七
肩に小七郎を担ぎ上げる久忠の背中から、盗賊たちの悲鳴が聞こえてくる。
「命だけはお助け!」「酷い、あんまりだ……!」「死にたくねえよお!」
ずばっ! ずぶっと、槍先が肉体を貫く鈍い音がして、盗賊たちの断末魔の悲鳴が続いた。
堺の兵たちが、盗賊たちを始末しているのだ。
これは、最初からの計画だった。盗賊などに情けを掛ける必要はない、という結論に、久忠と堺の双方で同意が成されていた。堺会合衆の目的は、盗賊団の殲滅。久忠は、息子を見出したいという目的が合致し、今回の共同作戦となったのだ。
振り向かず、小七郎を担いだまま、久忠は黙々と歩き続けた。
堺が近づいた場所で、久忠はいきなり小七郎を地面に放り投げた。
小七郎は地面に放り投げられると、見事に受け身を取って、ごろごろと転がって素早く立ち上がった。
「何しやがる!」
「いつまでも、拙者の肩で、のんびりしておるのではない。拙者は、お主の馬ではないぞ」
久忠は、とっくに小七郎が目覚めていると、悟っていた。
立ち上がった小七郎は、顔を歪めた。
「へっ!」
鼻をぐいっ、と擦り上げ、キョロキョロと周囲を見回す。
「あれ、誰もいねえ……。仲間は、どうした?」
久忠は表情を変えず、小七郎に教えた。
「盗賊どもは、一人残らず始末した。生き残っているのは、お主一人だ」
「何だとおっ!」
小七郎は、身を震わせ、顔を真っ赤に染めた。
「一人残らず、処刑したってのか? あんまり、酷い話じゃないか?」
「そうかな? いずれの土地でも、盗賊は死罪と決まっておるのではないかな?」
久忠の反論に、小七郎は目を逸らした。
「そりゃ、そうだけどよ……」
久忠は小七郎に近づき、静かに話し掛けた。
「良いか、小七郎。盗賊団は一人残らず、死に絶えた。お主の出自が、盗賊だとは、今は誰も知らぬ。堺の兵たちも、口を噤むであろう。お主は、ただの小僧。それでしかないのだ。それとも、一人で盗賊稼業を続けるか?」
久忠は片膝を、地面についた。真っ直ぐ小七郎の目を見詰め、諄々と諭す。
「お主は拙者の息子じゃ。お主は、母の仇として、拙者を狙うと誓ったな? それは、良い。お主がいずれ、修行を重ね、この父を倒すほどまで腕を上げるなら、拙者は甘んじてお主に討たれてやろう。じゃが、それまでは、お主はただの小童。それを忘れぬな。もう盗賊ではないのだ」
小七郎は唇をぐっと噛みしめ、顔を上げた。眉が迫り、両目は燃えている。が、何かに耐えているのか、黙りこくっていた。
久忠は立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。
背後で、小七郎が迷っている気配があったが、それでも久忠の背中を追って、歩き出すのを感じる。
二人は堺へと、黙って歩んだ。




