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17. 守護獣

 王都の神殿に転移してきてそうそう、予想外の王様に会うという事態に戦々恐々としていたのがつい先程のこと。

 今は王様の待つという、大儀式場へと向かっている。どうやらそこで魔力検査の続きも行われるらしい。

 さっきジュークさんは第三王子殿下の魔力検査を行っていて王様が儀式場にいると言っていたのだから、きっと俺の検査の様子も見られるんだろうな。……嫌だ。

 暫し考え事をしていると、思いの外先を行く二人に引き離されていたようだ。ここもフェリティアにあった神殿と同様、円形且つ迷路っぽい構造のようなので、急いで二人の大人を追いかける。足のリーチが違いすぎて若干小走りになっているとヘルメスさんが抱き上げてくれた。

「……ありがとうございます」

自分でも目が死んでるのが分かる。あからさまな棒読みだし。

 ……死んでも、精神的に殺されかけてるとは言えない。十七歳の男子高校生としての俺が、だいぶ苦しいことになっている。……パパの抱っことか、何年ぶりだろう……?

 結構長い距離を(ヘルメスさんが)歩いて、大きな扉の前につく。

「こちらが大儀式場でございます。中には陛下と第三王子殿下いらっしゃいます。お嬢様には、第三王子殿下と同じ検査を受けていただくことになります」

「そうか。殿下も精密な検査の必要がおありになったか」

「ええ、ここ数十代の王家の方々の中では一番の資質をお持ちになっていらっしゃいました」

「……つまり、第一王子殿下、第二王子殿下を超えると言うことか」

「はい、お二方の倍近い、と思われます」

「陛下のお話はそれが中心か。……危ないな」

どうやら第三王子は魔力が多かったようだ。これは、俺のチート魔力量は目立たないかも知れない。

 ……なんて、淡い期待を抱けるほど、この力を甘く見てはいけないんだろうな。

「恐らくそうではないかと。……お嬢様も、準備はよろしいですか」

「お心遣いありがとうございます。大丈夫です。お願いいたします」

驚いたように目を見開いた後、神官さんはヘルメスさんに向かって、

「お嬢様の将来が楽しみですね」

と言ったが、ヘルメスさんは苦笑するばかりだった。

 何故だよ!?



 何時までも扉の外で雑談している訳に行かないし、ついに儀式場の中へと入らされた。

 正直、この年で王族と対面とかホントにあり得ないんだって。作法も一度さらっとやっただけで流されたから。もう少し経ってからの方が良いって言って。

 公式行事にしろ非公式行事にしろ、他家の貴族に子息令嬢が会うのは早くても八歳過ぎ、普通なら十歳以降になる。王族に関して言えば、十五歳で行われる成人の儀の際になるのがデフォだ。

 貴族に対する作法は、早めになれておいて損はないし、家に訪問してくる場合があるため習うが、王族に対する作法は特殊だ。混ざってしまうと厄介だし、ある程度慣れるまでは触れさせないつもりだったんだろう。幼いルーナさん(好奇心の塊)が無理矢理聞き出したけど。

 儀式場の内部は先程とよく似た石造りでとても大きく、部屋中に濃厚な魔力が漂っていた。あちらこちらに儀式用と思われる剣や鈴、楽器がおいてあった。祭具みたいなものだろう。

 その部屋の真ん中に、五人の人の姿があった。

 俺と同じくらいの男の子に、長い深紅のローブを纏ったヘルメスさんと同い年くらいの男性、向かって右に神官服を纏った壮年の男性、左に黒い詰め襟の軍服っぽい物を着た中年の男性、右斜め後ろにグレーのローブを着た若い女性がいる。

「来たか」

「はい。遅くなりまして申し訳ありませんでした、陛下、殿下。神官長殿に副近衛騎士団長殿、副魔術師団長殿もお待たせしました。これは我が娘、ルーナでございます。――ルーナ、こちらにいらっしゃるお方がガリウス=ドルボルト・ハルメイア陛下だ。お隣にいらっしゃるのが第三王子ソール=ヘリオス殿下。右に控えていらっしゃるのがハルメルク中央神殿の神官長を務めるセイバス・ティピエラ殿と王国魔術師談副団長メイル・ナルバース殿、左に控えていらっしゃるのは王国近衛騎士団副団長テンゲル・ザルバ殿だ」

