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5-16 萌々子の冒険3

 本日もよろしくお願いします。

 萌々子たちは洞窟を下へ降りることにした。

 身体が大きければかなり窮屈するような幅の道だが、ロリ体形ならすいすいだ。とはいえ、慎重に降りていく。


 水晶のお家をゲットしたからか、以降、小さな人は萌々子のそばにずっといる。

 時折、萌々子の肌に触っては、わたわたする仕草をする。その際には萌々子の魔力を若干吸収しているようだった。


「そこは踏まないで。固定されてない石だったよ」


 萌々子は先に降り、アリアのサポートをする。

 アリアはそこまで運動が得意ではないのか、萌々子の指示を聞いて少しドン臭さが垣間見える調子で、うんしょうんしょと降りるのだった。


 洞窟の中にはそこかしこに水晶があった。

 光っている水晶もあれば、そうでない水晶もある。


 光る現象は水晶自体が光を発しているのではなく、どうやら小さい人が中に入っているために光っているようだった。

 いや、厳密には『小さい人』ではない。

 萌々子と触れ合った個体以外は人の形をしておらず、水晶を壊そうとした萌々子を殴った時のように、『光る何か』であった。


 少し降りるとアリアが言った。


「アリアもそういう子欲しいのれす。モモコちゃん、ちょっと待っててなのれす」


 丁度近くに20センチほどの水晶があったので、2人は試すことにした。


『ねえねえ、アリアとお友達になってほしいです』


 アリアは、水晶に向かってキスミア語で言葉を掛けた。

 しかし、なんの反応も寄越さない。


「むぅ、モモコちゃん式を使うしかないのれす!」


「待って待って!」


 非常に不本意なネーミングをつけて近くの石を拾い上げたアリアを萌々子は慌てて止めた。


「とりあえず、魔力をあげてみたら? 【魔力放出】できる?」


「はっ、そうれすね。【魔力放出】はもちろんできるのれす。女の子の嗜みなのれす」


 新世界の女の子の嗜みらしい。 


 アリアは水晶に向かって【魔力放出】をしてみた。

 すると、水晶の中から光が飛び出した。どこか混乱したような様子で震えるように光を強める。


「おー、予想以上の効果をあげたのれす」


 光は、そのまま萌々子の肩に腰かける小さな人の下へ行き、なにやら情報交換するように寄り添った。

 しばらくすると、光は恐る恐るといった体でアリアの顎と首のラインにくっついた。

 ドキドキするアリア。


 一方の萌々子はその様子を見て、一つの仮説を思いついた。


 こういった場合、アニメだったら触れ合う箇所として、鼻の先っちょや指先がチョイスされるだろう。

 しかし、実際には顎の下という全く絵にならない場所に光は触れたのだ。

 さらに、先ほど萌々子型に変化する時に見せた指の形の間違いや、髪や服装の雑さ加減。


 それらのことから、この子たちは人を初めて見るんじゃないのかな、と萌々子は思った。

 あるいは人どころか生き物全般を見たことないのかもしれない。


 そうして顎の下にくっついた光は、なにやら驚いた様子でぴゅーんと自分の水晶に戻っていった。

 そして、水晶の中で変化が始まる。


 しばらくして出来上がったのは、アリアにそっくりな小さな人であった。


「はわわわわわっ! にゃ、ニャモーテス!」


「ひゃー、超可愛いね!?」


「ニャウ! アリアはこの子を立派に育てるのれす!」


 アリアはちょんと水晶に触る。

 すると小さな人は水晶の中で、今しがたアリアがはわわわと言った時のような仕草をした。

 同じく、萌々子の肩に腰かける小さな人も、萌々子に触ってわたわたと手を動かす。


「「おーっ」」


 こうして、アリアも小さな人をゲットした。

 アリアの分の小さな人も自分のお家をへし折って、持ち運びする。


「にゃー」


 ニャビュルが鳴いたのでふとそちらを見ると、ニャビュルのそばにもふよふよと浮遊する小さな猫がいた。


「いつの間に!?」


 ニャビュルも小さな猫をゲットしていた。

 小さな猫は、ニャビュルに触るとコロンと転がり四肢をわしゃわしゃと動かす。


「うーむ、つまり、この子たちはチョロイのか?」


 萌々子はそんな仮説を立てた。


 萌々子のポシェットに、それぞれの水晶を入れる。

