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光の剣、剣の影  作者: 万卜人
序章 少年
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 その日のうち、少年は旅支度を整えると、村を離れた。誰にも行き先を告げず、ひっそりとした旅立ちだった。

 母親にも告げなかった。

 言えば必ず反対されるのが判っていたし、自分の目的には、誰も知らないうちに消え去るのが上策だと判断したからだ。

 ともかく、軍隊がやってきた方向に足先を向けた。

 とぼとぼと徒歩で歩き続け、腹が減ったら山野の実を採り、川の水で喉を潤す。

 幸い、季節は春先で、山野には木々が芽吹いて、食糧には事欠かなかった。何が食べられるか、何を口にすると毒になるかは、少年は村の暮らしで充分な知識があった。

 新たな村を見つけると、一夜の宿を求め、金が必要なら働いて、少年は旅を続けた。旅の途中で、少年は漢語を少しずつ覚えて行った。

 ゆっくりと日にちを掛け、少年は少しずつ知識を蓄えた。故郷から離れるにつれ、言葉は変化し、少年は歩く速度で中央で使用されている言葉を覚えていった。もちろん、巻紙を読み解くための文字も、覚えていった。

 やがて巻紙に書かれた内容を、完全に理解する日を迎え、少年の胸には、怒りの炎が燃え盛っていた。

 こんな理不尽な理由で、村の男たちは殺戮されたのか!

 父親を殺した将軍に対する怒りはもちろん、あったが、それ以上に将軍を派遣した中央政府の命令は、少年の胸に、冷たい怒りの炎を焚きつけた。

 絶対、この仇は、果たしてやる!

 少年は、それにはどうすべきか、一心不乱に考え込んだ。

 中央の事情に詳しくなるにつれ、それにはどうあっても、政府の一員になる必要が痛感された。

 政府の一員とは、官僚を意味する。

 官僚になるには、科挙を受験して、合格する必要があった。が、地方出身で、中央の言葉も流暢に話せず、十二歳になるまで目に一文字もなかった少年が、百人に一人、千人に一人しか通過できない科挙を合格するなど、夢物語でしかない。

 宮廷に入り込むには、もう一つ、手段が残されていた。

 ある意味、少年が人間であるという存在理由を否定する手段であった。しかし、冷静に考えた末、それ以外には有り得ない。

 それは宦官になる、という選択である。

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