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5-14 萌々子の冒険1

 本日もよろしくお願いします。

「うにゅ……いてててて……」


 穴に滑り落ちた萌々子は、大して痛くないけれど条件反射でロリッ気が口を突く。

 命子に素材を貰って強くした服がダメージを大幅にカットしたのだ。


 寝転がった体勢のまま、萌々子は目を開ける。


 すると、そこはキラキラと輝く水晶がそこら中に生えている洞窟であった。

 萌々子はゴクリと喉を鳴らした。


「ふなー、重いれすぅ」


「はっ、ごめん、アリアちゃん!」


「はうぅ、死ぬかと思ったれすぅ」


 アリアの上に乗っかっていた萌々子は慌てて退いた。

 それと同時に、萌々子たちが落ちてきた穴から滝沢の声がする。


「も、萌々子ちゃーん、アリアちゃーん! 無事なら返事してくださーい!」


「2人とも大丈夫でーす! 中はキラキラ光る水晶がいっぱいある洞窟になってまーす!」


 萌々子が状況説明して、しばらくすると滝沢が返事を返した。


「わ、分かりました! すぐに救助しますからねー!」


 滝沢の言葉にホッとしつつ、萌々子はアリアを心配する。


「乗っかっちゃってごめんね? 大丈夫だった? どこかケガはない?」


「ニャウ。アリアのお洋服はダンジョン装備れすから」


 そんなことを話していると、萌々子たちが滑り落ちてきた穴からニャビュルが飛び出てきた。


「ニャビュル、来てくれたんれすね? 偉い偉い、メルシシルー」


 アリアが頭を撫でると、ニャビュルはにゃーと鳴いた。

 ニャビュルの腰にはロープが結ばれており、それをくいくいと引っ張ると、上から声がした。


「そのロープを伝って戻っ」


 滝沢の声は途中で聞こえなくなってしまった。

 滑り落ちた穴が埋まってしまったのだ。


「あわわわ……」


 情けない声を漏らした萌々子だったが、すぐに無理やり口を閉ざし、しっかりしろと自分に言い聞かせる。

 自分はお姉ちゃんなんだからアリアちゃんを守らなくちゃ、と。


「ふ、塞がっちゃったね」


「ニャウ……」


「だ、大丈夫! きっと助かるから、ね?」


「ニャウ! みんなが助けてくれるれすよ!」


 目の前で穴が塞がってしまった絶望的な状況を、2人は陽気な声で吹き飛ばした。

 それを支えたのは、この場所が明るいという事実だった。これが真っ暗だったら、これほど明るくは振る舞えなかっただろう。


「それにしてもここは?」


 萌々子は自分たちがいる場所を見回した。


 萌々子たちがいるのは洞窟の中だった。

 そこら中にキラキラと光を放つ水晶があり、かなり明るい。


 萌々子とアリアは、光る水晶や石をゲームの中で見慣れていた。

 だから、超綺麗と思うだけで疑問に思わなかった。

 しかし、明るいと思えるほどの光を水晶が自力で放つのはあり得なかった。


 洞窟は、現在いる場所から75度ほどの上り急斜面と、40度ほどの下り斜面になっている。

 上りの先はすぐに行き止まりになっており、岩盤の下部が見える。

 下りの先はかなり明るく水の音が聞こえる。


 滝沢の声が聞こえなくなってしまったため、萌々子たちは移動を考えた。


 一方、滝沢たちは穴が塞がったことに絶望していた。

 ニャビュルに結んだロープは、最後の最後でグイグイ引っ張られたため下には着いている。


「このロープは何メートルですか?」


「恐らく25メートル前後です」


 ロープが示す地下の深さは、地上に出ている長さが3メートル程度なのでニャビュルに結んだ長さ分を引いて約20メートルほどと推測できる。


「垂直に落ちたわけではないでしょうが、かなり深くに2人はいるということですか……」


 滝沢とメイドが話している間に、アリアの両親やじぃやが駆けつけた。

 すぐそばにいながらお偉いさんの娘と妹を窮地に立たせてしまった滝沢の試練が始まった。おままごとをしていた時間がとんでもなく恋しくなった。




 移動を考えた萌々子たちは、実際問題どうするか話し合った。

