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11話

ブックマークや評価、ありがとうございます。とっても嬉しいです(^^)


(え…、なんで子爵が!?)


驚きと伴に私を満たしたのは自分に対する屈辱感だった。


(ここは、スチャ! と自分で華麗にかわすところー!)


なのに襲撃にまったく勘付かなかった危機感薄い自分に地団駄踏む。

何のために日々森を駆け巡り精進していたのかーと、グルグルしたところで子爵の怒鳴り声が聞こえ正気に返った。


「ソーダライトめ! お前の仕組んだ罠か!」

「どういうつもりだ、エレスチャレ子爵」


私をぐっと後ろに隠し、エメラルディン王子、いやスマラルダスが低い声で威圧した。

ビビる。


「エレスチャレがフロウライト領の開発に反対しているから一芝居打ったんだろう。困窮したエレスチャレに恩を売って鉱山開発の利権を奪おうという算段か?

孫娘がこれだけの食糧を用意していたのが証拠ではないか!」


(ええー…、これはあなたが急に私たちの移動を決めたから持って来ただけじゃん…。銀食器のカトラリー一式持って嫁入りは貴族なら結構一般的だったと思うし)


「旦那様…」


従僕のヘマタイトさんが労しげに声をかける。


「ち、父上 お、おやめください…!」


ジェダイトもさすがに咎める。

スマラルダスの空気がヒンヤリ下がるのを感じた。

くそ、と子爵が口の中でなじるのを聞いて、ハッとした。

多分、彼は誰かのせいにしたいだけだ。

おそらく、相当な金額の借財なのだろう。


(家財では賄いきれない金額…、建物や土地は抵当に入れていなかったというけれど、子爵は相当のお金を…)


「…出て行け! これ以上お前たちの思うままにさせてたまるか。結婚も考え直させてもらう!」

「勝手を言うな。そちらが出した条件ではないか」

「結婚と他の家への鉱山開発への口利きはソーダライトが信用たる相手であって初めて考えることだ。こんな状況で信じられるものか!」


そか。やっぱ、鉱山開発は取引してたのね、おっじーさっま!。


が、しかし!


(暢気に成り行き見てる場合じゃないよ~。フロウライト伯爵家に出戻ったら、あの伯爵はダートナたちにどんな因縁つけるか! しかもエレスチャレルート以外ではいつ二人の死亡フラグ復活するかわかんないし!)


温厚な私が一肌脱がなきゃ!


「わかりました、子爵。ですが今すぐは無理ですわ。父にきょかを得ませんと。しばらくの間、たいざいを許してはいただけませんか?」

「盗人をこのエレスチャレに? そこまで私が間抜けに見えるか?」

「…出ましょう、ダートナ。ここにいると子爵のために良くありません」


温厚が裸足で逃げ出してしまった。

こりゃ、結婚しても問題勃発必須だわ。

ちょっと、お祖父様。この人とフロウライト伯爵、ドングリの背比べなんですけどー。

なぜ、伯爵よりマシと判断したし…。


「…ここで貴様たちを歓迎する民家などありはしないろう」


おいおい、そんな事言ったらこのテーブルに用意した食事もここの人達が口に出来ないじゃん。


「外でねますわ。食事は私たちの分は持ち出します」

「外で? それはあんまりです、父上。彼らは私たちのためにこの食事も提供してくれたんです」

「お前は口出すな、ジェダイト!」


スマラルダスはアンバー先生とダートナに目配せする。

これ以上、ここにいると話がこじれると判断したようだ。同意。


私たちが外に出た時もうすっかり日が暮れていた。

使用人さんたちを伺い見たが、今の子爵の言葉に少し揺れている感じだ。


(タイミング悪すぎか)


私はスマラルダスを見上げると、彼は遠くを見ていた。どうやら、天気を伺っていたようだ。

泣き出しそうな空だが野宿は平気かな?


