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春の雨に濡れて  作者: 登夢
12/21

12. 結婚・入籍

【6月26日(日)】

日曜日までに必要な書類はすべてそろった。日曜日の朝は起きてから2人落ち着かない。表参道の結婚式場へ10時に到着しなければならない。式後に婚姻届を提出する予定で、婚姻届と必要書類の確認、結婚指輪の確認。僕はスーツ、美香ちゃんはワンピースを着て、9時前に2人で出発。


2人すごく緊張していて、何もかもがぎこちない。こんなに緊張するものとは思わなかった。2人だけだから、すべて自分たちで段取りをしなければならない。仕事でも段取りを一人ですることがほとんどだが、勝手がまるで違う。美香ちゃんもガチガチに緊張している。


10時少し前に式場に到着。式場で結婚式の衣装に着替えて、事前の打ち合わせ。美香ちゃんはウエディングドレスに着替えるのに時間がかかっていたが、ようやく現れる。ウエディングドレスの美香ちゃんはとてもきれいで可愛い。この時にはもうすっかり落ち着いていて、化粧をしているのでとても大人っぽく見えて、18歳には思えない。


神父さんの前で、式が進んだが、ほとんど覚えていない。緊張して指輪を落としそうになったし、キスがぎこちない。記念写真を撮り終えて、着替えてからようやく落ち着いて来た。


「圭さんがすごく緊張していて心配した」

「どういう訳か、すごく緊張して、式の内容を覚えていない」

「私は、全部覚えている」

「でも無事にすんだのでほっとしている」

「本当にありがとう。うれしかった」


それから、近くのレストランでフランス料理のランチをゆっくり食べる。緊張して疲れたのと、感激してこれまでのことを思い出してか、お互いに言葉がでない。「よかったね」と「よかった」だけだが、気持ちは通じている。食事を終えてしばらくすると元気が戻ってきた。それで区役所へ行って婚姻届を提出することにした。


区役所に到着すると、先に1組、婚姻届を提出に来ている。2人とも30過ぎで自分と同じくらいの年齢に見えた。しばらくして、僕たちの番になった。準備した書類を提出して、自分は運転免許証、美香ちゃんは健康保険証と生徒手帳を提示した。美香ちゃんは戸籍謄本から両親がいないことが明らかなので、本人の意思を尊重することで、婚姻届は受理された。そして、婚姻届受理証明書を発行してもらった。これで、1週間くらいで戸籍ができるので、会社と学校に手続きができる。やれやれ。


新婚旅行はどうしようと事前に相談したが、美香ちゃんが授業もあるから、必要ないというので、別の機会にどこかへ行くことにしていた。それで、家の近くのケーキ屋さんで小さなケーキ、スーパーで食材を買って、自宅へ戻った。そして、2人で時間をかけて記念の夕食を作った。昼はフランス料理だったので、夕食は和風にした。今日一日を思いだしてその時の気持ちをお互いに話ながら、夕食を食べた。こんなに2人笑いながらの夕食ははじめてだった。


それから、食後のデザートにウエディングケーキに見たてた小さなケーキに2人でナイフを入れて食べた。その写真も記念に撮った。ケーキに入刀したら、美香ちゃんが抱きついてきてキスをした。こちらも受けて立って少し長めのキスのお返し。ケーキを食べながら何度もキスをした。これこそ本当の甘いキス。


後片付けは、美香ちゃんがするというので、僕はお風呂の準備をして、いつものように先に入って、髪をあらっていると、美香ちゃんが「お背中流します」と入ってきた。顔を上げてみると、裸の美香ちゃんがいるので、驚いてまた下を向く。


「いいよ。もう上がるから」

「遠慮しないでください。今日から正式な妻になったのですから、夫の背中を流すのは妻の役目です。いや権利です」とかなり強引。顔を上げると、美香ちゃんの裸がまぶしくてみられない。目をつむって「じゃあお願いします」というと、タオルに石鹸をつけて丁寧に背中を洗ってくれる。


「今度は私の背中を洗ってください」というので、背中を洗っていると、向きを変えて胸もという。こうなるとこっちも気合が入ってきて丁寧に胸を洗ってやる。きれいな身体だ、見とれた。このままだと、お風呂の中でということになりそうなので、洗いっこはほどほどにして「じゃあお先に」と急いで先に上がった。


寝室で布団を隣り合わせに敷いて、美香ちゃんを待っていると、身づくろいをした美香ちゃんがいつものパジャマ姿で入ってきた。そしてちょこんと座って「不束者ですが、よろしくお願いします」というやいなや、抱きついてきた。そして、しがみ付いて大声で泣き始めた。いままで泣き顔を見せても、こんなに大声で泣いたのははじめてでどうしたものかと思ったが、抱きしめてやることにした。美香ちゃんは随分長い間泣き続けた。その間は何といって良いのか分からなかったので、髪をなでてやったり、背中を撫でてやったりしかできなかった。泣き疲れたのか、ようやく泣き止んだ。そして小さな声で「抱いて下さい」といった。


抱きしめた腕の力を抜いていくと、美香ちゃんも力を抜いた。心地よい疲労を感じて、ぐったりしていると「ありがとう。うれしかった」と身体を寄せてくる。美香ちゃんの顔を見るのが照れくさい。美香ちゃんもそう思っているのか、顔を僕の肩に伏せている。


「美香ちゃんに今こういうことを言うと怒るかもしれないけど、プロの女性との経験は結構あったけど、素人の女性は美香ちゃんが初めてだった。心が通って愛し合うことがどれほど素敵なことか分かった。ありがとう。これから美香ちゃんをもっともっと大切に優しくすることを約束するよ」

「私も、好きな人と愛し合えることがどんなにすばらしいことか分かりました。こちらこそよろしくお願いします」


急に雨音がする。かなり強い雨音。だんだん強くなる。

「雨が降り出したみたいだ。外で雨に降られるのはいやだけど、こうして夜中に雨音を聞くのは好きなんだ。それから休みの日、朝から雨が降っているのを見るのも。なぜか心が落ち着く」

「私も、雨音は好き、聞いていると悪い思い出をすべて洗い流してくれるようで」


それから、いつものように、美香ちゃんを後ろから優しく抱いて、雨音を聞いていると、すぐに2人眠りに落ちたみたい。


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