表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/19

11. 実戦?

 思った通り、トローラ山には二時間ちょっとで着いた。

 ユニコーンの群れの生息場所はこの山のかなり奥の方だから一回休憩。

 こまめに休憩を取って、こまめに疲れをとらないと、幼児のこの体はすぐに眠くなって動けなくなってしまう。特に魔力を使うことに当たっては疲労感は半端無い。そもそも、ずっとお屋敷暮らしのルーナの体力は同年代の平均を大きく下回っているのではないか。妹の二年前を思い返してみても、その推測は当たっているように思われる。当然のことだ。

 森の中でも浅いところで休んでいる。浅いところにいるような魔獣や魔物であれば、精霊の使う魔法を使っておけば警戒してやってこない。精霊に手を出すとまず敵わないことが分かるのだろう。また、魔力や諸々の力の弱い種族は総じて知力も低い。式一つ発動しておけば、勝手に俺が精霊だと思い込み手出しをしてこなくなるのだとか。マジでルーナさんのチートが優秀だ。

 休憩ついでに森の中を観察してみた。前に来たときは深夜だったから何も見えなかったのだ。

 木々は一見してここに来るまでに見た数々の森の木々と大差なく思える。実際、多少種類が変わっても同じ科の木なのだろう。緑の色が濃く感じるくらいだ。普通に見たら。普通の人が見たら。

 だが、俺には木々の放つ眩さが違うことが感じられる。

 例えるならば、線香の光りとLED電球くらいに違う。

 葉の一つ一つにまで、魔力が行き渡っているのが分かる。そのお陰だろう、一本一本の樹が大きい。魔力を持つ生物にとって、魔力とは生命力に等しい。魔力に満ちあふれた環境は、それだけで肥料となり、成長を補助するのだ。

 これだけ魔力を保持していれば、素材としては願ってもないほどに質のいい物がたくさんあるだろう。

「……やばい、血が騒ぐ」

思わず口をついて出た言葉がこれだ。全身の血液が勢いを増して巡っている。口の中に唾が湧いてきて、飲み下すと喉が鳴った。

 採取したい採取したい採取したい採取したい……!!

 薬草馬鹿(ルーナ)に感情が支配されそうだ。って言うか、このプレッシャーの中で自我を貫き通せる自信がない。

 でも、ただ採取に煩悩するわけにはいかない。

 小さな子どもにありがちだが、ルーナは真っ直ぐだ。興味のあることを見つけたら、それしか考えられなくなる。俺が目覚めたのもそのせいだ。もしあの時、ルーナがちゃんと考えることが出来ていれば、ルーナはバルコニーに出ることもなければ落ちることもなかっただろう。

 二の舞は踏みたくない。十七歳の俺が、そんな事許さない。

 ……あぁでも、少しだったらいいよね?

 まだ日も落ちていないし。ちゃんと警戒しつつ、煩悩しなければ大丈夫だよな?


 まず見つけたのはペルチアという花。小さくて黄色い、スターフラワーみたいな形をした花だ。甘みがあり香料にもなるし、乾燥させて色づけに使うこともある。薬効はないが、香油にして楽しんだり、紅茶に混ぜてオリジナルブレンドにしたりしていた。ルーナ、そういうのは得意だったから。香油も器具無しで作っていた。それに、魔法薬の味を調えるのにも使えると思う。総じて魔法薬という物は効力を最優先にするため、味が悪い。『良薬は口に苦し』とは言っても、小さい子どもやお年寄りはなかなか飲めない。吐き戻したり、むせたりしてしまうのだ。

 それで、ルーナは香草が好きになったようだ。幼心に既存の魔法薬を改良して全ての人が飲める物を増やしたいと思っていた。勿論、魔法薬も内服薬ばかりではないが、内服薬の方が効きが良い。ルーナが内服薬の方が味が悪いという悲しい現実をどうにかしたかったのは、きっと自分が内服薬ばかりを飲まされてきたからだろう。思い出すだけで、嘔吐きそうだ。

