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5-18 萌々子の冒険5

 本日もよろしくお願いします。

 初めに変化に気づいたのはレリーフをお家にする精霊たちだった。

 何かを敏感に感じ取り、一目散に逃げていく。


 びゅーんと飛び立った精霊たちは未だ誰も使っていない精霊石をお家にする。

 その中には2本の精霊石の剣も含まれていた。


「なになに!?」


「わ、分からないのれす。レリーフのお家に飽きちゃったれすかね?」


「にゃっ!? フシャニャー!」


 慌てる萌々子たちの足元で、ニャビュルが威嚇を始めた。

 その視線の先は、精霊石のレリーフだ。


「「「っっっ!?」」」


 唐突にキュオンッと甲高い音が鳴り、萌々子とアリアとニャビュルが身構える。


 2人と1匹が見つめる前で、地底湖から湧き出る緑色の光がレリーフに吸い込まれていった。


「こここここれ、起動してない!?」


「あわわわわわわ、わにゃららないれすー!」


 2人はわたわたと手を振って大慌てだ。

 ペロニャの努力を想ってしんみりした2人だが、いざその努力が結実したら慌てるのである。


「と、とりあえず、階段の近くまで行こう!」


「にゃ、ニャウ! あっ、剣を持っていかないとれす!」


「そんなの……分かった!」


 そんなのいいから、と言おうとした萌々子だが、議論するより行動に移したほうが早いと思い、駆け出す。アニメを見る萌々子は、問答をする時間があるなら行動しろと思うことがよくあった。この事態になってその考えが迅速な行動を手助けする。


 萌々子が2本、アリアが1本の精霊石の剣を所持して、急いで階段に向かう。


 2人は階段の入り口で、レリーフの挙動を観察する。


 すると、レリーフの上でバチバチと紫色の電流が走り、レリーフの上に黒い球体が現れた。


「き、キスミアが滅んじゃうのれすー!」


「いやいやいや、さすがにそれはないと思うよ!?」


「でもでも、なんかブラックホールが空いてるれすよ!?」


「たぶん、ブラックホールだったらもう私たちは死んでるよ! それにこれはキスミア人を強くする装置でしょ!?」


「はっ、そうなのれす!」


 そうこうするうちに、黒い球体に文字らしき物が現れた。

 日本語でもキスミア語でもない、謎の文字だ。


「な、なにあれ!?」


「あ、あれはたぶん初代ペロニャが夢見た世界で使われている言語なのれす。アリアもわからないのれす!」


「そ、そっか。夢見は概念流れ……レリーフも他の世界の技術なのか……」


 どこか機械的、あるいは業務的な印象を受ける色合いの文字。

 その落ち着いた様子に、危険はないのかな、と思い始める2人。


 その文字が突如として真っ赤に染まって明滅する。


「「はわわわわわ……っ!」」


 異世界のことは分からない。

 そもそも異世界とかそういう話ではないかもしれない。

 なんにしても、萌々子とアリアには、その赤く明滅する文字が正常さを表しているようには思えなかった。


 ブゥン……と球体から文字が消えて沈黙する。


 萌々子とアリアは顔を見合わせた。

 不発に終わったのか、と。


 しかし、次の瞬間、バキンと黒い球体に亀裂が走った。

 

