1話
「今回のテストどうだった?」
「いや、今回はダメだったなぁ。前回より30位落としたしなぁ。」
「今でその順位、まずいんじゃないの?もう少し低いレベルの高校受ければ?」
ー放課後の他愛のない会話が今俺の居る教室を通り過ぎる。
今日のホームルームにテストの結果が配布され、それについて語り合っていたのであろう。
今の俺は中学3年、いわゆる受験生と言うやつだ。
受験生の俺が誰も居ないこの教室でやってる事は、まあさっき通り過ぎて行ったリア充には縁がないであろうラノベを読んでる事だ。受験生なんだから早く帰れと言われてもそこまで悪いという訳では無い、むしろ上位に居るのだから文句は無いだろう。
「またアンタはここで本なんか読んで!受験生なんでしょ?なら勉強しなさいよ!」
居るのかよ。
「うるせえなぁ。少なくとも今回はお前さんには勝ったんだから文句は言わねえって約束だろ?」
「へえ、それは勿論僕にも勝ったって言うことだよね?」
「うぐっ…」
成績がいいから文句は言われないだろと、その期待を尽く裏切ったこの双子の姉弟は俺の幼馴染だ。姉弟2人揃っていつもテスト10位以内入っているわけだから、更には弟に関しては男子で1位で不動であるからして皆からは疎まれている。弟に関しては多分俺が1番疎んでるだろう。何故勉強時間は恐らく俺と一緒で大してやってねえのに差が出るんだ?
「よう兄弟、このラノベとかオススメなんだが読んでみないか?」
「どれどれ拝見させて頂こうか兄弟。」
「話を逸らすんじゃないの!アンタも乗らない!とにかく、今はもう6時なんだから早く帰って勉強する事!」
うむ、早く帰るのは同意見だな。帰ってアニメ見ようなんて言ったら面倒になるのは分かり切ってるから言わないでおく。うむ、サードインパクトは未然に防がねば。
「それじゃあ、私達はもう行くから。早く帰ること、いいね!?」
「あいあい、じゃあまたな。」
別れの挨拶を交わし、ふと廊下を見ると1人の女子がいた。なんだっけな、鈴木さんだっけな。
「どうしたんですか?佐藤さん?」
「あの、すみません私の名前は以前にも話した通り月見里です!こんな所でまた1人何してたんですか?」
全然違った。月見里さんでしたか。丁度肩まで髪がかかる位の長さの少女が、そこに立っていた。月見里と名乗るその人は、ふくれっ面な顔で聞いてきた。
「別に、ここで本を読んでいたら幼馴染2人に付きまとわれただけですよ。今早く帰れと忠告されたのでそろそろ帰りますが何か用ですか?」
「そうなんですか。私は前みたいに気になって覗きに来ただけなんですけど。」
月見里さんは、確かいつもこの時間に教室で勉強している。近くでやってる部活とかないし放課後だと静かだから家より集中しやすいのだとか。最近やけにここに来るようになった。その度あの二人は煙みたいに消えてしまうわけで。
「そう言えばその幼馴染と言う2人の方はどうしたのですか?」
「あぁ、また月見里さん会えませんでしたか。あの二人逃げ足早いですからねぇ。」
「それは変ですね。毎回私が来る度いつも見かけないなんておかしいですよ。」
「まぁ、あの二人は人見知りが激しいのであまり変に思わないでやってください。」
そんな会話をしつつ帰る支度を済ませて立ち去った。
その後まあ玄関出て、校門通って帰ってるわけですが、俺の隣に何故女子がいるのか教えて欲しいのですが。正直女子と帰るのはあまり慣れていないので少々なんてものではなくかなり気恥しいのですが。その女子とは紛れもなく月見里さんだ。
結局その後2人で帰ることになって、今が帰宅途中に当たるわけだ。
「そう言えば気になったんですが何故、いつも俺がいるあの教室に来るんですか?」
「そうですねぇ。私はですね、貴方にいつも名前間違えられててなんでかなって思う時があるんですよ。学校で貴方に会うのはあの時間だけですけど、集会とかで見かけてた時はいつも遠くを見ている感じでどこを見ているのかなぁって思うんです。今日見に行った時もそうでした。1人でブツブツと遠くを見ながら話してるんですよ。片手に本を持ちながら。
貴方は一体何を見て話しているんですか?」
そう言って、彼女は分かれ道の俺が通る方でない方を行ってしまった。
秋の風が強くなって、一層と寒さを増していったのであった。