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12. 初採取

 「ルーナ?呼んだかしら?……って、貴女、こんなところで人の姿だと襲われるわよ?何を考えているのかしら?」

式を発動してから数秒後、あの日と同じ姿のルネが現れた。精霊だから変わるわけがないのだが。

 そして、俺が人の姿で立ち尽くしているのを見て、眉をひそめて詰問口調。

 割とルネは穏やかで、慌てたりしない。怒ったりもしないのだが……これは説教されそうだ。

「暫くはこの辺りの魔獣や魔物など寄っては来ません。……これがありますから」

苦笑しながら足下に転がる飛竜の死骸を指し示す。

 飛竜さんの気配、と言うか魔力がまだこの場に留まっているため、この辺りに生息するような雑魚(中級魔法生物)はやってこない。生存本能が強いからね。俺だって気配がしたら近づかない……いや、今回相手をしてしまったのは、相手が凄い速さで接近してきて逃げることが出来なかったからだ。断じて戦いたかった(怖い者知らずな)訳ではない。居たらまず逃げるよ?いくら素材が魅力的でも。

 ルネはゴロッと無造作に転がっている、まだ温かい飛竜の亡骸を見た。

「……はぁああああああああ!?」

絶世の美女様が口を開けて、目を見開いて、驚愕の叫び声を上げなさった。

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさい!?」

あの冷静沈着なクールビューティー風吹かせてたルネ様はいずこへ。そんなに驚かなくても良いじゃないか。気持ちはよく分かるが。本人居る前ではさすがに酷くないだろうか。

「はい、なんでしょうか?」

「これ、何か分かっているんでしょうね」

俺のあの夜と同じような応対を見て少し落ち着いたのだろうか、エクスクラメーションマークやクエスチョンマークが語尾から消え失せている。代わりに、俺を見る目が完全に冷たくて白い。だから酷いって。

「はい。私の見立てが間違えていなければ、闇属性の邪竜種でしょう。種は小型飛竜種ですが、かなり上位に近いですね。こうしてみても、これだけの魔力を溜め込んでいますから、恐らく誕生してから百余年は経過しているのではないでしょうか。通常の邪竜種であれば百五十年は生きられますが、その前に討伐されてしまうことが多いですからね。恐らくこの飛竜はこの山の最深部で過ごされてきたのでしょう。身に纏う魔力がこの辺りとは違います。或いは、トローラ山の北麓の方なのかもしれません。如何せんこの辺りには生息していなかったものでしょう。トローラ山には討伐隊は滅多に入りませんからね。特に、北麓はその傾向が顕著です。こちら南麓はまだ都市に近いですから、恐らくこれだけの年数を経る前に討伐隊が組織されたでしょう。三十年経過した飛竜でも規模にして一個小隊ほど必要ですから、この飛竜になると……」

「……もう良いわ。そうね。その通りよ。この飛竜だったら一個中隊は必要よ」

悪戯心に任せて長々と状況を分析したら、ルネに本格的に呆れられた。額に片手を付き、力なく首を左右に揺するその姿。

 なんか悩んでいるのだろうか。俺で良ければ相談に乗るけど?とはさすがに言えない。

 気持ちはよく分かるよ。

 俺だって突然戦う術を持たない五歳の幼女に、鍛え上げられた選りすぐりの軍人二百人が倒すのに必要な魔獣を足下に転がしてこれ(・・)呼ばわりしているところを見せられたら、我が目を疑う。

「それで、ですね?」

自分の世界に籠もってしまったルネ様に、控えめに声をかける。すると、案外早く戻ってきてくれた。

「なんなの?」

「素材を採取する手伝いをして頂きたいのです」

お願いします、と頭を下げる。俺一人じゃ解体なんて出来ないから。そもそも、竜の鱗に傷を付けられる気がしない。そして、出来るだけ早くこいつを解体して、まだ温い鮮血が欲しい。レアどのかなり高い素材だから。

