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5話


護衛青年は彼らにうまいこと話してくれたようだ。

私とスピネルは今、彼らと伴に迷路に向かっている。

迷路を形づくる生垣は大人の背丈より高い。

パールは私が仲間に入れて欲しいと言ったことにビックリしてたようだ。

そして今、チラチラと天使少年を伺い見ている。

天使少年スピネルはパールに、にっこり笑った。

すると、パールは嬉しそうに言う。


「私たち、迷路で競争するの。一番勝った人がなんでもひとつ皆にお願いできるのよ」


少年の内、鼻白んだのは少年公爵のシヴァリンガム公爵だ。

彼は半分平民の私が気に入らないらしい。

確か彼は十二歳。五歳も年上のくせに、心狭ッ!


「そこのソーダライトのヤツはだめ、だめ。この競争は魔力がなければお話にならない。平民は参加できない。アイアンディーネは女の子だから特別参加なだけだ。どうせ、勝てっこないだろうしな」


シヴァリンガム公爵はフフンと嗤った。

なにこの子。

体力勝負を挑むか、私に!


(まあ最初から、この子には勝つつもりだけど)


初期段階でヒロインへの好感度が高いのが、幼馴染のセルカドニー侯爵子息のアルウィンとこのシヴァリンガム公爵だ。

シヴァリンガム公爵の母親と、フロウライト伯爵の妹が友人という関係だ。

私は彼とは初対面だが、パールとは何度も会っていると思う。

お兄ちゃんポジなのだが、いかんせん、貴族偏重な子供に育っているらしい。

た~しか、大人になっても女嫌いキャラじゃなかったっけ。

パール以外にはとても女性に冷たいのだ。


ここでこの子を勝たせると、パールとのダンス権を要求する。


なぜかモテキャラなので、彼との最後のダンスに女の子が群がるのだ。女嫌いの彼はそれを避けるためにパールと踊ろうとする。


次に要注意は幼馴染のアルウィンだ。

アルウィンの初恋はパールだから。

運動能力も彼は結構いいはず。要注意かな。


そして私はチラとエレスチャレの長男、ジェダイトを見た。

ジェダイトは競争自体に興味なさそう。

私やパールと同じ歳のはずだが醒めている。


(ジェダイトの好感度上げは難しそう…。なら、せめて他の人の好感度を上げないようにしなくちゃ)


悪いな、パール、お前の恋路をとことん邪魔するぜ! と悪い顔で振り向くとパールは天使少年スピネルに一生懸命話しかけている。


……あ、いいか。むしろ、私 パールにいい事してます?


護衛青年が面白そうにくっついて来た。

彼はシヴァリンガム公爵に問いかける。


「魔力がないと話にならないのは何故ですか?」

「この迷路の垣根は魔法がかかっているのさ。常時形を変えている。なので、魔力を流して、出口を作ってやらないと抜け出せない。その魔力を流す場所を探すゲームだ」


流す魔力は微弱だが、見つけるまで何度か魔力を流して様子見するから、結果、結構な魔力を必要とするんだ、と少年公爵はふんぞり返る。


(おい、十二歳…。なぜ、そんなに偉そうなんだ…)


軽くイラっとしたが、顔には出さないくらいは出来る。


「なんだ、不満そうだな。嫌ならアイアンディーネ、お前は参加しなければいい」


シヴァリンガム公爵が私を見て言い放った。

出来てなかった!!

軽くショック。

私、本気で貴族としてやっていく自信ない~…。


「魔力がなければクリア出来ないんですね。残念です」


天使少年スピネルはそう言いながらチラとパールを見た。


「一緒に遊べると思ったんですが…」

「ねえ!スピネルは私と組みましょう? いいでしょう? 皆で遊んだ方が楽しいわ」


おおお、スピネル君グッジョブ!

お願いしておいて良かった!


