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将太の日常

 「起きろ!将太、もう朝だぞ!」

 「う~ん……理恵りえちゃん、また窓から入ってきたの?」

 朝6時、いつものようにお隣の伊藤いとうさん家に住んでいる、幼馴染の理恵ちゃんが僕を起こしに、家の2階にある僕の部屋へとやってくる。ショートカットの髪型に、活発そうな瞳をした可愛い女の子だ。

 「だって、窓が開いてるんだもの。開いてたら入るわよね普通」

 よく分からない強引な理屈でそう言い切ると、理恵ちゃんは僕のベッドに上がり込み、僕に馬乗りになって体を揺さぶりはじめる。

 「だって、理恵ちゃん窓にカギ掛けるとすごく怒るじゃない」

 「とうぜんでしょ!」

 なんだか、すごく理不尽な気がするけど、それを言った所で理恵ちゃんに通じないのは、生まれてから13年間の付き合いで、いやという程よく知っていた。

 「理恵ちゃん、ごめん。もう少し寝かさせて。昨日すごく疲れてくたくたなんだ」

 「昨日って、怪人とアリスが暴れた日?」

 「うん」

 「学校も休校になってたのに、なんでそんなに疲れるわけ?」

 「なんでって……」

 戦士アリスの正体は、実は僕なんだ。なんて事が言える訳がない。というより、口が裂けても言いたくなかった。呆れた声で話しかけてきた理恵ちゃんは、小首を傾げて僕が続きを話すのを待っている。

 「なんだっていいじゃない」

 「もったいぶって、なによその返事は!」

 理恵ちゃんはそう言うなり、僕の体から布団を引きはがすと、背中側から僕に抱きついてきた。

 「えっ……ちょっと理恵ちゃんなにするの?」

 抱きつかれた瞬間、鼻先にシャンプーの匂いがして胸がドキドキしてくる。年齢の割に大きい胸が背中に当たって、僕の思考は一瞬にして停止してしまう。

 「将太……」

 理恵ちゃんは、僕の耳元でそうささやきながら、腕を僕の首へとゆっくりまわし……

 「ぐほっ、りっりえちゃ……」

 いきなり腕で首を締めあげられ、僕はあまりの苦しさに、理恵ちゃんの腕を手で叩きながら抵抗した。

 「将太、ご飯できたわよ……て、あら理恵ちゃんじゃない」

 「あっおばさん、おはようございます」

 理恵ちゃんは、僕にチョークスリーパーを掛けながら、普通に僕の母さんとあいさつをしている。

 「いつも、起こしてもらってごめんね。よかったら、理恵ちゃんも一緒に食べて行きなさいよ」

 「は~い。おばさま、将太のお弁当ってもう作りました?」

 そう言うと、理恵ちゃんは僕を解放してさっさっとベッドから降りて行ってしまう。

 「これからよ、理恵ちゃんにお願いしてもいい?」

 息子が首を極められて苦しんでいたのに、それを軽く無視してこんな会話をしながら、階下にふたりは仲良く降りていく。だいたい、理恵ちゃんは毎日僕の家で朝ご飯を食べるし、中学に上がってお弁当になってからは、ずっと理恵ちゃんが僕のお弁当を作ってるじゃないか。僕はそんな事を考えながら制服に着替えると、一階に降りていく。

 一階では、母さんと理恵ちゃんが、キッチンでふたり仲良く料理をしていた。

 僕は朝ご飯を食べるため、ダイニングに置かれた食卓テーブルの椅子に腰をかけると、ご飯に味噌汁。焼きさんまという、日本人に定番ともいえる朝ごはんに口を付けた。母さんや理恵ちゃんはパン派なんだけど、僕と父さんはご飯派だ。

 「おばさん、昨日のミクミクケーブルの放送見ました?」

 「見た!見た!中村さん、スーツ新調してたわよね、すごく格好よかったわぁ」

 中村さんというのは、当然ミクミク団の中村さんを指している。変な話だが、戦士アリスとミクミク団の怪人の戦いは、ミクミク団が運営しているケーブルテレビ、ミクミクケーブルによって撮影され、ミクミクケーブルが引ける地域のお茶の間で、番組として公開されている。アイドル的人気を得ている中村さんなどは、専用のホームページまで出来ており、出身から趣味学歴まで公開されてしまっている始末だ。

 「将太は、あの放送きらいなんだよね」

 いきなり理恵ちゃんに話を振られて、僕は飲んでる最中の味噌汁をふき出しそうになってしまう。

 「ねぇ、なんできらいなの?」

 自分の正体がアリスで、女の子の格好で怪人と戦っているからだなんてとても言える話じゃない。

 「なんとなくだよ……」

 「ふ~ん……なんかね、わたしアリスって将太に似てるなってよく思うんだ」

 「ぐっぐふ」

 いきなりの理恵ちゃんの不意打ちに、僕は今度はご飯を喉に詰めてしまった。

 「あらっいやだわ、この子ったら」

 母さんはそう言いながら、テキパキと水をコップにいれて僕の前へと素早く持ってきてくれる。

 「理恵ちゃん、この子男の子よ。アリスは女の子でしょ?」

 「それは知ってるんですが、こうなんというか……微妙な表情の仕草とかがなんとなく……」

 「あらぁ、将太の事よ~く見てるのね」

 母さんにからかわれて、耳まで赤くしながらも、理恵ちゃんは僕を見てるって部分を否定しなかった。

 「ごちそうさま」

 僕はそう言って箸を置く。それと、同時ぐらいに理恵ちゃんがやって来て、僕の食器を全部流しへと持って行ってしまう。

 「あらっ、ありがと。理恵ちゃんは気が利くし、明るいし素直だし、ねぇ、もう将太と結婚しちゃいなさいよ。13歳でもいいじゃない。パパも理恵ちゃんなら反対しないと思うな」

 「いいんですか、おばさま。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」

 「僕はまだ、そういう話は早いと思うな……」

 「将太!あんたって子は。理恵ちゃんに失礼でしょ。文句は認めませんよ」

 「将太、わたしの何が不服なのか、今度ふたりっきりで話そう」

 なんだか、僕の将来って……言いたい放題なふたりの様子に、僕は少し自分の未来の事を考えてしまうのだった。

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