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通達

 「ねぇ、将太ふしぎに思わない?」

 「ふしぎ?なにが?」

 学校へ向かう道すがら、理恵ちゃんがいきなり僕に話しかけてきた。

 通学路をふたり並んで歩いていく。幼稚園からずっとかかす事なく、僕は理恵ちゃんと通学している。

 となりを歩く理恵ちゃんは、僕の顔をのぞき込むように話しかけてくる。昔から変わらない、僕は理恵ちゃんの顔を見ながらそんな事を思ってしまう。

 「昨日でもそうだけど、あんなに町は破壊されてたのに次の日の朝になると元に戻ってるんだよ……ふしぎだと思わない?」

 理恵ちゃんは話しながら、視線を周囲へと向ける。アリスとミクミク団の戦いが始まったのが、約一ヶ月前、僕が中学生に上がったばかりの頃からだ。怪人とアリスの戦闘が行われるたびに町のあちこちは壊れるんだけど、次の日には完全に元に戻ってしまう。

 「ミクミク団って、普段アリスにやられっぱなしだけど、こういうのを見るとさ、本当はすごい組織なんじゃないかなぁって思うんだよね」

 実際、理恵ちゃんの言う通りミクミク団はすごい組織だと思う。何がすごいって、元に戻していくのは外観だけじゃなく、中にあった物まで完全に修復していく所だ。しかも、元々壊れてた家電などがあった場合、それらも直って返ってくるのだから、巻き込まれた人々から苦情が出ないどころか、逆に感謝すらされてしまっている。

 「でも、ぜんぜん秘密結社って感じじゃないよね」

 「あははは、言えてるかも」

 理恵ちゃんは笑いながら、看板を指さす『ミクミク・マーケット』昨日までは『鈴木商店』と書かれていた看板は、町の再生と同時に書き変わってしまった。

 町は元通りになって、場合によっては……以前よりいい状態になって返ってくる。だけど、全部が元通りってわけじゃない。例えば、近所に『デリシャス・スーパー』ってお店があったとして、戦闘で壊された次の日には外観は元に戻るんだけど、名称は『ミクミク・スーパー』に変わり、中に売られてる商品のパッケージも、すべてミクミクが付いてしまうといった感じで、僕の生活圏内の目に付く物はこの一ヶ月ですべてミクミクに変わってしまった。

 ミクミク団は他にもケーブルテレビを運営していたりと、秘密結社を名乗るわりにはやたら露出が高い組織って印象が強い。

 「でも、ミクミク団に変わる事で値段は安くなるし、働いてるひとも給料が上がってるんだから、別に秘密結社でもなんでもいいんじゃない?」

 そう言うと理恵ちゃんはおかしそうに笑った。

 不思議な事にミクミク団に関しては、みんながみんな口を揃えて『別に秘密結社でもなんでもいいんじゃない?』と、最後にはそういう言い方をする。一部のテレビ番組では、ミクミク団の危険性を訴える放送をしてたりするけど、現状実害がないどころか、メリットの方が大きいので誰からも相手にされていない。

 「理恵ちゃんは、アリスの事をどう思う?」

 僕は、おそるおそる理恵ちゃんにそう聞いてみる。

 僕に対してミクミク団の話を、理恵ちゃんが振ってくるなんて珍しい事だったから、この機会に理恵ちゃんがアリスの事をどう思っているか聞いておきたかったのだ。

 「カッコイイ!」

 即答だった。瞳をキラキラさせながら、アリスの事を熱く語る理恵ちゃんを見て、僕は少し申し訳ない気持ちになってしまう。

 結局、理恵ちゃんは学校の門へと到着するまでアリスの事を延々としゃべり続けていた。


 「学校……だね」

 「そうだね……」

 学校も昨日の戦闘で破壊されてしまい再生された建物のひとつだ。

 『市立旭中学校』共学の普通の中学校、それが一昨日まで通っていた僕たちの中学校だった。

 『市立ミクミク女子中学校』『市立ミクミク男子中学校』ふたつの学校名が門のそばの壁に掲げられている。事前に知らされていた事とは言え、実際目にすると戸惑ってしまう。

 学校は昨日の戦闘で破壊された後、男女別々に分けるような形で校舎が再生されてしまった。僕たちに対しては、テレビなどを通じて明日以降共学から、男女別に学校が変わることが繰り返し放送された。

 「クラス離れちゃったね……」

 理恵ちゃんは寂しそうな表情を僕の方へ向けてきた。

 僕と理恵ちゃんは、幼稚園から中学まで奇跡のようにずっと、クラスが一緒だった。

 「一部授業は合同でやるみたいだし、行きと帰りは今まで通り一緒だから……」

 「ありがと、将太のそういう優しい所好きだよ」

 理恵ちゃんはそう言うと、いきなり校門を抜けて駆け出して行ってしまう。

 「将太!お弁当箱……お弁当食べ終わったらちゃんと水ですすいでね!」

 理恵ちゃんは急に立ち止まり振り返ると、まだ真っ赤なままの顔で叫んだ。

 「うん、わかったよ!」

 『お願いだよ!』理恵ちゃんは僕の返事を聞くと、くるりと向きをかえて校舎の方へ走り去ってしまった。


 校舎の中は、以前と変わらない佇まいで、僕は自分の新しいクラスをすんなりと見付ける事が出来た。

 1年生は4クラスあったんだけど、女子がいなくなったせいで4クラスから2クラスに縮小してしまった。

 「うるさい女どもがいなくなって、せいせいするよな」

 「ほんと、ほんと」

 教室の中では、クラスメイト達が校舎分けの事を話題に、女子の悪口を言って盛り上がっている。

 ――1年1組の有栖川 将太君、至急校長室へ来て下さい。繰り返します……

 とつぜん教室に響いた簡潔な内容の放送は、僕を校長室へと呼びだすものだった。さっきまで、女子の悪口で盛り上がっていたクラスメイト達は、急にピタッと騒ぐのをやめると僕の方へと視線を向けてくる。好奇な目にさらされながら、僕は何事かと心中不安でいっぱいになりながら教室の戸に手をかけた。


 「彼が、有栖川君かね?」

 「はい、彼が有栖川です」

 校長室には、校長先生と教頭先生、そして学年主任の先生の3人が気難しそうな表情で、僕の事を待っていた。

 「さて、何をどう話したらいいのか……」

 先生たちは、僕を目の前に複雑な表情をして口ごもっている。

 「な、なにかあったんですか?」

 もしかして、僕がアリスだってことがばれてしまったんじゃ……僕の心臓がバクバクとすごい音をたて始める。

 「有栖川君……心して聞いてほしい」

 「はい、校長先生」

 校長室の空気が張り詰めて息苦しい。何を言われるんだろう……僕は喉を鳴らす。唇が緊張のためか、カラカラに乾いてしまっている。

 校長先生が意を決したように口を開く。

 「有栖川 将太君、君は今日から男子校舎のとなりにある女子校舎の方への編入が決まった」

 「えっ?」

 僕は校長先生の言った言葉の意味をすぐに理解することが出来なかった。

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