「それじゃあ時間がないわ。最初に私とスピネルが入るわね。時間差で次の人がスタートしましょう」


パールが言っている内に、侍女が数人 時間計測の魔力道具を用意していた。出口と入り口に人員配置も完了だ。

いつの間にか有能な召使が準備OKにしている。さっき、子供の気まぐれで決まった勝負なのに。

これが貴族の遊びか…。


「では、スタートです!」


侍女の一人が和やかに声かけすると、パールとスピネルが子供らしく嬌声を上げながら駆け出した。

うし、私は気合が入る。


「ふん、勝てるわけないだろうに。子供は無邪気だな」


シヴァリンガム公爵が私を見て鼻で笑う。


「勝ちますわよ。その時は、あなたたちがどう言おうとわたくしのお願いはきいて頂くわ」


私は彼らに言い捨てた。


「生意気なチビだな」


シヴァリンガム公爵は私をせせら笑ったが私は本気だぞ。

護衛青年が私を後ろからコツとつついた。


「勝てんのか?」

「勝つ」


おっとこ前に言い放ったった。

勝ち目があるから乗るのだ。ニヤリ。





さて、次にジェダイト、幼馴染アルウィンが出発。

それからシヴァリンガム公爵、最後私だ。

スタートに時間差あっても個々に時間計測するのでハンデはなし。

シヴァリンガム公爵ェ…。五歳も年上なのに大人げないヤツめ。


ジェダイトとアルウィンの二人は合図と伴に順次にササっと出発。シヴァリンガム公爵は こちらをフフンを嗤ってから出発。

この迷路、侵入者撃退用とは違うので、早いと五分くらいで終わるミニゲームなんだよね。

なのに、先発のパールとスピネル君は到着の声が聞こえない。

よしよし、スピネル君いい仕事してますね。


それから少しして、侍女さんが私にスタートを告げる。

うふふ、はい、と優雅に迷路に入り、垣根で私の姿が隠れたら。


私はガバとドレスをめくってダッシュ直進。額に魔剣の先を出し、頭から突進した。


それはさながら猛牛のよう。

魔剣はもともと魔力で出来ている。

なので額から出ているそれに帯電ならぬ帯魔されているから、それを避けるため、垣根がそのままザザザと両端によせてくれる。


ホップステップジャンプ! 速い、速い!

このまま、まっすぐ出口へ直進だ。

ズル? いやいや、これがこの迷路の正しい攻略法なのさ!

どこぞの忍者のように走る私を、迷路の間から攻略対象たちが奇異の目で見ていた。通りすぎる際、シヴァリンガム公爵がなんか喚いていたみたいだが、一瞬なので聞こえないわ。


