9. 画策
時間は与えられるものではない、つくるものだ――。
大人がよく言う言葉だ。だが実際、時間を作れる人間なんて殆どいないのでは無かろうか。いや、ただ単に俺の周りにいなかっただけかもしれないけど。
だが本当に時間がない。あの、夜に抜け出した日から一週間が経ったが、一度も出掛けられていなかった。
朝っぱらから重たいことを考えたくなかったが、ついつい色々思い出してしまった。
うん、あのあと本当に大変だった。
ルネの背中で寝落ちしたことからも分かるように、疲れ果てていた俺は朝習慣でいつもの時間に目が覚めたが、一日身体がだるくて仕方がなかった。魔力を大量に使うと一気にだるくなるのだが、最近はそこまでたくさんの魔力を消費することがなかったから、油断していた。熱も出たが気付かせないように精一杯気を遣ったし。
それに魔力って、一気に大量消費した後に回復すると増えるんだ。ルーナって、精霊の使う魔法を使える程度には魔力があるから――つまり、精霊並みの魔力があるから、身体に凄い負担がかかってるんだよね、普段の状態でも。持て余してるそれは、普段は少しずつ体外に排出してるんだけど……うん、増えちゃったら当然処理が追いつかなくなるよね。で、この一週間体内の魔力が多すぎて微熱気味だったのだ。地味に辛いんだ、これが。
まあそれも漸く収まった。今回は今までよりも熱の期間が長かったが、当然増加量も多かった。これ以上はもう無理だから、暫く魔力の大量消費は控えたい、の、だが。
そうは言っても、そろそろ様子を見に行かないと、とも思うのである。一週間経ってしまったが、俺が治療したユニコーンはどうなっているのか気になる。滅多なことはないと思うが、予想できないし。また、密猟人とか出てるかも知れないし。
コンコン、とノックの音が響く。
「ルーナお嬢様、家庭教師のお時間です」
「はい、今参ります」
俺は扉の外に聞こえないように、静かに溜め息を吐いた。
一日の授業が終わって、私室に戻った。
明日の授業の予習を軽くして、復習もそこそこに机の上に顔を伏す。斜め前を見上げると窓があり、外には青空が浮かんでいた。
外に行きたい。
ユニコーンの様子を見たいと思うのもそうだが、昼に外に出たい。一人で。屋敷の外まで。
ヘルメスさんから貰ってる許可はあくまで屋敷の敷地内の話だし。一般的な貴族子女なんてそんなもんなんだろうが、ちょっと寂しい。
自分が住んでいる場所の事を知りたい。俺になった初日に言ったことは口先だけの言葉じゃない。この世界の一般市民の暮らしにも興味がある。今俺が知っている限りでは、建物の造りなどは中世っぽいが、服装は近世・近代のヨーロッパに似ている。そのくせ科学は発展しておらず、ルネサンスの三大発明は存在していないようだ。
勿論科学が発達していないのは支配者階級を中心に魔法を使える者が多いからだが、貴族階級はそれでどうにかなっても、市民にはどの程度魔法が普及しているのか資料で見ただけでは分からないものもあるし、貴族にとって当たり前の魔導具の普及具合も気になる。それら全てを総合してこの国の文明レベルを知りたい。
きっとルーナがアルテミシア公爵家を継ぐことはない。今レイアさんが身籠もっている子が男かもしれないし、女だとしてもレイアさんもヘルメスさんも若いのだからこれから先子どもが生まれる可能性が高い。だから恐らく俺は嫁に出されるのだろうが、家格的に嫁ぎ先は侯爵家以上になるだろう。そうなれば本格的に自由はなくなると思った方がいい。
この国の貴族の結婚適齢期が何歳頃か知らないが、レイアさんの年齢を考えると女性は十代後半と言ったところだろう。ルーナの残り時間はあと十年と少し。それでも今すぐに行きたいと思うのは俺が完全にルーナの人格と融合する前に知りたいのと……人生って何があるか分からないからね。突然召喚に巻き込まれてあっけなく死ぬとかあり得るからね!……洒落にならん。なんか泣きたくなってきた。
と言うことで、俺は外に出たい。危ないとか何を言われようと、外に出たいもんは出たい。
いやだってさ、そもそもの話、自由気ままに生活していた現代日本の高校生が、屋敷に籠もりきりで自由に外出が出来ないって、何その拷問。耐えらんないよ。
ヘルメスさんに相談してみようか。あの人なんだかんだ親バカっぽいし、あざとくやればどうにかなるんじゃね?
