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社畜に救済を

まずは本作品を閲覧頂きありがとうございます!

楽しんでいって頂ければ幸いです。

※2020/02/23 一部改稿

「ん〜っ············」

 何時間もの間プログラミング言語によって埋め尽くされたパソコン画面と睨み合っていた男は、作業の手を止めると、カチコチに凝った肩をほぐすために伸びをした。


「······朝までに終わるかなぁ」

 大ヒット作品を何本も打ち出した大手ゲーム会社として知られる株式会社オプシーゲームスの社員であり、今回のVRMMOプロジェクトのチームを構成する一人である男は、このところ残業続きで疲れが溜まっていた。

 元々ゲームが好きで、新作タイトル(レジェンドオンライン)の制作メンバーに抜擢された時には震えて喜んだものだが、同時にノルマの厳しさに驚いたものだ。


「おいおい。大丈夫か、中田?」

「ご心配ありがとうございます、木下さん」

 背後から声を掛けられ、中田と呼ばれた男――中田栄一は体をねじって振り向いた。目の下の隈によって目つきが悪くなった彼の顔は、同じチームに所属する上司を苦笑いさせるのに十分なほど酷かったようだ。

「俺はもう今日は上がるけど、そこの設定が終わったら明日はいよいよテストプレイだからな。出社時間も早いし、あまり無理するなよ? これで体壊したら元も子も無いからな」

「はい」

 そう言うと再びパソコンに向き直ってキーボードを打ち込む栄一を見て、上司は肩をすくめながら退勤カードを押した。



 。。。



 ドアが閉まると、オフィスは深夜の静寂に包まれた。

 響くのはキーボードを叩く音、そしてたまに鳴るクリック音のみだ。


 現在栄一が行っているのはレジェンドオンラインの敵キャラデータに関するプログラミングである。

 プレイヤーのステータスや武器・防具などの装備品、マジックアイテムと呼ばれる様々な効果を持つ道具、ファンタジー要素に欠かせない数百種類もの魔法、そして世界観からステージについての設定など――主軸となる部分はチーム作業で全て順調に終わっており、明日はテストプレイの予定日となっていたのだが、栄一は自分が設定を担当した敵キャラの詳細ステータスをもう一度確認していた。


 吸血鬼アルカ・ソルテ。


 様々な作品で強敵として扱われる真祖トゥルー・ヴァンパイアという種族であり、レジェンドオンラインでも最強戦力の一角である。

 筋力・素早さ・体力・魔力の中でも魔力に特化したこのアンデッドモンスターは、ある特定条件を満たした場合のみ出現する裏ボスの一体として配置される予定だ。

 状態異常を与える魔法や、対策しにくい魅了系の常時発動型パッシブスキルを複数所持するため、それだけでも十分優遇されているのだが――


 栄一はステータス画面をスクロールしていく。


「はあ、やっぱり可愛いなぁ」


 と言うのも、このキャラの見た目は貴族の令嬢のように可愛らしい少女なのである。制作チーム内の雑談で好きなキャラを語った時も、ダントツで人気だった。


 だが、設定担当として制作の中心になった栄一は中でも群を抜いた愛着心を持っていた。

 ステータスから魔法、スキル、性格、口調などの設定まで完璧に記憶していたし、もちろんビジュアルも大好きでスマホの待ち受け画面に設定していたほどだ。


 栄一は設定を反映・保存すると、データの入った小型チップをパソコンから抜いて立ち上がり、壁にかかっていた鍵の一つを取ってオフィス出入口の扉を開けた。

 左に曲がって廊下を進み、突き当たって右にある広い部屋――VRルーム(Ⅰ)と書いてあるテストプレイ用の部屋の鍵を開ける。


 何をするのかというと、テストプレイで使える装備を整え、単身でアルカ・ソルテに挑んでみるつもりだ。

 もちろん、アルカ・ソルテはテストプレイ用の装備で勝てるような相手ではない。栄一は勝ちたい訳ではなく、ただ自分の設定した敵キャラの強さを一足先に体感してみたいと思ったのだ。


(これぐらいの役得があってもいいよな)


 電気を点けると、暗闇の中から社内テストプレイ用のVR機器が三台、そのメカニックな姿を現す。

 栄一はそのうち一台のリクライニングシートにもたれかかった。そしてヘッドギアにチップを挿入すると、光を遮るように頭部に固定して、手探りで電源を入れる。

 数秒ほど電源ボタンを押し続けると、〈 Wait a minute ······ 〉の表示が現れ、栄一の意識はレジェンドオンラインにダイブしていった――。




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