ヘルメスさんはローブの人に向かって膝を折って挨拶をして、俺に目の前にいる人を紹介してくれる。ちゃんと覚えておかないと後で痛い目見そうなラインナップだ。

 この流れだと俺が挨拶をしないと。作法とか自信なくて怖いんだけど、このまま立ち尽くしてって言うのも問題あるし。しょうがないからうろ覚えで礼をしておこうか。まだ五歳の幼女だし、多少失礼でも許されて当然だろう。

「お初にお目にかかります。ヘルメス・アルテミシアが第一子、ルーナ・アルテミシアと申します。お目もじ叶いましたこと、恐悦至極に存じます。勉強中の身故行き届かない点も多々あると存じますが、努力をしてまいる所存ですので、何卒宜しくお願い申し上げます」

よし、言い切った!

 …………結果、その場の空気がピキッと音を立てて凍った。何故かは知らないが。

「……ぁあ、今は公式な場ではないから、そう形式張らなくて良いよ、ルーナ嬢。別に不敬罪とかとらないから、そう身構えなくて構わない」

「ありがとうございます」

やや引き攣った声の王様の声。一礼して顔を上げると、王様だけでなくまわりの大人全員の顔が引き攣っていた。不思議そうな表情の王子様が有り難い。

「ヘルメス、他家の教育に口出しするのは余り良くないのだろうが……いくら何でも早すぎないか」

「いえ、私もここまでのことを教えているという話は聞いていないのですが……」

なぜだか知らんが周囲の大人に猛烈に呆れられた。意味不明だ。

「まぁ、いい。今はそれより検査の方が重要だろうからな。――ティピエラ、頼む」

「はい。それではまずソール殿下から始めましょう。ルーナ嬢はこちらでお待ちください」

「はい」

黙ったまま王子様はコクン、と頷いた。その表情は真剣そのもの。表情筋が死んでいる。かなり緊張しているようだ。

 王子様は儀式場の中央へ。俺も示された場所に向かい、王子様の検査の様子をじっと見つめる。

 内容的にはさっきと大して変わらなそうだが、細かな魔力の経路が増えている。非科学で精密って、こういうことだったのか。

 ヘルメスさんや王様達は何やらお話をしている様子。検査の様子を見てはいるようだが、本当にただ見ているだけ。監視してる、くらい言った方がいい気がする目つきだ。

 ま、難しい状況ってことも分かるんだけど。この国の継承権を持つ王子様は三人で、年齢はれぞれ一つ違い。上二人は正室腹だが、三番目――つまり今検査を受けているソール王子は側室の子。年齢的にも、継承権は低いはずだが、魔力資質が優秀であれば持ち上げてくるものが出かねない。哀しいかな魔法は上流階級にとってはステータスだ。国力とか、そう言う面で見ても優秀な魔術師であればあるほど上に立つことを求められるから。

 因みに王家のお家事情は、家庭教師さん達ではなく、我が家のメイドさん達が教えてくれたことだ。

 将来必要になるんですから、とか、お嬢様は必ず王族と付き合うことになりますから、とか言いながら教えてくれた。ルーナは身の程をわきまえてるから、本気にはしていなかったけど。焚きつけるためとはいえ、嘘はいけないと思う。

 体感時間で二時間ほど経過。漸く王子様の一つ目の検査は終了したようだ。

「それではルーナ嬢、こちらへ。始めましょう」

「はい。――よろしくお願い致します」

神官長の声に愛想良く返事をし、中央の魔方陣へと向かった。



 当然のことながらやはり一日では終わらなかった。翌日の昼過ぎになって一通り終わった訳だが。

 何も問題はなかったはず……なんだけど、どうも神官長の様子がおかしい。

 チラチラとこちらを窺ってくる。表情は困惑そのもの。

 ……十中八九やらかしたな。

「査定が終わりました」

神官長のその言葉に少しの緊張が走る。ステータスは高いほうがいいから仕方がない。

 俺は一人で白けてるけど。どう考えても『光・水・風に適正あり。特に光と水が強い。魔力練度と魔力量は宮廷魔導師以上』って分かりきっているから余り関係がないんだよね。

 神官長さんは神妙な面持ちで羊皮紙を読み上げる。

「ソール殿下は火属性、光属性、闇属性に適正を持っていらっしゃいます。治癒魔術も扱うことができるでしょう。第一王子殿下、第二王子殿下以上の魔力資質です。近年の王族において最も資質の高かったアイテリア元王女殿下以上の資質でしょう」