 それを聞いたルネは更に深い溜め息を吐き出した。

「貴女、ほんっっっっっとうに、ぶれないわね!?」

あれ、なんか既視感。どこかで聞いた(言った)ことがある言葉だった気がする。

「これ、貴女が討伐したんでしょう?」

「ええ、私が殺しましたわ」

「殺っ……もう少しオブラートに包みなさいよ」

さっきからルネの残念感が半端無い。声に表情が見えないのがルネのデフォルトで、かっこよさの理由だったのだが、それが消えた途端にかわいらしいお姉さんに思えてきた。

 今も、「仮にも女の子が……」とか、「はっきり断言しなくても」とか、拘るところが『女性』だ。

 でも、これは俺的にもルーナ的にも譲れないところだ。

 討伐、って言うと良いことしてる感じがするけど、実際、生き物の命を奪っていることには変わらないからね。今回は特に、俺がいなければ死なずに一生を終えたと思うし。

 もっとも、こんなことはルネに言うことでもない。もう一度こちら側に戻ってきて貰わないと。

「それで、お願いできますでしょうか」

勿論、疑問符は付けない。確定事項である、俺の中で。

「……分かったわ。でも今は、状態保存の式を発動しておくから、その前に影の彼を呼んで」

諦めきった顔で了承したルネは、式を発動させるとシャディーを呼ぶことを命じた。

「シャディー様、ですか」

「ええ、貴女がそう呼んでいる彼よ。同じような式教えられているんでしょう?」

「はい」

まあ、あまり使ったことはないのだが。

 言われた通りに式を展開。光が収まると、シャディーがいた。

 シャディーは以前説明した通り、三歳のルーナに声をかけてきた影を司る大精霊だ。

 黒灰色の無造作に切られた少し長めの髪に、同色の切れ長の瞳、どちらかと言えば中性的な顔立ちをした美青年である。もう一度言う。十代後半の美青年だ。突然声をかけられたルーナが赤面したのは当然のことだろう。それでもお友達になって欲しかったルーナさんの純粋さが眩しい。

 そして、人間が好きな変わり者でもある。俺に図鑑以上の魔獣・魔物、魔法知識、一般市民の生活知識を詰め込んだのもこいつだ。

 今回の家出(?)で会いに行く予定だったが、まさか呼び出す羽目になるとは。予想外だ。


 突然呼び出されたシャディーは、ん?っと辺りを見回しながら首を傾げ、俺と一緒にいるルネを見て更に首を傾げた。

「ルーナ?どうした?……月の君か。何故ここにいる?」

冬の湖のような凛とした低音の声。しかしそれはとても困惑しているようだ。

「私が呼んで貰ったのよ。そうそう、私もルーナに愛称を教えたから。よろしく」

ルネがそう言うと、シャディーは片眉をつり上げ溜め息を吐く。……さっきから来る人来る人溜め息ついてばっかりなんだが。

「……まぁ、いつかこうなるとは思っておったが、予想以上に早かったな」

俺の方を見て更に溜め息を吐く。いい加減にしてほしい。

「それでね影の君……ルーナのことで少しお話ししましょうか」

額に青筋を浮かべているルネがシャディーの肩にぽん、と手を置く。

「なんのことだ。儂は少し実用的な術を教えただけだぞ」

ルネはその心当たりの何もない様子に、笑顔を深め、地面に転がる飛竜を指し示し、

「じゃあどうやってこれを殺ったっていうのかしら?私だって攻撃は教えていないし、実家の方でも習ってないみたいなのよ?貴方以外に誰がいるのかしら」

と、詰問を継続している。一方のシャディーはそこで初めて飛竜に気付いたようだ。

「はあっ!?お、おい、月の君が殺ったのではないのか!?」

「なんのために私が倒す必要があるの?私が来たときにはこの状態だったわ」

ギャイギャイと騒ぎ始めた二人に、今度は俺が溜め息を吐く。

「その飛竜は本当に私が自分の編み出した方法で殺しました。今まで教えて頂いた式をまねて、自分で式を作ったのです」

落ち着けるつもりで口にした言葉だったが、逆効果だったようだ。

 ギ、ギ、ギィ、と音を立てるように振り返った二人は、あり得ないものを見るような目で俺を眺めた。心外である。

「なんですかその目は。そのような目を向けられるようなことをしたつもりは」

「ありません、とは言わせないわ」

「言えないからな」

氷のように冷たく尖った声。一応自覚はあるからその対応は何も言えない。

「それで、何をしたら倒せたんだ?儂らに見せてみろ」

「そうね。気になるわ、とてもね」

……やりづらい。でも、やらないと解体させてもらえなさそうだ。半信半疑っぽいし。ちょっと試したかったこともあるし。どうも魔力の回復が早いし、練度(濃度?)が高いような気がするのだ。量も増えているし。そこら辺の実験も兼ねてみようと思う。

