試験を開始する
「……偽乳では無いわね」
「女装じゃないです」
身体が女になったのは応用魔法の一つ『性変換』を使用したら戻れなくなった、という訳だ。
「そんな馬鹿な魔法覚える人間がいたのね……」
最初は男嫌いなら女になって仲良くなって男に戻ったら男嫌い無くなるんじゃないかなー。って思ってたけど戻れなくなるのは想定外。でも、グリ曰くあと30分程度で戻るそうだ。
そう、試験が30分以上続くと試験中に戻ってしまうのだ。この魔法の凄いのは胸が大きくなるだけじゃない。骨格が変わり、アレやコレも変わる。それも激痛を伴いながら。それも立っては居られないほどの。
「あ、あの試験を開始しないんですか?」
早くしないと激痛で立てない状況下このエルフ理事長に殺されかねない。早くしろと意図を込め審判らしき人に言うと試験開始の鐘を鳴らしてくれた。
「まぁいいわ。貴方が女というなら試験も兼ねて少し授業をしましょう『水魔法』」
エルフ理事長の魔法は鉄すら砕きそうな勢いだが俺に触れた瞬間消えていく。
「それはその魔道具の力か、貴方自身の体質かは知らないけど『拒絶』と言う魔法の性質に似ているわね。魔法を消すだけの魔法。単純なようで強力な魔法ね。でも、弱点があるわ」
懐からビリヤード球くらいの鉄球を1つ取り出す。
「『発射』」
右足に球が当たり、鈍い音ともに激痛が走る。
「いいいっ痛いい!!」
「物を発射する魔法ね。鉄球自体は魔力でできているわけでは無いから『拒絶』出来ないわ。他にも『水操作』」
瓶を取り出し蓋を取ると水が中から槍のように飛び出してきた。
「がああぁっあっぁ!」
水は消えることなく俺の脇腹に突き刺さる。
「水を操る魔法なら『拒絶』されても操作を失うだけで水自体が消えるわけじゃないわ」
すでにもうそれどころではないくらい満身創痍にされている。右足の骨も多分折れているだろう。
「……なかなか気絶しないわね。意外と丈夫なのね。でもそろそろ降参してくれないと一度殺さないといけないのだけれど……」
「ははっ、こう見えて男の子ですよ。諦めが悪いんです。それに決着はついてませんしね」
「……そうね。もしこの状況から逆転出来たなら、何でも言うこと聞いてあげるわ」
「言いましたね?約束ですよ?」
「そんな熱い目で見られても負けてあげないわよ?それに貴方の中身は男ですしね」
「でも、負けられない理由が出来た」
「ふふっ、そういところ、お姉様に似てるわね……我水の理解を極めし者」
なんの魔法かは分からないが、エルフ理事長が詠唱を始めた。詠唱を必要とする魔法は強力なものが多い。今の内に勝負を賭けよう。
「『水魔法』!」
「……命令にしたがい、盟約にしたがい……」
「!?」
詠唱を途切れさすことなく、槍で水魔法を払う。
「『水魔法』!!」
とにかく魔法を撃ち続ける。しかし、身体を捻って避けたり槍を使って払ったり。まず邪魔すら出来ていない。
「もう終わりよ。詠唱は終わったわ。降参すれば命は助かるわよ」
エルフ理事長の後ろには水で出来た龍を模した生き物が出来ている。
「いや、ちょっとまだ負けた訳じゃないです」
「……そういう事は実力をつけてから言うものよっ!『水製龍』」
「『炎魔法』!!!」
○○○○○
水魔法の最高レベルと炎魔法の初歩レベルが衝突する。普通は最高レベルの水魔法が負ける訳はないが、圧倒的魔力量を注いだ炎魔法は周りの先程まで使っていた水魔法どころが『水製龍』すら一瞬で蒸発させる程威力を誇っていた。
「……!相討ちとは……魔導具にどれほどの魔力が……」
初歩レベルの炎魔法で打ち消すなんて私の魔力量ですら足りないし、もしかするとお姉様ですら出来ない可能性が高い。そもそも私の知っている魔導具の限界を超えているわ。
「水蒸気が晴れてきたわね……っ!!」
水蒸気が晴れて見ると黒焦げになっている彼の姿が見えた。魔法を操作しきれなかったんだわ!殺すなんて脅してはみたけどそんなつもり全くなかったのに!生き返るからといって精神に影響が出ないとは限らない。何かあったらお姉様に会わせる顔がないわ!