周囲の大人達から、どよめきが漏れる。それが感嘆なのか落胆なのかは知らないが、度肝を抜いたのは確かだろう。

 何せ、話に出てきたアイテリアさん――うちのおばーさんは一般的な魔術師の五人分くらいの魔力量を持っている。国一番の魔術師であることは疑いようがないだろう。それを超えるとか、恐ろしい限りだ。

 ただ……驚いている人たちごめんなさい。俺がたぶん、もっと酷い結果を出しているだろう。王子様もごめんなさい。この空気の後とか、マジでやめて欲しかった。

「続いてルーナ嬢ですが……。光属性、水属性、風属性に適正をお持ちです。特に光属性、水属性は強いようですね。資質も大変高く……国、いえ、大陸一だと言っても過言ではありませんね。魔力量も現時点で宮廷魔導師全てを合わせても上回るほどのものです。またこれほど練度の高い魔力も見たことがございません。もはや人間と言うよりは精霊や神獣のような魔力をしておられます」

「「「「「「…………」」」」」」

その場の人間みんな絶句。俺自身も絶句。

 皆さん相当に驚かれたようで。言葉も出ないって感じだろうか。

 俺的にもかなり驚きだ。そこまでだとは思っていなかったというか。明確に人外宣言されちゃって俺、これからどうなるんだろう。

「……お父様?」

隣にいるヘルメスさんを見上げて首を傾げた。あえて涙目にすると、これだけで大抵の男(主に父親)は落ちる。ましてや実父だ、チョロいはず。

「あ、ああ、ルーナどうしたんだい?」

単に驚いているだけではなくて慌てた様子のヘルメスさん。

「私、何か妙なことをしましたか?ここにいらっしゃる皆様を不快にさせてしまったのでしょうか?」

涙目は継続、今にも溢れそうなくらいがベストである。

 女の子があざとくて何が悪い。

 利用できるものは何でも利用しろ、とはうちの家庭教師様の言ですから。

「いや、そんな事はない、大丈夫だから!別にルーナが悪い訳ではないから!少し……かなり?ルーナが凄すぎて驚いていただけだから!大丈夫だからな、もし不都合があったら私と父上でねじ伏せるからな」

「本当ですか?……ありがとうございます、お父様」

ちょっと照れたように赤面して、はにかむように笑む。目の端に涙がたまっているのは気にしない。

 ふっふっふっふ、俺、完璧(たぶん)。

 ほら、周囲の皆さんもバツの悪そうな顔をしているし。

「怖い……この子の行く末が怖い……」

一人だけ、魔術師だけは反応が違ったけど。その発言は俺の演技についてか、ヘルメスさんの発言に対してか。もし俺の方だったら、気付いていても気付かなかったことにして欲しい。

 その時、静かに、王様が呟いた。

「……悪くないのは事実だが、二人とも問題はあるがな」

「否定は出来ませんね。……ああ、殿下、どうかそのようなお顔をなさらないでください。ルーナも、これは大人の問題なんだ」

ヘルメスさんも同意するし、問題って何?

