9話
あやや? 16:00予約投稿設定したはずなのに、できてませんでした。
なので、ギリギリ投稿です~。
とりあえず、ジェダイトにやらかしちゃったこと含めて包み隠さずエメラルディン王子に報告した。
エメラルディン王子は頭抱えていた。
いや、言い回しとか? もう少し変えればジェダイトの私への印象もよくなると思うの。
「スピネル、ブルーレースは直接エレスチャレの町に来るよう言ってくれ。それと、我々もついて行く事をソーダライトに伝えてくれ」
「かしこまりました」
おお、あの伝書鳥はスピネル君しか使えないのか。
難しい魔法なのかな?
あ、てか。
「王子方もご一緒なさるのですか?」
「無論だ。私たちの仕事は見届けとお前の警護だと言ったろう? お前が無事エレスチャレ子爵夫人となるまでは。それと私のことは王子とは呼ぶな。今はスマラルダスと名乗っている。呼び捨てでいい」
エメラルディン王子は眉を潜める。
「スピネルは魔法使いだ。幼いが力は充分だ。これはエレスチャレでは常時お前に張り付かせるからな。勝手な真似はするなよ」
はう! 同じ年頃の友達! 嬉すい!
「…お前、顔に感情が出やすいな」
「お嬢様は素直な性質なのです」
「かばうな、ダートナ。そういうところが甘やかしていると言っているんだ。貴族社会で生きるのが義務付けられた子供だ。社交で上手く立ち回れないととんでもない目に合うぞ…」
私はちょっとキョトンだ。
(もしかして、エメラルディン王子ってお人よし…?)
「王子…、あ、えっと、スマラルダス…は、もしかしてわたくしの心配をなさっているのでしょうか…?」
王子が片眉をあげた。
「--他になにがある」
「はう! いや、手きびしいので単にわたくしが嫌いかと~…。すみません、大変失礼なはっそうでした!」
「ああ、失礼だな。子供は嫌いじゃない。だから関わった子供が不幸になるのは好きじゃない」
懐広すぎでは。
ええ人や…。
「わたくし、スマラルダスの心ばえにかんめいを受けました」
「無駄に言い回しは知っているな…」
エメラルディン王子、いやスマラルダスは呆れたように私を見た。むう。多分私は前世日本では大人だったと…思うのよ。筋肉質ボディだった記憶あるし。記憶だけなのでイマイチ大人の自覚薄いけど。
「では、明日はみんなで出発ですわね。ピクニックのようで楽しみですわ」
私は浮かれてそう言った。
エレスチャレの実情を知らない、大変平和な時間だった。
翌日、私たちは二台の馬車と一台の荷馬車で出立した。
エレスチャレ子爵家の馬車は前日子爵と帰ってしまったため、ジェダイトは私とダートナの乗る伯爵家の馬車に。その馬車の御者の隣に護衛としてスマラルダス。ソーダライト商会の馬車にアンバー先生とスピネル君。
私たちの嫁入り道具が荷馬車一台に収まる事にジェダイトは驚いていた。
だってフロウライト伯爵は準備していないし、身の回りのものだけだしね。
そして中身は ほぼ食べ物。冬の保存食を余すところなく持ち込みします。森番小屋で冬を越すつもりだったので準備でいていたの。勿体無いもん。
「それは?」
ジェダイトは私が馬車の中まで持ち込んだ大きなカバンを注視した。
中は見せられないよ。…だって、鍋だもん。そう、あの万能盾です。見た目まんま鍋なのでどうも説得力に欠けるけど、私の最強装備なのだ。
馬車に持ち込みたいと言ったらダートナに呆れられたけど、彼女はその実力を知っているのでこの大きなカバンを用意してくれた。
「だいじなものなのです」
「そう」
ジェダイトとのその後の会話は弾まなかった。
しっかたないね!
