生きるためには働くしかない(1)
強く頭が痛む。打った記憶。というより落ちた記憶はある。
大学近くの崖で危うく落ちそうになった男の子を助けた後に。
そうだ。強風にあおられて落ちたんだったか。
目を開け起き上がる。
しかし、なんだろうか。違和感がある。
「ここ。どこだ? 」
明らかに元いた場所とは違う。
崖から落ちたとすると大学構内に落ちるはずで。
でも、ここは森の中?
日本にしては涼しい。夏真っ盛りって気温じゃあない。
着てる服装は変わってない。
冷房が効きすぎる点に配慮した黒のロングカーディガン。青のジーンズ。白T。
土で汚れているが、ここでついたものか。
てか、これ着てたから、風にあおられ落下したのでは?
まあ、今はいいか。
外傷はなさそう。
そういえば、携帯が右ポケットに_充電切れか。
おかしいな。家を出るときは100%だったんだが。
記憶にない場所にいて?頭痛?まるで、酒でも飲みすぎたみたいじゃないか。
実際、そこまで酒飲んだことないからわかんないけど。
ははっと、から笑い。
だいぶ楽になり、立ち上がる。
人を探すか? そもそも近くにいるのか?
森で遭難となると。
まず、水だな。次に風をしのげる場所か。火か。ディスカバリーチャンネルで言ってたっけ。
その時、背後から葉をゆする音がする。
「あーと…人か、獣か。できれば前者で」
上半身があらわになる。
狼?いや、ニホンオオカミは絶滅したはず。
じゃあ、犬?
全身があらわになる。
そこに現れた犬(?)は、二足歩行だった。
目を離さず、後ろにゆっくり後退する。
がしかし、俺と目が合うやや否や、俺に向かってくる。
瞬間、俺は踵を返し走り出した。