第6話 奇々怪々家族
「いやー。美香は全く変わってないね!」
それが久しぶりに会った娘にかける言葉か。
美香はそんな事を思いながら、容れてきた茶を飲んだ。
この能天気な母ー青山智七は、こう見えても、元女優で、今みたいに軽い役を演じると思えば、時には大人っぽく、艶やかをもつ女性も演じる、天才だった。
今では、英語教師をやっているが、それも難なく仕事をこなし、授業の内容も生徒から高い評価を得ている。類を見ない天才。孤高の天才。十年に一(以下略)。
そんな凄い母を持つ父ー青山すぐる。すぐるも、この歳で名誉教授である。
更に、母の妹ー青山空も、国語教師だが、全国で有名な偏差値の高い高校の教師である。まさに教師一家。
普通の人なら、羨ましがるような物だが、一つ問題が。
全員ある意味性格が変わっているのである
どういう意味かと言うと、すぐるはアニメーション制作に約二十時間かけたこと。つまり、アニメ好きであり、制作好きである。
智七は、天然キャラである。
空は、危ない性格の持ち主である。
そして、美香も含む四人に共通するのは、
皆、ホラー系が好きである。
これこそこの家族の最大の特徴である。一ヶ月に2、3回は、都市伝説やら、ホラー系の映画やら、心霊写真やら、話し合うこともある。
そして、今日は運がいいのか悪いのか、その話し合う日でもあった。
「……さて。諸君。今日もいい討論会にしよう。」
すぐるの態度が一変、重い言葉となった。さっきまでのふんわりした空気は、どこへやら。
「………そうね。そうしないと私の気がおかしくなる。」
「元からおかしいけどね。」
智七や、空もまた、表情が変わった。完全に、あの頃の(直、三分前)雰囲気は消えていった。
瞬間、美香が、立ち上がった。その顔は、今まで以上に険しい顔だった。
「では、これから怪談会を始めます。」
全員が、一礼した。
「今回のテーマは、………私が撮ってきた1枚の写真。これ、見て。」
智七が、一枚の写真を出してきた。皆それに注目する。
「よく見て。特に右下………。」
そこに写っていたのは……。
「……何これ……。誰かの顔…?」
そう。見知らぬ男のような顔が写っていた。俗に言う心霊写真だ。
三人が、(主に空)が、怖がっていると、智七が説明した。
「これは、私が他の女友達と、一緒に温泉旅行に行った時に撮った写真よ。ちなみに私含めて全員で4人。この写真は、とある山で撮った写真。その時、撮ったのは、私の後輩が、撮ったの。つまりこの写真に写ってるのは、3人。でも、後で見て、奇妙な物が、写っていたの。それが今あなた達が話しているこの男。」
智七は、写真に写っている男を指さした。何度見ても不気味である。
「そこで、今回は、この男について、議論するわよ。まだ霊とも言えないこの不気味な奴。さぁ。何か意見はある?」
すると、美香が、口を開いた。
「これは、霊なんかじゃないかな。ここって、都市伝説で自殺の名所って聞いたことがある。多分、何かここに強い怨念を残して逝ったんじゃないかな。まとめると、これは地縛霊。」
美香は、地縛霊説。
次は、すぐるが、説を説明した。
「俺は、これは霊だと思う。霊と言ってもさまよう霊じゃないかなぁ。だってこの写真からは、強い気を感じる。それも、とても強い気を。多分、何か伝えたいんじゃないかなぁ。要は、浮遊霊。」
すぐるは、浮遊霊説。
「お姉ちゃんは?」
呼ばれて、空は、肩をビクッと震わせた。よく見ると、冷や汗をかいている。
「わ、私…?わわわ私にはサッパーリ?」
「お姉ちゃん………。もしかして、ビビってる?」
また、空は、肩をビクッと震わせた。
「そそそ、そんなことはな、無いよ?な何を言ってるのかなー。もー。バカダナー。」
「落ち着けぇ!」
言われて、空は、しょぼんとした。
「空は、極度のビビリで答えられないと、……結論は、霊ね。実は私もそう思ってた。これで確信が持てた。では、今日は終わり!」
「…………?」
智七が、終わらせようとした、その時、足音がした。
「………え?」
「なんか猫でも入ってきたのか?」
すぐるは、気にする素振りもなく、足音がなった方へと向かった。
「ちょっと………。やめてよ!」
「お姉ちゃんビビりすぎ………。」
だが、空が怖がるのも、仕方がない。なぜなら、今、家にいるのはこの四人だけである。それに、窓は、全て閉まっている。誰かが、入れる訳が無い。
「あぁぁぁぁ………。」
突然、すぐるの悲鳴が聞こえた。
「え………。まさか無いよね………?」
美香も、ここまで来たら、少し、動揺し始めた。
「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
すぐるが、物凄い形相で、戻ってきた。
「お父さん、何があったの?」
「いいや、俺が足音の方へと行ったら、そ、そそそそこにいたんだよぉ!きっとその写真の霊だ!きっとそうだ!」
すぐるは、こういう時になると、極端に、弱くなる。
そして、その足音は、段々こちらに近づいていき………。
「え?これガチの奴?」
「…………………。」
「ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ!私こういうの無理!ごめんなさい!ごめんなさい!許してください!お願いします!」
「ギヤぁぁぁぁぁぁぁ!もう無理だ!俺死んだ。」
「諦め早っ!」
そして、遂に、足音は、リビングの扉の前まで来、
「あ、………。こっち来んな。」
「うわぁ、……智七は何も悪くない(真顔)。」
「もう無理です。どうぞ。勝手にしてください。」
「はっはっはっー!話せばわかる!」
「何故犬養毅!?」
扉は、段々開いていき……そして………。
「あ、母さんここにいた。」
登場したのは、空の息子、麗樹だった。
「………………………………。」
四人の間に、沈黙が流れる。
「この集まりは、あれか……。奇々怪々家族会議か………。」
麗樹は、写真を一目見て、全てを理解した。
「じゃあ、俺はこれで……。」
「「「「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ!」」」」
この後、ウェブサイトの都市伝説まとめにて、新たな都市伝説が追加された。
「奇々怪々家族」
と。