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光の剣、剣の影  作者: 万卜人
第十一章 召還
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「よいか! これが日本刀で御座る! これぞ、武人の魂。ひとたび抜き放てば、己が死ぬか、敵を倒すか、覚悟が必要!」

 久忠はずらりと居並んだ魚林軍兵士たちを前に、腹の底から声を振り絞り、腰の大刀を抜いて一同に示した。

 日差しに、ぎらりっ! と、久忠の愛刀が青白く輝く。漢人が使う青竜刀とは、根本的に造りが違っている。刀身は鋭く、優美な反りが、いかにも精緻であった。

 場所は紫禁城内にある、魚林軍専用の鍛錬場で、床は石畳で敷き詰められ、近くに兵舎が並んでいる。兵士の鍛錬場ではあるが、武張った場所に拘わらず、建物の形は優美で、欄間や龕灯の飾りは王宮なみだった。

 久忠の講義を受けている魚林軍兵士の服装は、兵士の制服に、頭には丸い笠を被っている。腰には青竜刀、手には盾、槍を構えていた。

 成化帝の御前で、久忠の剣技を披露する決定が下り、その前に久忠が魚林軍兵士たちに、技を伝授する約束だった。久忠は前もって兵士たちに講義するため、紫禁城入りをして、鍛錬場にいる。

 兵士は鄭絽の虎軍、紅三女の豹軍。虎軍は男で、豹軍は女ばかりで構成されている。人数は、二軍を合わせて百名ほど。人数は、虎軍のほうが多く、豹軍は三十名たらず。

「これが正眼の構え!」

 久忠は、やや反り身の構えになり、大刀を斜に構える。

「これは八双!」

 刀身を上げ、顔の近くに立てた。上段、下段と、次々と久忠は刀身を閃かせる。久忠の動作に連れ、刀身が日光を反射し、きらっ、きらっと眩く輝いた。

 それでも、久忠の構えを見た魚林軍兵士たちの目には、一様に不審感が浮かぶ。久忠は横目で兵士たちの表情を読み取り、大刀を鞘に納めると、一同に向き直った。

「何か、御不審の向きが御座るかな?」

 まともに問い掛けられ、兵士たちの間の動揺が走った。ざわざわと小声で私語をして、お互いの顔を見合っている。

 兵士たちを監督している鄭絽と、紅三女はバツの悪そうな表情になった。

 久忠は二人に顔を向け、口を開く。

「いかがで御座る? 鄭絽殿、紅三女殿」

 鄭絽と紅三女は、ちらちらとお互いの表情を盗み見ている。何か言いたいのだが、久忠の面子を慮って、口に出せないようだ。

「そのう……ちと、貴公の刀の構えが、我々の常識とは違っておりまして……」

 いかにも言い難そうに、鄭絽が答える。

 久忠は頷いた。

「左様で御座るか。刀そのものが、違っているため、構えが見慣れないのも無理は御座らぬ。が、戦いの基本は、明国でも、日本でも同じで御座る。要は、いかに応用するかで御座ろう?」

 虎軍兵士の一人が、こっそりと何か囁く。久忠の耳は、兵士の呟きを耳聡く聞き取っていた。

「そこの一人! 今一度、拙者に聞き取れるよう、大声で繰り返して欲しい!」

 久忠に名指しされ、兵士は見るからに慌てた様子を見せた。全員の注目が集まって、兵士は顔を真っ赤に染める。

 鄭絽は兵士に向かって、怒鳴った。

「おい! 何か言いたいなら、男らしく俺にも聞こえるよう、口に出せ!」

 命令され、兵士はおずおずと言葉を押し出した。

「あのう……そんな細い刀で、戦えるのか……なんて……!」

 もじもじと己の身体を探り、後は小声になる。

 久忠はにっこりと、笑顔になった。

「なるほど、拙者の刀は、貴公らの目に、いかにも頼りなく見えるので御座るな? それなら、一つ拙者の技を披露いたす!」

 ずいっ! と一歩前へ出て、久忠はとっくりと兵士たちの顔を観察した。

 前列、虎軍の兵士の一人を、久忠は注目する。

 どっしりとした身体つき、身長は久忠より頭一つ高く、体重も上回っていそうだ。腕の筋肉を見ると、膂力も相当な自信があると、久忠は見て取った。

「そこの兵士。前へ出ませい!」

 久忠の命令に、兵士は明らかにむっとした表情になる。倭人に命令されるのが、面白くはないのだろう。

 兵士がちらっと鄭絽に目をやると、鄭絽は無言で頷く。いかにも渋々とした様子で、兵士は前へ進み出た。

 久忠は鄭絽に向かって、口を開いた。

「鄭絽殿。拙者が指名した兵士殿は、かなりの腕前と見ましたが、いかがかな?」

 鄭絽は誇らしげに頷く。

「左様。愛洲殿のお見立てどおり、あの兵士は、我が魚林虎軍の中でも、一番の腕前で御座る。拙者は、あれに、虎軍師範代理を命じております」

 久忠は全兵士に向かい、高らかに宣言する。

「では、拙者がそこの兵士と立会い、我が剣技の優劣を示そう。論より証拠で御座る!」

 久忠の指名を受けた兵士は、堪りかねたように鄭絽に叫んだ。

「隊長殿! よろしいので?」

 口調が「倭人と戦えば、相手を殺しかねませんぞ!」と訴えている。

 鄭絽は迷っている様子だった。が、久忠の表情を見て、決意を固めた。

「許す!」

 さらに大きく息を吸い込み、命令を続けた。

「存分に戦え!」

 兵士は久忠に向かい合い、唸り声を上げ、身構えた。手にした槍を同胞に渡すと、腰の青竜刀を抜き放つ。

 久忠も得物を手に、身構えた。

 ここが切所!

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