「兎に角、ルーナ嬢は将来、ウチの嫁だろうな。どれのかは分からないが……」

王様でも、中々フランクな言葉遣いをするんだなー……はははははは……………………。

 いや、落ち着け、俺。

 今明らかに現実逃避したらダメな言葉が色々あったような。

「お父様、あの……」

声をかけたことにより、ヘルメスさんと目と目が合う。

 ヘルメスさんが笑った。

 ……爽やかで、色気がある、どことなく黒い笑顔だった。

「ああ、ルーナは気にしなくて良いからな。私と、父上――お前のお祖父様でどうにかするからな」

ちゃんと質問させて欲しい。そしてその答えは答えになっていない。

 王様もさすがに思うところがあったのだろう、眉をしかめて文句を言ってくる。

「ここまで来たら腹括れ、ヘルメス。変な反抗しないでくれよ、頼むから」

「陛下の言う通りだ。これはもう、逃れられまい」

「ルーナ嬢以上に相応しい者もいないだろう」

「表だって異を唱える馬鹿もいないでしょう」

「下手なところに嫁いだら後々内乱の火種になりかねません。危なすぎますよ」

援護射撃まで飛んできた。

 酷い。

 なんか分からないけど、酷い。

「……今度父上と相談しておきます。ルーナにも、後でレイアと話をします」

観念したように見えるヘルメスさんは静かに溜め息を吐いた。そして、この話はもう終わりだ、とでも言いたげに、話を逸らした。

「王子殿下の件もありますし、この場は検査を優先させましょう。陛下もお仕事がおありになるのではないですか?」

「うっ……。まぁそうだな。後々集まって相談すればいいか」

「次へ移りましょうか」

王様は痛いところを突かれたようで、苦々しげな顔をしながらも頷いている。皆様方も納得のご様子だ。

 検査はもう終わったのだが、まだやることはあるのだ。こっちはこっちで中々大変なことだが、事前情報は伝えられていない。そう、俺も本来は知らないはずなのだがそこは精霊様々。知らない演技は一応しておくけれど。

 本気で首を傾げている王子様を促しながら儀式場を後にして、一同揃って次の部屋へ向かった。



 連れてこられたのは、先程とは別の建物だ。建物自体は一回りくらい小さいが、内部には部屋が一つしかないためかなり広い。

 石造りの床一面に刻み込まれた魔方陣は、先程までとは毛色が違う。どんな用途の物なのか理解できる。

 今までの文字が微妙に読めなかったのと比べると、こちらははっきりと読める。方言と標準語の差くらいだろうか。式を書くときにいつも使っている文字が、その魔方陣に刻まれていた。

 思わずまじまじと見つめてしまう。書かれているのが単純な魔術ではないと分かる。これって――。

「先程は検査と言いましたが、ここではある儀式を行っていただきます」

神官長の言葉に王子様が首を傾げる。うん、俺も知らない風を装わないと。

「私たち魔術を操るものは、そうではない者と比べて他の魔力体から干渉を受けやすいのです。それは精霊のような良き魔力体だけではなく、悪魔などの悪しき魔力体も含みます。ですから、己の身を守ってくれる良き魔力体、或いは知性ある魔法生物と契約を結び、守護していただくという風習があるのです。私たちはこれを、『守護召喚』と呼んでいます」

神官長の話を聞いて、王子様ポカーン。俺もポカーン。

 高位魔法生物の守護を得る儀式があるというのは聞いていたが、まさか『召喚』だとは思っていなかった。

「……へぇー……」

「召喚魔法……?人の世では失われたと聞いていたのに……どうして?」

尤も、その意味はだいぶ違うけれど。

 幸い、俺の小さな呟きには誰も気付かなかったようで、話は進んでいく。

「儀式としては大して難しいものではございません。部屋の中央にお進みになって、『自分を守るよう』お祈りください。まずはソール殿下からお願い致します」

「……はい」

王子様も漸く緊張がほぐれてきたようで、少しずつ声を出し始めている。ずっと黙りこくっている子どもって、かなり心配だった。

 真っ直ぐに歩いて部屋の中央に向かい、この国の国教の正式な礼拝の姿勢をとる。とても綺麗に出来ていてさすがだ。この体勢、体幹鍛えてないとぶれるから。祈るどころじゃなくなるから。

 王子様は暫くそうして祈りを捧げていたが、突如周囲の空気が変わった。

 空間が震える。

 魔力が渦巻く。

 この感覚はなんだ?目の前の光景が捻れているような――。何だか猛烈に気分が悪い。

 さすがは古代魔法、燃費が悪いようで、この辺り一帯の魔力をすっていっただけでなく容赦なく俺からも盗って行きやがった。尤も、こんなものでどうにかなるようではないけど。