「救護班急いで!!」
急いで彼へ近寄る。
「いや、その必要はないよ」
「ぐっ!うっ!」
急に首を締められる。目の前で黒焦げになっているはずが、私の首を後ろから締め付けている。
「ぐっ、がっはっ!」
引き剥がそうにもこんな密着されてくっつかれては槍も使えないし、魔法の発声すら出来ない。
(こんなことならもっと身体を鍛えておくべきだったわね)
後悔してももう遅い。そもそも魔法使いである以前にエルフであるルルノーアは筋肉が付きにくい体質である。
(ぐっ、もう意識が……流石お姉様の息子ね)
○○○○○
「気がついた?」
気がつくとベットに横になっていた。
「お姉様観てたんですか……お恥ずかしいところをお見せいたしました」
「確かに恥ずかしかったな。魔力を探して敵の確認する癖は今回仇になったな。魔力を探れるというのは凄い才能ではあるが無生物やゴーレムに対処できない欠点がある。魔力の波を使い探知したほうが状況をよく理解できて良い。もっと精進するべきだな」
「くぅ……貴方に言われるなんて」
「それに途中から油断とスキがありすぎだ」
「まぁまぁそのくらいにしなさい」
お姉様……
「ところで詠唱魔法の簡略書作っていなかったようね」
お、お姉様!?
「いや、相手は子供ですし……戦争するわけでもないので……」
「で、負けた訳ね?」
「おねぇさまぁぁ!」
○○○○○
最後首締めで落とすのは魔法使いとしてどうなの?
「……勝てば官軍」
「そうかな?官軍にしてはやたら傷だらけだけどね」
片足骨折、脇腹に穴が空いて、満身創痍もとい死にかけなわけだが。ぎりぎりエルフ理事長を落とせたけどあの後すぐ身体が男に戻って立っていられなくなったんだよね。
「……お疲れ」
「グリこそお疲れ様」
「お二人ともお疲れ様です」
「あ、アイン!?」
二人で労いあっているとアインが後ろから労いの言葉をかけてきた。
「ど、どうやって入ったの!?」
「鍵は旦那様から鍵開けの魔導具をお借りしました」
「てか、なんでいるのさ」
「坊っちゃんの試験の見学です」
見られてたのあの試験を?……あのボコボコにされて不意討ちで勝ったあの試合を?そもそも俺が女体化していたあの試合を?
「……旦那様方は喜ばれておりましたよ?」
「……アイン本人的には?」
「正直無いなー、っと思いました。そもそも試験に勝つ必要はありませんし」
「えっ!そうなの?」
俺の死闘って結構無意味だったの?あんな卑怯なことしておいて?
「あくまで学園に入って授業についていけるかどうかの試験ですから、気絶までさせる必要は無いかと。……まぁ作戦自体は悪くないと思いますけどね」
「……もしかして何やったか全部アインにはバレてる?」
「もしかしなくてもです。もちろん旦那様方も気づいておられます」
結構バレ無い自信あったんだけどな……あのチート夫婦はともかくアインにもバレてるなんて……じゃあこの手はあんまり良い手じゃ無いのか……つーか、アインも十分チートじゃね?
「というより、相性の問題ですね。私は透明になった程度で見失いませんし、それは旦那様方も同じです」
「……」
バレてんじゃん。
覚えた応用魔法の残り2つは『人形制作』『透明化』
『人形制作』は自分や触れたことのある人の人形を一瞬で造くる魔法。それで自分の死体を造ったら『透明化』で透明になって近寄ってくるのを待ってたってわけ。
脚の骨ボキボキに折れてたし、魔法は当たんないし……仕方なく首を締めることにしました。発声出来なきゃ魔法は使えないししがみつく様にしてれば槍は使えないし
「……」
あぁっ!アインが屑を見る様な目で!!
「……zzz」
……横でぐっすり眠るグリを見たら変態的妄想をする気も失せた。
「坊っちゃんもお疲れでしょう。お休みになってはどうですか?」
「そうだね……僕も眠るとするよ………………一緒に寝る?」
妄想は抑え切れなかったよ
昔はもっと書くの速かった気がする……
来週も頑張って更新します。