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13. ユニコーン

 パチパチ、と焚き火が爆ぜた。

「……それにしても、驚きましたわ」

「何がですか?」

しみじみと呟くと、金色の瞳が疑問を浮かべて揺れた。

 ここはユニコーンの群れのテリトリー。以前群れの長が罠にかけられていた開けた場所だ。

 その中心で火を燃やし、何をしているかというと。

「全てですが……まず、ユニコーンって肉食べたんですね」

 辺りに漂うのは肉が焼ける香ばしい匂い。

 そう、今火を燃やしているのは飛竜の肉を焼くためだ。焚き火の周囲に、一口大に切り串刺しにした肉を地面にぶっ刺して、焼き上がるのを待っている。

 この焚き火を囲んでいるのは、俺とシャディーとルネの他に、二十頭程度のユニコーンたちである。皆さん、味見希望だそうで。

「草食獣と似た姿をしていますからね。よく勘違いされてしまいますが、私たちは何でも食べますよ」

「そうなんですか」

知らなかった。この世界だけがそうなのか、はたまた前世でもそうだったのか、詳しいことは知らないけどちょっとイメージが崩されたような気がした。

「とは言っても、主として食べているのは魔力を多量に含んだ特定の薬草ですが」

「まぁ、そうですよね」

実際、何頭かのユニコーンは目に見えるところで草を食んでいる。可愛い。草食動物って良い癒やしだ。

「そろそろ焼けましたよー」

焼き加減を見ていた若い雌のユニコーンが宣言。その途端、一斉に串が宙に浮く。蹄では持てないから魔法で浮かせているようだが、能力の無駄遣い感が半端無くするのは俺だけだろうか。

 ぼんやり見ていて食いっぱぐれてはたまらない、と串を浮かせて手元に引き寄せる。手に取ろうとしたら熱くて持てなかった。金属製でも何でもないただの木製の串だが、特殊な加工をしてあるそうで、とてもじゃないけど熱くて持てない。この程度では大したことはないから、と彼らと同じ手法をとる辺り、結局俺も無駄遣い常習犯であることには変わらなかったりする。

 味付けは塩草と呼ばれる塩味の強い香草と、数種類の香りの強い木の実、香草を使用。日本的に言うところのハーブと香辛料入りの塩を振りかけて焼いた料理みたいな味付けになるらしい。

 明らかに葉っぱとかドングリっぽい実から香辛料っぽい味付けになるって言うのが信じられないんだよね。

 飛竜肉を食べられるようにする特殊な毒消し、コフル草を含め、ユニコーンの群れからの提供である。有り難い。

 既に周りにいるユニコーンはうまうま言いながらぱくついている。

 マジで?

 ワイバーンって美味しいのか……?コレクターズアイテム的で、人魚の肉みたいな立ち位置の何かなんだよな?実質竜ってほぼトカゲだし……食べるのが怖いんだけど。

 かぶりつくことは下品、と言うルーナの意識も働いてなんとなく躊躇われるが、美味しそうな匂いやユニコーンの様子に我慢できなくて、一口かじった。人間は誰もいないし、無礼講だよね?

 次の瞬間、自分でも目が丸くなったのが分かった。

「……美味しいです」

半ば呆然としながら呟く。

 一口噛んだときの肉の柔らかさ。脂身は少ないが肉汁が豊かで、口の中で細い繊維にまで簡単に裂くことが出来る。味としては牛肉の高級なヤツみたいで、何なのかを知っているだけ違和感があるけど良い肉だ。爬虫類系って、ワニが鶏肉っぽい味してるらしいからそう言う系統の味付けだと思っていたのだが違った。シンプルな味付けがよくあっている。……たまらんわ、これ。

 えぇー?ひょっとして、貴族がこぞって買い集めたって、良い肉だからだったってことか?

