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8話


朝、さわやかな目覚め~。

今朝も朝早くに母屋の屋敷まで散歩し、せっせと白バラのチェック。

朝もやの中でタダで手に入る魔石は私の大事なお小遣いだ。


(エレスチャレにお嫁に行ったらお金に困るからね!)


コツコツ貯蓄大切です。

なぜか、隣に天使少年スピネル君が珍しそうに覗き込んでいるけど。


「魔石がこんなところで見つかるのですか?」

「そ~だよ~。綺麗でしょ」


言って青い澄んだ魔石をかざして見せる。

彼は ほう、と目を細めた。

この魔石は確かにイベントで使うための魔石だ。

ハテ? 一般的ではないのかな?


「良かったらひとつどうぞ」


私はいつも身に付けている巾着からコロンコロンとバラの魔石を取り出した。

スピネル君はそれに驚きの顔をしている。えへへ。


「ね? たくさんあるから」

「…ありがとう」


彼は はにかむような笑みを見せた。

喜んでいるのが、手に取るようにわかった。珍しい。

笑顔を惜しまない少年だけど、何だろう、素? て感じ。


(もしかして、いつもの悩殺エンジェルスマイルは営業用なのかしら?)


可愛いところもあるじゃん、と私は彼に親近感が沸いたよ。


「この青い魔石はここだけだけど、他の魔石はいつもの森の中でも採取出来るんだよ。アンバー先生と一緒によく行くの。魔石が好きなら、またあげるね」


天使少年の喜ぶ顔が見たくて私はこの後もチョコチョコ彼に魔石をあげた。

本当に何も知らず。

後にこの行動が大事になるのだが、それはまた別の話。







魔石採取が終わるとまた森番小屋へ戻ろうと歩き出した。

少し離れた厩に馬丁が見覚えの無い馬を引いてきたのが見えた。おや、随分汗をかいている。

それを見たスピネル君が顔色を変えたのを私は何とはなしに見ていた。

すると、彼は右手を軽く廻すと、魔法の鳥を出した。


(わ~、マジシャンみたい!)


彼はその白い鳥に声をかける。

なぜか私の耳には聞こえない。

むむ。

それからスピネル君が鳥を空に離すと鳥は大空へ飛んでいった。

すごいもん、見たわぁ。

大口開けて彼を見たら、彼が素ではない、エンジェルスマイルでこちらを見た。








白バラの魔石を採取して帰った森番小屋での朝食時、エメラルディン王子が渋い顔をしていた。

ダートナのご飯は屋敷の食事より美味しいと思うのだが?

焼きたてさくさくのクロワッサンに半熟卵。ハーブの利いたベーコンと果物だ。庭で育てている苦味のあるチシャサラダには私、アイアンディーネがレシピを考えたドレッシングが添えられている。


(この世界の食べ物、まだ洗練はされていないけれど、おいしいよね!)


トマトの旨みが料理に発揮されているのがありがたい。

牛肉には醤油が欲しいが、それは贅沢というものだ。


(エメラルディン王子は美食家かな?)


などと考えていたら、彼はおもむろに話し出した。


「…エレスチャレ子爵家で変事が起きている」


(へ?)


私以外の一同に緊張が走った。

アンバー先生は夕べは村の自宅に帰らずここに泊まったので朝も一緒だ。

先生は食事の手を止め訝しがる。


「それは、いったい…?」


エメラルディン王子は朝の半熟卵に優雅にナイフを入れて言った。


「今朝方早馬が入った。エレスチャレからだ。子爵は挨拶もそこそこに早朝にエレスチャレへ出立した。息子のジェダイトを置いて」

「ソーダライト商会から情報は?」


アンバー先生がたずねた。


「いや、朝方スピネルが伝書鳥で尋ねたがまだ返答がない」


(伝書鳥。鳩じゃないのね)


わかった振りして話を聞く。


「…場合によってはこの婚儀がどう動くかわからない。

ひとまずここから出る準備はしておいてもらいたい」


私のこめかみがひくつく。


(まだ、フラグ残っている!?)


「…それと、ブルーレースを呼ぶ」

「ブルーレース様を!?」


ダートナが呼んだ名前に聞き覚えがある。んん?


「アイアンディーネに貴族としての対応を身に付けさせろ。ブルーレースなら歳も近い。いい見本になる。

所作はそこそこ出来ていても、いざという時の会話がおぼつかないぞ。子供たちとの会話でも危うい。こいつに必要なのは処世術だ」

「そこまで酷くないと思うのですが」


私の呟きをエメラルディン王子は切って捨てた。


「ジェダイトとパールのラストダンスはもっと上手く誘導できたと思うが?」


そこまで二人のダンスを見たかったなら、もっといい言い訳があったと思うぞと彼は笑った。でも、目が笑っていない。


……ハイ、と私は素直に頷いた。

彼はちょっぴり私に不審を持っているようだ。

確かに、私の行動、ちょっと突飛だったけどさあ。"ちょっと"じゃない? ねえ? 感じ悪い!

