、会えないけれどそこまで寂しくないと知っているのだ。大金をゲットしてからは顔を見ながら通話しているし。

 だから、ルルはささらをせっせと慰めた。


「ほら、モモちゃん。フニャルーだよ」


 飛び立った飛行機の窓から、白雪を乗せたフニャルーが見えた。

 萌々子は泣き濡れた顔を上げ、窓に手をついてフニャルーを見つめる。

 昨夕のフニャルーの瞳を鮮明に思い出す。


「またね、アリアちゃん」


 萌々子はぽつりと呟く。


「さらば、不思議な国キスミア。また会う日まで……」


 命子もぽつりとそう呟いた。


 遥かなる霊峰は、旅立つ命子たちを見つめて静かに佇むのだった。




「ふぁああああああんあんあんあん!」


 空港に残されたアリアは、アリアパパに抱き着いて泣きじゃくった。

 龍滅の三娘に興味を持って会いに行った時は、まさかこれほど寂しい体験をするとは思わなかった。

 我慢し、笑顔で見送ったけれど、もう限界だった。


 アリアパパは、立派にお別れができた娘を愛おしそうに撫でる。


 メリスは、飛び立った飛行機を見つめて、寂しい気持ちを我慢する。

 今回はルルだけじゃなくささらともお別れした。一緒に青春を謳歌したい欲求がメリスの心の中に強く芽生えていた。


『強くなれ、メリス・メモケット』


 ポロリと零れた涙を乱暴に拭って、メリスはフニャルーを見つめた。


 昨晩、みんなでこれからの地球さんについて語り合った。

 その際、お別れすることになるメリスとアリアを想ってか、命子は壮大なことを語った。


「世界は、新しい地球さんは、不思議なことで満ち溢れているよ。すーんごく大きなフニャルーだって現れたんだもの。きっと近い将来、日本とキスミアをあっという間に行き来できるような魔法の技術が発見されるかもしれないよ。世界中のみんなが冒険を続けたら、きっと、きっと実現するんじゃないかな」


 そんな素敵な技術が新しくなったこの世界にはあるかもしれない。

 一頻り泣いたあと、アリアは爛々と目を輝かせた。


「アリアはペロニャ。夢を見、夢を残し、恩人のためにへんてこな物を作り続けた人の子孫れす。だからね、モモコちゃん。アリアはやるれす、頑張るれすよ」


 アリアは守護猫フニャルーを見つめながら、そう決意するのだった。


 これにて5章は終わりです。

 ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。


 ここで少しお休みをいただき、次章は【2月16日(日曜)】から投稿を再開します。

 ご了承ください。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 泣き方は皆あんあんあん( ^∀^) [一言] この章も楽しかったです 次は皆で目から炎かな?
[気になる点] ペロニャの秘宝はキスミアを強くする装置=キスミア猫がネズミ倒してレベルアップって事でok? [一言] 高木柱が転移装置かと思ってた。
[一言] 十分に休んでくださいませ。いやぁキスミア編も面白かったです。 命子の謎、巨大猫の謎、いやはやこれからが楽しみです。更新乙です。
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