 先程と同じ大きさの飛竜の氷像を作り出す。自由自在に動き回るからもはや氷像とは言えないかもしれない。

 それを見てもポカーンとしている二人。これからやることを見たらどう思うのだろう。なんか、悪戯しかけてる気分だ。

 まずは魔力を練り上げ凝縮。今度は試しに全魔力をやってみた。

 そうしたら魔力量が十分の一に。けれど、次から次に魔力が生み出されてくる。それも、十倍凝縮相当の魔力が。すぐに今までの全魔力量を超えて魔力が回復してしまった。……なんで?

 更に今度は百分の一になるまで凝縮。そうしたらその濃度の魔力で満たされて、全体量まで上がってしまった。……だから、なんで?

 これ以上はさすがに止めておく。怖くなった。

 六カ所に意識を集中させ、記憶の中で適当に(・・・)作り上げた式を作る。

「「……っはぁ……?」」

二人の間抜けな声が辺りに響いた。


 「ルーナ、お前やっぱり面白いな。ははは、はははははは……」

「私が見込んだだけのことはあるわね。ふふふ、ふふふふふふ……」

全部再現を終えると、虚ろな瞳で渇いた笑い声を上げる二人。……ごめんなさい。これが悪戯だったら洒落にならなかった。事態はもっと深刻だったようだ。

「これは、そんなに驚くべき事態なのでしょうか?」

さすがに心配になってきた。

 俺の前世の信条は『平凡は平穏を呼ぶ』。チートは嬉しいが、隠して楽できるレベルにして欲しかった。二人の反応を見るに、どう考えても平凡(っぽい)チートにはほど遠いようだ。

「あのね、ルーナ。まずね、人間の魔法は精霊の力を借りて発現しているの。つまりね、普通の人間は精霊の使うような魔法は使えないはずなのよ」

小さな子どもを諭すようなルネの言葉。目線が微笑ましいと訴えている。ちょっと虚ろだけど。

「ですが、詠唱省略が出来る魔導師様もいらっしゃいますよね?」

「あれはね、魔力の波形を思念として精霊に伝えて発動させているのよ。自分の魔力で発動しているものではないわ」

小さな反論はあえなく終了。

「もっと言うと、独自の式を作れたことも問題なのだ。あれは神聖文字といって、廃れて久しい文字でな。精霊でも理解できるものは殆どおらん。それを僅かな式のみで理解して使いこなすというのもかなりおかしい話なのだ」

え?何それ?初耳なんだが?

「そのような文字の話など聞いたこともありませんでした」

「当然よ。もう廃れたっていったでしょ?建国二百年ころまでよ、この文字が研究されていたのなんて。複雑だし、製紙法も確立されていなかったから石版に掘って王城の地下に伝承されているの。……最も二千五百年ほど前の噂だけどね」

