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超新星に代役を

 俺は木下上戸。株式会社オプシーゲームス制作部の課長を務めている。


「課長、お先に失礼します」

「はい、お疲れ。俺もそろそろ上がるかなぁ」


 明日は今年の大事な大事な目玉作品である、VRMMO〈レジェンドオンライン〉のテストプレイ日だ。部下たちと綿密に打ち合わせをし、その度に頭を抱えては案を捻り出してきた。こう言っては何だが、もう在職中にこれ以上のゲームを作り上げることはできないと思う。


 ふと、室内を見渡すと、もう誰一人として残っていなかった。


「やれやれ·····上がるかぁ〜」


 っと。よく見れば一人残ってるじゃないか。

 部下の苦労を労ってやるのは上司の務め。こんなに遅くまで残業してる感心な部下は〜っと·····。


 やっぱり、中田栄一か。


「おいおい。大丈夫か、中田?」

「ご心配ありがとうございます、木下さん」


 くるりと振り返った中田が、隈の残る顔でこちらに会釈する。


「俺はもう今日は上がるけど、そこの設定が終わったら明日はいよいよテストプレイだからな。出社時間も早いし、あまり無理するなよ? これで体壊したら元も子も無いからな」

「はい」

 そう言うと、中田は再びパソコンに向き直ってキーボードを打ち込み始める。

 やれやれ、本当に殊勝なやつだ。

 これで仕事さえできれば、新人がのさばることもないんだけどなぁ。


 そう思いながら退勤カードを押す。


 さて、明日に備えてさっさと家に帰ろうじゃないか。



 。。。



「遅い」


 上戸はイライラしながら腕時計を眺めていた。針は8時58分を指している。


「木下課長、やはり中田さんとは連絡が取れません·····」


 心配そうに報告するのは、制作課のマドンナである鈴木さんだ。


「ご苦労様。あいつ·····だから昨日は早めに帰って体調を整えるようにと忠告したんだがなぁ」


「まあまあ、中田さんがいなくてもどうにでもなりますって。今日は僕に任せてくださいよ、課長」


 そう自信満々に主張するのはエリート新人の足立だ。

 東大卒、高身長、イケメン、さらにコミュニケーション能力も高く仕事まで人並み以上にできてしまうという、入社2年目ながらどこへ出しても恥ずかしくない制作課の超新星だ。

 誰にでも人当たりがよく、人望もあるのだが、なぜだか中田には冷たい。


「足立·····そうは言っても、中田はキャラ設定に関して右に出る者がいないほど知り尽くしていた。一体今日のテストプレイで誰が上役に説明すると言うんだ?」

「たしかキャラ設定リストがありましたよね?ちょっと借ります」


 そう言うと足立は、上戸の机の上に置かれた紙束を手にし、そのままペラペラとめくり出した。


「何をやっているんだ·····テストプレイは他企業も参加する。リストを見ながらの説明なんて、無礼な行為が許されるわけないだろう」


 上戸は、いよいよ万策つきたかとうなだれた。


「終わりました」


 不意に、足立が声を上げる。


「まだ終わってない! 予定時刻まであと15分ある! 鈴木さん、とにかく中田の携帯にかけ続け――」

「いえ、ですから、もう覚えました。キャラ設定はすべて僕の頭に入ってます」


 そう言ってリストを手渡され、上戸は思わず目が点になった。

「は·····覚えたって·····この短時間でか? 本当に言ってるのか?」

「はい、本当です」


 足立はさも当たり前であるかのような顔で答えた。


「じゃ·····じゃあ、カタマヴロスの攻略法は?」

 と、鈴木さん。


「物理攻撃半減、状態異常に強い耐性。高火力の聖属性魔法、もしくは火属性魔法が有効。四足歩行となる第二形態は非常に素早く、トラップや地形操作が推奨される。暗闇ではとくに不利な展開が見込まれるため、常に光を絶やしてはならない。·····こんな所でしょうか」


 上戸は何も言えなかった。リストの内容と完全に一致している。それのみならず、何一つ噛まず流暢に答えた足立に驚きを隠せなかったのだ。


「足立·····お前と言うやつは·····」


 足立は微笑を浮かべた。


「これで心配事は去りましたね。今日はお任せ下さい。僕が責任を持って中田先輩の代役を努めます」

今回は現代に戻り、伏線回です。

勘のいい方はもう展開が読めたかな·····?

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