物は試し。ダメ元でやってみますか?
夕食の際、ヘルメスさんに用事があることを伝え、食後に書斎を訪れる。
「それで、なんの用事だい?」
挨拶もそこそこに本題に入るのだが、
「うん、ダメだね」
一言、屋敷の外に行きたいと伝えただけで即答された。
「何故でしょうか?」
けど、こんなところで負けてられないので食い下がる。
「理由は……一番簡単に言えば、誘拐されるから、かな?」
「この容姿でこの家の娘だとばれるのですね」
「うん、そうだね。あとは……」
「さらにはこの辺りは隣の大陸からの商人も多いですからね。隣の大陸で起こったという干ばつの影響で、裏道ではここのところ人身売買組織、と言うか人攫いや闇取引が横行していますものね。この家の娘とばれずともはぐれてしまうと危険なのでしょう?内陸部で比較的安全だったはずですが、ここ数年でだいぶ沿岸部からの道が延びてきましたからね。危ない人種も総じて増加したのでしょう」
「……なんでそんな事を知っているのかな?噂に過ぎないはずなんだけどね」
ちょっと裏情報を喋れば純粋に驚いてくれたヘルメスさん。ん?唇引き攣ってるから驚いているというよりひいてるのか?ま、どっちにしろナイスリアクションだ。
「秘密、です」
ふふふ、と笑う。猫の姿で夜の町を歩けば大抵のことは分かるのだよ。……いかん、あざとい路線で攻めるつもりが、つい間違えた。
「なんで知っているのか知らないし、聞いても絶対口を割らなそうだから聞かないけど、その情報を知っていても外に出たいと言うんだね。酔狂な娘に育ったもんだ」
呆れ果てた様子である。でも、どれだけのことを言われようとも諦めないけど。
「私には、知る義務があると思うのです。この町で暮らしているからには、この町のことを知らなくてはならないと思うのです。今のままの生活では、私は生きている人々を知ることが出来ません。それがたまらなく怖い。数字や書物の知識だけでなく、いろいろな面で感じ取りたいのです。私の暮らしがどのような暮らしの上に成り立っているのか、知りたいと思うのです。また、このフェリティアは発展を続けております。良い面も、悪い面も持ち合わせたまま人々はますます豊かになりつつあります。しかし私はそれでいいとは思いません。この町の人にとって悪い部分があるのなら、そこを変えていきたい。それはこの町の人々に生かされている私のすべきことだと思うのです。勿論、今すぐに何か出来るとは考えておりません。まだまだ幼いですから。ですが、何時何があるのか予想は出来ません。私は、少しでも時間が欲しいのです」
何故だろう、ルーナになってから口がペラペラ動く動く。さすがにこれには月夜さん的にもビックリ。ヘルメスさん的にもビックリっぽい。
「ルーナ、君は何を知っている?」
「……先程言った通りです。人生何があるか分かりませんから。それに、平穏、平和、安寧……どれも一時のまやかしです。何かしらの小さな嵐はいつでも訪れるものだと思います。水の流れは緩やかなところこそ、淀み濁るものでしょう。いつかきっと、そんな濁りに私たちは飲み込まれ、潰されてしまいます。そうならないためにも何とかしなければならないと思うのです」
ユニコーンの密猟。