「……そうですか」

ルーナさん、すんなり理解していたような。……チート怖ぇええ。

「魔法の威力も十分おかしいからな」

「そこは自覚しています。それでは、飛竜の素材採取の手伝いをして頂きたいのですが」

ルーナさんが尻尾振って待ってるから。目をキラキラさせて待ってるから。

「はいはい。でも貴女が倒せたんだから採取くらい出来るんじゃないの?」

「うむ。そう思うのだがな。一度自分でやってみたらどうだ?」

そう言われても、さすがに風属性の魔法で飛竜は……とも思ったが、もう今までルーナが培ってきた常識は全部マリアナ海溝にでも棄てることにした。

「それでは一応。ですが、風属性の魔法なんて知らないのですが」

適当に(・・・)やれば大丈夫でしょ」

適当に(・・・)やれば大丈夫であろうな」

……もう嫌だこの二人。

 でもさ、なんだかんだ我流って弱いじゃん?だからちゃんとしたもの教えて欲しいんだけどね。

「手順は教えてくださいね?」

渋々頷いたのを見て、俺もするべきことをしていく。


 飛竜で素材になるのは爪・角・鱗・牙・歯・羽・皮膜・各種臓器・血らしい。

 まずは爪からいくか。

 描いたのは今まで採取するときに使っていた式を風属性に変換させたものだ。初めてだがイメージしたものは発現できた。しかし、傷はついても深く切ることは出来なかった。

「さすがに切れんか」

「……いえ、もう一度」

それならば使い慣れたものを、と思い、違う式を別の爪に向かって発動させる。

 それはいつも使っていた式。水の刃が生み出され一閃。ザシュッ!っという小気味よい音を立て、爪が根本から切り取られる。

 一瞬の空白が生まれた。

「……切れたじゃない」

「……切れたな」

「……切れましたね」

三人で顔を見合わせ、ハハハ、と力なく笑う。

 やっぱルーナさん、人間止めてない?

「あまり意識していませんでしたが、やはり私は風属性よりも水属性の方が適正が強いようですね」

「そのようだな」

そう言う間も手を止めずに爪をザシュッ、ザシュッ、と切っていく。やがて全て終えると同じ要領で今度は角と牙、歯をとる。

 ふぅ、と一息。

 あ、採集箱。忘れてた。

 吹き飛ばされて五メートルほど転がっていた白い採集箱と小さい袋を手に取る。幸いすぐに見つかった。よかった、どこも壊れていない。とっさのことでかばえなかったのだ。あの時全く余裕がなかったから。

 袋の中から今まで使ってこなかった黒い採集箱を取り出す。さすがにこれは白いのでは対応できない。

「ほぉ、随分と良い物を得たのだな」

そういえばシャディーにこれを見せるのは初めてだった。

「ええ。お祖母様に、少し早いですが誕生日のプレゼントとして頂きました。一生使えるように、とのことです」

「そうか。よかったな」

「はい、今回が初仕事なんです。ずっと使ってみたかったんですよね」

にへらー、と頬が緩むのが自分でも分かる。だって嬉しいし。一人前の治癒術士が使うのと同等の道具に活用の機会が来たって言うのがね、感慨深いものがあるんだ。

 金色の鍵を取り出して、カチッと開く。今回は小瓶で大丈夫だろう。生きてる訳じゃないからさ。

 蓋を開け、コツン、と口に当てる。すると淡い光りが灯り、爪は中に収まった。それをひたすら続け終わった後、小瓶の蓋に魔力で今日の日付と中に入っているもの、どこで採取したかを刻み込む。他も同様にして小瓶に入れた。

 今度は羽と鱗、皮膜だ。

「どうとればいいのでしょうか」

皮の部分はいらないからな。助言を仰いでみた。

「一枚一枚、地道に剥いでいるところを見たことがあるわ」

なんとめんどくさい。手間がかかりすぎだろ、それ。

 無い知恵を振り絞って考えて、切り分けた上で水圧で引っぺがすことにした。羽も鱗も。

 まずは羽をとる。

 風属性では歯が立たないことは分かっているので水属性だが、ただの水ではなく氷を使う。これは切り分けたところから血が漏れ出さないようにするための処置だ。

 一滴も余すことなく吸い取ってやるつもりだ。レア素材は無駄にしません。ルーナが泣き喚きそうだから。

 当然、羽も鱗も無駄にしません。

 水流で揉み洗いする感じで羽をむしり取っていく。優しく、丁寧に。弟と妹をシャンプーするときのように、思いやりと愛情を持って。大丈夫、ルーナさんのレア素材に対する熱意も大して変わらない。

 終わったら、鱗も同様にして剥がした。

『嬉しいですわぁ。……うふふふふ』

「うふふふふ……」

「大丈夫?いい加減戻ってきなさい、ルーナ?」

……言われて気がついた。戦闘での奇妙な意識の合一が未だに解けない。お陰でルーナに思考を乗っ取られた。危なかった。

「お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません。すっかり取り乱してしまいました。――さて、解体しましょうか」