私は入り口から出口に最短距離をただ直進したのだ。

誰が勝ったかは一目瞭然。


ゴールに入った私を見てゴール側の侍女が目を回したが侍従が冷静にストップウォッチを止めた。よろしい。彼は優秀だ。

あー、靴擦れ痛い。

かかとから血が出ていたのを見咎めて、サササと私に椅子を勧めて侍女が手当てを始める。

…フロウライト伯爵家は召使は優秀なのよね~。


あ、空が青い。


やがて、シヴァリンガム公爵がゴールに辿りついた。


「ずるいぞ、ルール違反だ!」


私は優雅に侍女の用意したソーダを飲む。微炭酸。


「魔力を通したら垣根が通してくれただけですわ」

「ちょ、直進していただけではないか。それにその間ずっと魔力を出していたというのか? お前にそんな魔力があるはずない。なにか刃物を使ったのだろう」


刃物って。大当たりだが、魔剣だもん。

それを額から刃先だけチョロっと出して突っ込んだだけですわ。


そもそも、シヴァリンガム公爵の言う"魔力を流して、出口を作ってやらないと抜け出せない"が誤解なのである。

この垣根は"ヨワキ"という大変怖がりの魔樹なのだ。

魔力に怯える気質を持つ。

なので、魔力の通ったものから離れる気質なのだ。魔力を通すポイントをわざわざ探す必要はない。

この緩いミニゲームはやはり攻略対象と対戦するという体裁で、最初は普通に迷路で時間を競う。好成績出すと対戦した攻略対象からプレゼントがある。

初期投資の少ない時期は大変重宝した。

何回か行うと、ヨワキが油断してお喋りしだすのだ。


『人間ってバカだねえ。決まった場所だけに魔力を当てるんだよ。ボクらは魔力をただ避けてるだけなのに』って。


あ、思い出すとちょっとイラっとした。

ヨワキのくせに。


私が眉を潜めるとシヴァリンガム公爵が私を上から見下ろしガン飛ばしている。

負けるもんか。

私はこの勝負に勝つためなら悪にもなる。

ガンつけ合っているとアルウィンと少し遅れてジェダイトもゴールしてきた。

アルウィンは到着すると屈託なく私に駆け寄ってきた。


「きみ、すごいな! あんなに早く走る女初めて見た」


空気読まないきみも勇者だね。嫌いじゃないよ。でも、私にほれるなよ?

それから、パールとスピネル君もやってきた。

パールはめちゃ楽しそう…。


「ああ、負けちゃった。誰が一番だったの?」


パールが侍従に問いかけた。


「アイアンディーネ様でございます」

「え? …そうなの?」


シヴァリンガム公爵に不思議そうに尋ねた。


「パール、この勝負は無効だ! こいつは不正したんだ」


私は立ち上がり言い放つ。


「不正ではありませんわ。魔力を通すと垣根が動くとあなたが仰ったではありませんか。わたくしそれを実践したまでのことですもの」


あんまりウザイから右手を垣根にかざす。

今度は魔剣を使わず体の魔力を集めてヨワキが嫌がる量を放出した。

ヨワキはみよんと左右に分かれた。


ほら、見ろと私はシヴァリンガム公爵を見やる。

魔力使ったからちょっと疲れた。確かに走りながらこれだけ魔力出していたら倒れるな。魔剣の魔力貯蓄量どんだけなの。毎日積立している感じなのかしら。


「…くそ」

「わたくしが優勝ね?」


アルウィンやジェダイトもコクリと頷く。文句は言わない。

おい、十二歳、お前が一番おこちゃまだったぞ。


「では、わたくしの要求を申します。

パール、あなた、ラストダンスをジェダイト様と踊りなさい」

「えー!!」


おっと、思わぬ声。


「パール、淑女たる者、そのような奇声をあげるものではなくってよ」

「で、でも、アイアンディーネ、わたくし…」


チラとパールはスピネル君を見た。


「私はダンスは踊れませんので」


そっと彼はパールの傍を離れ私の背後に控えた。

あ、ちょっと、パールがショック受けている。

な、なんか、悪いね。私ホントの悪役っぽい…。

しかし、ここで折れるワケにはいかない。


「ジェダイト様、あなた必ずパールを誘うのよ!」


強気でビシィッとジェダイトにも言い放つ。

正直空気だったジェダイトが鳩が豆鉄砲食らった顔している。


「なぜ?」


思わず呟いたんだろうが、私がそれに正直に答えることは出来ない。


「わ、わたくしが見たいからよ! 文句は言わせないわ!」


ジャイアンか。

上手い言い訳できる技量もない。

あ~、ホント絶対、貴族で生きるの無理だわ。

しかも、パールがベソベソ泣き出した。面倒くさいな!