ブチブチ心の中で文句言っていたら王子が私の頭に手刀を落とした。


「お食事中にマナーが悪いと思います!」

「罵倒されている気がした」


このヒト、色々見抜いている…。勘がいいのは不幸だぞ。



しかし、風雲急を告げるとはまさに この事。

その午後、私とダートナがフロウライト伯爵の執務室に呼ばれ、翌日エレスチャレ子爵の館に移ることになったのだ。









「どういうことでしょうか…?」


ダートナの強張った声が執務室に落ちた。


「アイアンディーネお嬢様の婚約は了解しました。今後、エレスチャレ子爵家に移るのもエレスチャレに馴染むためには必要でしょう。ですが、明日出立など、準備が到底間に合いませんわ! 理由をお聞かせください、伯爵」


フロウライト伯爵が眉を潜めた。


「早馬が来て早朝エレスチャレ子爵が館に戻った。その際、彼がジェダイトと伴にアイアンディーネをエレスチャレに移すよう言い置いていたのだ。アイアンディーネの移動を急ぐ理由までは私は関知しない」

「ソーダライト様は承諾なさらないでしょう」

「事後承諾で充分だ。お前の主は私だ。アイアンディーネは私の娘だ。どうしようと使用人に言われる筋合いはない」


ダートナが息を呑んだ。

私もこれ以上はさすがに止める。

仮にも伯爵は貴族だ。ダートナを斬って捨てることだって厭わないだろう。


「お父様、うけたまわりました。早速、したくをしたいと思います」


言って私はダートナに退出を促す。これ以上伯爵の怒りは買いたくない。


「…ジェダイト様にご挨拶しても? 明日、同じ馬車でおもむくのですから」

「好きにしろ。ダートナ、ソーダライト商会の使いの二人にもここに来るように伝えろ」

「…かしこまりました」


私とダートナはフロウライト伯爵の執務室を後にした。

それから、ダートナは外に控えていた侍従を森番小屋に走らせた。

そして、私の荷物をまとめるため、屋敷に置いたままになっていた貴族らしい衣類を取りに行くと言って私の傍を離れる。

私はと言えば、メイドを付けられ ひとまず応接室で待機だ。

お茶とお菓子と本を片手にフカフカな椅子に身を埋めるが、正直他人の家だ。


(エレスチャレ子爵家でもこんな気持ちで過ごすんだろうな…。森番小屋になじみすぎたわ)


まあ、本格的な冬になる前に移るのはむしろありがたい。

それに、私の命をフロウライト伯爵が狙っている疑惑があるなら、ソーダライトのお祖父様はむしろエレスチャレ行きには賛成だろう。お祖父様のお使いの彼らの予定はどうだったんだろうな~、と暢気に考える。


(しかし、なんでそんな疑惑をソーダライトのお祖父様は持ったんだろ? 私死んだら、フロウライト伯爵はお祖父様からお金引き出せなくて困るよねぇ?)


小さなこのおツムの中は灰色の脳細胞ではなかったらしい。検討つかずに小さくため息ついた時、応接室の扉の外にジェダイトを見つける。


「ごきげんよう、ジェダイト様」


彼の顔は不安げだ。まあ。七歳ですもんね。


「…ああ、フロウライト伯爵は?」

「これから、わたくしの後見であるソーダライト商会の者と話があるとのことで、わたくしは退出しましたの。…よければ、少しお話しても?」


メイドにもう一人分のお菓子とお茶を用意させる。


「早馬が来たとうかがっておりますわ。それできゅうきょエレスチャレ子爵がお帰りになったそうですわね。エレスチャレ子爵からその理由は聞いておりまして?」


単刀直入にズバっと。これがエメラルディン王子のいうダメなトコか。でも、聞かないとわかんないもんね。


「いや…、私も父上から何も聞いていない。ただ、父上がアイアンディーネ殿と婚約したことは聞いた」


エレスチャレ子爵はやもめ生活が長い。ジェダイトはあまり抵抗がないようだ。

同じ歳の継母になるんだけど、違和感ありすぎでむしろピンと来ていないのかも。


「正式な婚約式は後日らしいですわね。あんどしてますわ」

「父上相手では不満だと?」


あれ、特に意味はない発言だったけど不用意だったか。あちゃ~。カレシ私への心証悪いもんね。エメラルディン王子、すみません!


「そんな意味ではありませんわ」

「ではどんな意味ですか」


これ以上喋れと? 泥沼に陥りそうなので嫌です、とは言えない…。エメラルディン王子~、朝罵ってほんとうにごめんなさいっ!


「そのままの意味です。わたくしはこの婚約に不足などございませんもの」


何たって、ダートナとアンバー先生と離れずにすむもん。


「…エレスチャレは肥沃な土地ではありません。あなたのような贅沢に慣れた人が暮らすには辛い土地でしょうね」


うう~ん、まあ、現代日本に較べたら不便ありますけど、私は今の森番小屋生活エンジョイしてます。不足ないっす。ごはん足りなければ森で果実採取や魚取って焼いて食べているし。おやつは現地調達してるの。胡桃だって割れるよ。あ、勿論歯じゃないよ、石器使っているよ! その辺の石でガンガンってやるの。魔剣使う方が綺麗に切れるから最近はこっちだけど、ストレス解消には石の方が面白いね。

ああ、でも森の恵みありきだものね。たしかに、今の生活贅沢かも。

それが貴族の嫁になったら全てなくなるんだろうなあ…。

木登りなんて言語道断だよね。日焼けも抜けてしまうだろう。悲しい。


「確かにわたくしが慣れるまで時間がかかるでしょうね。わたくしは今の生活が気に入っていますもの」


ため息まじりに言ったら、ジェダイトが席を立った。


「ソーダライト商会におすがりなさい。可愛い孫のあなたの願いならかなえて下さるでしょう。…僕らエレスチャレ子爵家は贅沢に慣れた貴族女性のお守りはもうこりごりです!」


立ち去るジェダイトを見て失敗したな~と思った。

ジェダイトがあんなに一杯喋るのも初めて聞いた。

そして七歳にしてはしっかりしてるなと感心もする。


「たとえお祖父様でも森番小屋で一生暮したいという望みは聞いてくださらないわね」


ね? と私は控えていたメイドに笑いかけた。

プロの彼女は顔色変えずにお菓子のお代わりを置いてくれた。

フロウライト伯爵家の召使いは本当に優秀で、ありがたい。


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