都合が悪くなったら速攻で話を逸らす。大切なことだ、たぶん。

 そう、何がともあれ解体だ、解体。

 まずは血から、と思ったが、そこでふと疑問に思う。 

「飛竜の肉って食べられるのでしょうか」

美味しくいただけるパターンと、毒があって食ったら不味いパターンがあるのが定石だ。

 どっちにしても手は抜かないけど。

「……食べようと思えば食べられるわ。特殊な薬草が必要だけど。ここなら採れるはずよ。そういえば流行ってたわね。若返りの秘薬だったかしら。……千三百五十年ほど前に」

「昔は討伐されるたびに富裕層に売りに出されて、争奪戦も起こっておった。……二千年ほど前の話ではあるが」

ああ、よくあるやつか。人魚の肉、とか。自分の財産をひけらかす目的とか。

 でも、食べられたのなら食べてみる価値はあるんじゃないか?

 ほら、何事もやってみなければ分からないし。

 ……いや、一滴残らず血を搾り取るってことは完全に血抜きするってことと同義だし、出来るかなって。こんな大物、そう易々と仕留められないだろうし。

 気を取り直して、首を氷の刃で切り落とす。切り口の氷を少しずつとかし、またすぐに凍らせることが出来るように式を準備しつつ、小瓶の口を当てた。

 スポイトのように深紅の液体が吸い込まれていく。へぇー、飛竜の血も赤いんだ。

 何本かそれを繰り返すと、血は出なくなった。……全部血は抜き取るっていったけど、実際どうすればいいのか分からいんだよな。

 その時、ふと戦闘中のルーナと合一したときのことを思い出した。

 あの時、何かが割れる音がした後、体が熱くなった。思うにそれは、魔力が血液に乗って全身に運ばれていったんだと思う。

 ――飛竜の血液に魔力を流して操ればいけるんじゃね?

 安直な発想だが、十分な素材はもうとれている。試してみるのは面白いと思うのだ。

 川の水を操れて、体内の血液が操れない訳ない……はず。これ自体の高い魔力が邪魔になるかも知れないけど、要するにそれを超える魔力を使えば良いんだろ?魔力ゴリ押しなら自信がある。

 式は使わない。飛竜の血液の性質は分かっているから、体内に魔力をしみこませ、その感触を探る。言わば、高位治癒魔術の応用だ。あれは魔力を相手の体に流し込み違和感を探り、流し込んだ魔力で相手の治癒能力を高めたり、害を取り除いたりするのだ。……いや、多分だけど。実際使ったことも教わったこともないけど、見た感じそんな感じだった。

 全身に行き渡ったところで見つけた感触を首元まで持ってくる。血管を通して手繰り寄せた感覚は、想像以上の量だった。状態保存の式をかけて貰うのが遅かったから多少使えない部分もあったが、それでも成果は上々。ルーナさんはニマニマ。

 後は臓器。脳は無理だけど眼球とかも含めて色々えぐり取る。

 シャディーの指示に従って水の刃で切っていく。鰺とか鹿とか猪とか鴨の捌き方を朧気に覚えてたのが役に立った。……何分田舎なもので、近所の爺さんが猟師さんで教えて貰ったのだ。魚は完全な料理スキルだ。

 ホント、どこで何が役に立つのか皆目見当がつかないものだ。

 驚かれ呆れられながらも見事なブロック肉もできあがり、目当ての臓器も綺麗に取り出すことが出来た。

「本当に捌くって……貴女、公爵令嬢なのよね?」

「勿論です。ハルメイア王国貴族第一位の公爵家の長子ですよ?」

「到底信じられんがな。……まぁ、そうでもなければ儂が名を名乗ることなど無いとも言うか」

「それもそうね」

それで納得しないでくれ、と切に言いたい。


 辺りはすっかり日が暮れてしまっている。

 ブロック肉には状態保存魔法をかけて貰い(ついでに式も教えて貰い)、当初の予定通りユニコーンの群れへと向かうことにした。

「丁度暇だったし心配だもの」

「たまには良いだろう」

二人には今まで以上に気に入られたようで、二人もついてくるようだ。

 こうして、大精霊様二人を連れて、今回の家出(?)は続けられることになった。


 ……どうしてこうなった?

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