第5話 そうだ、地元へ帰ろう
「はぁー。やーっと終わったー。」
美香は、一日分の仕事を終わらせ、椅子にドンともたれた。
「お疲れー!若人よ!明日から休みだねー。」
隣から、いつもの調子で加奈子が声をかけてきた。加奈子とほぼ同時に仕事を8時間したのに、加奈子は疲れる様子もなく、入れてきたコーヒーを一口飲んだ。
「いやー。全然疲れないよー。もうちょっとやってもいいかな?でも面倒いからやんないけど。」
加奈子は、ちゃらけた様子でそう言った。
「羨ましいよ。その気力を少しでも私に………。」
「無理ですね。一瞬で楽にすることは出来るけど。」
さらっと恐ろしいことを言った加奈子。美香は少し、鳥肌がたった。
「あ、そうだ。」
加奈子は何かを思い出したかのように鞄をあさった。
中から出てきたのは、一つの食物だった。
「と、ところてん………?」
「そう。ところてん。私これ好きなんだー。」
加奈子は、楽しそうに、ところてん好きを宣言した。
「休みには必ず食べてるんだよ。美味しいからね。あ、ちなみに私の家族も好き。」
「どんな家族!?」
美香は、焦りながらも言った。
「美香にもあげるよ。この連休の間に食べてみなよ。それじゃ、私は帰る!」
「えっ、ちょ、加奈子!」
加奈子は、ダッシュで出ていった。
「………ったくっ、コップも洗わないで………。このところてん、明日母さんにあげよ。」
美香は、加奈子が使っていたコップを洗いながら、そう言った。
「あ、そうだ。明日帰るって母さんに言わないと。」
美香は、携帯を取り出し、実家に電話した。
美香は、そこそこ裕福な家庭で育った。父は大学教授、母は英語教師、そして、母には、一人の妹がいる。その妹も、中学校で国語教師をやっているという、教師一家で生まれた。ちなみに、妹の方は、既婚者である。
美香は、そんな教師家族が好きだった。実質、三人に憧れて、美香も昔、塾の先生をやっていた。
美香はこの連休を利用して、実家に帰ろうと思っている。
「………うん。仕事は順調。そんな心配しなくてもいいよー。…………」
美香は、楽しそうに電話の相手、美香の母と語っていた。
「うー!来たー!」
美香は、久しぶりの地元で、テンションが上がっていた。
よく通学路として使っていた道。よく利用していた最寄り駅。落ち葉がよく落ちてる道。家が立ち並ぶ住宅地。
美香にとっては、何もかもが懐かしかった。
色々回想していると、あっという間に着いた。
美香の実家は、見た目は住宅地にある洋風な家とは差ほど変わらない。住宅地にある一番端にある。
美香は、実家の扉まで来た。そして、初めて押すだろう、インターホンを押した。
「………あれ?全然来ない………。」
何十秒経っても来ない家族。母の妹の家族も来てるのだが。
「おっかしーなー………。時間通りに来たのに………。」
美香は、もう一回インターホンを押した。しかし、来ない。
美香は、家の扉を開けようとした。すると、開いた。
「失礼しまーす………。」
美香は、小声でそう囁いた。
あまりにも静かすぎる家の中。あの頃の騒がしい様子はどこにもない。
美香は、恐る恐る家の中を歩いた。少し、寒気がした。
まず、リビングに着いた。とても、空気が冷たい。人の気配がまるで無い。不意に、テーブルを見た。そこには張り紙があり、こう書かれていた。
「テれビをつケろ。」
美香は、少し怯えながら、テレビをつけた。すると、砂嵐状態でテレビがついた。
ビクビクしながら、見ていると、急に音が鳴り、美香はビクッとなった。
そして、ある声が聞こえた。
「…………後ろを、ミロ……。」
美香は、トラウマ級の音声を聞きながら、後ろを振り向いた。
そこには、何も無かった。
美香は安心して前を向いた。しかし、前を向いたら、そこには………
「ウがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「!?」
美香は突然のドッキリにぴょんと飛び跳ねた。
すると、後ろから「えー。」と残念そうな声が聞こえた。
聞き覚えのある声。美香はやっと全てを察した。
「もう。変な真似事はやめてよね。父さん。」
父さんと呼ばれた男ー青山すぐるは美香を、じっと見つめた。
「おまえ………もうちょっと驚けよ……。3時間で作り上げた映像だってのに……。」
「3時間!?えらい簡単に終わったわね!そりゃ驚かないよ!?」
美香は、突っ込んだ。すると、奥から、一人の女性が来た。
「あー!美香ー!久しぶりー!」
「………お姉ちゃん……。」
お姉ちゃんと呼ばれた女ー青山空は出てきてすぐ美香に抱きついた。
美香は、少し息苦しそうにしていた。
「そんな初日に来なくていいのに………。お父さん急いで作っちゃったよ。」
「とりあえず作るつもりだったんだ。」
すぐるは、出来が悪かったのか、不愉快そうに美香を見た。
父親から睨まれて、美香は、そっぽ向いた。
「あれ?母さんは?」
「ああ、後で来るよ。ところてん買いに行った。」
「おおぅ……………。」
どうやら、美香の母は、偶然(?)にも、ところてんを買いに出かけている。
美香は、真剣に、加奈子から貰ったところてんをどうすればいいか、考えていた。
「お姉ちゃんは、麗樹連れて来たの?」
「うん。無理やり。」
「鬼畜だね。今高1でしょ?忙しいんじゃないの?お姉ちゃんも仕事あるし。」
「大丈夫よ。麗樹は本読部に入ってるから。」
「な、何それ。古典部の間違いじゃないの?」
などと、最近の世話話をしていた。
さっきから、美香は空のことを「お姉ちゃん」と読んでいるが、実際、血は繋がっていない。ただ、昔、小さかった美香に、空が、
「お姉ちゃんと呼びなさい!」
と、上から目線で命令されてるので、そう読んでいる。(当の美香は、構ってほしいと思ったらしく、そう呼んでるのだが。)
三人で仕事の話をしていたら、リビングの扉が、盛大に音を立て開いた。
「どーんっ!ラスボス、私の登場!」
「お帰りください。」
美香は、軽快に入ってきた自称ラスボスを外に押し出した。ラスボスは必死に抵抗し、何とか体を捻り、無事中に入れた。よく見ると、ラスボスは、息切れしている。そして、美香の方を振り向き、
「はぁ、はぁ………。美香!久しぶりの母に対してその反応はないでしょ!」
「じゃあもっとまともに入ってよ。」
「いや。」
「子供かっ!?」
母、青山智七は真顔で、無機質に言った