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光の剣、剣の影  作者: 万卜人
第十章 巫士と巫蠱
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 部下の艮に伴われ、孫悟空の仮面を顔に被った暗殺者が、姿を現す。以前は一人だったが、今回は二人だった。

 一人は以前に汪直が面会した男だろうが、もう一人は、明らかに体格が違っている。小柄で、奇妙に腕が長く、両手の先端が床についていた。新たな猿面は、ひょこひょこと動いた。

 汪直は腕組みをして、出迎えた。

「大きな口を叩いた割りに、失敗したと聞いておるぞ。申し開きは何か、あるか?」

 汪直は、静かに暗殺者に問い掛ける。汪直の胸には、怒りが渦巻いていたが、態度、声には微塵も表さなかった。

「次は、仕留めます」

 暗殺者の答にも、感情は認められなかった。汪直の眉が狭まり、眉間に皺が刻まれた。

「次がある、と申すのか? 呆れたものだ! なぜ、そのように自信がある? 次は絶対しくじらぬという、確たる証拠があるのか?」

「こ奴が……」

 暗殺者が、もう一人を指し示した。

 指し示した新たな猿面が、自ら面を外した。

 汪直は、顔に浮かびそうになる驚きを押し隠す。

 猿面を外すと、その下から本物の猿の顔が現われた! もう一人の暗殺者は、本物の猿だったのだ!

 猿面は、正体を現した猿の身につけた服を手早く脱がす。服を脱ぐと、完全に猿の姿がそこにあった。

 汪直は怒りに声を震わせた。今まで感情を押さえていたのだが、あまりの衝撃につい、出てしまう。

「猿が、仕留めると申すのか? 戯言も、良い加減にせぬか!」

「こ奴は、ただの猿では御座いませぬ。毒猿で御座います」

「毒猿……」

 汪直は絶句した。

 仮面は忍び笑いで答える。

「左様。こ奴には、生まれた瞬間から、餌に毒を混ぜ、体内に溜め込んで育てました。こ奴の息、爪、歯、体毛、ありとあらゆる箇所に、必殺の毒が溜まっております。ただ一度、こ奴に触れられた瞬間、毒が沁み込み、相手を倒します。こ奴を扱えるのは、毒と生き、毒と死ぬ、我ら巫蠱のみ」

 しげしげと毒猿を観察すると、確かに異様であった。両目は真っ赤で、僅かに見える白目の部分は、黄色く染まっている。体毛も、普通の猿と違い、緑色に近い。

 汪直と目が合った猿は「きーっ!」と叫んで、歯を剥き出した。

 ずらりと並んだ歯は、黄土色に見えた。犬歯の先は、黒ずんでいる。

 歯の間から覗く舌も異様で、真っ青な色をしていた。

「なるほど。確かに、毒を溜め込んでおるようだな……」

 頭を下げる暗殺者に向かい、汪直は厳しい表情で、指をぴしっと一本立てて見せた。

「確かに、こ奴が、毒で相手を倒すという証拠を見せよ!」

「試しをと、仰せですかな?」

 汪直が頷くと、暗殺者は大仰に頭を下げて見せた。

「被験者が必要ですな。心当たりは、御座いますかな?」

「うってつけの犠牲がある! 従いて参れ」

 さっと歩き出す汪直に、暗殺者はあたふたと後に従った。

 暗殺者が腕を伸ばすと、毒猿は手を伸ばし、ちょこちょこと小さな子供のように素直に従いてくる。

 出入口に立った汪直は、部下たちに声を掛けた。

「其方たちは、城内で待っておれ! そ奴も……」と、小七郎を指差した。

「一緒に儂の帰りを待つのだ」

 部下たちは一斉に頭を下げる。小七郎は、虚ろな表情で、身じろぎもしなかった。

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