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8. 遭遇

 「うわああああああ!!」

速い速い速い速い速ィイ!!

「随分と色気のない声ね」

 半狂乱に陥っていたところ月の精霊から冷たい声がかけられた。

 幼女に色気があってたまるか。

 深呼吸を一つして、臍の下に力を込める。空気抵抗が凄まじい中で、声が震えないよう声を張り上げた。

「まず何があったというのですか?それからどこへ向かっているのですか?私、あと二時間もしないうちに帰らないといけないのですが」

最初に言われたことは勿論スルーして、この突然の暴挙の理由を尋ねてみた。

「……来れば分かるわ。それに、貴女だって後悔しないわ。貴女のような立場の人間が知っておかなくてはならないことだから」

……意味が分かりません。っつか、今聞き捨てならない言葉があったような気がしたんだが。

「私のような立場、とはどういうことでしょう」

動揺は悟られないように今まで通りに。余裕を持って。――本心を押し隠した問答に慣れた気がするのは気のせいだろうか。前はこんなことなかったんだが?そう考えると泣けてくる。今はそんな事気にしている場合じゃないんだけどさ。

「貴女、名乗ったじゃない。アルテミシアって、確かこの近辺を治める人間の一族だったでしょう?――そんな事も知らないと思ったの?」

ちょっとムッとした風の言葉に内心焦りを覚えつつも、努めてやわらかい声を出す。この辺は処世術だと思う。

「精霊様は人の世に興味を持たないと大精霊様(シャディベルガ様)がおっしゃっておられたので。お気に障ったのでしたら申し訳ございません」

それを聞いた彼女は重い溜め息を吐き、吐き捨てるように言った。

「貴女……本当に可愛げがないわね」

「大人びていると言うことだと受け取らせていただきます」

何事もポジティブに、暗くなっていたって始まらない。

 今も彼女に負ぶわれている状態だ。当然お互いの顔は見えないが、表情を察することくらいは出来る。

「本当に食えない……可愛げがない。でも、とても面白いわ。影の彼に気に入られたって言うことも、五歳の女の子とは思えない魔力も」

そう言う彼女は笑っているようだった。


 十分くらい高速移動に耐えただろうか。すっかり脳内の位置情報が消失してしまった。

「着いたわ」

「ここはどこでしょうか」

「ここ?私の普段の住処で……貴女たちの言う、ペトロ・マリクス山脈のトローラ山だったかしら?」

悩み、首を傾げながら聞かされた地名に、気が遠くなる思いがした。成る程、見慣れん植物が多いわけだ、と軽く現実逃避してみる。

 アルテミシア公爵家の屋敷があるのは、領の中でも南北でいう真ん中、東西でいう西よりの所にあるフェリティアと言う町。それに対しペトロ・マリクス山脈というのはやや北部の東側にあり、馬車で十日ほどかかるところにある。中でもトローラ山と言えば、数多くの魔法生物が生息している事で有名だ。