「「「っっっ!?」」」


 萌々子、アリア、ニャビュルが息を飲んで身構えた。

 それに反して、周りの精霊たちは興味津々といった様子で成り行きを見守る。


 そして、黒い球体が内側から爆ぜ、ソイツは姿を現した。


「フシャニャギャー!」


「フカーフカー! シャルファッキル! フカーッ!」


 その姿を見た瞬間、ニャビュルとアリアが鼻にしわを寄せて猛烈に威嚇した。

 アリアなど、女の子が口にしてはいけないキスミア語を飛ばした。


 キスミア少女とキスミア猫の本能を刺激したのは、ネズミであった。

 漆黒の身体と黄金のたてがみを持つ、2メートルを超す巨大なネズミだ。


「ま、魔物!? キスミア人を強くするって、もしかしてレベルアップのことなの!?」


 萌々子は威嚇をしまくるアリアの頭を引っ叩いて正気に戻しつつ、まくしたてる。

 その衝撃でアリアは正気に戻り、巨大ネズミの姿に顔を青ざめる。


「はっ!? はわっ、ね、ネチュマス……ッ!?」


 萌々子はアリアが口にしたその単語を聞いたことがあった。

 しかし、今はそれどころじゃない。


「に、逃げよう!」


「にゃ、ニャウ! ニャビュル来るのれす!」


「慎重に、慎重にね」


 2人と1匹は、刺激しないようにゆっくりと階段を後ずさっていく。

 そんな萌々子たちを、巨大ネズミは赤い目で見つめ、嗤った。


 そして、巨大ネズミは2本足で踊り始める。

 前足には笛を持ち、踊りに合わせて笛を鳴らす。


 すると、地底湖から湧き出る緑色の光が巨大ネズミの周りに集まり、10体の魔物に姿を変えた。

 その全てがネズミ型の魔物である。


 巨大ネズミは横顔のまま萌々子たちに視線を投げつける。

 まるで、どうだと言わんばかりに口の端が大きく吊り上がった。


 しかし、萌々子たちとしてはどうだも何もない。

 激烈にヤバい事態がさらに最悪な方向に転んだだけだ。


 召喚されたネズミたちが、萌々子たちをターゲットにして動き出した。その移動速度は遅い。


 萌々子たちはそれを確認したのを最後に、階段を駆け上る。


 最上階まで一気に駆け上った2人は、肩で息をして5秒ほど沈黙する。

 大きく深呼吸して、萌々子は言った。


「ど、どうする!?」


「わ、わりゃらないれふ……」


 へにょりとしたアリアの様子に、萌々子は一気に冷静になった。

 自分はお姉ちゃんなんだ。守らなければ。

 そう決意する。


「あの召喚されたネズミは見覚えがあるよ。あれは『魔鼠雪原』の最低ランクの魔物だったはず」


「そ、そうかもしれないれす!」


 命子にスマホを買ってもらった萌々子は、当然、地球さんTVをチェックしている。

 その中にはキスミア軍の活躍を撮影した難易度変化級ダンジョン『魔鼠雪原』の物もあった。


 魔鼠雪原は、ネズミがたくさん出てくる雪原だ。

 一般的に寒さに弱いネズミではあるが、そこに出てくるネズミは寒さをものともせずに襲いかかってくる。


 出てくる魔物のランクは、少なくともG級からE級相当。

 シーシア率いるキスミア軍分隊は、この3等級の敵としか戦っていない。

 一説には全ての等級が出てくると予測されているが定かではない。C級以上は戦えば死ぬから調べようがないのである。ついでにD級も普通に強いので、戦っていない。


 萌々子たちが見たネズミは、その魔鼠雪原で出てくるG級相当の魔物である。

 他のG級ダンジョンの敵よりも若干足が速い以外には、特に特徴はなく、魔物と戦い慣れていれば非常に弱く感じる。

 コイツは究極的にはどうでもいいのだ。


 問題は、巨大ネズミである。

 アイツは、地球さんTVの『魔鼠雪原編』に出てこなかったのだ。


「アリアちゃん、教えて。あれはネチュマスなの?」


「ご、ごめんなさいなのれす。おっきいネズミだからつい口に出っちゃったのれす。実際にはわからないのれす」


「そっか……でも、ネチュマスって何? ルルさんがその名前を言ってたけど、キスミアジョークだったんじゃないの?」


「ね、ネチュマスは子供への脅し文句れす。キスミアは逃げ場のない国れすから、ネズミの繁殖をとにかく恐れてきた歴史があるのれす。だから、キスミアではネズ・即・斬を子供の頃から徹底するのれす。そうしなければ、ネズミの親分ネチュマスが来るぞって教えられるのれす」


「なるほど……でも、あの巨大ネズミ、仮にネチュマスとしようか。アイツは魔鼠雪原のボスじゃないよね? もしかして、裏ダンジョンのボス……それだったら本気でヤバいかも」


「……裏ボスとは言い切れないのれす。あのダンジョンは2つゴールが見つかってるのれす。他にあってもおかしくないのれす」


「え、それは知らなかった。あのダンジョンはゴールが複数あるの?」


「ニャウ、広いですし」


「そっか、あのダンジョンは凄く広いんだっけ」


 魔鼠雪原は、キスミアと同じ面積だ。

 というよりも、ダンジョンに入った瞬間、妖精店以外の人工物がない雪の積もったキスミア盆地に出ることになる。

 地球さんTVでは配信されていないが、ゴールは今のところ2つ見つかっており、そのルート以外にもセーフティゾーンがとてもたくさんある。

 そんな仕様だし、アリアの言うようにゴールは他にもあるのかもしれない。そして、そこには他のボス、例えばネチュマスが待ち構えているという可能性もある。全ては予測に過ぎないが。