「美味しいですね。ご相伴にあずかれて感謝です、ありがとう、ルーナさん」

「そんな、こちらこそ喜んでいただけて幸いです。調味料なども提供していただきましたし、感謝するのは寧ろこちらの方ですよ。どうぞ、いっぱい食べてくださいね。たくさんありますから」

口を動かし続けていた俺に、話しかけてくるユニコーンが一頭。あの夜助け出して話をして、意気投合した若い雌の個体だ。

 因みに、ユニコーンの中に名前はない。念話が主な会話手段となるため、無くても十分生きていけるかららしい。不便そうだと思うのは俺だけだろうか。

 他にも数頭の雌ユニコーンが集まってきて、わやわやと話し出す。結果、この山の薬草や香草に関して詳しいので、明日の朝から素材採取につきあってもらえることになった。

「本当によろしいので?」

「勿論です!ルーナさんと一緒に薬草を集めるの、楽しそうですから!」

「そうですよぉ。私たちもお仕事なんでぇ、少しでもぉ、楽しみたいんですぅー」

「まあ。そうおっしゃっていただけると有り難いです。それではお願いします」

穏やかな個体が多いと思っていたユニコーン。実際はかなりはっちゃけたやつらが多かった。やたら元気な子も、キャパキャパしている子もいる。まぁ、生きているのだから個性があって当然ではあるが。


 一通り食べ終えると、群れはどこかへ消えていった。ある程度のテリトリーの中で、好きな場所を見つけて過ごしているらしい。ある程度って言うのが、十平方キロメートルより広いらしいのが如何なものかと思うけど。

 お陰さまでこの群れのユニコーンの半分くらいにしか会っていない。すべてに会うことはもう諦めた。出来ないことはないだろうが、相当疲れるのは確実だろうし。

 それはさておき。

 突然訪れたのにもかかわらず、ユニコーンの群れは温かく迎えてくれた。さらに、ここに泊まるに当たって、群れの長が結界を張ってくれるという。ずっと魔法を使っているのは疲れるため、すごく助かる。しかも、それだけでなくユニコーンの添い寝までつけてくれるそうで、寒さ対策まで万全。

 なにこの厚遇。

「ルーナ、貴女もそろそろお休みなさい。人の子も夜は休むものでしょう。ましてや今日は疲れたのでしょう?」

静まり返った中で、長が俺の体調を案じてくれる。いやぁ、優しいねぇ。

「ええ、そうですね。お心遣い感謝します」

「とはいっても、もう少しこちらの話に付き合っていただきたいのですが」

「どうしたのですか?……もしや、また……!」

「いえ、そういう訳ではありません」

真剣な声色で、二人きりでの会話。思わず最悪な状況を想像したが、違ったようだ。

「話というのは……おっと、来たようですね」

「はい?」

何が、と聞こうとした瞬間のことだった。

 黒い何かが、俺たちの方へと突っ込んできた。


 「それで、どういうことでしょうか?」

込み上げてくる荒い言葉を抑えて尋ねた。平静を装っているが、内心は荒れに荒れている。

 黒い何か――いつぞやの一角天馬の急襲の後。突然突っ込んできたそれに説教をかます群れの長。項垂れ、叱られるままになっている一角天馬。

「貴方は何回言えば分かるのですか。慎みを持った行動をしなさいと言ったはずですが。特に、非力な人の子がいると分かっている状況でこのざまはなんですか」

「すいません」

「すいませんじゃありません。ごめんなさいでしょう」

「ごめんなさい」

……小学生とママかよ!と、内心突っ込んだ俺は決して悪くないはずだ。

 突っ込みたくてうずうずしているのを押さえ込むのに悲しみを覚える。あれだけ慣れ親しんだ軽いボケとツッコミは、立場上一生出来ないんだろう。関西人ではないのでボケとツッコミに執着しているわけではないが、軽く言葉を交わすような会話が出来ないと言うのが悲しい。テンポよく駄弁ることが贅沢だと思うようになるなんて、難儀な状況に転生したと思う。

 親子喧嘩(?)はまだまだ続いているようだ。

 お説教が軽くループしているけど気にしたら負けなのだろう。

 それでもどうしても気になって、穏便に声をかけたのだが……。

「すいませんね、ルーナ。もう少し待っていてくれますか」

群長の前にあえなく撃沈した。

「……はい、分かりました」

「母さんだってすいませんって言ってる」

「何か言いましたか?」

「ごめんなさい何も言っていないです」

母さんなの!?ガチで親子だったの!?ガキなの!?反抗期なの!?