「凄い式ですね。このように遠いところにあのような短時間で移動してしまうとは」

やっと言えたのはそれだけだった。色々言いたいことはあるのだが、予想外すぎて纏まらないのだ。

「当然よ。あぁ、採取は今はダメよ?時間があったらしてもいいけど」

当たり前だよ!!とはさすがに言えず。

 代わりに、漸く纏まった一番言っておかなくてはいけないことを言う。

「心得ております。――ところで私、きちんと魔法を習ったわけではないので自分の身を守ることが出来ないのですが」

つまり、『俺に何かあったらどう責任とってくれんだよ?え?』ってこと。

 自衛の手段も何もない中で危険地帯に投げ出された人間の身にもなって欲しい。さすがに焦るから。

「もとよりそんな事分かっているわ。大丈夫。貴女の安全は保証する。私が守るから」

真剣な眼差し。真剣な顔つき。信頼に足る、と判断するには十分だった。

 そもそも、高位精霊がいればそれだけで殆どの魔法生物は逃げていくのだから。

「それは大変心強いです。お願い致します」

「ええ、任せておきなさい。――それで、どうしてここに来たのか知りたいのでしょう?」

胸をはり、とん、と拳で叩く姿は、人間味があった。案外ユーモラスな精霊なのか。

 そしてすぐに本題に入る辺りは案外時間のことを気にしてくれているのかもしれない。

「はい」

「まず、変幻魔法を使ってくれる?」

何故?とは聞いても聞かなくても同じか。話はそれからって感じだし。

 指示された通りに猫化する。勿論、採集箱を首にかけるのは忘れない。

「そうしたらついてきて。おしゃべりは無しよ」

コクン、と頷き合い、そろそろと歩き始めた。


 暫く行くと、魔力が濃密に漂い始めた。それと同時に、人の気配が数人分する。

 確認をするが、ここは魔法生物がまさにピンからキリまで揃っているという山で、現在は深夜と言える時刻。辺りは月明かり星明かり以外に明かり取りになるようなものは一切無く、闇に包まれている。俺には精霊や妖精の明かりのお陰で全然見えるから暗闇も大丈夫だけど、普通の人間であればこんな所にはいないだろう。

 もう一つ、歩みを進めるたびに濃くなっていく魔力が気になる。

 この辺りが地場的に魔力が濃いのかと思ったが、植物の生育状況などを鑑みるにそうではないらしい。

 だとすると高位精霊か何かがいるのかと思ったが、それにしては彼らとは魔力の質が明らかに違う。魔物や精霊のような無機物の魔力ではなく生き物の魔力で、どちらかと言えば魔獣の魔力に近いが、覇気が決定的に違う。

 これは何から発せられている魔力なのか。

 うーん、難しい。如何せん経験値皆無だからな。まあ、仕方がない。

 歩みを進めるたびにどんどん魔力は濃くなっていき、人の気配も近づいていく。

「……止まって」

少し開けた場所が見えてきたその時。隠れられる木の根元で彼女が囁き、慌てて歩を止めた。

 しゃがみ込んだ彼女が、無言である方向を指し示す。

 つられてそちらの方向に目を向けて、

「―――――――っ!!」

衝撃の余り声にならない声で叫んだ。

「驚いたようね」

彼女は至って平然と、冷めた瞳でその光景を見据えていた。

 どうして、と聞きたかった。

 でも声が出なかった。十七(プラス)五年分の人生で、こんなにも衝撃を受けたのは初めてかも知れない。

 そこにあったのは、悲惨で、本来あり得ない光景。

 開けた場所の中心には煌々と炎が燃えさかっている。その明かりに照らし出された地面に落ちた、いくつもの血溜まり。そして所々を赤く染め、力なく地べたに伏している一頭の獣。強く輝く真っ白な体躯をした、額の大きな銀色の一本角が特徴の、馬のような姿の獣。

 ――血まみれの一角獣(ユニコーン)

 この世界でユニコーンは幻獣と呼ばれ敬われる存在だ。

 こんなの、あり得ないはずなんだ。

 意味が分からず呆然とその光景を眺めていると、ユニコーンに関する情報が勝手に思い起こされていく。そして、それと俺の持っていた知識がカチリと嵌まり、一つの結論を導き出した。

「どうしてこうなっているか分かる?」

「――密猟、でしょうか。ユニコーンは魔法薬の素材として貴重なものだと聞きました。それと、弱らせているのは好事家にでも売り飛ばす算段だと思いました」

 恐らく答えを望まれていない問いに真面目に予想答を告げてみる。

 ユニコーンは高い魔力を持つ幻獣で、その角や鬣は魔法薬の素材として珍重されている。また、滅多に見ることが出来ない生物であり、好事家達が大金を積んででも手に入れたい生物である。

 答えを聞いて、ルネは呆れたように溜め息を吐いた。

「半分正解で半分不正解。あれは弱らせているのでは無くて殺そうとしているのよ。角やたてがみなんか以上にレアな素材を搾り取っているの。その結果、殺してしまうの。何だか分かる?」