「いや、アイツの正体を知る必要はないな。アイツとは戦うべきじゃない」


 萌々子は首を振るった。

 とにもかくにも魔物が現れた事実が目の前にある。

 その対処をしなくてはならない。


「アリアちゃんは壁の仕掛けを探して。私は敵を食い止める」


「にゃ、ニャウ! にゃ、ニャビュルも行ってあげてなのれす!」


「にゃーっ!」


 アリアは急いで壁の仕掛けを探し始めた。

 萌々子は九十九折の階段を降り、敵が本当に自分たちを追いかけているのか確認しに行く。

 その手には、先ほど得た精霊石の剣が1振り握られている。


 萌々子は階段の踊り場で、そっと次の降り階段を覗き込む。その足元ではニャビュルも同じようにそっと覗き込んでいる。

 敵はまだいない。

 代わりに、遠くからネチュマスが笛を吹く音が聞こえてくる。


 そんなことを続けて降りていくと、ふと足音が聞こえた。

 慎重に次の階段を覗き込むと、雑兵ネズミがドンくさい様子で1段ずつジャンプして昇ってきていた。


 萌々子は、少し引き返しニャビュルの頭を撫でた。


「変なことになっちゃったね。ニャビュルちゃんもよろしくね?」


「にゃー」


 キスミア育ちのニャビュルには、日本語は分からない。

 けれど、頭を撫でる萌々子の手から伝わる不安を感じとり、慰めの鳴き声を上げる。


 萌々子は、ステータスを確認しておく。


「なっ!?」


 ステータスを見た萌々子は目を見開いた。


『魔力量 33/71』


 と、魔力量がかなり減っていたのだ。消費し過ぎて魔力量が1点増えたくらいである。

 原因は分かりきっている。精霊である。


「こ、こら、吸収しすぎだよ!」


 萌々子はそう言うが、精霊には通じていないようで精霊石の剣の中で楽し気にわたわたしている。


 これは控えめに言って最悪だった。

 魔力71点がマックスならば、スラッシュソードを8発は連打できたのだ。回復込みなら戦術に組み込みつつ15発はいけたかもしれない。


 しかし、こうなるともうスラッシュソードは1発も放てない。

 ステータス上の魔力量を下限突破してさらに魔力を消費してしまうと、パッシブスキルがオフになってしまうからだ。

 それだけではなく、さらに段階が進めばレベルアップで鍛えたスペックも失い、魔力が回復するまでとんでもなく弱体化してしまう。


 ぐぬぬっ、と萌々子は怒りを抑える。


 現在の萌々子は、『見習い剣士』。

 最適なジョブはないかとジョブ選択を表示する。


 この旅行中に出現させた『見習い水魔法使い』が甘い誘惑を放っている。

 しかし、魔力依存の魔法使い系は現状で悪手だ。


「え?」


 萌々子は目を見開いた。

 最後に手に入れた『見習い水魔法使い』の次に、新しいジョブが現れていた。


『見習い精霊使い』


 それに注視すると、ジョブの説明が思い浮かぶ。


『見習い精霊使い――精霊と意思疎通が可能になり、使役できるようになる』


 とあった。


「ど、どうしてダンジョンジョブが生えたの?」


 ダンジョンジョブは、ダンジョン内で活動しなければ生えないと分かっている。

 だから風見女学園の生徒たちは、わざわざダンジョンまで赴いて魔法少女化するのだ。


「ここが特殊な地だから? それとも根本的に私たちは勘違いしてる? ……う、ううん、今はそんなことを考えてる場合じゃない」


 萌々子はジョブをどうするか考えた。


 ジョブは24時間経たなければ変えられない。

 ここで変えたら、次は24時間後だ。


 安パイは、現状のまま『見習い剣士』だ。

 修行でもこのジョブを重点的にやっているし。


 見習い剣士のジョブスキルは。

【剣技】【剣士の身体つき】【剣の術理】

【剣装備時、物攻アップ 小】【敏捷アップ 小】

【筋力アップ 小】


 萌々子は初期スキルで【剣装備時、物攻アップ 小】を得ているため、恩恵は5つだ。

 しかし、実際のバトル時に【剣の術理】【剣士の身体つき】は大きな恩恵をもたらさない。さらに【剣技】も精霊のせいで使えないため意味をなさない。

 だが、【敏捷アップ 小】【筋力アップ 小】の恩恵はかなり大きい。 


「だけど……っ」


 萌々子の武器は精霊石の剣しかない。

 これを装備していると、精霊に魔力をどんどん吸われるのだ。

 先ほども説明した魔力下限突破が現実的にあり得るのである。


 精霊が魔力を吸収するのを止めない限り、いずれ魔力を吸い尽くされてしまう。

 これを止めさせるには、『見習い精霊使い』はベストに思えた。