「この先に少し拓けた場所がある。そこで野宿したいがいいか?」


彼の提案に私たちはコクリと頷いた。







馬車を移動させ、山林を抜けたところ、村の外は道は狭いがススキに似た背の高い草木の草原が広がっていた。


「すごい、ひろーい」


おお、思わず本音出る。

その草原は なだらかな丘が段々に重なりその奥は森から山の斜面に向かっている。おそらく、山頂だろう。峠の折り返し地点なのだ。その先にまたひとつ、山が見える。その先がセルカドニー侯爵領らしい。

思ったよりセルカドニー領へは遠いのだな。


「以前、セルカドニーからこの村を通って来たことがあってな。この先から手前の山を越えたところまでは森林地帯だ。--そこは精霊がいる。この草原含め、その辺りは精霊契約をしていない」

「え」


思わず声が出た。

精霊契約は実はもっとも貴族にとって大切な仕事だ。

貴族が魔力を求める理由は大きくふたつある。

いざという時領地を守るためのの戦力たるようにという理由。それともうひとつ。己の治める土地で魔物や獣の危険から民を守るために精霊と契約するために必要なのだ。

私たちの住んでいたフロウライト伯爵の屋敷近くの森が安全だったのもその精霊契約のおかげ。


(そうか…。エレスチャレ子爵の治める土地を気軽に変えられたのも精霊契約していなかったからなんだ。つまり、今のエレスチャレ子爵は魔力が大きくないのかな?)


まあ、勿論、すべての土地で契約できるわけではないし。

精霊によっては人間嫌いもいるし。

ただ、契約で精霊にも利益がある。


精霊は魔法的な存在だ。

言ってみれば『呪い』や『魔剣』と同じ。


彼らが生きるとその魔力がたまり、魔獣を生む。

これが自らの身を食むのだ。

生まれた魔獣は生みの親の精霊の魔力を削ぎ、土地が疲弊する。そのせいでさらに精霊は力を失い、結果共食いのような形で精霊も魔獣も喪失し、荒れた土地だけが残されてしまう。やがて新しい精霊が生まれ、魔力が大きくたまり、魔獣が生まれるまでは自然豊かな土地でいられる。


この世界では人間のいない土地はこんなサイクルで消失と繁栄を繰り返すのだ。意外にこのサイクルは短い。


人間がその土地に住み、契約により精霊は人間に住みよい土地にするため魔力を使ってくれる。人間が樹を切れば彼らはそれをまた育てるために魔力が消費される。

これにより、魔獣がいない安全な土地になり、精霊は長命に生きられるのだ。

そして、万一魔獣が生まれれば、人間たちが駆逐してくれる。

この相互依存が上手く働けば、彼らに守られた土地は実り豊かに繁栄し、彼ら精霊の寿命も延びるのだ。


「なぜ、契約していない土地だとわかるのですか?」

「その森を境に魔獣の気配がするとシルバートが教えてくれた。お前の魔剣も長く生きればその内意志を持つぞ。まあ、お前が生きている内に生まれるかわからないがな」


そっかー。大きく育てよー。


「それに、貧しい土地は大抵契約していないものだ。本来、フロウライト領を守る貴族の仕事だが、彼らは興味がないらしいな」


スマラルダスは忌々しそうに眉根を寄せた。


(そっか。そういう見方もあるか…。魔力不足だけじゃなく。…そうかも)


同意したのはゲーム内ではジェダイトもエレスチャレの村や町に無関心だったからだ。

醒めた性格の彼が熱中するのは、小麦の新種開発くらい。学者肌のジェダイトは権力争いが嫌いだったし、アイアンディーネのせいで家とは絶縁なので、ゲーム中ではエレスチャレの村の生活はアイアンディーネからの貧乏の愚痴ぐらいでしか情報出てこない。

そういえばフロウライト伯爵領内にはエレスチャレ子爵以外の代官もいたけど、精霊契約に熱心な人間がいた記憶がない。


(そのおかげでヒロインはフロウライト伯爵領内の未契約の精霊と新規契約バンバン取れるワケですが。敏腕営業か)


ううむ、謎の土地、エレスチャレ。

私はエレスチャレについてはほとんど知らないんだ。

未開発の鉱山資源が眠っているくらいしか。


(私も彼らのこと笑えないぞ。もっと、勉強しなくては~)


夕食を平らげ、私たちは馬車から寝袋を出し、アンバー先生に至っては森から大きな丸太を抱えてきていてギョッとした。先生も身体強化使えたんだ…。

てか、その丸太、どっから持ってきたの?