予想は当たってしまったが、今度は皆目見当もつかない。何も言わずに首を横に振る。情報統制された生活の中じゃ満足に知識を得られたいんだ、仕方がない。

「血液よ。ユニコーンの血は魔法薬の素材じゃなくて(まじな)いに使われるの。とても高度な、ね」

「そんな!?」

呪いは王国法の下禁止されている。大陸全土で見ても禁忌としている場合が殆どだ。

「驚くのも無理ないわ。貴女にはね、これを根本的に解決して欲しかったのよ。……領主の家の者として、治癒魔術師の卵として、これは看過できない状況のはずよ」

そうでしょ?と問われ、静かに首を縦に振る。

 その通りだ。これは最悪の状況と言える。

 ユニコーンの素材が少数でも出回っているのは、略奪しているからではない。譲り受けているのだ。ユニコーンとの間にある信頼関係が崩れれば、素材は手に入らなくなり今まで作れていた魔法薬も作れなくなるだろう。非情に不味いことになることは簡単に予想できる。

「今すぐは無理でいいわ。でも、貴女にしかできないと思うの。契約してもいない精霊を見えるのなんて貴女くらいのものだもの。領主に知らせる事はお互いに不都合でしょう。私も居場所がばれて煩くなるのは嫌なのよ。ユニコーンは限りなく神獣に近い幻獣だから精霊としても放置するのは不味いのだけど……」

「人の問題に精霊が口を出すことは得策ではない、と」

「分かってるじゃない」

口ごもった後の言葉を引きついで言えば、彼女は目を細めた。思わず溜め息を吐きたくなった。しかし、彼女の言はもっともである。

 ハルメイア王国では違うが、この世界には精霊を信仰している国がたくさんある。精霊が世俗に関与したことでも問題になるが、それが悪い事でなのだからどうなるか分かったもんじゃない。最悪戦争になったとして、勝つことは容易く出来るだろう。だが、犠牲は少なからず出る。避けられるものなら避けたいさ。世界平和って、敵を作らないって、大事。

「……そう易々と家を出てここまでこれる身ではないのですが」

「私が魔法を教えてあげるわ。さっき使ったヤツ。汎用性もあるし困らないでしょ?」

悪足掻きも取り合ってもらえなかった。式を使えるところも見られているし、はっきり分が悪かったんだ。

「分かりました。この問題を根本から解決することに尽力することを約束致します」

嘆息する雰囲気に気付いたのか。彼女は面白くてたまらないといった表情で言った。

「よろしくね、ルーナ。私の名前はルネティア。ルネって呼んでいいわよ」

ぐっと、息がつまる。内心どうしてこうなったと猛烈に叫びたい。が、そこはぐっと堪えて余裕があるように微笑んでみせる。

「こちらこそよろしくお願い致します、ルネ様」

……俺の平凡チートはどこに行ったんだろう、切に。


 それから十五分ほどかけて先程の式を教えて頂いた。

「……いっそ清々しいほど天才ね。嫉妬もされないんじゃないの?」

「嫉妬されるかどうかは知りませんが……恐れ入ります」

最初に描く式を具現化して見せて貰えば、後はそれを再現してコントロールする練習。

 ええ、まあ二、三回でどうにかしましたよ何か?

 ルネは苦笑している。……前々から式を使っていたって時点で察して欲しかった。

「まあ……そうしたらユニコーンを手当てしましょう。あと、あの下衆どもを蹴散らしておいて、森の中に三カ所罠が仕掛けてあるから撤去しないと」

まずは血まみれのユニコーンを助け、ついでに密猟人をボコすらしい。勿論、治癒は俺でフルボッコはルネの役目だ。

「じゃあ、行くわよ。いいって言うまで出てこないでね?」

言い切った顔に浮かんでいたのは笑顔。そこに並々ならぬ殺意を感じ取り、赤べこのように無言で首を振った。

 ――その後の密猟人達の様子を俺は描写したくない。脳内の片隅でルーナの精神が失神している。確実に言えることは、大精霊を敵に回してはいけないと言うこと。シャディーもルネもなんだかんだ気遣ってくれるから、彼らが人には到底敵わない力を持っていることをつい失念しがちだ。

「いいわよ」

呼ばれたので出て行く。その際に猫化も解いておいた。

 見回しても誰一人として死んでないところを見ると、手加減をしてくれたんだろう。死にかけてはいるけど。

「幻獣様というのは、治癒魔術で手当が出来るのですか?」

「いいえ、普通は出来ないわ。私にも出来ないもの。でも、貴女ならきっと出来るわよ」

なんつー無茶ぶり。根拠を示してくれ。

 しかし、約束を反故にするわけにもいかない。

 ユニコーンをまじまじと見つめると……なんだこれは?