 魔力吸収さえ抑えられれば、【剣の術理】で鍛えた技術を生かして、なんとか戦えると思えるのだ。


 だが、ジョブスキルの内容すら分からないジョブに就くのは躊躇いがある。

 字面は強そうなジョブではあるが、見習いは見習いなのだ。

『見習い剣士』と比較すると抜群に強くなる可能性は高くない。


 そうこうしているうちに、雑兵ネズミが九十九折の階段の一つ下までやってきた。

 萌々子は、ふにゅーっと激しめのロリッ気を出して、思考を振り払うように頭を振った。


「と、とりあえず、このままでいこう」


 萌々子は精霊石の剣を構えた。

 構えながら、美しい剣を見つめて呟く。


「そうだった。この剣の強さも未知数だった……『見習い合成強化士』がベストなのかな?」


 地上にある素材で作られた武器は、押し並べて弱い。

 どこぞの軍が地上産の物だけで【合成強化】込みで攻撃力23の武器を開発できたという話を聞いたことがあるが、その程度なのだ。

【合成強化】をしていない素の状態では、攻撃力1~4程度なのである。

 つまり、この精霊石の剣もその程度だろう。


 萌々子は思考を振り払い、幼い顔をキッとさせて階段の下を見た。


 そしてやってきた雑兵ネズミ。

 階段を一段ずつ、ドテッとジャンプして昇ってきている。


 萌々子は、うっ、と顔をしかめた。

 階下から敵が来るわけだが、戦う前から戦いにくいと気づいてしまう。


 相手はネズミとしてはかなり巨大だが、40センチしかない。

 そして階段の下にいる。

 下段よりさらに下の攻撃をしなくてはならないのだ。


 とはいえ、文句を言っているわけにはいかず、転がり落ちないように気をつけながら精霊石の剣で刺突を入れる。

 すぐさまニャビュルが追撃を入れられるように身構えるが、予想外の事が起きた。


 スッと雑兵ネズミの眉間に精霊石の剣が吸い込まれたのだ。

 それだけで光に還っていく。


「え、つ、強い!?」


 命子の持つ合成強化マックスのサーベルでさえ、ジャブに近い今の攻撃ではG級の魔物は倒せない。

 それが精霊石の剣では豆腐に包丁を入れるが如く、一撃であった。


「ど、どういう……う、うーん! 今はそれどころじゃない!」


 萌々子は驚きを振り払い、次の敵に備えて動き出す。

 ここはとにかく戦いにくい。

 1つ下の踊り場を戦場にすることにした。


「やぁ!」


 雑兵ネズミが踊り場にぴょんと飛び込んできたら、萌々子はすかさず突きを入れる。

 剣を横薙ぎにできるほどの広さではないため、自然と突きになっている。


 その場で3体の敵を倒したところで、萌々子はハッとした。


「この魔物たち、ドロップしてないじゃん!」


 そう、雑兵ネズミは倒すと光に還るだけで、魔石すらも落とさなかった。


「どういうことか分からないけど危なかった。お姉ちゃんに倣って『見習い合成強化士』にならなくて良かった」


 萌々子の中でお姉ちゃんの存在は大きかった。

 だから、【合成強化】が使えればなんとかなるかもしれないという盲信にも似た気持ちがあったのだ。


 それからまたやってきた魔物をもう1体倒し、萌々子は少し不安になった。

 精霊石の剣が強すぎるのだ。

 何か落とし穴があるような気がしてならない。


 ステータスを開く。


「やっば!」


 魔力量が『15/71』になっていた。


「もしかして攻撃する度に魔力を消費してるの?」


 今まではちょっとずつ吸われていたのが、この数分の間にかなり減っている。

 倒した敵は4体。全て一撃で倒したため4刺突だ。

 恐らく、1回の刺突で5減っている。自然回復して今の魔力なのだろう。


「にゃ、ニャビュルちゃん、しばらく戦闘を任せていい?」


「にゃっ!」


 萌々子は、ニャビュルに戦闘を任せることにした。

 このまま行くとすぐにでも魔力が尽きるため、それをどうにかしなくてはならない。

 そのためにはジョブチェンジをするべきだ。


「うぅうう、どうしよう……っ!」


 ダンジョンで遭難するなんて経験がない萌々子は、迷った。

『見習い剣士』か『見習い精霊使い』か、あるいは他の選択肢か。


「う、うぅうう……えーい、ままよ!」


 萌々子はペッと『見習い精霊使い』にジョブチェンジした。


 念のためにもう一段上の踊り場に移動して、ジョブスキルをインストールする。

 その瞬間、萌々子はピシャゴーンとした。


―――――

『見習い精霊使い』


【精霊魔法】

 精霊に魔力を渡し、精霊に魔法を行使してもらう。

 精霊により使える魔法が大きく変わる。


【精霊使役】