 こういう場合は移動しないほうが良いような気もするのだ。


「上の岩盤は?」


「たぶん、上はあの石板の真下れす。あの石板は地中にめり込んだ大きな岩なんれすよ」


「そ、そっか。じゃあ下に行こうか?」


「ニャウ」


 萌々子たちは洞窟を下へ移動することにした。

 人が一人分程度しか座れない細い道だったため、広い場所に移動したかったのだ。


 その前に、ニャビュルが持ってきたロープを回収しておく。

 しかし、土砂に埋もれたロープは重く、こちら側に露出したロープしか回収できそうにない。

 けれど、スキニーパンツで武器を作った紫蓮を知っている萌々子は、それだけでも回収する価値があると思った。


 萌々子はまずそこら辺の水晶をへし折ることにした。

 折れた部分で即席のナイフを作ろうと思ったのだ。

 光り輝く水晶とか、それだけで世紀の大発見、天然記念物待ったなしなのだが、萌々子は構わず石を振り下ろす。サバイバル脳なロリである。


 しかし、石を叩きつけても水晶は折れない。

 水晶は割と脆いと聞いたことがある萌々子は、ガンガンと水晶に石を叩きつける。

 それでも折れない。


 その代わりに、異変が起こった。


 水晶の中から光が飛び出し、萌々子をべしべしと攻撃し始めたのだ。

 光が出ていった水晶は輝きを失うが、2人と1匹にそれを把握する余裕などない。


「わきゃ!? いた、痛い! こら、コイツ、や、やめて! やめてよぅ!」


「はわわわわわ、や、やめるれすぅ! にゃ、ニャビュル!」


 攻撃されて蹲った萌々子。

 アリアは慌ててニャビュルに指示を出す。


 ニャビュルもよく分からない現象に怯えているが、訓練されたキスミア猫は勇敢であった。

 フシャニャゴーッ! と強烈な威嚇をする。


 すると、謎の光は慌てた様子で元の水晶の中へ戻っていった。


「モモコちゃん、もう大丈夫なのれす」


「ひぅぐぅ、ありがとう……」


 アリアに声を掛けられ、萌々子は顔を上げた。

 心配そうに見つめるアリアの瞳を見て、萌々子は慌てて目をぐしぐしと擦った。


 情けない。

 お姉ちゃんなんだからしっかりしないといけないのに。

 それに一生懸命訓練したのに、何も役に立てられなかった。


「……それにしても今のはなに?」


「分からないのれす。でも、モモコちゃんがガツガツ叩いたからきっと怒ったのれす」


 萌々子は、そうかも、としゅんとした。

 そうして水晶を見る。


 一時水晶から失われた光は、再び灯っていた。


「もしかしてアナタのお家だったの? 叩いちゃってごめんね?」


 萌々子は何かに向けて謝った。

 意味がないかもしれないがとりあえずだ。


 ここはダンジョンではないが、もしかしたら地上に出てきた魔物かもしれないという考えもある。

 仮にそうだとしても、ダンジョン内にいる魔物ほど人を躍起になって襲うヤツではないはずだ。ダンジョン内と同じ魔物なら、もうとっくに殺し合いになっている。


 あるいは、地球さんのレベルアップに伴って現れた新種の鉱石か。食べられたくない植物が自衛のために液を放出するような物かもしれない。


 なんにしても、今の一連の出来事の一つの区切りとして萌々子は声を掛けた。

 攻撃してくる鉱石のそばになんて居たくないので、このあとすぐにでも移動しようとしたのだが。


 水晶の中で光が瞬く。

 しばらくチカチカと瞬いたと思ったら、水晶の内側にぺたりと小さな手が現れた。




 萌々子たちが地下洞窟に落ちたのは、15時程度。

 その知らせは、すぐさま関係各所に通達される。


 近いところでアリアの両親から始まり、首相、軍部、日本大使館と。


 萌々子の家族には、まずは両親へ。

 それからキスミア軍を経由して、直ちにG級ダンジョン及び、雪ダンジョンへ連絡が行く。


 ささらママたちの活動予定から、多くの軍人がG級ダンジョンの8、9、10層を中心に、妖精店及びゲート付近で待機することになった。Dサーバーがあるため、そこらへんは虱潰しになってしまう。


