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魔導書を獲得する

 言い合い中の両親を放って、遺跡の中へと進んで行く。

「ボロいな……神社を思い出して嫌なんだけど……」

 あれは死ぬほど痛かった。いや、死んだけど。


「ん?なんか書いてある」


『持たざるものだけが進め  フールより』


(フール?誰だ?それに持たざるものって魔力の無い人間のことだよな。それってまるで、魔力を持たない人間が現れるのを予期していたみたいじゃ……?)


 遺跡には一本のまっすぐ伸びた道しかなく、迷う余地はないが不気味な感じがする。今すぐ帰りたい。が、アインに何を言われるかわからないので渋々奥へ進む。五百メートルほど奥へ進むと一冊の黒い革製の表紙の本が台の上に置かれていた。


「これか……?」


 見た目はアンティークな感じなのにボロボロになっておらず新品同然でホコリすら被っていない。その本に手を触れると……


「……汚い、触るな」


 本がいきなり罵って来て思わず手を引っ込める。え、何この本罵った?汚いって……辛い。

 罵倒を浴びせた本はふわふわと空中に浮き始めた。これも魔法の一つなのだろうか。


「……」

「無言でどっか行くなよ!!」

「……今は営業時間外」

 もう寝る時間だもんね。それはごめん。でも、出来ればあの二人に言って欲しい。

「……寝る」

 そう言って奥に何故かあまりにも場違いにもキングサイズベッドに横になった……遺跡の設計者馬鹿じゃねぇの?そもそも……

「魔導書って寝るんだ……」

 魔導書がキングサイズベッドを占領するとは……羨ましい。

「……当たり前。三食昼寝8時間睡眠は基本」

 こいつおれより健康的な暮らししてんな。

「………zzz」

(寝付きいいな!?)

 まぁ、いいや。このまま持って帰ろう。

「って重っ!!」

 くそっ、こいつかなり重い……ただでさえ子供の体でキツイのに……30キロはあるんじゃないのか?この距離を持って運ぶのはしんどい無理。仕方ない、紐で括って引きずるか。貴重な魔導具らしいけど、魔導具って武器とかでしょ?じゃあ引きずるくらいヘーキヘーキ。

 でも、途中で落としたら、取りに戻るのが大変だからな。キツめに縛っておこう。



○○○○○


 何とか、入り口までやってこれた。この魔導具両親に渡したらすぐに寝よっと。あ、二人いた。

「お、ノアじゃな……い…………か?」

 なんだか様子がおかしい。せっかく、息子が魔導書を頑張って取って来たというのに。

「ノア。怒らないから、その子をどこから連れてきたのか正直に言いなさい」

「その子?」

 ぱっと後ろに引きずっていたのは、魔導書などではなく、紐できつく縛られながら、引きずられ、爆睡して涎を少し垂らした白い髪が長く伸びた可愛らしい全裸の幼女だった。

「百歩譲って幼い女の子を攫うのを許しても、服を脱がしてきつく縛り、引きずり回すような子供に育てた憶えはないぞ」

「そうね、誘拐はともかく、もうちょっと女の子に優しくするよう教えとくべきだったわね。やはり、同世代との触れ合いは健全な成長に大事ね」

 誘拐容認派の二人はほっといて、幼女の縄を解く。若干幼女の裸にドキドキする俺がいたが、アインが居なくてほんと良かった。全裸はかわいそうだし、今着ている上着を着せてあげる。魔導書が抜けだして、気づかれないように、この子を身代わりにした?いや、わざわざそんなことする必要性が……もしかしてまさかの魔導書さん?ハッハッハッ。まさか。

「……zzz」

(絶対魔導書だこれ)

 製作者の変態性が伺えるな。幼女趣味(ロリコン)とは、フールとやらは、頭がおかしいのか?

「これが魔導具だよ」

「その子が魔道具!?俺達が見た時は書物だったはずだが……いや、確かにこの距離でも魔力がかなり吸われているのを感じるな……」

 へぇ、魔導書が寝てても魔力吸うんだ。全自動フルオートかよ無敵だな。

「とにかく、俺達の魔力が尽きてしまう前に早く飛行船に行くぞ!」

「わかった」

 まぁ、わかったって言っても魔法が使えない俺に出来ることは無いがな。

「ん?……浮遊の魔法が使えないだと……魔法すらも分解し、魔力として吸収するのか……触れているノアにも魔法が効かないのか……どんな仕組みなんだ……おい、エフィシィ!!」

 ぶつぶつ何かを呟き始めたと思ったらチラチラこちらを見ながら夫婦で相談し始めた。とてつもなく嫌な予感がする。とてもとても嫌な予感がする。

「……ノア「嫌です」……早いわね」

 あの声のトーンはお願いする時のトーンだ。そしてこの二人のお願いにロクな物はない。

「まぁ、聞きなさいノア。今日は私達は帰るわ。けど、その魔導書を連れて帰るのは難しいと判断したわ」

 置いて帰る気か?

「だからその魔導書を持ってこの近くにある大きな街があるからそこに行きなさい」

 “俺を”置いて帰る気か!?