 精霊と意思疎通できるようになり、仲間にすることができる。

 失敗もする。

 また、意思疎通は精霊の知能に依存する。


【仲間精霊学習力アップ 小】

 仲間にした精霊の学習力が上がる。


【魔力回復速度アップ 極小】

 魔力の回復速度が若干速くなる。


【精霊使いの心得】

 精霊使いとしての身体を育む。

 インストールされていないが、経験則から魔力の伸びが良いと予測。


【精霊の飼い方】

 精霊使いの術理みたいなもの。

 精霊との付き合い方全般を学んでいける。

 術理なので瞬時に把握できるわけではなく、都度、これはあまり好ましくない、など学んでいくことになる。


―――――


 萌々子は、ほけーっとしながらジョブスキルの内容を把握した。

 さらに、仲間精霊についてもある程度理解する。


 仲間精霊は、好感度が物を言う。

 意地悪すれば夜逃げしてしまうようだ。

 精霊にとっての意地悪がどういうものか分からないので、少しずつ理解しなくてはならない。


 そして、精霊を理解するためにも。

 まずはこの場を切り抜けなくてはならない。


「精霊さん! 聞いて!」


 萌々子は精霊石の剣に宿った精霊に話しかけた。

 すると、萌々子と同じ顔をした精霊がわたわたと手を動かす。モンディ・ジョーンズしていた時に萌々子が見せた楽し気な表情を顔に浮かべながら。


 その瞬間、精霊がどんなことを思ったのかがなんとなく萌々子は分かった。

 日本語どころか言語ですらない、漠然とした感情だ。


 それによれば、『楽しい』『好き』と思っているらしい。


 萌々子は、焦りを覚えた。

 精霊の様子から、このジョブが大器晩成型の可能性が出てきたのだ。

 時間をかけて精霊に学習させて初めて強くなるような、そんなジョブかもしれない。


「モモコちゃん、ごめんなさいれす……見つからないのれす」


 そう言って、アリアが階段を下りてきた。

 頼まれたお仕事を全うできず、ポロポロと涙を流している。


「泣かないで。大丈夫だよ」


「ニャウ。ごめんなさいれす……」


 そんなアリアを見つめて、萌々子ははたとした。


「アリアちゃん、テイマーはどうやってペットに想いを伝えるの?」


「え……? え、えっと、最初からある程度仲が良くて調教されているペットを使うのれす。だから、難しくなければある程度の言葉は理解してくれるのれす。いきなり野生の動物を従えるのは難易度が高いって話れす」


「そ、そうなんだ……あのね、精霊使いになったんだ。戦うには必要だったの。でも、精霊に想いの伝え方が分からなくて」


「そ、それなら心の底からお願いするのれす。テイマーは言葉よりも心の底から想っていることのほうが動物に伝わりやすいのれす」


「そっか、分かった!」


「あのあの、ニャビュルはどこれす?」


「ごめん、戦闘をお願いしてる。精霊石の剣で戦ってたんだけど、あれを使うと魔力が凄い速さで減るんだ」


「そうれすか……分かったのれす。今度はアリアがニャビュルと戦ってくるのれす」


「無理しないでね?」


「ニャウ! 初級防具を着てるれすから、モモコちゃんより守備力は高いのれす!」


 アリアはそう言って、下の階へトテトテと走っていった。

 その手には精霊石の剣が1振り握られている。


「アリアちゃん、その剣で1回攻撃すると魔力が5減るからね!」


「尋常じゃないのれす!」


 アリアはそう悪態をつきつつ、階下へと降りていった。

 萌々子は1秒でも惜しいとばかりに、その後ろ姿から視線を精霊の入った精霊石の剣に戻すのだった。


――――

 キスミア語講座


【シャルファッキル】

 女の子が言っちゃいけない類の言葉。

 男の子なら言っていいというわけではない。

 アリアのママにチクれば、説教が確定する。

 読んでくださりありがとうございます。

 長くなってしまったorz


 ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

 誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これは姉妹揃って地球さんTVデビュー!? それにしてもピーキーすぎるよ、精霊さん……精霊さんが育っても強くなれるから大器晩成ではあるねぇ
[一言] やばい、ネタ半分で思ったことが本当になっちゃった( ̄▽ ̄;)
[一言] 精霊使い、ファンタジーな職業トップクラスですな。 ファックユー的な言葉かな
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