魔法を使用する
色々忙しくて遅くなりました。ちょっと不定期になりそうです。
男嫌いの理事長と編入試験受けたいって言ったもんだから先生達大慌て。
一週間後の編入試験までは学校の所有する家があるそうだからそこに住んでいいそうだ。なんと食事を朝と夕方に二度出してくれるらしい。
「……疑問。理事長の理由は?」
グリが質問してくる。まぁ、そうだよね。理事長先生パパーンとママーンと同じ位規格外な気がするしね。普通絶対避けたいと思う相手だよね。
「理由かぁ……俺が男であるっていう理由で嫌われたくないっていうのが理由かな?人種や性別、年齢でそいつの全てを否定するっていうのはちょっと好きな考え方じゃないからね。認めさせてやりたいって気持ちもあるのかもしれないね」
理事長が美人だからっていうのも多少なりともあるかも知れないな。
「……そう」
グリは何を考えてるか分からない表情のまま黙々とパスタを食べている。
「まぁ、俺一人じゃ何も出来ないからグリに手伝って貰うことになるだろうけどね」
「……ん」
ミートソースで口元が汚れているグリが俺には頼しい相棒のように感じた。
○○○○○
魔導書を読んで理解することができれば魔力の無い俺でも、グリに触れてる間だけは野盗に使ったように魔法を使えようになる。『睡眠』のような簡易魔法はイメージして唱えるだけで発動するけど、複雑な魔法は不発や暴発の危険がある。強力な魔法を使えるためにはグリに書いてある事を理解しないといけないんだけど……
「まぁ、使われてる言語が分からない訳だが……」
「……魔法言語学習初期は母音と子音を覚えるのが優先。しかし、それ以前に言語習得するのに一週間は短過ぎる」
「でも、出来る限りのことはしないと……」
「……簡易魔法の操作の使用と操作を練習し、その後、余力があれば応用魔法を一つだけでも使えるようにするほうが賢明」
焦りは禁物ってことか……そうだよな……魔力の無い俺が焦ってもな、出来ることは限られてるしな。
「……まず私に意識を集中して魔力が身体を流れる感覚を感じて」
グリに意識を集中すると触れた先から身体の中に血液のように不純物が流れてくる感覚がする。
「……その魔力を水に変えるイメージを持ちつつ『水魔法』と唱えて」
「う、『水魔法』」
チロッ。
一粒の雫が指先から落ちた。ショボい雨漏りみたいだな。
「……魔力が集めきれていない。もっと多くの魔力を集めて」
「こ、こう?」
ジョボボボボボボボボボボボボボボボ
今度は水道の壊れた蛇口のように溢れ出てくる。
「あっ、ちょっ、まっ………どうやって止めればいい?」
ジョボボボボボボボボボボボボボボボ
「……身体の中の魔力を全て出し切ろうとするから。考えて私の魔力を吸うべき」
「グリがまた魔力吸うことは出来ないの?」
「……不可、その魔力は正確には私の魔力。誤認を防ぐため再吸収は出来くなっている」
「よくわからないけど、つまり、どうするべき?」
「……鍋に水を入れていればいいと思う」
「わ、分かった」
漏れる指先を抑えながらキッチンへと走り出す。
○○○○○
大小合わせて十個以上の鍋が水でいっぱいになった。
床もベチャベチャで掃除が大変だった。
「……本来『水魔法』はコップに注ぐ程度の量しか出ない。しかし、過剰な魔力供給により威力と質量を実現。それにより、上級魔法を簡易魔法で再現可」
魔力さえあれば簡易魔法でも十分に戦える訳だ。グリの魔力量がどれほどかはわからないけどさっき魔力を吸ってみた感じではまだまだ余裕がありそうだ。
「あれ?でも、さっき水の量は凄かったけど、勢いはそんなになかったよね?」
精々蛇口の水くらいだったな。
「……魔力操作をしなければただただ質量が増えるだけ。操作は少しコツがいる」
「練習あるのみか……」
「……後は『炎魔法』『風魔法』位を練習すればいい。可能なら応用魔法の練習もすべき」
「おう!!」
「……私の本日の起動可能時間は残り十五分程度」
「もう練習時間殆どねぇじゃねぇか」
一刻も早く練習しねぇと
「……睡眠は生物にとって必要不可欠な時間」
「寝るだけかよ!!」
まだ九時過ぎた位だぞ!?