治癒魔法薬の質が低下すれば、疫病が流行りだす事は容易に想像できる。そうなれば医療技術が進歩していないこの世界ではあっという間に人口が減少し、市民の不満も高まることだろう。
そうなってからでは遅いのだ。
あの群れに関しては不問にしてもらえたが、他にも密猟人はいるかもしれない。下手したら、他の幻獣の密猟もあるかもしれない。幻獣全てを敵に回してしまうかも知れない。
ゾッとする。
だから、知りたい。神様のお情けで転生したようなもんなんだけど、この世界を大切にしたい。
それが、俺の本心。
ヘルメスさんから鋭い視線とプレッシャーを感じる。それでも、真っ直ぐに前を向いて、負けじと視線はそらさない。ぶつかり火花を散らしていた視線が……ふっと和らいだ。
「そうか。何かあったら相談するんだぞ、ルーナはまだまだ子どもなんだから。甘やかさなかった私たちも悪かったんだろうが、甘えていいんだから」
「はい」
口元が綻ぶ。ああ、愛されているなあ、と感じた。これで怖がってたなんて、ヘルメスさんもレイアさんも可哀想だ。本当に、ルーナは幸せな娘だと思う。うん、ちょっとこの家の娘に産まれた所以が分かったような。これは、期待に添えるよう頑張らないと。
「……まあ、それでも外出の許可は出さないからね。屋敷の警備を強化しておくから、抜け出そうと考えても無駄だよ」
き、きっと愛故の鞭ってヤツだよね、し、知ってるから(震え声)。
「まあ、どうしてもって言うなら自力で抜け出してごらんよ。そうしたら外出禁止も解いてあげよう。私も魔法で屋敷の守りを厚くしておくし、無理に決まっているが」
若いうちは挑戦が肝心だよ、とウインク飛ばしながら言われたが……無理って言われたらやりたくなるのが人間ってもんでしょ。それに、ヘルメスさんがやるだけやってみなって言ったんだ。本当に出来ても文句は言わないだろ。
久しぶりに凄い楽しい。こんなに楽しいのは……あれか、弟や妹と世界征服の計画を立てたとき以来か。母と父に見せたときの引き攣った顔は見物だった。実行しないよね、って聞かれて、二人が望まないのなら、って答えたら泣きそうになってたね。あはは。
こっちに来てから初めての本気、見せてやるよ。
「……そろそろ出掛けるかな」
ヘルメスさんにお伺いを立てた次の日の夜。
町に行くことにしていた。
って言っても、今日は昼に出掛けるための準備。本格的に見て回りたいのは昼の町だから。夜の町は何度か来たこともあるし。
いつもの通りに猫化して、屋敷の庭に出た。塀を跳び越えるつもりで木の上に登る。
「……?あ、これはダメかも」
が、断念。塀の上には紺色の靄がかかっている。魔法だ。何かは分からないが、ヘルメスさんの言葉を考えるとねずみ取り的なものではないかと思う。靄で分かりにくいけど、その奥には黄色の壁っぽいものがあるしね。たぶん、弾かれて捕まると思う。
この分だと塀全体に同じものがあるな。めんどくさい。
上を見上げて見ると、かなり高い位置まである。猫じゃ無理だ。
「……!?そこにいるのは誰だ!?」
木の下から怒鳴り声が響く。おおふ、初めて気付かれた。
「……」
「おい、居るのは分かってるんだぞ!?」
新しい屋敷の用心棒さんかな。お目が高い。
と、余裕で考えていたのも束の間、ドスドスと木の幹を蹴り始めた。それ、反則。
ドスン!
