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光の剣、剣の影  作者: 万卜人
第十二章 王族
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 紫禁城内庭に、急造の築山が造られる決定が下り、汪直は部下たちを総動員して、職人を駆り集めた。帝のお声掛かりとあって、瞬く間に人員は集合し、見る間に内庭に、新たな地形が形作られていく。

 汪直は満足げに吐息を洩らし、職人たちの仕事を見守った。背後には八人の部下が勢揃いし、汪直の隣には小七郎が無感動な表情で立っている。

 八人の部下は、恐ろしいほど汪直に似ている。よく見れば、細かなところは違いがあるが、遠目に見れば、そっくりな九人が肩を並べているように見える。全員が贅肉のない身体つきをして、髪型も顔つきも似ている。触れれば、切れそうな剣呑な雰囲気を発散させているのも、そっくりだ。

 汪直の見守る前で築かれる山の形は、上半分が平らで、昇るための階段が刻まれている。大きさは、直径十間ほど、高さは三丈。上部は下よりはやや幅狭く、八間ほどになっている。成化帝が封禅を執り行う時には、生贄を捧げ、天に感謝する儀式を行う予定だ。

「汪直様、なぜにこのような儀式を執り行う必要があるのです?」

 汪直の背後から、部下の一人、ソンが用心深そうに問い掛ける。巽は、汪直の部下の中では、最も陰謀術数に長けていた。

「それはな……」

 汪直は振り返らず、淡々と答えた。

「当日、朱祐堂様が姿を現すからだ。祐堂様は、倭人の武技披露にことよせ、皇太子宣下を、陛下に迫るであろう。儂は彼奴らのため、陛下が正式に列席する口実を作るため、ああして築山を築いておるのだ」

「判りませぬ。それでは汪直殿の計画が台無しでは御座いませぬか?」

 くっくっく……と汪直は忍びやかな笑い声を上げ、背後を振り返る。汪直は、おどけるような表情を浮かべた。常にない汪直の態度に、部下たちは呆然となる。

 汪直は上機嫌であった。

「祐堂様を亡き者とし、ここにおる小七郎と代える儂の計画であろう。儂の計画で最も重要なのは、陛下が正式に皇太子を跡継ぎとすると、百官の前で言明する必要がある。その後でなくては、小七郎を替え玉にしても、儂の思う儘に政治を握れぬ。だから本物を紫禁城へ呼び込む。そのための、封禅の儀式なのじゃ!」

 八人の部下は、驚いたようにお互いの顔を見合わす。汪直の言葉に、目が覚めたように頷きあった。

 巽は感心したように、何度も頷いた。

「なるほど、それは考えがいたりませぬで御座います。最も重要な宣下を、彼奴らに肩代わりさせると、こう、仰せで?」

「左様じゃ! 宣下が済めば、密かに祐堂様を亡き者とする。この小僧……」

 ぽん、と汪直は傍らに立つ小七郎の肩を気軽に叩いた。

「小七郎の顔は、祐堂様に瓜二つ。密かに亡き者にして入れ替われば、誰も気付かぬ。第一、本物の祐堂様のお顔を存じ上げておる者は、数えるほどおらぬからな」

「しかし」

 部下の一人、カンが目を光らせ、反問する。

「皇帝陛下が、祐堂様のすり替えに気付くのでは? 何よりも、陛下は祐堂様の実の父親。実の父親の目を、汪直様は誤魔化せるとお考えですか」

 問われて、汪直は黙り込んだ。

 部下たちの顔に浮かぶ不安そうな表情を見て、汪直は胸を張った。

「その点は心配ない。皇帝陛下は、儂の目から見ても、一日ずっと朦朧としておる状態でまともな思考、何一つできぬのは明らかじゃ。恐らく、小七郎を眼前にしても、あっさり騙されるであろうよ」

 八人の部下は、汪直の言葉に安堵したようだったが、汪直自身、自分の言葉を信じてはいなかった。部下の手前、口にした自分の言葉は、汪直には空々しく聞こえている。

 坎の言葉は、俄かな不安を汪直に植えつけた。

 そうだ、成化帝は、曇ってはいても、実の父親の目を持っている。小七郎を前に、偽物と見抜く危険は、常にある。

 どう対処すべきか……。

 汪直の胸に、祐堂と成化帝を同時に暗殺する……という選択肢が芽生えた。

 それは、可能だろうか?

 汪直は考え込んでいた。

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