外の景色を見たらばのどかな麦畑で、収穫時期なのか農夫たちが刈り入れを始めている。
フロウライトの町はとうに離れ、農地が延々と続いた風景だ。
前方にはそびえる山々が見え、道は少しずつ勾配が出ている。
(そういや、エレスチャレは山の中にあるんだっけ~)
そこまで高い山ではないけれど、フロウライト伯爵領自体平地が少ないんだよね。
エレスチャレはぶっちゃけ、開墾しづらい土地なんだよね。
鉱山開発始まれば、また話は変わるかもしれないけれど。
エレスチャレ子爵はいわゆる、代官だ。
領内はまずは村や町単位で構成され、いくつかの村、町をまとめた地域に一人、税の徴収や裁判官の役目たる代官がいる。
これも貴族の仕事。
フロウライト領ではフロウライト伯爵の血縁中心だ。
領内の大々的な開発などは、この代官たちの総意が必要だ。
エレスチャレ子爵は子爵位を授かるくらいだから、この代官の中でも発言権が強い。
山の向こうは確か海で他領になる。お隣のセルカドニー領だ。治めているのは攻略対象の幼馴染アルウィンのお父様。大きな港があって、海洋取引が盛んな領地。お金持ちなのだ。
セルカドニーから王都への荷は今のところ海岸沿いに山を迂回ルートがあるため、そちらを通る。けど、そこは結構な通行税がかけてあり、フロウライトの町は通り過ぎてけれどそれでほどよく潤っている。
船だとフロウライトの港は小さな漁船が着ける船着場しかない。なので、王都の港に一直線。
せっかくセルカドニー侯爵領に近接している地域なのに、エレスチャレにはうま味がないのだ。
商業ルートから完全に外れてしまう。
ただ、小さな荷を扱う行商人は山中の村落を巡ってセルカドニー侯爵領から、エレスチャレを通り、フロウライト領に来てくれる。これらの商品が田舎のエレスチャレでは貴重な品だ。
(エレスチャレは…。特産品ってあるのかな?)
前世では修学旅行前に旅行先を調べるミーティング授業があったけど、今回は急な移転だったからアンバー先生から聞いてないや。失敗、失敗。
(確か、主食が豆じゃなかったっけ…。山の中で、あまり小麦が取れないはず)
通年、エレスチャレは小麦はフロウライトの町から、つまりフロウライト伯爵から購入しているはず。
ただ、エレスチャレは距離的にセルカドニー侯爵領の方がフロウライト領の中心より近い。
なのでフロウライトで小麦が不足した場合、フロウライトより高額な、セルカドニー産の小麦を買わなきゃならない。
(最近、フロウライト伯爵領も不作続いてなかった? これは確かゲームでも影響していたよね。
そうそう、ジェダイトとの本格的な接触は学園入ってからで、彼は不作に悩む"フロウライト領のため"小麦の新種改良に情熱を燃やしていて、その彼と"フロウライト領のため"協力するストーリーだったな~。
実家のエレスチャレ子爵家とはほとんど絶縁で、彼は最終的に"フロウライト伯爵家の婿養子"になるはず。
理由? 父親の後妻のアイアンディーネと折り合いが悪いからよ!)
ゲームではアイアンディーネの存在がクローズアップされすぎで、子爵は空気だった。
そのせいかエレスチャレ子爵家自体のエピソードが希薄だから、情報がすくにゃい…。
結局、エレスチャレは貧乏から抜け出せないんだよね~。
(…でも、フロウライトの鉱山開発に一枚噛むことが出来れば、一発逆転じゃない? たしか、鉄が出るはず。あと、銅か)
その辺りも考えて、ソーダライトのお祖父様は私をエレスチャレ子爵に嫁がせるのか。
(エレスチャレ子爵の方がフロウライト伯爵よりマシな人物ってことかな)
私はジェダイトをチラ見した。
ずっと外を注視している。
父親が先に領地に戻ったことを不安に思っているのかしら。
感情が伺えない。
馬車は完全に山道に入っている。
西の空が灰色に落ちている。
多分、雨が来るだろうと私もぼんやりと窓の外を見ていた。
「ここから先がエレスチャレで一番大きな町ですわ」
ダートナが示した先に民家が密集した開けた場所があった。フロウライト伯爵家の付近もそうだけど、田舎貴族なせいか、屋敷の近くは村程度の規模で、王都や他領地に続く道なりに村より規模の大きい町がある。そこがたいていその地域の中心地。セルカドニー侯爵とかだと街中にお城建てたりしてるけど。
このゲームの貴族は自領の裁量権については王家から相当任されていた。
ゲームでは屋敷の土地も田舎スタートでお金を貯めて、精霊契約をどんどん増やしてそれで発展させたフロウライトの町中に引越ししたりしてたっけ。
貴族は契約した精霊の土地に住まないと精霊の機嫌を損ねるの。
フロウライト伯爵の森が安全だったのも、精霊契約のおかげだったから、屋敷をあそこから移せないのはあそこしか契約していないからだね。
精霊はいわゆる土地神ですな。すごく綺麗なビジュアルだったな~。
(まあフロウライト伯爵家はパールの時代になれば、続々契約するんだろうけど。エレスチャレではどうなんだろう? 見られるかな?)