 まるで近眼がかなり進んだ人の眼鏡をかけた時のような。3Dの映像を初めて見た時のような。平衡感覚がおかしくなることからくる気持ち悪さだ。

 本心から言えば倒れたい。全身の神経がこの場の異常を告げている。楽になりたい。けど、他者がいる前で弱った姿は見せられない。

 睨み付けるように部屋の中央を見つめる。

 ……吃驚した。

 そこには、顔だけでも一メートルはあろうかという大きな黒獅子がいた。

「……おおぉ!」

感嘆の声が、聞こえた。

 黒獅子は一角天馬同様神獣であり、伝承も同じくらい残っている。……この国というか世界、神話やら伝説やら伝承やらが多すぎて訳が分からない。

 神話では闇の化身、だったかな?そんなようなのがたくさんいて記憶があやふやだ。

 で、その神獣様と王子様だけど。

「あああああああ、殿下!」

「……僕なら大丈夫です、問題はありません……たぶん」

頭をガジガジ囓られて(?)いた。結構スプラッタな絵だと思う。でも、たぶん舐めてるだけなんだろう。

「しかし、神獣ですか」

「荒れますね、これはもうどうしようもなく」

口々に疲れた様子で愚痴る大人達。なんだか背中が煤けている。

 黒獅子は暫く王子様を舐め続けていたが、やがて淡く光り消えてしまった。

 その魔力の残滓が王子様の中へと染みいる。契約みたいなものだろうか。

「それでは続いてルーナ嬢の儀式に移りましょう」

ちょっと時間が押し気味と言うだけ合って、お急ぎのご様子。

 俺もさくさく終わらせたい。焦っている人を待たせるのは心証がよろしくないし。

 部屋の中央へ。王子様と同様に式礼をする。

 祈り、ね。正直、我が身は我が身で守れるくらいには思ってるんだけど。だから希望としては、兎に角強い存在に来て欲しい。俺の身近にいる存在――シャディーやルネ、メルトよりも強くないと意味がない。強者、プリー……。

 ぐわん、と大きな波が脳内に攻め寄せる。

 ルーナさんからの制裁だ。

『無粋な真似はおやめなさい。この身体は貴方のものですが、私のものでもあるのですよ。貴方が無神論者であることは知っておりますが、神の御前でそのような見苦しいことを思うのはお止めくださいませ』

……正論過ぎて何も言えない。素直に謝っておこう。

 だが制裁はやめて欲しかった。ただでさえ苦しかったのに、余計苦しい……あれ?

 周囲の魔力濃度が異様に高い。床の石を見つめると視界が歪むのが分かる。まるで蜃気楼のようだ。

 魔力の高い何かが、空間をねじ曲げている――接続している(・・・・・・)

 お陰で空間そのものが歪んでいる。嵐のように暴れ回る魔力は凶暴で、魔力の低い存在ならば簡単に吹き飛ばされてしまいそうだ。

 完全に俺のせいだろう。え、皆様大丈夫?ひょっとしなくても不味い?

 と言うか、何が起きているのだろうか、これは。もしかして、俺が願ったから強いのが出てくるのだろうか。いや、そんな馬鹿な。

『来ますわよ』

ルーナが言ったその瞬間、大きな存在が文字通り空間を切り裂き現れる。

 その強大な威圧感に、暴発した魔力風に、思わず目を瞑った。


「グルルギャアアアア!!」


 ……どこかで聞いたことがあるような咆哮。止めてくれ、これ以上の厄介ごとは御免だ!

 だって、あの時のアレとよく似た鳴き声の善なる魔力体なんて、一つしか知らない。

 漸く室内の様子が落ち着いてきて、恐る恐る目を開く。

 後方で見ているはずの大人達が、何とも言えない、力の抜けた声を出す。よっぽど驚かせてしまったようだ。

 仕方がない。これは本当に仕方がない。俺も同情する。こんなのって予想外だ。

「『ははははは………………。はぁ』」



 俺の眼前には、巨大な黒いトカゲっぽい何か――もとい、ファンタジーに良くあるドラゴンが伏していた。

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