と、一際大きな音がして、体が宙に浮いた。
スタン!と着地。猫だもの、これくらい余裕、余裕。
「何者!!」
んー、こいつダメだ、馬鹿っぽい。たぶん最初は人間っぽい魔力だから気付いたんだろうけど、ここまで来て人型ではないことに気づけないとか、終わってる。
「んにゃあ」
「あー、猫か。ビックリした。人っぽい気配だけどなんか小さいから可笑しいとは思ったんだよな、あはは。ほーら、ごめんなー。おいでー、にゃんこちゃーん」
誰が行くか。
「……」
何も言わずにくるりと向きを変え、走って逃げた。
「あー……行っちゃったか」
微かに声を拾って、追いかけてこないのを確認。よし、大丈夫。
猫だとこの屋敷から出られない。ヘルメスさんの魔法は、そこまで甘くないだろう。
という訳で、またまた変幻魔法を使う。初めてやるからどっきどき。闇夜に紛れやすいものがいいと思って、選んだのは鴉だ。羽もあるし、屋敷から抜けるくらいなら大丈夫だと思う。
パサリ、と羽ばたいて飛翔。……あえなく落下。風魔法を使ってもさすがにこの大きさを浮かばせるだけのことをするとばれそうだ。
空を飛ぶ感覚って難しい。正直上手くできる自信がない。鴉……鳥って練習が必要そうだ。
仕方ない、諦めよう。
またまた変幻魔法。今度はチョウチョ。あのくらいなら出来る、と思う。
足六本ってのがまた……違和感しかない。でも、風に乗って飛び上がるのは出来た。
ふわふわ、バタバタ。
風に乗ってるくせに何だか見苦しいのは羽の扱いに慣れていないからだ。
それでも屋敷の外には出られた。すぐに式をかけ直し、猫に戻る。もう一度同じ事をしないといけないとかちょっと勘弁だけど……。まあ、今は考えている時間が無駄だ。
と言うわけで、無事、町についた。
中心部は所々に明かりがつき、ガヤガヤと賑わっている。
って言っても、明かりは普段俺が使っているような魔導灯と違ってちょっと弱めのぽわぽわとしたものだし、店先以外はまんま火だ。
見たいと思っていた服屋や靴屋は閉まっている。やはり、この時間だと飯屋や居酒屋しかないか。
以前来たときは町の中を歩いて、奥まった路地に入って……危ない取引の現場を見たり、目の据わったおっさんとかが居たりですぐに出てしまった。お嬢様のルーナじゃ怖くても仕方がないかと思う。俺?怖いよ。当然だろ?田舎の県の高校生だからね、夜の繁華街すら見たことないさ。
だから裏通りには出来るだけ入らないようにして町中を歩く。道行く人々の服装を見てみると、女性は細めの袖に、足下まで覆う長さのワンピースの人が多い。刺繍をしてある人もいて、華やかだ。イメージと違って、胸元の大きく開いた白い七分丈のブラウスに、身体のラインをくっきりさせるコルセットベストみたいな丈の短い上衣、七分丈くらいのスカートの人も結構いる。
靴は、底は木で皮や布を使っていて一安心。木靴だったらどうしようかと思った。
で、今度は上から姿消しの魔法を使って宿屋の一階部分にある飯屋に入ってみようと思う。この間罠を巡っている間にルネが教えてくれたものだ。
熱気が凄い。足の踏み場もない程じゃないけど、十分込んでいる。
「おーい、酒の追加だ!」
「おいおい、こっちはまだか!!」
怒鳴り声がやばい。出来れば入りたくない雰囲気。っつか、看板には飯屋って書いてあったはずなのに、どう考えても酒場だろ。はっきりした差は無いのか?