ちょっとワクトキ顔になった私を見て、ジェダイトがため息ついた。
なんぞや。
町につながる道を尻目にさらに山道を行く。
エレスチャレの屋敷のある村は山道を抜けて、森の木々が急に開けた場所にあった。
フロウライトの中心の町と、屋敷のある村はさほど離れていなかったので、思ったより遠いことに驚きをかくせなかった。
曇り空の下だからか、ひどく寂しい風景だ。
小さな石垣に囲まれた村を通り抜けて行く。小さな畑が点々とあるが、エレスチャレに入る道々で見た刈り入れの賑やかさはない。
ただ、こじんまりとした家々の間にリンゴの果樹園が見えたので、果実が主産業でないかと思った。
そんな村の一番奥に、その館はあった。
正直、この村の規模から小さな館を想像していた私は息を呑む。
馬車を走らせている道が石造りに変わったと思ったら、その先は小高い丘で、その周囲を白い塀で囲まれている。道沿いに進むと、その塀の中に辿り着くが、そこにはまたもうひとつ小さな集落があった。
館の他に建物が点在しているのだ。
白い壁の厳かな造りの建物たち。
前世の修道院を思い起こさせる。
その一番奥には尖塔がそびえ、細やかな装飾が窓を華やかにしている華麗な館がある。
いや、城というべきか。前世のギョースレフ城のような造りだ。
「…教会…?」
「もともと精霊堂だったところを改修している。昔は貴族はこういう館に住んでるものだったそうだ」
向かいに座るジェダイトが説明してくれた。まともな会話がようやく出来た。
だけれど。
「出迎えがいないのはどういう…?」
ジェダイトがいぶかしがる。
最奥の華麗な館の玄関前まで馬車をつけた後、スマラルダスが先に一人降りて様子を見てくると言った。
後ろの馬車からスピネル君が乗り込んできた。
「…最悪、このまま馬車を出します」
「え」
「この塀内の建物の中に複数、人がいます。なのに誰も出てこないのは異常事態でしょう」
サラリと怖いこと言ってのけた。
ジェダイトが蒼白になり、降りようとするのを彼が押しとどめる。
「スマラルダスは…」
スマラルダスのことが心配で口にした。
ダートナがそんな私を抱きしめ、耳元でささやく。
「彼は心配要りません。魔剣があります」
それから少しして、館からスマラルダスが出てきた。
私たちは安堵の息を吐いたが、彼の顔は苦虫を噛み潰したような顔だった。
「…なかは安全だ。馬車から降りても問題ない」
「ち、父上は!?」
馬車の扉を開けたとたん、ジェダイトが転げるように駆け出した。
それをスマラルダスが捕まえる。
そして、自分の方を向けて言った。
「無事だ。だが、放心している。少しそっとしておいてやれ」
「それはどういう!?」
スマラルダスは馬車から降りる私たちを見て嘆息する。
「中を見ればわかる」
飛び出そうな心臓を押さえ、私たちは館の玄関に立ち入った。
そこには--なにもなかった。
閑散とした室内に唖然とする。
「ご…強盗…!?」
私が声をあげた。
「いや、借金の肩に取立て人が持ち運んでいったそうだ。--うまい話に騙されたんだな」
ガランとした館の奥、エレスチャレ子爵がトランクを椅子にしてうな垂れていた。
マジか。
あのあと、館の外の建物にこもっていた使用人が何人が出てきた。
なんと借金取りは館の金目のものを残らず奪っていって、ダイニングの椅子まで持っていったと。
年代ものの絨毯も剥がす念の入れよう。
カトラリーも奪われて、人がまともに生活できる状態ではなかった。
さすがにベッドやタンスは無事だけど。
(すごい、とんでもない数の荷馬車の行列だったんじゃないかしら。私のお嫁入り以上だぜ)
荷馬車一台の哀しみ。
私がおかしな感心する中、従僕さんが説明してくれた。
ダートナは馬車から持ってきたティーセットでお湯を沸かしている。
私はと言うと座るところがないのでエレスチャレ子爵と同じようにカバンとトランクに腰掛けている。
「他の皆は…?」
ジェダイトが憔悴して言った。
「村に実家のある者は今そこに。館の塀の中の使用人の住まいは個人で用意した家なので被害はありません。旦那様が使用人のために用意した棟も特に高価なものはないので、残った者はそこに。ただ、安全のため、出来るだけ皆集まって過ごしています」
どうぞ、とダートナが甘い紅茶を残っていた使用人たちに振舞った。
「詳しい話を聞けないか?」
スマラルダスがチラと子爵を見たが、子爵はまだ落ち着いて話せる状態ではないらしい。
従僕さんの渡した紅茶にも見向きもしない。
答えたのは従僕さんだ。
「夕べから旦那様はあの状態で…。仕方ありません。信頼していた執事に裏切られたのですから」