 肉体はきちんとある。その傷はたぶんすぐに治せる。けど……ただ単に血が出ているのではなくて、血にキラキラエフェクト(魔力)が伴って流れ出ていて、それは肉体の傷が原因ではない。

 ……あ、成る程。分かったかも。

 習ったわけではないので詠唱なんて知らない。ただ、相手の体内の魔力や生命力といったものを俺の魔力で操って、元の状態を再構築しているだけ。

「貴女……それ、治癒魔術じゃないでしょ」

こっちの様子を窺っていたルネは、呆然と呟く。無理もない。言うなればこれは、オリジナルの式なのだから。

「この年齢なので魔法なんて習っていません。効果は同じですから、何も問題ありません」

内心では最後にたぶん、と付け足しておく。いや、だって分からないから。

 ルネはそれっきり黙りこくった。邪魔しないでくれるのが有り難い。

 暫くすれば肉体の治癒は終わった。血も止まり、怪我の痕ひとつ残ってない。

 が、魔力の流出は止まっていない。ここで治癒を終えればまず間違いなく死ぬだろう。

「終わった、の?」

「いいえ、まだです」

 自分の魔力を両の掌に集める。それをユニコーンの上に翳して、ちょっとずつ放出して……ユニコーンの魔力と同化させる。そして、それを少しずつ魔力の穴になっている部分の側から編み込んでいき、傷を完全に覆う。ジャージの膝の部分に継ぎ当てをしたのと同じ要領だ。

 それよりも少し規模の小さい穴は穴の部分を集めてぴったりくっつける感じ。こっちはセーターの穴の補修と同じ要領である。……例え話が所帯じみているのはノータッチで。

 全ての傷を塞ぎきると魔力の流出は終わったようだ。これで大丈夫、なはずだ。

「一応終わりました。出来ているかは私には分かりませんが」

目の前がチカチカする。知らず知らずのうちに息を詰めていたようで、大きく深呼吸。

「大丈夫そうよ。ほら」

「……ええ、大丈夫です。ありがとうございました、小さな人の子」

ルネに続いて俺に挨拶してきたのは、先程治療したユニコーンだった。

 とても驚いた。

 しかし見れば、もう魔力の流れは完全に平常なものに戻っている。

 ……ユニコーンって人の言葉を話せるのか!?とはさすがに言えない。

「いえ、お気になさらずに。同族の非情な仕打ち、心よりお詫び申し上げます」

「それこそ貴女が詫びることではありません。それに、(わたし)の命の恩人でしょう。どうか頭を上げてください。他の何者にも出来なかったことをしたのですよ。治癒魔術を使えるのは人の子でも、幻獣にまで使える者はいませんでしたよ」

そういって、(馬の顔の表情は分からないけどたぶん)微笑まれて。俺は。

「ありがとうございます」

と答えるしかなかった。懐の深さに感謝である。

 その後、こちらの事情を少し説明し、ユニコーンのほうの話も聞く。

 このユニコーンは、群れの長だったようで。

「それでは、どうか私の仲間をよろしくお願いします。お礼と言ってはなんですが、あの人間達が採取した私達の身体の一部を差し上げましょう」

「ありがとうございます。治癒魔術師の卵として身に余る光栄です」

 どの罠にどんな個体がかかっているかを教えて戴き、何故か素材まで戴き、また来てくださいね、の言葉と共に見送られた。え、至れり尽くせりなんだけど何で?


 順調に罠からユニコーンを解放し、治癒していった。

 さすがに眠くなってきた。けど、あと罠は一カ所。ユニコーンも一頭だけだ。うん、何とかいける。

 この罠にかかっているだろうユニコーンのことを話したとき、あのユニコーンは気まずげに、私たちとは毛色の違うユニコーンだと思いますが気にしないでください、とこぼしていた。どういう意味だ?変わり者って事だろうか?