うん、料理も見てみたけど、バルとかパブのつまみだね。がっつり食べる系もあるからやっぱみんなこんなもんなのかもしれない。
うっかり間違えて路地裏に迷い込んだら血まみれのナイフを持った人間が野良犬をぶすぶす刺しながら卑しく笑っていた。
怖かった。
結局その後はどこも見ないで屋敷へ帰った。
翌日の自由時間。
昨日のことを総合して全体の計画を考える。
屋敷を抜け出すのはたぶん鳥化。風に流されるから蝶では不安が残るし。これから暫く空を飛ぶ練習をして鴉に慣れることにする。そうすれば抜け出すのは問題なくできる。
次に、普段の行動は猫の姿。まず服装がだいぶ違うから、これはどうしようもないこと。町には布屋さんがあったから、上手く変幻魔法で大人の姿に慣れれば布を買って自分で仕立てることも出来る。洋裁スキルは昔から高いのだよ。靴も同じ感じかな。たぶん靴底は作れるから、皮の調達さえすればおっけー。
食べ物の調達も、屋台飯を買うときだけ大人の姿になれば大丈夫。
飯屋の会計の所を見ていたら、銀貨で払っている人も結構いて、つりを貰っていた。銀貨も持っているのと同じだったからたぶんいける。
ルーナは三歳の時からお小遣いを貰っている。大体金貨だけど、時々屋敷を訪ねる行商人相手に買い物をすることがあったから、つりで銀貨を貰っている。あとは価値を知りたくて両替して貰うこともあったから銀貨は結構ある。だから、大丈夫。お小遣いの範囲内でどうにかなる。
俺は今回、一週間くらいの旅を考えている。
ユニコーンの群れを訪れるのにトローラ山に行く。それは一番始めに行きたい。
なんてったって一番の目的だし。仲良くなれたユニコーンもいて、遊びに来いって言われてるから行かせて貰う。森の中案内してくれるって行ってたし、採取し放題だから。とても楽しみ。
だってルーナの採集箱は昼にしかとれない素材が皆無だ。全くない。夜にしかとれない素材は大量にあるのだが、昼間素材があるような所に行けないからな。無理ってもんだ。だから、かなり素材に偏りがある。それをどうにかしたいと思う。
その後はちょっと沿岸部に行きたい。フェリティアの町も活気ある町だが、沿岸部の商業都市はもっと凄いと聞いたことがある。元々フェリティアの町は国内との取引が殆どで、海外の組織が活動し始めたのはここ一年ほどだ。それに対して沿岸部は貿易が主だから、異国文化が期待できると思うんだ。隣の大陸の勉強を始めるに辺り、楽しい知識も持っていないとほんと心が折れるから。
で、最後にフェリティアを観光しておしまい。最後にしたのは日程の調節をするため。一週間くらいで帰らないと、さすがに心配かけ過ぎるから。
決行がいつかは決めない。ただ、屋敷が混乱している日がいい。ルーナが自然に放っておかれる日がいい。家庭教師の授業もない日がいい。具体的にはレイアさんの出産日だ。ちょっと忍びないが、使えるものは何でも使う。それだけ本気だって事を見せつけてやる。
基本的に食事の時くらいしかレイアさんやヘルメスさんと話す機会はないし、ちょっとくらい暴れてもいいよね。放置ばっかだと子どもはぐれるよって教えてあげてもいいよね!……うん知ってる、完全に暴論だ。言い訳ですとも。
持って行くものの準備もしますか。
今回も採集箱は二つとも持って行く。ほら、前回も何故かユニコーンの素材を手に入れちゃったし。あれは採集箱には入れていないけど。元々採取されていたものを回収して俺にくれたわけだから、俺の手に渡ったときにはもう、十分保存できる容器に入っていたから。あの黒い採集箱レベルで優秀だったから、移し替えることも採集箱に入れることもしなくて良かった。新しい鍵を作るのは面倒くさいから、入れなくていいのなら入れたくないってのが本音。
一応保存食にもなるお菓子も持って行く。何があるか分からないし。
路銀も多めに持っていく。同じく何があるか分からんから。
他に、タオルを数枚、着替えも多少。
あと……ルーナさんが趣味で調合した香油と、俺が趣味で作ったレース。この間の森で綿花っぽい花を見つけたから、糸を紡いで編んでみた。丁度それっぽい形の道具もあったし。どっかの国の民芸品だったけど。……え?変態?妹がお姫様の出てくるアニメにはまってたことがあって、レース編みに憧れを抱いていたから自分で出来るようになって教えてあげただけだ。慣れるとそんなに時間かけずに出来るから、量産できる。するつもりはないが。
この辺は市場価値を調べるため。雑貨屋さんに持ち込んで、売れるものか聞いてみたい。特にレースは一般階級にも浸透しているのか、それとも貴族階級だけのものなのか。香油も、嗜好品に手を出す余裕があるかどうか。それも大切なことだと思うんだ。
今回は勉強って意味も強いからさ。人間じゃ入れないところも猫や鴉なら知ることが出来るし、何て言うか……この国の一般階級の腐敗度を知りたい。一般階級の不敗って支配者階級に問題があるからだろう?俺に出来ることをしたい。
レイアさんの出産までに、なんとしても準備を整えなくては。