「可哀相だ、パール」


パールの幼馴染、アルウィンが同情始めた。


「…お前、妹に譲る気持ちはないのか?」


おい、シヴァリンガム公爵ェ…。


「アイアンディーネ、僕はあなたに指示される謂れは」


ジェダイトの言葉にカチンと来た。


「じゃあ、醒めた振りしていないで真剣に勝負すれば良かったのよ。パールもそう。泣いてもダメよ」


…スピネル君が私の方に来た事に敏感に反応したせいだと思うけど…。それに、ラストダンスはスピネル君参加は無理でしょう。彼は平民なんだから。

なのに、周りが完全に私に不利に動く。冷静になれ、男子たち。パール、恐ろしい子。

にしても、かかと痛いな。

私のあんよも限界だ。

でも誰もこの包帯について聞かない。

仕方ないか。でも、少し切ない。


「アイアンディーネ様」


(え?)


私の視界が高くなった。

後ろから抱えられ、私はぽすんと誰かの腕に腰掛けた。


傍らにスピネル君がいる。

横を見ると護衛青年の顔があった。


「スピネルに呼ばれました」


え? と私はスピネル君を見た。


「あれだけ走ったのですから」


--気が付いていたのか、と驚いた。


「パール様」


スピネル君は今度はパールに向かって言った。


「今日はとても楽しかったです。私の近くには同じ歳頃の者がおりませんので。アイアンディーネ様はこのおみ足です。休んだ方が良いでしょう。なので、私が見届けしたいと思います。きっと、パール様の踊る姿は白い蝶のようだと思います。楽しみです」


薄く笑んだ彼の顔をパールは直視出来ず俯いた。

涙がすっかり引っ込んでいる。


「では、パール様 皆様、後ほど」


彼のその優雅な礼でここは幕引きだ。

護衛青年が私を腕に抱え連れ出してくれる。

私は少し震えていた。


「寒いか?」


護衛青年が顔を覗き込む。

私はふるふる首を横に振った。


「…ありがとう」

「何に対してだ?」


護衛青年は少し手厳しい。

私はえっと、と付け加えることにする。


「…足の怪我に気づいてくれて。あと、あの場をおさめてくれて。わたくしでは説得できませんでした」

「まあ、あの理由には子供でも納得しないだろうな」


答えたのは護衛青年だ。


「理由があったのでしょう?--彼らに言えないような」


穏やかに付け加えたのは天使少年スピネル君だ。

きみ、ホントは中身大人なんじゃない?

私はコクリと頷いた。

これ以上嘘は無理だもん。


「なぜ、魔樹のことを知っていたんだ?」

「--あの樹はおしゃべりしますから。自分たちで言っていたんです。魔力に弱いって」


実際には聞いていないけど、嘘じゃない。ゲームの時聞いた話を正直に話す。


「……そうか」


むこうから小走りでダートナが近づいてきた。

そして、彼女が私に駆け寄る。


「アイアンディーネ様、お怪我を!?」

「たいしたことないわ、ダートナ。靴ずれしただけ」

「ですが…」


ダートナを制したのは護衛青年だ。


「ここの使用人はいつも彼女にこんな対応なのか? 誰も送る気配もなかった」


それを聞いてダートナがギリと唇を噛んだ。


「あ、あの、でも足の手当てはしてくれたのよ、ダートナ。それに仕方ないの。必要以上にわたくしに関わるのは皆怖いのよ」


森番小屋に一人行かされたダートナのようになるんじゃないかと。


「そうか--わかった」


護衛青年は私をダートナに渡すと私の鈍い銀色の頭をくしゃりと撫ぜて、天使少年と伴に会場に戻った。

私は色んな思いが沸いていて、彼の呟きを聞き漏らしていた。


「喋る…? 魔樹の声が聞こえるだけの魔力が体内にあるのか?」







そのあと、彼らは森番小屋に来てパーティーの様子を知らせてくれた。

ジェダイトとパールのダンスはとても可憐で、招待客から喝采を受けた--と。


その話をして、彼らは日の落ちる前に森番小屋を後にした。

その夜、私は二度目の人生で初めてこれ以上ないほど安堵しベッドで休んだ。


ほんの数時間後、旅支度をしたアンバー先生とダートナに叩き起こされるまでは。


深夜、二人は私を森の出口まで連れ出した。


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