 ゴチャゴチャしているが、どうやら小さな人は自分のお家ははっきりと分かるようだった。


「この子たちに名前をつけるのれす」


「それよりもまずは下に行こう」


「やっぱりスーパードゥラーイなのれす! じゃあ考えながら行くのれす」


 萌々子たちは、名前を考えながら下へ行った。


 とりあえず、種族名は『精霊』に決定した。

 ダンジョン内では店妖精がいるため、妖精は除外した。

 自然物である石に入り込む何か不思議な存在ということで、精霊だ。

 精霊はあくまで日本名なので、キスミア語では精霊に該当する言葉になる。

 これに付随して、水晶は『精霊石』となった。


 下に近づくにつれ、水の音が大きくなる。

 精霊石も多くなり、上ではそこそこあった陰った部分はほぼ見当たらなくなった。


 萌々子たちが精霊石を通過すると、精霊たちが3種類の姿に変わっていく。

 つまり、萌々子、アリア、ニャビュルのいずれかだ。

 これらは萌々子たちについてきた精霊と違って、懐いているというわけではないらしい。




 しばらく降りた先には広い空間が広がっていた。

 萌々子たちが下りた場所は岸辺で、空間の4分の1ほどだ。

 もう4分の3は光り輝く地底湖になっていた。

 湖からは優しい緑色の光がふわふわ浮かび上がっている。


「「っっっ!」」


 幻想的な風景に、萌々子たちは思わず息を飲んだ。


 さらに、この風景の中には人工物がいくつかあった。

 水車と地面に設置されたレリーフだ。

 そのどちらも全て精霊石で作られている。

 加工された精霊石の中にも精霊が入っており、それが光るものだから、とんでもなく神々しく見える。


 先に正気を取り戻したのは、萌々子だった。


「……ホントに消されるかもしれないぞ?」


 冷静になった萌々子は口の中でボソッと言った。


 目の前にあるのはガイドブックにも載っていない凄い物。

 秘宝とかじゃないのかしら、と。


『こ、これはペロニャの秘宝……っ!』


 思わずキスミア語を口にしたアリア。

 ペロニャという単語だけ聞き取れた萌々子は、やっぱり秘宝の類なんだ、と奇跡の翻訳を果たす。


「あ、アリアちゃん、これはなに?」


 萌々子はアリアに尋ねた。

 しかし、アリアはそれに答えず、ふらふらと歩いていく。


 沿岸部の中央付近。

 そこには、精霊石で作られたレリーフが地面に埋まっている。

 しかし、完成には至っておらず、3か所が歯抜けになっている。


 アリアが移動するので、仕方なく萌々子も付き合う。

 足元ではニャビュルがにゃーんと鳴き、それぞれの精霊が興味深げに精霊石のレリーフを見つめる。


 そんな萌々子は歩きながら周りの状況を今一度観察する。

 そして、自分たちが下りてきた穴とは別の場所に階段があるのを発見した。

 穴のスロープに落ちたため方向感覚は失っているが、アリアのお家にあるどこかの建物に繋がっていると推測できた。


「あ、アリアちゃん、ほらほら。あそこに階段があるよ!」


「え? あー、そうれすね。そんなことよりも今はこっちれす!」


「完全にこっちのターンだよ!?」


 しかし、萌々子のツッコミを盛大にスルーして、アリアはぱっぱっと周りを見る。


『ゴロゴロ猫は尻尾で右壁てしてしてし』


「トレジャーハンターの目してる!」


 唐突にキスミア語で歌いながら移動を始めたアリアに、萌々子は驚愕した。

 首トンを考える時間かもしれない。


 アリアは、ててぇっと右壁へ走った。

 そこには精霊石の水車とそれに付随したカラクリが設置されている。

 水車は回っておらず、ただあるだけだ。


『赤ちゃん猫は左にふらふらよーちよち』


 アリアはまた何やら歌うと、左壁に移動する。

 こちらにも精霊石の水車があり、やはり回っていない。


『お座り猫は後ろのお尻がもっちもち』


 アリアは今度は岸部後方、湖から一番遠い場所を確認する。

 こちらは萌々子の目には何もないように思えた。


『お休み猫はお腹を見せてすーやすや』


 今度は天井を見上げる。

 こちらにも何もないように見えた。


「マジモンのモンディ・ジョーンズきたこれ……」


 萌々子はゴクリと喉を鳴らす。

 猫という単語が出てくること以外は全く理解できなかったけれど、きっとキスミアに伝わる伝承でも読み上げていたのだろうと萌々子は思った。


「全て口伝の通りなのれす」


「やっぱり!」


