第2話 出会った二人ととあるテロ事件
「えっと……お話と言っても何から話せばいいか分からないですね…。」
金髪の男は自分で苦笑しながら頬をかいた。
「あ、すいません。名前、まだでしたね。僕は中野秋羅。馴れ馴れしいけど許してね?」
男ー中野秋羅はそれこそ馴れ馴れしく自己紹介した。
「馴れ馴れしいな………。私は青山美香。ただの地味駄メガネ女よ。」
美香は自分の事を批評しながら名前を名乗った。
秋羅はそんな美香の自己紹介を受け、クスッと笑った。
「面白いね……ぼ…俺は美香さんは充分綺麗だと思いますよ。」
「いきなり名前呼び……あと一人称が変わった?あと私は至って普通よ。」
美香はややツッコミを入れながら、綺麗を認めようとしない。
すると、秋羅はじっと美香を見て、
「でも美香さん。少し頬がさっきより赤いですよ?」
そう言われた途端、美香は顔を赤らめた。嬉しかったのだろう。
秋羅はニヤッと笑い、
「あ、やっぱり嬉しいんだ。ふふ。ほら、照れてるよ?」
「う、うっさい!嬉しかったよ!とても!だって今まで言われたこと無かったんだもの……。」
美香は後半につれ、だんだん声が小さくなっていく。余程嬉しかったのだろう。
美香は指をいじりながら何かぶつぶつ言っている。秋羅は、はははと乾いた笑顔をこぼした。
「美香さん。」
「ひゃっ!ひゃい!」
美香は猫のような声を上げ、赤面しながら秋羅を見た。
「俺のことは、下の名前で呼んでいいよ。俺、美香さん、気に入ったし。」
「え………じゃあ………秋…羅君。秋羅君、でいい?」
「いいよ。あ、先に言っておくけど、俺は詐欺師じゃないからね!?決して!言葉巧みに騙してる訳じゃないよ!?」
何故か、秋羅は強く繰り返し言った。
「あはは…………そう言われると、ますます信じたくなるね……。」
美香は苦笑いをした。
「そうだ。いきなり悪いけどメアド交換しない?ほんとに悪いけど。」
「本当にいきなりね……。」
いきなり秋羅はメアド交換を頼んできた。美香は悪人では無ければ連絡先は交換してもいいと思っていた。
「いいよ。但し、悪い人では無いよね?」
美香は睨みつけるように疑った。
「だ、大丈夫!だからそんな睨みつけないで……。」
秋羅は急に弱気になった。美香は余計気になった。しかし、さっき出会ったばかりの人を追い詰めるような真似は出来ないので、流すようにした。
美香と秋羅は、それぞれの携帯電話を出し、連絡先を交換した。
「あり……あ、ありがとうございます!この恩は一生忘れません!」
「いや!そこまで私何もしてないから!そしてなぜ言い直したし!」
秋羅は、大袈裟に事故から助けられた人のように嬉しがっていた。美香はいよいよ秋羅という人物について分からなくなった。
「おーや?青山美香さんもうメアド交換したんでーすか。」
いつの間にか加奈子がそこに居た。
「ちょっ!加奈子!酒臭いよ!」
加奈子は酔っていた。酔ってると言ってもほろ酔いだが。
「え?嘘ー。私がー?そーんな訳無いでしょー?」
「いや、酔ってます。まぁほろ酔い位だけと。ほら。頬が紅くなってる。」
美香はふざけた口調の加奈子のおでこを優しく押した。加奈子は「うにゃ」とやわらかい声を上げ、そのまま倒れた。
「わー。たーおーれーるー。」
「あー……。めんど…。はいはい起きて。」
美香はまるで母親のように加奈子の世話的な事をした。
秋羅は二人の光景を見て、口を開けてポカーンとしてたが、見るうちに、ニヤッと笑い、優しい目で美香と加奈子を見ていた。
美香は、そんな目で見ていた秋羅に気づき、思わず後ろを向いた。………掴んでいた加奈子を離して。
「あ、秋羅君!すいません!こんな下らない茶番に付き合ってもらって!」
美香は秋羅からの視線を避けながら謝った。
しかし、秋羅は怒る様子も無くただ笑い、
「いいよ。二人共仲がいいんですね。」
「「いやいやそれは無い!」」
いつの間にか倒れていた加奈子も起き上がり、見事にシンクロした。
美香と加奈子はそれぞれじっと睨んだ。すると秋羅は、
「あはは。やっぱり仲いいんだ。」
「「だから良くない!決して!」」
これもまた見事にシンクロした。
合コンは無事(?)終わり、皆はそれぞれ仲良くなった人と一緒に何処かへ言った。
美香は寝てしまった加奈子を送るため、秋羅とは一緒にはこの後行けない。
秋羅はそんな状態の美香を見て、心配そうに声をかけた。
「大丈夫?手伝おうか?」
しかし、美香は断った。
「いやいいよ。秋羅君は先に帰ってて。」
「そう?じゃ遠慮なく。」
「本当に遠慮無いわね………。」
秋羅は美香とは真逆の方向へと帰っていった。
「さて…私たちも帰りますか。」
美香も眠っている加奈子をおぶって加奈子の家へと帰っていった。
「はーやっと着いた。」
美香は加奈子の家へとこれまた無事(??)に送れた。
「ほーらー加奈子。お家ですよー。」
美香は無理矢理寝ている加奈子を起こした。
「む~むにゃ……あ、私の家。」
加奈子は寝ぼけながらも自分の家を認識した。
「はいそうです。あなたの家です。さぁあとは自分家で寝なさい!」
美香は加奈子を押し、さっさと自分の家に戻った。加奈子は眠い目で美香に小さく手を振った。
「はぁ~やっと帰った~。」
美香は私室のベットに向かって倒れた。ベットが鈍い音を立てた。
美香の家は、新築マンションの三階にある。
高くもなく、低くもなく、ごく普通の階の部屋に住んでいる。
「しっかし、秋羅君、意外と優しそう。」
美香は秋羅について考えた。しかし、すぐ恥ずかしくなり、すぐ考えるのを止める。
「はぁ~もう寝よ……。」
美香はさっさと歯磨きを済ませ、就寝した。
目覚まし時計が鳴り響く。
美香は、懸命に手を伸ばし、アラームを止めた。
「あれ、もう朝……?」
時計を見ると時刻は朝八時半。
美香はだるい体を起こし、出掛けの準備をした。
今日は日曜日。美香は予定していたデパートへと出掛けようと準備している。
「さてと、よっ!」
美香はいつもの調子で準備を整え、いつもの様に誰もいない部屋に向かって「行ってきます」と言った。
デパートは、美香が思っていたより混んでいた。
美香のように、一人で来たものが入れば、親子連れ、中には恋人同士で来てる者もいる。
美香はとりあえず気にせず、見たいと思っていた店を回っては見、回っては見、を繰り返した。
しばらくして、美香は少し買ったものを、車に置こうとして入口まで行こうとすると、
バァン!
と、銃声がモール中に鳴り響いた。
するとやや低めの声がした。
「静かにしろ!我々はテロリストだ!この国を変えるため、国家にこの状況を見せつける!」
その声が響いた三秒後に客のどよめきや動揺の声、それぞれ叫びを上げていた。
しかし美香はただ呆然とし、その地獄絵図と言える光景を見ていた。
「え?テロリスト…?」
美香の声は、すぐに人々の叫び声に呑まれた。