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光の剣、剣の影  作者: 万卜人
第十一章 召還
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 出口を目指す久忠だったが、あっという間に迷ってしまった。

 今歩いている場所は、通路として設計されたわけではなさそうで、建物を野放図に建て増しした結果、隙間が通路になっているだけで、当然、歩きやすくはない。

 広々とした場所があったと思うと、身体を斜めにして、無二無三に抉じ入れないと通り抜けられない場所もあって、久忠は悪戦苦闘して前へ進んだ。焦りが、久忠の歩みを速める。

 どれほど城内を彷徨したろうか。不意に久忠は、開けた場所に佇む己を見出した。出た場所は、城の中とは思えない別天地であった。

 緩やかな傾斜地が続き、目を楽しませる花々が咲き誇り、間を清流が縫っている。鬱蒼と茂る竹林があって、竹林の間にちらほらと、広壮な館が散見される。

 どこかで微かに、楽の音が聞こえていた。

 久忠は驚きに、暫し自分の立場を忘れていた。

 徐々に、不安が込み上げる。

 まずい……!

 もしかしたら、今いる場所は、噂に聞く後宮ではないかと思ったのだ。もし、久忠の推測が正しければ、一刻も早く、この場を離れなければならない。

 後宮は男子禁制である。

 もし衛士に発見されれば、汪直の予言どおり「問答無用!」で切り掛かられる。言い訳は一切、通用しない。

 くるりと踵を返し、出て来た場所へ戻ろうとした久忠だったが、時すでに遅かった。

「曲者! 動くなっ!」

 鋭い誰何の声がして、久忠は無数の衛士に取り囲まれていた。

 衛士は総て女であった。

 兵士の服装をしていたが、槍や弓矢、剣を構えているのは、女である。

 魚林軍豹軍だろう。豹軍なら、紅三女が統括している。

 久忠は大声を上げた。

「暫し待たれよ! 拙者は紅三女殿と懇意の仲。紅三女殿に連絡ありたい!」

 久忠の言葉に、全員ぎょっとした様子を見せた。が、一同を率いる立場らしき、先頭の女は槍を構え直す。

「隊長殿の名前を騙るとは憎い奴! どこかで聞き囓ったのだろう! 問答無用!」

 女らしい甲高い声で叫ぶと、手にした槍をぐいっと突き出し、久忠を目掛けて突進する。

 ひらりっ、と久忠は相手の槍を寸前で避ける。

 良く訓練されているようだが、久忠の敵ではない。構えにも、隙がありすぎる。その気になれば、久忠は、相手を一刀の下に切り捨てられるほどだ。

 が、それだけは断固できない。もし、この場で血を流せば、大騒ぎになる。皇帝の御前で披露する、剣技など一切が消え去る。

 つまり、久忠の使命は果たせなくなる。

 ぐるりと取り巻かれ、久忠は逃げるに逃げられなくなった。まさに万事休す!

「死ねっ!」

 今度は、剣を手に、新手が襲ってくる。女ゆえか、虎軍の青竜刀ではなく、細身の両刃の剣だった。両手に剣を持ち、くるくると身体を回転させて切り掛かる。目まぐるしい動きで、久忠は面食らった。

 何度も打ち据えようかと思ったが、手加減の限度が判らず、身を躱すのが精一杯だ。

 まずい、このままでは自分か、相手を傷つけてしまいそうだ。

 苛立っているのは久忠だけでなく、豹軍の女兵士も同じらしい。明らかに、久忠が自分らを軽くあしらっていると判断したのか、隊長がぐるぐると手を動かし、久忠の包囲の輪を広げる。

「弓を射よ!」

 合図に、弓兵が一斉に、弓に矢を番える。全員、びしりと久忠に狙いをつけた。

 弓矢が相手では、どうしようもない。

 仕方がない……。こうなったら、この刀に掛けても、ここを脱出せねば……と、久忠が決意したその時!

「お待ちなさい」

 凛然とした声が、その場を圧した。はっ、と豹軍の女兵士は、声の方向に顔を向ける。

 久忠は見た。

 竹林を背景に、鮮やかな金色の輝き。それはアニスの、金髪の輝きだった!

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