 罠に近づくと、最初に大けがをしていたあのユニコーン以上に強大な魔力、覇気を感じる。

 え?リーダーってあの個体じゃなかったの?と疑問を感じながら更に接近すると……罠にかかっているその獣を見て目が点になる事を抑えられなかった。

 今まで見てきたユニコーンは白い体躯に銀色の鬣や尻尾、角を持ち、蒼色の瞳をしていた。

 しかし、そこにいたのは。

 暗闇に溶け込む蒼黒の毛並み。小柄な体躯なのはまだ幼いからだろう。漆黒の鬣と尻尾に銀色の大きな一本の角。爛々と輝く瞳は深い蒼色。そして、毛並みと同色の、体長の二倍はあろうかという大きな翼。

 ――一角天馬ウィングド・ユニコーン

 ユニコーンとペガサスが交わって生まれる特殊な種で、実在が危ぶまれる伝説の神獣である。文献では神獣であるペガサスよりも、当然幻獣であるユニコーンよりも強い力を持つとされている。レア度が高い、なんて話ではない。

「ルネ様」

「ええ。気にしない、なんてこと出来ないわよね、これは」

ルネも呆然としている。見たことがないのか、マジか。

「ウィングド・ユニコーンの体躯とは、このように普通のユニコーンと違うのですか?」

成る程、まさに毛色が違う、と思ったが、ルネの答えはいいえ、と言うものだった。

 マジかい。

「それより、罠を撤去するから治癒をして頂戴。出来るかしら?」

余りの魔力の強さにルネ様も不安そうだったが、大丈夫だと言うと罠を撤去し始めた。

 本当のところ、大丈夫とは言いきれなかった。

 魔力が強いとか、そう言う意味ではない。損傷が激しく、流出している魔力の量が凄く多い。たぶんここに来るのがあと少し遅かったら死んでたし、今の状態でもただ傷を塞ぐだけでは恐らく魔力不足で死んでしまう。

 そうなると。

「こりゃ、魔力全部持ってかれっかも……」

冷や汗たらり。いかん、思わず俺の口調で喋ってしまった。

 幸い口から零れた本音にルネは気付かなかったようだ。

「撤去できたわよ」

ルネの声を聞いて覚悟を決める。しっかり息を吸って、吐く。この位出来なくてどうするんだ。なんてったってチートなルーナさんだもの、不可能はないはず。

「はい。任せてください」

 まず、集中して肉体の傷を治してしまう。余裕だ。

 次いで大きな魔力の穴を塞ぎ、更に小さい魔力の穴も一個を残して全て塞ぐ。

 あー、意外と余力はありそう。もう少しだ。

 で、ここからがさっきとは違う工程。小さい穴を通して同化させた魔力を注いでいく。慎重に強さを加減しないと、体内から破壊しかねないから、少しずつ、丁寧に殆ど空っぽな魔力を満たしていく。

 暫くしていると不思議なことが起きた。

 俺自身の身体と一角天馬の身体が同じように青白く光ったのだ。

 その光りが収ったとき、丁度魔力を十分注げたことが分かったので手を下ろした。

「今のは?」

ルネも知らないようだ。俺も首を振る。第一、初めての事だから誰も知り得ないだろうに。

「分かりません。ですがたぶんこれで大丈夫です」

『ありがとう』

「はい?」

「え?」

突然聞こえた声に辺りを見回す。そして、蒼の瞳と目があった。生命力の灯った、いい目をしている。これなら大丈夫だろう。

『ありがとう』

もう一度感謝の言葉を告げ、一角天馬は翼を広げて飛んでいった。

「あんなに小さくても人の言葉喋れるんですね」

呟いたが、ルネは首を傾げる。曰く、何も聞こえなかったと。

 結局不可思議な現象が何かは分からなかったが、兎に角時間が無くなったので帰ることにした。

 ルネが背に乗せてくれて森を離れたのは知っているが、気がついたらベッドの上、午前六時だったから途中で寝てしまったのを人に戻して寝かせておいてくれたのだろう。

 次に会ったら礼を言わないと、と思いつつ、習い事が増えて忙しくなったらどうなるのか分からず、次に会うのがいつになるのか分からない現実に嘆息するのだった。

一角天馬のルビが分かりませんでした。

何か格好良いものを知っている方がいらっしゃったら教えて頂けると幸いです。

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