 アリアが納得したようにコクンと頷く姿に、萌々子はぴょんと小さくジャンプした。特にジャンプは意味ない。


「と、とりあえず! アリアちゃん、あそこの階段を上ってみよう?」


「そんなの後なのれす!」


「今だよーっ!」


「しぃーっ! 洞窟で大きな声を出すのはダメなのれす! お母さんに教わらなかったれすか?」


「そんなマニアックなことは教わらないよ。だけど、ちがいない。それはごめんね。でもでも、まずは階段を調べよう?」


「むぅ。分かったのれす。ちょっとだけれすよ?」


「逆にこのフィールドを調べるのがちょっとだけだと思うよ?」


 萌々子の提案により、2人は階段を上っていく。

 九十九折りになった階段で、時折大きな岩が飛び出ているなど万全な造りをしているわけではなかった。


「地下にこんな空洞があるのに、よくアリアちゃんのお家は平気だね。落っこちちゃいそう」


「怖いこと言わないでほしいれす。だけど、600年前にはこの上にお屋敷の原型の小さな家が建っていたみたいれすから、大丈夫だと思うれすよ」


 ふーんと頷いた萌々子は、少しの間を置き、思い切って聞いてみた。


「アリアちゃんってさ、ぶっちゃけて言うと、ペロニャの子孫だよね?」


「え、ニャウ。そうれすよ」


 割と簡単に答えたアリア。


 別にアリアはペロニャの子孫であるということは、好んで吹聴しないまでも隠してはいなかった。

 首相と違ってメディアにこそ滅多に出ないが、別にキスミアを陰から牛耳っているわけでもないし、隠す必要はなかったのだ。

 メディアには出ないのでどんな子なのかこそ知らない人は多いけれど、ペロニャの子孫が生きているというのはキスミア国民なら誰でも知っているのである。

 それはルルやメリスも同じだ。

 言うなれば、歴史上の有名人の子孫が都内のあそこに暮らしている、みたいな認識である。


 しかし、こんな状況に置かれた萌々子にとっては、アリアがペロニャの子孫かどうかはかなり重要なことだった。

 キスミアの伝説に近づいてしまったのだから、12歳の少女にとってはドキドキものだ。


 とはいえ、これから脱出するのだ。

 一先ずは秘宝も何も忘れよう。


 階段を上っていくと、次第に精霊石の数が減り、ついにはなくなった。

 明かりは一緒についてきた精霊頼りだ。

 そうこうしているうちに、行き止まりに行き当たった。感覚的にはもうそろそろ地上という位置だ。


「ここで終わりなの?」


「みたいれすね。でも開け方がわからないのれす」


「開け方のヒントになるような伝承はないの?」


「うーん、アリアの知っていることを話すのれす」


 萌々子の質問に、アリアは階段の一番上に腰を掛けた。

 萌々子もその隣に腰かけ、アリアが話し始める。


「初代ペロニャは山向こうに残酷な悪魔どもが人に紛れて住んでいると死ぬまで思っていたのれす」


 萌々子は、本件には関係ないがジャンヌダルクの伝説を思い出した。

 フェレンスを救った聖女は、最後には異端の罪で火あぶりにされるのだ。大抵の物語では、魔女裁判のようなかなり無茶な罪だったと描かれている。


 ペロニャがどのような理由で残酷な悪魔が人に紛れて住んでいると思っていたのか分からないが、何にしても、そう思っていたらしい。


「ペロニャは、いずれこの地にその手が伸びるのを恐れたのれす。尤も、キスミアは山脈に囲まれてますから、ここがどこにあるのかも当時のペロニャには知る由もなかったのれすけどね」


「ふんふん」


「そういう理由でペロニャは、その生涯で色々なおまじないを残すのれす。夢で見たおまじないなのれす。ニャルムットの近くにある羊牧場のレリーフは見たれすか?」


「うん、見たよ」


「あれが正しく発動すると、ニャルムットを囲う結界になるそうれす。見ての通り、発動しませんけどね。そういうおまじないをたーくさん残したのれす」


 キスミアの人々を想って頑張ったのだろうけれど、悲しいかな、それらはアリアの言うように『おまじない』で終わってしまったのだ。


「ペロニャは……たぶん時代を先取りしすぎたんだね」


「そうれすね。600年早かったれす。モモコちゃんも気づいていると思うれすけど、ペロニャの遺産でガラクタと呼ばれる物は、全てダンジョン素材、もしくは何か力を宿した素材で作らなければダメなのれす。そして、【生産魔法】かそれよりも強力な生産スキルを使わなければ」