 話を元に戻して、この花は魔力があろうと無かろうと質は大して変わらない。けれどこの花は、魔力の多いところにしか生息しない。

 ルーナさん小躍り。

 俺は取り敢えずパチパチと摘み取っては白い採集箱に入れる作業を繰り返した。

 楽しくなってきた俺は森の奥へと足を進める。

 ……言い訳のしようもございません。五歳児に引きずられました。調子に乗りました。

 魔法薬の素材になる物に溢れ、その全てのレベルが最高に近いものだった。

 改めて考えると、これって絶対血だよな。

 アイテリアさんはその昔、素材を求めて深海神殿まで潜ったらしいし。

 レイアさんは千匹の魔獣の群れを視認した途端、一人で討伐に行って殲滅したらしいし。

 ヘルメスさんはレイアさんを射止めるために口にするのも恥ずかしいようなアプローチを五年間続けたらしいし(情報提供:メイドさん&アイテリアさん)。

 絶対これは遺伝だ。自分の目的や満足のためには手段を選ばず突っ走るこれは、決して俺による物ではないと主張したい。

 気がつくと、かなり森の奥まで進んでいた。まだ中心部との中間部にもほど遠いが、それでも魔獣や魔物も中級くらいの力を持つようになってきた。

 あー、なんか嫌な予感がしてきた。不味いかも知れない。具体的に何がとかは分からないけど、第六感がやばいと告げている。

 こういうの、俺の場合本当に馬鹿に出来ない。ないがしろにしたら痛い目見るのは昔っから必須だった。

 うん、これはさっさと高位存在(ユニコーン)の庇護下に入った方がよさそうだ。

 急いでユニコーンの住処に向かおうとしたが、途端に体中の毛が逆立った。耳の先から、尻尾までの毛が、一本も残らずにだ。

 あ、これはダメなやつだ。

 絶対何かが起こる。そんな妙な自信がある。

 『お約束』『テンプレ』『フラグ回収』――そんな言葉が脳内を駆け巡る。


 気付いたときには、もうすぐそこにそれ(・・)はいた。


力強く、圧倒されるような魔力。

禍々しい覇気。

太陽を背に地上を見下ろすそれ(・・)は、赤い瞳を光らせ咆哮する。

「グギャアアアアアーーーッッッッッ」

黒々とした鱗は日差しを吸収して重く黒色の光沢を放ち、鋭く空を切り裂く翼はくすんだ灰色。同色の角は尖って存在感を主張し、乳白色の牙は鋭利で、何でも噛み千切ってしまいそうだ。

そこにいたのは邪竜――それも限りなく上位に近い闇属性の小型の飛竜(ワイバーン)だった。


この世界には幻獣と神獣が存在するということは以前に説明した。要するに魔獣と魔物を主とする魔法生物と、魔法を使わない現代日本とたいして変わらない生物、そして元々魔法生物の中でも特に格式があり、強大な力を持つものである幻獣と、精霊と遜色のない力を持つ、幻獣の上位種である神獣がいるということになる。その中でも、実は、竜、或いは龍と言うのはとても特殊な事例である。

竜とは、ある日突然魔獣化した爬虫類や、その子孫を指す。知性が低く、獣並み或いはそれ以下の知能しか持っていないため、魔獣とされている。

それに対して龍は、正当な血筋と系譜を持つものにのみ使われる言葉である。それらは魔法生物よりも精霊に近く、魔法生物や神獣、幻獣の王とも言われている。一部宗教では古の時代に神が創り上げた天界と地界を繋ぐ生物――聖獣であるさえされているんだと。神の使者とか、化身とかされている神話もかなりある。また、高い知識と強大な力を持ち、千年はざらに生きるため、歴史を語り継ぐものでもある。

二者はそれぞれ、竜は『邪竜』、龍は『聖龍』と呼び分けられていて、方や討伐対象である魔獣、方や信仰対象である神獣、と相対する評価をされているのだ。また、聖龍属は一族に王のようなものが存在し、それを龍王と呼ぶのだそう。因みに、ハルメイア王国の建国者はこの龍王を従えていたという伝承が残っている。