 ……うん、一旦落ち着こう、俺。

 取り敢えず、昨日習った外国語の単語思い出していよう。

 せっせと現実逃避して何が悪い。


 「お騒がせしました」

「ごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですよ」

ユニコーンのイメージがガラガラと音を立てて崩れ去っていっただけで、実害はない、はず。

「ところで、お話というのは?」

いい加減には眠いから、本題から入る。

「ええ、この子のことなのです」

そう言って指し示した一角天馬を、ほら挨拶、と小突く。目眩がしそうな光景である。

「……先日はたすけてくれてありがとうございました…………主様」

「はい?」

ボソリ、と付け足された言葉に、文字通り目を見開いた。

 は?なんで?

 静かに、そう、穏やかに、俺は微笑んだ。コミュ障臭がそこはかとなくする一角天馬では無く、母親であるという長のユニコーンの方をしっかりと見据える。脅してる訳じゃないよ、断じて。

「申し訳ありません。私、まだ五歳ですから、何が何だかお話が全く分からないのですけれど。お手数をおかけして申し訳ありませんが、最初から全てお話しいただけますか」

当然、語尾にはハテナマークなんて可愛げのあるものは付けない。確定条件だから。疑問系じゃなくて。

 ビクッと、二頭の毛が微かに動く。どうしたんだろうね?寒気でもしたのかな?

「……まず、この子について話さねばならないでしょう。ルーナは、幻獣や神獣に関してどこまで知っていますか?」

初級者用の説明をしてくれるようだ。面倒くさいだろうに、有り難い。

「基本的な知識程度、でしょうね。有名な……御伽噺や伝承の中に出てくる幻獣や神獣に関してだけはシャディー様にお聞きしました」

「そうですか……それでは、この子が一角天馬、或いはウィングド・ユニコーンと呼ばれる種族であることは知っていますね。――そして、その生まれ方も」

「はい」

 俺の記憶にある地球と同様に、この世界も古来から伝わる伝承、伝説、或いは神話の中にたくさんの神獣や幻獣が出てくる。その中には当然ユニコーンやペガサスのものもあった。たくさんあった。もう、同じパターンのものが何個も。全部調べようとして四歳半のルーナは挫折したくらいだ。この世界にはユニコーンとペガサスの間の子の話はたくさんあって、割とポピュラーだから殆どの子どもは知っている。理解している、とは言い難いものがあるけれど。

「ですが……この子はこの群れの子なのです。母親は私。父親は今はいませんが、普通のユニコーンです」

「それは……」

え?シャディーの知識、通用しないの?神話全否定?

「私たちは、純粋なユニコーンだと思っていましたが違ったようなのです。群れの血統を確認したところ、私の遠い祖先に、ペガサスの血が混ざっていたことを確認しました。ユニコーンの群れの中にあったため、自然とその特性が失われていったのでしょう」

「それが突然現れた――俗に言う先祖返り、と言うことですか」

「恐らくはそうなるのでしょう」

「また珍しいですね」

先祖返り、ねぇ。正直とても親近感が湧く。たぶん俺もその手の変種だから。

「それだけではありません。ユニコーンの体毛もペガサスの体毛も純白です。当然、その交雑種である一角天馬もまた、本来体毛の色は純白であるはずなのです。先祖返りを抜いても突然変異とも言うべき個体であるため……群れの兄弟ともあまり仲がよくないのですよ、困ったことに」

それはまた、何というか。

「運が悪かった、としか言えませんね。しかし、それほど特異な個体となると、かなり力も強いのではないですか?」

「ええ、この子も分類上は神獣ですが、以前出遭ったことのあるペガサスよりかなり強いです。その結果さらに敬遠されるという悪循環が生まれましたが」

……うわぁ。ぼっち、ってことですか。あれ、何でだろう、耳が痛い。俺がこのまま育ったらどう考えても人ごとじゃない気が。

「状況は把握しました。それで、先程その子がおっしゃっていた『主様』というのは?」

一体どういう風の吹き回しで?