 ダンジョン産の素材は力を宿している。

 そして、レシピに載っているような素材の力を高める技術を使用するには【生産魔法】が必須だ。

 これらを駆使して初めて魔法的な物が出来上がる。

 ……そう、現状では考えられている。まだ研究が足りないため、萌々子とアリアはその程度の情報しか持ち合わせていない。


 とにかく、ペロニャが夢で見て伝えたおとぎ話の技術は、色々な物が足りないハリボテだったのだ。

 萌々子は、せつない気持ちになった。


「話が脱線しちゃったれすね。ここは、そんなペロニャが残した最後のおまじないがある場所なんれす。この場所は、一族に口伝として残されてきたのれす。でも、第14代目ペロニャが早世してしまって、山にあるのか町中にあるのかさっぱり分からなくなってしまっていたのれす。まさかアリアのお家の下にあったなんて驚きなのれす」


「さっきトレジャーハンターしてた時の謎の歌は?」


「あれは子守唄なのれす。子守唄の中に、謎解きを仕込んでいるのれす。そして、この水晶の歯車れすね。これで下にあるカラクリが稼働するのれす」


 アリアは、胸元から先ほど見せてくれた水晶製の歯車を取り出して、言った。


 萌々子はワクワクする気持ちを抑え込んだ。

 とにかく、今は脱出しなくてはみんなに迷惑が掛かってしまう。


「じゃあここの開け方は知らないの?」


「ニャウ。開け方も14代目が墓に持っていっちゃったのれす」


「マジかぁ。あっ、でもでも、今の私なら【水魔法】使えるよ」


 命子たちの家族全員は、この旅行中に『見習い水魔法使い』をジョブ選択に出現させている。もちろん萌々子もだ。


「それは最終手段にしたいれす。カラクリ扉だった場合、カラクリの箇所に当たったら崩落する恐れがあるのれす」


「そうか……それもそうだね」


 萌々子たちは、とりあえず壁をペタペタと触って調べることにした。煉瓦がガコンと動かないかなと期待しながら。




 一方、地上では大騒ぎであった。


 駆けつけた萌々子の両親に状況が説明される。

 状況を説明する滝沢は、気合と根性で震えを押し込め職務を全うする。


 とはいえ、この場に滝沢を責める人はいない。

 暴漢に襲われて大ケガしたならともかく、歴史あるお屋敷の庭先に穴が開いているなんて、どんな優秀なSPだろうと分かりっこないのだから。


 すぐさま萌々子の両親は自分にできることを手伝うと申し出るが、すでにキスミア軍がやってきているのでできることはなかった。

 羊谷家両親は、3度目の娘の窮地にぶっ倒れそうになった。


 滝沢は、情報共有のためにキスミア軍の下へ行く。

 アリアの両親に地下がどうなっているのか尋ねるが、萌々子の開けてしまった地下階段やワインセラー以外には、アリアの両親も分からなかった。

 ペロニャの秘宝は両親も知っていたが、自分の家の下にあるとは知らなかったのだ。


 地下調査レーダーで調べるも、こういったレーダーはそんな深くまで調べられる物ではない。

 萌々子たちが落下した場所すらもレーダーで把握できなかった。


 原始的ではあるが、キスミア軍は穴を掘って救出することに決定した。レベルアップとジョブにより鍛えられた肉体の仕事率は、救助活動でも光るのだ。


 ここで役立ったのが、ニャビュルが残したロープである。

 未だ地面に埋まっているロープが、穴を掘る方向を示すのだ。


 キスミア軍の長い一日が始まった。

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

 誤字報告もありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 5回位の読み直し^-^ 最後から40行目位にある 第14代目ペロニャが早世してしまって のくだりですが、目上だったり尊敬する人物であるなら 早世よりも夭逝が適当だと思います。 ちなみに…
[良い点] 頑張って穴掘ってるけど実は地表付近まで来てる件……はてさてどうなるか
[良い点] 毎回楽しく見させてもらっています。 [一言] モンディ・ジョーンズ・・クリスタル・スカルの迷宮・・っという事は骸骨が・・・
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