なんか、中々キチガイっぽいよね、王族の始祖様。


 現実逃避もそこそこに、真上にいる飛竜を見る。

 ……真っ赤な瞳と、目があった。

「グルンギャアアアアアアアアーーーーッッッッッッッ」

再びの咆哮。

 それは衝撃波となって、辺りの木々を吹き飛ばした。

 同時に吹き飛ぶ俺の身体。気がつけば宙に浮いていた。直後、折れた木々に叩きつけられる。

「っっ!」

瞬間、息が詰まる、骨が軋む。衝撃で式が解け、人の姿に戻ってしまった。

 あ、まずい。

 そう考えるよりも先に、身体が動いた。

 頭の中は真っ白。理性なんてありゃしない。

 この時、咄嗟に動けたことはかなり僥倖だった。

 すぐに体勢を立て直して、まだ破壊されていない方へ。姿は根性で消した。

 時を同じくして再び飛竜が咆哮、いや、ブレスを吐く。

「ギャアアアアアアアアーーッ」

吐き出されたブレスは黒々とした炎を纏い、俺のいる場所へと直撃してくる。

 ………………。

 うん、知ってるよ。ワイバーンさんって炎を吐けるんだよね。

 このワイバーンさんは魔法の属性が闇だから、基本的な炎のブレスが闇を含んでいるんだ、たぶん。

 いや、アニメ・漫画・小説でよくあるブレスって実際見るとこんな感じなんだね。殆ど変わらないけど、三次元だと迫力が違う。水でやられたら良いリアクションがとれそうだ。ははははは。

 え?

 炎だから直接喰らったらそれこそただじゃすまないけど?

 今?

 直撃間近だよ?

 走馬燈的な感じで流れてる思考だよ?

 なんかね、よくある三百六十度ぐるっとやる、あれの感じだよ?

 頭の中でルーナさんがね、『YOU ARE DEATH☆』ってプラカード掲げてるけど?


 ――いや、ルーナさん。俺、まだ(辛うじて、数秒後には死んでそうだけど)死んでないし、死ぬつもり無いからね?


 『私とて死にたくありません――!』


 ルーナの声が聞こえた。意志ではなく、はっきりとした声が。

 同感だよ。珍しいんじゃないか?


 ふざけんじゃねーよって。

 何様のつもりで俺の楽しい人生の邪魔をしているんだって。

 そもそも俺は、まだ月夜として生き足りてねーんだよって。

 こっちの人生では幸せに生きられるんだろ?

 こんなところで死んで、幸せなもんか。

 恨んではないんだ。俺が死ぬ元凶を作った奴のことも、この状況のことも、大仰な言い方ではあるが、志半ばで死んだことも。でもさ?

 未練はあるんだ、馬鹿野郎。

 つかなんで飛竜なんて高位の魔獣がこんな森の浅いところにいるんだ。

 どんなに頑張っても五歳児が楽しく歩いてるんだぞ?どんだけ前に進んだと思ってるんだ?

 もういいや。

 そう思ったんだ。

 火事場の馬鹿力が思考にも作用していたのか、ここまで(収拾がついていないが)考えているけど、それももうおしまいだ。

 本当に、眼前に炎は迫っている。

 だからさ、もう気付いたんだ。

 俺が助かるためには、この魔法を打ち消し、さらには、この飛竜を殺さなければならない。


 殺ってやろうか。


 別に俺、日常的に『殺す』とか言うようなキャラじゃないけど。生きるために殺すことは厭わないタイプだから。俺の未練的にも、ルーナの身分的にも、ここで死ぬわけにはいかない。


 ルーナさんもキレてる。めっちゃキレてる。

 貴重な素材を、焼き払ってるんじゃねーと。

 自分の命はどうでも良いけど、森林破壊はダメ絶対と。

 理由はそれぞれ全く違う。

 でも、この身体にある二つの自我は、一つの結論に辿り着いた。

 身体が、一つの意識に支配される。指示系統は整った。


 殺す。


 思考が一色に塗りつぶされる。

 それしか考えられなくなる。


 ……パリン!

