狩りの始まり
父さんのこじつけにより今日の昼に狩りに行くことになった。いや、確かに魔法が使えることになってはいるが正直魔物を狩ると聞くと少し怖気づいてしまう。本心は怖いのだろう。
今まで動物を殺したことなんて前世でもなかった俺が本当に魔物を殺せるのか?…いや、ここで結果を残さねば毎日狩りに付き合わされるなんて絶対に嫌だ!狩りなんてするくらいなら家でゆっくりと妹の子守をしながら魔法について知識を深めたほうが何倍も有意義だ。
と、言うわけで俺は早速狩りの荷物を準備する。小さなウエストポーチを腰につけ、中には父さんから貰ったナイフと村の長老が作る傷薬、解毒薬、解麻痺薬、そして水分を補給するための革袋を入れる。
装備は動きやすさを重視された革装備、そして俺の手には一本の杖がある。この杖は村の長老であるバァバが作ったもので杖の役割は魔術の行使だ。魔術のやり方は自身の魔力で空気中に魔術式を書き、魔力を注ぎ込むことで空気中に存在する精霊たちがその魔力を転換し魔術式の通りに現象を起こすという方法だ。
簡単に言えば魔術式は設計図であり、自身の魔力を支払うことで精霊たちがその設計図通りに働き、一つの現象というものが出来上がるわけだ。
魔法では自身の魔力を使って現象を起こすが魔術式なんてものは必要なく、魔術より早くに現象を起こせるが威力は魔術の方が強い。
話が脱線してしまったが、杖があれば魔力操作がより上手くいき、魔術式を作る速度が上がるのだ。これは魔法を使うときにも役に立つため、俺にとっては必需品だ。
…だが、バァバが作った杖は正直あまり良くない…。そこら辺の木を伐採して量産用に作ったのだろう。本によれば魔力伝達の高い木になればなるほど杖としての価値や能力は高くなり、最高峰と呼ばれる杖はどれもエルフの村にある世界で一本しかない世界樹の枝で作られているらしい。是非とも一度目にしたいものだ。
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村の近くの森で父さんが俺の方に体を向ける。
「それじゃあ、今から狩りを始める!今日はマドゥが初めての狩りということで隣に住むマルサンに来てもらった。マドゥが危険だと判断したときはすぐに助けられるようにしているからマドゥは安心して魔物を狩るといい。
メンバーは俺とマルサン、マドゥ、そしてマドゥの兄であるガルナで行く。しっかりとガルナの勇姿を見ておくんだぞ。」
「はい。」
「じゃあ、マルサン今日はよろしく頼む。」
「あぁ、天才と言われてるマドゥくんの世話が出来るなんて光栄だからな。任せておけって。」
父さんの友達らしき人がそう返事を返す。ガネルシア族の特徴通りの紫色の眼に白色の髪を後ろにくくったポニーテールの男であり身体は屈強な戦士とは言い難いヒョロリとした印象を与える見た目だ。
「おいおい…お前までマドゥのことをそう言うのか?あまり言い過ぎると鼻が高くなりすぎて、成長が止まっちまうだろ。今後のことを考えても天才なんて言わないでほしいんだがな…。」
父さんがそんなことを言ってすこし意外だ…。父さんの兄さんにしか興味がなく、俺のことなんて考えていないと思っていたんだが意外と考えていてくれたようだ。
「…ハハ。お前も立派に親になったもんだな…。昔のお前じゃあ考えられないぜ。」
「おい!昔のことはもういいだろ!……少し喋りすぎたな…。悪いな、ガルナ、マドゥ。それじゃあ魔物狩りに出発だ!!」
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俺たちは木の枝を蹴って木の上から魔物を探している。父さんとマルサンさん、そして兄さんは慣れた手つき、いや足つきで走っていく。
俺にはそんな身体能力はないため早速身体全体に微弱な魔力を流して身体強化する。微弱ながら元の身体能力の1.5倍は上がっている。この状態ならあと3時間でも持続するだろう。そして遅れをとりながらもついていく
「おい、いたぞ!ウィリン・ウルフだ!」
父さんが俺の20メートル先でそう叫ぶ。急いで父さんに追いつくとそこには緑色の狼がいた。見る限りはこれといった特徴のない普通の狼だ。
「よし、じゃあまずはガルナ、手本を見せてやれ。」
「分かったよ、父さん。……マドゥ、よく見とくんだよ。あまり、参考にはならないだろうけどね。」
兄さんが笑って飛び降りる。
ドサッという音とともに着地した兄さんは先手必勝とばかりにナイフを投げる。ウィリン・ウルフは兄さんの着地音に反応して兄さんの方向を向いていたため、ナイフが眼に刺さる。
「ウオォォォォ!!」
痛みに気が向いている間に兄さんは異能の力を使ってか一瞬でウィリン・ウルフの背後をとり、首にもう一本のナイフで刺し切る。そしてすぐさまその場から離れ、ウィリン・ウルフが苦しそうにして倒れたのを確認してようやく兄さんはこちらを見て笑顔で「終わったよ」と話しかけてきた。
「流石だな、ガルナ!やはりこの程度の魔物ならお前に敵はいないな!」
父さんの言うとおり兄さんにはまだまだ余裕があり、ウィリン・ウルフ程度の敵う相手はいないだろう。ウィリン・ウルフは確かEランクの魔物と認識されていたため、そこまでの実力はないがそれでも人間の平均的大人が5人で勝てるか勝てないかほどの実力だ。決して弱いわけではない。
ちなみにこの世界では魔物の実力を表すためにS・A・B・C・D・E・F・Gランクに分けており、その中でもプラスとマイナスを使った24段階に分けられている。これは人間族のギルドが作ったものらしい。
「さて、ガルナの手本を見たことだし次はマドゥの番だな。このウィリン・ウルフを解体して持ったらすぐに狩りの再開だ。覚悟しておけよ。」
ついに俺も狩りをしなければならないか…。しかし俺もただ2年間本を読んでいたわけじゃない!その成果を見せてやる!!