「スピネルが魔力を貸してくれるので助かりますねぇ」


先生はそう言って髭のお顔を笑顔にしているが、その様子からおそらく、かなりご立腹。

私にはわかる。

あれは冬、フロウライトの森で小川の表面が凍った朝、川の上に出来た大きな氷の上に乗り、川下りだ~!と「冒険者ダイヤモンド物語」ごっこしていたところを見つかり大目玉くらった時の、お説教の時の顔だ!

普段は多少のお転婆は許してくれるアンバー先生が命に関わる遊びで大変怒っていた時の表情そっくりなのだ!


「魔力が豊富なのは羨ましいなあ」


とかいいつつ、私も見たことない魔法陣を草原に思い切り展開して丸太と魔石で錬金術でゴンゴン建物作っていく。

出来あがったものは前世でいうログハウスだ。

中は平屋の2LDK、陶器の湯船のある風呂場付き。

森番小屋では盥で入っていました。小屋より豪華じゃん!

…先生も子爵のあの扱いに相当怒っていたね。


さすがにキッチンとトイレは無かった。

でも、おトイレは別に周囲を囲って簡易トイレを作ってくれた。

簡易とはいえ、ボタン代わりの魔石も設置されていいて、それに魔法を通すと消臭と分解魔法がかかる仕様はそのまま。ただ、通常の家では室内だと水洗で流した先で分解される仕組みだけれど、この簡易トイレはボットンだった。

ボットンは謎空間に消えるので、ちょっと怖いん~。


水場は意外に近くに澄んだ湧き水があり、これは助かりますね、と言いながら洗浄魔法で綺麗になったその水でダートナが洗い物を済ませ、一緒に行っていたスマラルダスがウサギを狩ってきていた。ダートナは早速そのウサギを捌いて下ごしらえしている。

ヤッター、明日はお肉~!


スピネル君と一緒にアンバー先生の手伝いしたり、湧き水から水汲みしたりして、深夜ようやく私たちはログハウスで休んだ。







朝目を覚ますと、隣に寝袋に包まれたスピネル君がいた。


(あ、そうだ、護衛にくっつくって言っていたっけ)


窓には錬金術で作った硝子がはめ込まれていて、簡易的にかけたカーテンから朝日が差し込んでいる。

その光にスピネル君の黒髪のキューティクルがきらきら反射している。


(相変わらず天使な子や…)


柔らかそうな髪につい触りそうになって慌てて手を引っ込めた。


(いかん、いかん、セクハラになってしまう!)


もう、七歳でレディだしね! 前世でも"男女七歳にして席を同じゅうせず"だっけ? 自重、自重。

反対側を見ると夕べ川の字で一緒に寝たダートナの姿はなく、多分朝食の支度に起きたのだろう。

私はスピネル君を起こさないよう そっと出ようとしたが、それは失敗した。


「ああ、申し訳ありません。アイアンディーネ様より遅く起きましたか」


彼はあわてて起き上がる。


「スピネル君があわてるの、珍しいね」


彼は はにかみ笑顔で そうですか? と答えた。

おお、朝からごっつぁんです!

スピネル君は居間にいますと言って寝室から出て、私は着替えを済ます。

昨日はドレスで動いたけど、木登りもやっぱしづらかった。

今日はどうするのかスマラルダスに確認していないけど、いつものズボンが無難だよね。

私はいつもどおり髪をふたつお下げの三つ編みにし、帽子を手にして居間に入った。

居間は暖炉も用意されていて、ソファはないけれどこれから冷えても大丈夫なように、毛長の絨毯が敷かれていた。そこにスピネル君がチョコンと座っている。

私が来たらサっと立ち、玄関のドアを開けてくれた。


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