 身体の奥で、その時、確かに何かが割れる音がした。


 ドクン。

 拍動が強く、速くなる。

 カッと身体が熱くなる。

 割れたところから溢れ出た何かが、身体中を満たしていく。


 反射的に両手を前に突き出した。

 その両手から壁を作るように、水が現れる。半径四メートルほどのそれは、俺の手を中心として広がっていく。

 もうブレスが通過したところは消火して。

 まだ通過していないところは守るように。

 現れた水が奔流となって、ブレスを相殺した。


 再び目の前に現れた飛竜を見やる。

 鼻息荒く、涎を垂らしている。

『見苦しい』

ルーナの声が脳内に響く。完全に一体化しているようだ。

 飛竜はブレスを相殺されて、より攻撃的になっている。

「ギャァアアアアアアアアッッッッ」

咆哮だけ。それでも、十分な攻撃だ。

 こちらに飛んでくる被害を考えても、これ以上の森林破壊は望ましくない。

 姿を消す式を解く。

 攻撃魔法なんて使い方を知らない。でも、魔法はイメージと魔力さえあれば使える物だから。


 身体中の熱い魔力の奔流を、凝縮する。

 密度を上げるように。濃度を濃くするように。

 飛竜の翼の付け根と前足、後ろ足に意識を集中。

 そこに鎖を繋ぐイメージ。水を凍らせて、絶対に千切れない氷を想像する。

 手元から離れたところでの魔法の顕現はやったこと無いが、両手から出した魔力を使って空気中に漂っている魔力を動かしてみた。勿論、自分の魔力も注いでいる。

『終止文言を早く書き入れなさい!次が来ますよ!』

うっさいよ、ルーナ。丁度式が完成したので式の終止を表す文言を書き入れた。即発動式終止文言ではなくて、である。

 ちょっとだけでも、発動時に発動を表す言葉を使うと、威力が上がるからだ。

 簡易詠唱でも出来れば良いんだろうけど、即興魔法だから無理。

 今回は魔力凝縮をしているため、使った魔力量の軽く十倍の威力が見込める。でも、最高出力にしたい。念には念をってやつ。手は抜かないさ。

「発現!」

意識を集中させた六カ所の側に、小さな光り――下位精霊が集まってくる。白く輝く金色の式が宙に現れる。

 そこから氷の鎖が現れて、その場に飛竜を縫い止めた。

「ギィヤャャャアアアアアアアア!」

……あれ?なんか変なんだけど?行動が封じられたから暴れているだけ、って訳じゃなさそうなんだけど?

「ガアアアアアアア!グア、ガアアアアアア!」

なんか苦しんでないか?って言うか、鎖が鱗に触れている部分から『ジュゥウー』って音がしてるんだけど?なんで?

『細かいことなど気にしている場合ではありません!』

それもその通りだ。

 この飛竜の魔法属性は闇属性だ。正直、地属性や風属性、光属性でなくてよかったと心から思っている。俺の属性との相性がそれほど悪くないからだ。

 水は火に強く、火は地に強く、地は風に強く、風は水に強い。そして、光は闇に強く、闇は光に強い。

 この世界の魔法の属性相性は、馴染み無いものではない。

 俺の属性は水、風、光。相性が良いのはそれぞれ、火、水、闇だ。そう言う意味だと相性は悪くない。だが、光と闇は紙一重。光属性の攻撃が闇属性に効果的であるだけでなく、闇属性の攻撃もまた光属性には効果的だ。そう考えると、炎じゃなくて闇のブレスの一つも吐かれたらただ事ではすまないだろう。

 世の中そう上手くはいかないということか。

『だから何を悠長に……!』

はは、ルーナ、まだまだだな。焦ったってどうにもならないんだ。寧ろ今は中途半端なことに全力をかけることの方が怖い。魔力を切らしたらおしまいだ。

 苦しんでいるような飛竜の効率的な倒し方を考える。

 邪竜にしても聖龍にしても、その鱗は硬い。普通の剣では傷一つ付けることも叶わないだろう。創作物でよくあるように魔法耐性も高く、魔法攻撃を簡単に弾いてしまう。

 だから、いろんな意味で氷で苦しんでいるのか謎だ。本当に。それが分かれば対策の立てようもあると思うが……無理だろう。何も知らん、何も分からん。早く屋敷で魔法関連の教育を受けたい。

 属性的に光属性の攻撃を使えばいいと思うのだが……光属性の攻撃って何?浄化系の技しか思いつかないのは俺だけ?この場合浄化系の技で良いの?