「あの夜、ルーナはこの子が罠にかかっているときに助けてくれましたね。その時、貴女は何も感じませんでしたか?この子の魔力残量や最低限必要な魔力など、貴女なら分かっていたのではないですか?」

あの晩のことを思い出す。確か――もうすぐ死ぬところだったか。

「かなり、消耗していたと思います。もしもう一つ罠があったのならば、恐らく間に合わなかったのではないかと。魔力量がかなり多いのは治療していて感じましたが、その分必要魔力量も多かったように思われます」

「それでもこの子が死ななかったのは――」

「私の魔力を体の傷を塞いだ後に性質を変化させ足りない分を補ったから、でしょうね」

その言葉に、黙って飛竜肉をむさぼっていたシャディーとルネがギョッと目を剥く。……うん、存在感薄かったけど、ちゃんと二人ともいたよ?ちょっと煩悩していただけだよ?

「待てルーナ!そんな事をしていたのか!?」

「貴女なんてことない顔して何をやっているたのよ!?確かに一番時間かかったし、魔力の消費も激しかったけれど!!」

そんなに驚くことだったのだろうか。血が足りなかったから輸血してあげるのと大差ないことだと思ったんだが。

「何もそんなに驚かなくても。無茶なことはしていません」

「十分無茶だと言っておる!」

「一般常識を身につけなさい!」

失敬な。一般常識なら十分ある。ただ、魔法関連のものはまだ教わっていないって言うだけだ。

「……そのことは今はおいておくとして、話を続けてください。私の行動のどこに問題があったのでしょう?」

「問題があった、という訳ではないのです。母親として、この子を救ってくれたことにはとても感謝しています」

そう言って再び頭を下げられた。俺も軽く会釈をしておく。

「ですが、この子の魔力が変質した……というと語弊がありますね。貴女の魔力に染まった、とでも言いましょうか。上書きだと思っていただければ結構です。元々はこの子は風属性と光属性しか適正がなかったのですが水属性も使えるようにまでなりました」

「うーむ、十中八九、ルーナの魔力の影響だな」

「はい、私もそう思ったのですよ。ルーナの魔力を感知することも出来ますし。ルーナがこの山に来てから、魔力の輝きが増しています。恐らくこの子は、ルーナの魔力が近くにある時に最も力を発揮することでしょう」

「それはまた、なんと申しましょうか……」

「ルーナに助けられたのか、よかったことなのか、悪かったことなのか……」

「ますます生き辛くなってしまったと言うことか……難儀な」

気まずい雰囲気を醸して三人揃って押し黙る。

 うん、ちょっと待て。他の二人(シャディーとルネ)に関しては何で同情的なのかしっかりと説明して欲しいんだけど。お嬢様という境遇が憎い。

「それで、この子の今後のことなのですが」

「……僕、主様と一緒にいたい」

状況の説明も終わり、いよいよ本題かと思われたところで、押し黙っていた一角天馬が唐突に呟いた。

「主、とはどういう意味でしょうか」

口元が引き攣りそうだ。俺が何をしたって言うんだ?

「この子は、一度死んだも同然なのです。だからこそ、今命があることを生まれ変わったと捉えている節があります」

まぁ確かに、魔力の変化もあるしそう見えなくもないが。

「だからか、貴女のことを生まれ変わらせてくれた人物であり、感謝を込めて一生付き従っていくべき人物であると捉えているのです」

「それはまた、大仰な」

別に、死んでいたわけでもないからあくまで治癒魔術の範疇だったし、たぶん補充しすぎた部分もあるから、そこまでの覚悟を持たなくても良いと思うのだが。

「いや、そうとも言えんかもしれん」

「そうね、普通は死ぬはずだったのに生きているって言うのは当人にとってはかなりの奇跡だもの」

「私もそう思いましたよ」

どうやら大人三人は一角天馬の味方らしい。

「その上今日、ルーナの側にいる方がこの子にとって生きやすいと言うことが分かってしまいましたからね。この子の母親としては生きやすい環境で生きて欲しいと思うものです」