 一方、雪ダンジョンはまだ冒険者が入っていない。

 命子たちの活動予定と軍の訓練予定から一行がいるであろうDサーバーが絞り込まれる。そうして、命子たちの所在は比較的簡単に見つかった。




 雪ダンジョン10層、18時。


 お買い物を終えた命子たちは、お風呂に入ることにした。

 明日も早いので、早め早めの行動だ。


 脱衣所で、メリスはもじもじし始める。


『大丈夫、恥ずかしくないよ』


『う、うん。でもやっぱり慣れないかも。日本人は本当にみんな平気なんだね』


 メリスもキスミアでパーティメンバーと一緒に妖精店には泊まったのだが、全員が、こっち見ないでね、絶対だよ、などと超恥ずかしい感じだった。


 それなのに、日本人メンバーは普通だ。

 実際にはティーンズはそこそこ恥ずかしいのだが、メリスには平気に見えた。

 恐るべし日本人。そしてそれに染まってしまったルル。

 特に馬場がヤバい。


「命子ちゃん、1人で脱げる? 手伝おっか?」


 全裸の馬場がコテンと首を傾げる。

 馬場はかつて自衛隊の募集ポスターのモデルに選ばれるくらい美人だった。訓練で引き締まったボディも中々のものである。


「い、いえ、大丈夫ですが」


「そう? じゃあ紫蓮ちゃんは? ぬぎぬぎしゅる?」


「いらぬ、です」


「遠慮しなくてもいいのに。じゃあじゃあ、ささらちゃんは!?」


「ば、馬場さん、とりあえず前を隠してくださいですわ!」


「えー、女の子同士だし別に良いじゃない? ねーっ、ルルちゃん?」


「にゃ、にゃわ……ババ殿はグイグイさんデス?」


「馬場さん、ルルさんはお風呂ではそこそこ恥ずかしがり屋さんですの! やめてくださいまし!」


「ひぇええ、こえぇえ! 命子ちゃーん、手伝うことあるぅ!?」


 うろちょろうろちょろと馬場が各自に聞いて回る。


「はしゃいでんなぁ馬場さんは! まったく、こんなおっぱいして!」


 正直、命子はボディに自信がないのであまりお風呂ではしゃぎたくないのだが、仕方ないので構ってほしそうな馬場に合わせておっぱいにビンタしておいた。


 きゃんと馬場が嬉しそうにキャッキャする。

 命子は、役目は終わったとばかりに浴槽へ向かった。


「命子ちゃん、待って待ってぇ!」


 馬場は超楽しそうだった。


 メリスは恐怖した。

 アレとこれからお風呂に入るのか。

 酒に酔った親戚の姉ちゃんよりも性質が悪い。 


 そんなことを思っていると、ささらとルルがもう脱ぎ終わっていた。


『早くしないと行っちゃうよ?』


『あぅううう……ちょ、ちょっと待ってて』


 そうして、浴槽へ行くと馬場がせっせと命子の背中を洗っていた。

 かゆいところはないですかぁ、などと言いながらニッコニコだ。


『あわわわわ……アレがニッポンの洗いっこってニャー!? にゃーにゃーにゃー!? なんで2人も洗いっこしてるのさーっ!?』


 いつものように洗いっこを始めたささらとルルに、メリスはわたわたと手を振った。しかも何故か身体の前を洗い合っている。


「命子ちゃん命子ちゃん、あれあれ。あれ、私たちもしとく?」


「しとかない」


「え、だけど超合理的だよ?」


「やりません!」


「でも、天才的だよ!? どうする、しとく?」


「やんねぇって!」


「にゃんでさー!」


 グイグイさんの馬場が命子に絡みまくる。


『やめなさいよぉー! にゃふぁ!?』


「な、なんですのー!? うきゃんっ!」


 ささらの肩を掴んだメリスはタイルの上の泡に足を滑らせ、ささらと一緒に倒れ込む。

 ささらは反射的にメリスを庇い、メリスもまた反射的にささらの頭を庇う。

 結果、酷いことになった。


 静かに身体を洗っていた紫蓮は、風呂場の喧騒を見て呟いた。


「アニメなのかな?」


 巻き添えはごめんなので、ササッと身体と頭を洗い、湯舟に直行した。

 いつもは命子がやる行動だが、今日の命子は馬場に絡まれているため抜け出せないでいた。


 そうして、お風呂から出て、借りた台所で夕飯の準備を始めている時の出来事である。


「羊谷命子様ご一行に緊急の伝令です!」


 バタバタとやってきたキスミア軍人が、伝令に来た。

 雪道を6人チームで走ってきた彼らは、一息つく間もなく、各々が慌ただしく職務に移る。


 夕飯用のナスと包丁を握ったまま、いきなりのことにぽかーんと口を開く命子。

 一方、馬場は、だらしない顔をすぐさまキリッとさせて対応する。


「伝令ご苦労様です! 早速ですが、内容をお願いします!」


「ハイッ! 本日15時13分、アイルプ家の庭にて羊谷萌々子様とアイルプ家ご息女アリア様が、地面に開いた穴に滑落。地下空洞と思しき洞窟内に閉じ込められました!」


 その報告に命子の仲間たちが息を飲む。

 長文の日本語なのでメリスだけが付いていけず、されど周りの様子から一番不安そうにしている。


「2名の安否確認は!?」


 馬場が再度問う。


「滑落直後に光る水晶があるという情報をやりとりしたのを最後に滑落した穴は崩れ、その後の安否は不明です!」


 しんと静まる台所。


「ひ、羊……命子……?」


 気づかわし気に命子を見つめた紫蓮が、身体をビクつかせる。


 命子の髪がぶわりと逆立つ。


「ごめん、みんな。帰る」


「「「りょ、了解!」」」


 全員が直ちに撤収作業に入った。

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、大変励みになっております。

 誤字報告も助かっております。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大丈夫だよ、メリスちゃん。あの大人の人は日本名物、ヘンタイさんだよ(風評被害 [気になる点] はわわ……めいちゃん、マジモード
[気になる点] 前書き >本日もよろしいくお願いします。 よろしく?
[一言] さっきまで猫になって世の辛みを発散させてたのに緊急事態になるなんて… 地球さん助けて!
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