 取り敢えず光の爆発を想像する。

 場所は……口の中とか案外弱いんじゃないだろうか。鱗よりは粘膜の方が柔らかいし確実だと思う。粘液とかあったら分からないけど。

 さて、まずは口を開いたまま固定するか。口閉じられたら厄介だし。

 先程と同様に顎をグイッと開いた位置で固定する。

 そこでふと思い立って口の中を氷で埋め尽くして塞いでみる。

「――――――――ッッッッッッッッ!!!!」

……苦しんでる。めっちゃ苦しんでる。鼻、あるよね?飾りじゃないよね?実際鼻息荒いし。嫌がって暴れているって言うよりは、ダメージ受けてそう……って言うか、魔力の消耗度合いがおかしいことなってるから絶対受けてる。

 この場合の魔力とは、魔法を使うのに必要な魔力。

 魔法生物の魔力には、魔法として使う分と、生きている中で自然に堆積されていく、操ることが出来ない分が存在する。で、この魔法として使う分の魔力と生命力って本質は同じ物らしい(シャディー情報)。だから、それが減っていき、やがて無くなったら……その後に残るのは完全な死である。基本、高位の魔獣・魔物になればなるほど魔力の回復も早くなる。因みに人間でも魔力の扱いに長けている人間の方が魔力の回復が早く、死ににくい。

 だと言うのに、輝きがどんどん収まって、くすんでいってるっていうね。もはや訳が分からん。

 そのまま様子を見続けていると……おお、氷が溶けていく。口の奥の方で魔力が高まっていくのを感じたから、ブレスかな?溶けていく側から再度式を展開して新たな氷を注ぎ込む。溶けた水はそのまま喉の奥に流れていく。結局ブレスらしきものは放たれることなく消滅した。

 ホッとしていたのも束の間、さっき以上に飛竜の魔力消耗が激しい。暴れ方も尋常ではない。

 さっさと終わらせるか。もうちょっとのたうち回る姿を見ていたい気もするが、油断は禁物。この隙に倒せるのなら倒してしまいたい。

 口の中の氷を全て溶かし、風魔法で強引に口の奥に流し込む。余計に暴れているけれど、気にしないスタイル。

 飛竜の眼前に式展開。攻撃用と、もう一つ。

 攻撃用に練り上げ凝縮させた魔力を全魔力量の二分の一くらい使う。魔力濃度が高いため、さっきから魔力の回復も早いのだ。これくらいは使っても恐らく大丈夫だろう。

 イメージは昔、テレビで見た隕石落下の瞬間。光の珠を出来る限り小さく圧縮して、それを体内にぶち込むつもりである。

「発現!――――もういっちょぉっ!」

一つ目を飲ませ終えたら間髪入れずに二つ目を発動し、吐き出されないようにする。

 恐ろしい。結構魔力を込めたから、それこそ洒落にならん。

 数秒のうち、飛竜の体から薄く光が放たれた。

 ちゅどんっ!

 ……音何もしなかったけど。たぶんこんな感じ。

 暫くキープして様子を見る。

 飛竜の魔力が感じられない。それはつまり、死んでいるということ。それは、あれほど暴れていたにも関わらず、なんの抵抗も見せないことからも明らかだ。

 拘束を解いても、ドサッと地面とこんにちはするだけだ。

『勝ったのですか……?』

ちょっとフラグっぽいルーナさんの言葉が気になる。ついでにいつまで謎の一体化現象は続くのだろうか……まぁ、分からないことを考えても仕方がないか。

「っぽいな」

短く返すと、

「『はぁあー……』」

同時に溜め息を吐いた。

 肉体の、と言うより精神的な徒労感が半端無い。生きるか死ぬかの戦いなんて、それこそ経験無いから。

『取り敢えず、ルネ様にこちらに来て頂きましょう』

「そうだな。これ、どうにかしないといけないし」

指さしたのは、先程殺した飛竜。このまま放置はなんか危ない気がする。

 ルネ様を呼ぶ方法は、至って簡単。

 あらかじめ教えられている式を発動させるだけ。

 この式が元来は(・・・)どんな式なのか気になるけれど、シャディーにも似たような式を教えて貰ったから、まあそういうものなんだろう。

『ルネ様、これを見たらどのような反応をするのでしょうね……』

「さあ、な……」

「『はぁあー……』」

溜め息が再び同調する。

 精霊って存在は基本的に人間に対して興味を持たない。興味を持たれるやつって言うのは、総じて規格外なやつばかりだ。それは、大精霊と契約を交わした者が後世に残るような活躍をしている者ばかりであることからも明らかである。

 何を言われるのか、面倒くさそうで嫌になるけど、仕方がない。

 俺は式を展開し、ルネがやってくるのを待った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