ああ、話が繋がった。

「――ルーナ、貴女に頼みがあります。どうか、この子を貴女の側に置いてくれはしないでしょうか。この子は……『使役』でも『隷属』でも構わない、と言っています」

「なんだと!?」

「そんなに思い詰めているというの!?」

二人は長から聞かされた一角天馬の決意(?)に相当心が揺さぶられたようだ。

 だが。

「申し訳ありませんが、『隷属』とはどういうものなのでしょうか。何分浅学の身故そう言った魔法契約には明るくないのですが」

俺にはさっぱり何のことか分からない。いや、言葉の意味は分かるけど、魔法契約的な意味だとどうか分からないからさ。

 虚を突かれたような顔をする三人の大人(?)。しかしすぐに違和感を浮かべた顔をして頷き合う。

「……そういえばルーナは魔法教育は受けておらなんだか」

「……余りにも普通に魔法を使っていましたから、すっかり忘れていましたよ」

「……盲点だったわ」

中々に失礼な話である。

「簡単に言うと、『使役』は騎士団で騎士を雇う感じで、『隷属』って言うのは奴隷を買う感じね。『使役』にはされる側の意志が反映されるけど、『隷属』にはそれがなくて完全な傀儡になるってことよ」

「…………言葉通りの意味と言うことですね。私としては早まるな、と申したいところです」

うん、ルネやシャディーの驚き方が理解できたよ。確かに凄い覚悟。

「魔力もかなり増加しましたし、足を引っ張ると言うこともないでしょう。役立つ場面もありましょう。群れを危機に陥れた人の子ですが、その罪と貴女は関係ないのですよ。貴女は優しい子ですからね、私たちを危機に陥れたこと自体を悔いているのでしょう。ですが、貴女はこの群れの命の恩人なのです。引け目に感じることはありません。この子のためを思えばこそ、どうかこの子を、ルーナ、貴女の側に置いてはくれないでしょうか。重ねてお願いします」

 いや、うん。何というか。

 俺、分かりやすいのか?かなり図星だったんだが。

 だが、異種族と関わるに当たっては、個人の付き合いよりは種族の付き合いととるのが普通だと思うのだが。よく学校の先生も言ってるけど、『制服を着ている限りはあなた個人ではなくこの学校の生徒と捉えられるのです』ってやつ。

「ふふふ、安心してください、分かりやすいわけではないのです。貴女の優しさを考えればこその推測ですよ」

……何でもお見通しって訳か。曖昧に頷いて、一角天馬を見た。

 たぶん、見た目よりもずっと幼いのだろう。今も地べたに座り込み、こっくりこっくり、半ば寝ているようだ。その幼さで背負ったものの多さは、確かに同情に値する――いや、これは上から目線過ぎるか。難しい理屈ぬきでどうにかしたいと思う。原因の一端が俺にあるのであれば、尚更。

 こいつの出自に思うところがあるというのもある。他人事、というには近すぎるんだ、いろいろな意味で。

 それらを踏まえた上で、俺が出すべき結論は……考えるまでもないことだ。

「分かりました。確かに、この一角天馬は私が預かりましょう。そうですね、もう暫くしたら、になりますが、契約しましょう。勿論『使役』の方です」

 きっと、俺のことを散々優しい、と言ったこのユニコーンのことだ。どんな結論を出すのかなんて分かりきっていたのだろう。

 馬独特(?)のきらきら輝く慈愛に満ちた目をして、彼女は言った。

「よろしくお願いします」

こうして俺は、契約獣(予定)を手に入れたのだった。……神獣を契約獣に出来る人ってあんまりいないはずだから、目立つだろう。

 いや、第一に、どうやって屋敷に連れて行けばいいのか。

「シャディー様、ルネ様、少々相談があるのですが」

助けてください、大精霊様。

 あー、うん、何というか。

 相変わらず、問題は山積しているのだ。

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