「大丈夫、明日色々必要な物はアインに持って行かせるから」

「えっ、ちょっ」

「それじゃあこれ方位磁針。ここからそこの森を東にまっすぐね。“多分”魔獣や魔物は出ないと思うけど気をつけなさいね」

「えっ、ちょっと」

「じゃあね、また追って連絡するわね」

 ぽんっと方位磁針を渡され、浮遊の魔法で上空にいる飛空艇まで飛んで行ってしまった。

「……行っちゃったよ」



○○○○○


「重いぃ……重いぃ……」

 背中におぶって東へ東へと進む。身長は俺より少し小さいけど、同年代の子をおぶっての長距離の移動はキツイ。その上道は整備された道路などではなく、獣道でどんどん体力が削られる。こんなことになるなら、体の一つでも鍛えておくべきだった。

「!?」

 何か足音がしたか!?魔物や魔獣はいないんじゃ無かったのか?いや、“多分”って言ってたな。ふぅ。走って逃げるか。いや、重り付きのこの状況で逃げ切れるとは思えない。そもそも魔導書無しでも逃げ切れるかどうか……

「そこのガキ、止まりな」

 後ろの足音がしていた方向からガラの悪い中年男性の声がした。魔物ではなく野盗だったようだ。

「おい、ガキがなんでガキ背負ってこんなとこにいんだぁ?」

「ちょ、ちょっと、道に迷って……」

 親に逃げられたとは、流石に言えねぇ。

「こんな森の深いとこまでかぁ?まぁいい、ガキ二人でも売っ払えばそこそこの金にはなるだろ。へへお頭にアジトの留守を任されたら、獲物が通りかかるなんて運がいいぜ」

 誘拐容認派がここにもいたぜ。……死ねば良いのに

「大丈夫だ。大人しくしてれば怪我させねぇよ暴れるようなら命の保証はしねぇがなぁ」

 うん、大人しく捕まっておこう。怪我したくない。売り飛ばされても親がなんとかしてくれるだろう。大丈夫だ。

「やけに素直だな。まぁいい。とは言っても奴隷商だって今の時間は起きてねぇ。アジトに帰って檻の中にでも入れておくか」

 売り飛ばされる奴隷ってこんな気持ちなんだろうか。うん、逃げ出したい。



○○○○○


 冷たい鉄の檻の中に入れられる。俺の上着を布団代わりにしてぐーすかぐーすか寝ている。

(……全く呑気なもんだ)

 魔導書が風邪を引くかどうかは知らないけど、女の子を全裸で放置したなんてあっては、後でアインが怒るに違いない。それにしても盗賊が幼女趣味ロリコン野郎じゃなくてよかった。俺には何も出来ないからね。……無力だなぁ。健の持ってたラノベではこういう時、力が覚醒して逃げたり野盗を倒したりするんだろうね。もういいや、考えるの止めて寝よ。



○○○○○


「おい、起きろ」

 野盗に朝起こされるなんて素敵だね。

「もう8時前だ。そろそろ店が開く時間だ」

 横でまだ眠っている魔導書幼女を背負って寝起きでよろけながらも檻から出ていく。さっさと売り飛ばされよっと。身の安全は保証されてるし、アインならすぐに見つけてくれるだろ。

「ここから街まではすぐだ。逃げようなんて思うなよ」

 野盗の前を歩かされる。

「……情けない」

 後ろから小さい声で聞こえてくる。

「起きてたのか?」

 情けないのは否定のしようのない事実であるが、結構傷付く。

「……腹が減った」

 俺も減ってるよ。

「後でアインと合流したらな」

 野党に聞こえないように返事をする。

「……」

 それ以上は何も言われなかった。



○○○○○


 街に着いた。長い旅だった。両親に置いて行かれてこんなことになるなんてな。

「こっちだ。早く歩け」

 大通りを横切り、裏路地の方へ連れて行かれる。

「……主、今日の朝食はあれを希望」

 焼き鳥の屋台を指差して言う。タレのいい匂いがする。朝から焼き鳥……ってかんじだがお腹が空いてて食えればなんでもいいかなって気がする。

「後でな」

 しかし、今食べに行くのは流石に無理がある。お腹空いたんで待ってて、なーんて言えるか!

「……今」

「そこのおっさんを何とかできたらな」

 なんだかイライラしてきて口調が強くなる。

「……私を使用する事を許可」

「は?」

 背負っている幼女はぽんっと魔導書の姿へと変貌する。その変貌を見て野盗がナイフを構える。

「くっ、魔法使いだったか……おい!もう一人をどこへやった!言わねぇなら死んでも知らねぇぞ!!」

 おいおいおいおいどうすんだよ!?この状況悪化してんじゃねぇか。

「おいどうすればいいんだよ!!」

 裏路地を走って逃げながら急いで本を捲る。ぎっしりと謎の言語が並べられているだけで全然意味がわからない。

「……『睡眠スリープ』の使用を推奨。使用しますか?」

「それでいいから早くしてくれ!!」

「ごちゃごちゃ抜かしてんじゃねぇ!!」

 野盗はナイフを俺の心臓、めがけて突き刺してくる。

「……では『睡眠スリープ』と宣言をどうぞ」

「す、『睡眠(スリープ』!!」

「うっ……」

 睡眠スリープの魔法が効いたのか、突然眠りに落ち倒れかかる。しかし、運の悪いことに手に持っていたナイフはまだ勢い良く突き刺さろうと俺めがけて飛んでくる。

(死ぬ……!!)

カランカランッ


(あれ?痛くない)

 咄嗟に目を閉じ魔導書に身を隠せたようだ。しかし、魔導書には傷一つ入っていない。そんなことを思ったのも束の間。魔導書は幼女へと変身。……すごく怒った顔で。


「……主、謝罪を要求」

「ご、ごめん」

「……誠意を要求」

「や、焼き鳥でいい?」

「……許可」



「お金はどうするおつもりですか?」

「あっ……」

 忘れてた。今お金持ってないんだ。

「ってその声はアイン!」

「坊っちゃん、お待たせしました。こちらが荷物です」

 渡されたのは魔導具の袋だ。中に入れると重さを殆ど感じず、袋の大きさよりも数倍物を入れれる。うちのママンが作った。中には俺の私物に女物の服、それに大量の現金。……現金?

「宿を取ってあります。そこで色々お伝えしなければならないことがあります」

 めっちゃやだ。

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