「……昼寝の時間無かった」
もう何も言うまい
○○○○○
はぁ、面倒だわ面倒すぎるわ。なぜこんなことに……というよりなぜ理事長である私が編入試験なんかしなきゃならないのよ。新人にでもやらせなさいよ。……はぁ、とは言え、あの子お姉様の息子だったらしいのよねぇ。お姉様と顔合わせ難くなるのは嫌だし……お姉様があの男に騙されてから会う時間減りましたし……はぁ、お姉様がお産みになったのが娘さんでしたらきっと仲良くなることが出来ましたのに運命は残酷ですわね。
○○○○○
「ノア様が編入試験を一週間後にお受けになるそうです」
飛空艇で旦那様方の家に戻り千里眼を使ってみると何やら坊っちゃんが変な状況になっていました。野盗に囚われ、不良に絡まれ、理事長に部屋を追い出され、挙句には理事長に編入試験を担当させようとする。……少し教育を間違えたのでしょうか?
「試験担当は誰だ?相手によってはノアの試験にならない可能性もあるぞ」
「理事長様です」
「なっ……!!?」
「まぁ、あの子が試験をしてくれるの!!」
旦那様が驚きを露わにしていると奥様は楽しそうに仰られた。
「確かに並の教師では、うちのノアの相手にならないからね。なんせあの魔導具は世界最高クラスの魔導具ですからね」
「はぁ……あの女か……すこし苦手なんだよな」
旦那様が珍しくげんなりいらっしゃいます。
「貴方が苦手意識を持って接するから駄目なのよ。人間関係において理論で成り立つのは男同士だけよ」
「……アイツは人間じゃないだろう」
拗ねて言い訳をするように旦那様は奥様に聞こえるように呟きました。
「もう!子供みたいなこと言わないの!」
「……それもそうだな……アイツへ挨拶も兼ねてノアの試験こっそり見に行くか……」
「それはいい考えね」
「では、私が家で留守番をしておきましょう」
「いや、ノアの様子を直接見に行ってやってくれ。あいつも喜ぶだろう」
「しかし……」
亜人である私があまり街をウロウロするのを良しとしない人も多い。
「大丈夫よ。魔法をかけてあげるから」
「そういうことなら……」
正直坊っちゃんの編入試験を見てみたいという気持ちもありましたし、旦那様や奥様にそこまでしていただけるのに断る事はできません。
「なら残り一週間で今月の研究全て終わらすぞ」
「なら、私はあなたより多くの仕事をこなすわ」
奥様の発言に旦那様の眉毛がピクリと反応しました。
ここらで私は夕食の支度をしに行きましょうか。
「それは、私への挑戦状かな?」
「いえ、私の予測を告げたまでよ。第一貴方とじゃ勝負にならないもの」
「そうだな、私の圧倒的有能さにお前は敵わないからな」
「「ふふふふふふふふふ」」
さて今日は夜食の用意もした方が良さそうですね。
○○○○○
「さて、まず言おう。俺に責任は無い」
試験の当日までやれるだけのことはやった。むしろ優秀で有能勇気ある俺は様々な魔法を触り、全てをマスターしたとは言えないがそこらのチンピラよりはマシなはずだ。応用魔法も3つは使ってみた。
……それが問題だった訳だが……
いや2つは上手くいったんだ。それに3つ目も成功したといえばした。いや、成功しすぎた。
「……遅刻は試験自体無効」
いや、親愛なる相棒よ。ちょっと無理じゃね?
「……大丈夫、魔法使いの正装はローブって言ってた。それに会場はすぐそこ、3分かからない」
「でも、ローブ脱ぐよね?」
始まる時の正装は、すぐに脱ぎ捨て戦闘を始めるのが作法らしい
「……うるさい早く行く」
「えぇっ、ちょっとぉ」
グリに押されて、試験会場へしぶしぶ向かう。
○○○○○
「おぉ、これはノア様さぁこちらへ」
学校の教師に会い思わず顔を隠す。いつの間にかグリは魔導書になっている。
「どうかされましたか?」
「い、いえ……」
「それならいいのですが……とにかくこちらへどうぞ」
教師に連れられ試験会場に着くとローブを被り立っている女性が一人がいた。
ローブ姿の女性はローブをバッと脱ぎ捨てると、
「我が名はエルフィリア・ルルノーア!エルフ最強の魔法使いなり!」
理事長だった。名乗りを上げて口上を言うのは決闘の様式美らしいが、前世と合わせて28歳くらいの俺には辛い。
……って、ええっ!あいつエルフなの?気付かなかった……あっ、耳尖ってる普通わかんねぇよな
「え、えっと我が名はノア、諸事情によりに入学を希望する者……かな」
「……」
「……」
「早くローブを脱げ」
諸事情によりローブを脱ぎたくない俺はずっとローブを身に纏っている。
「脱がなければ失格となるぞ」
……ふぅ、俺も男だ。腹を括ろう。
「我が名はノア!魔力を持たずして最強を目指す者!」
バッとローブを脱ぎ捨てる。
「……貴方は誰だ」
「……ノアです」
「……ノアは下賎な男だ」
「ええ、私は男です」
「胸のある男がいるか」
そう、今俺の身体には胸があったんだよ。