BRIEFING:30 歌声
魔獣石事件の3日後。
今日明日は祝日が絡んで三連休らしく惰眠を貪っていた。
しかし、世話焼きメイドはそれを許さない。
「はいはい起きなさい」
エミィはパンパンと手を叩いて促す。
布団を被って辛うじて声を上げる。
「今日は祝日だろ、寝かせてくれよ・・・」
「ええそうよ、だから学園周りだけじゃなくて今日は街にも出てきてみなさいな」
「街にぃ・・・?」
「そっ、知見を広げてきなさい」
「うー・・・」
ぽわぽわした頭では思考ができない。
「いいから行ってきなさい!!」
「うわわわわ!はいはいはい!!」
すごい剣幕で布団を剥がされ服を無理矢理着替えさせられかけたので自分で着替えた所、バスケットを持たされて部屋を追い出された。
しかも着替えが終わったタイミングでキチンとショルダーホルスターを着させられ、ハンドガンとマギアエッジまで持たせられた。
仕方ないとハンドガン・・・SOCOM MK23をホルスターに収め、反対側のマガジンホルスターにマギアエッジを何とか入れる。
そして、溜息と共に仕方ない、と学園街に出ていく。
街は、思ったより活気があった。凄い。
息抜きできる場所が基本ここにしかないのなら、確かにそうなる、どんな感じなんだ?クロム。
そう、頭の中で問いかけて見るが返答はない。
「クロム?」
ぱっ、ぱっ、ぱっ、と探してみるが、ない。
うあー、しまった。クッソ。
追い出されるように出てったから持ってく暇もなかったんだ・・・。
仕方ない、とりあえず・・・。
「朝飯食うか」
しかし、バスケットの中身はと・・・。
「おお・・・・」
中に入ってたのは袋にくるまれたサンドイッチだ。
それにポットに入った紅茶も入ってる。
シュガーポットまで入ってるし、ポットには蓋注ぎ口にもキャップが付いてて零れない仕組みだ。
それにありがたいことに暖かい。
「英国紳士の端くれとして、やっぱりサンドイッチには紅茶だもんなぁ」
しかもこのサンドイッチ、トマトが入ってない。
どうも生のトマトだけはダメだという事をぼやいた気がするが、まさか覚えていたのか。
嬉しいなぁ、出来るメイドさんである。
「よし、じゃあどこか適当なベンチを・・・・」
といっても、公園とかも見当たらないな。
「わわわわわ!!どいてどいてどいて!!」
「あ?」
ぶつかった。
パンでも咥えていたらラブコメだが生憎俺は男だ。
って、そんな事を言っている場合じゃない。
「いった!」
「あたたた・・・ごめんなさい、大丈夫?」
尻餅をついた女性もそう声をかけてくる。
「ああ、大丈夫だけど」
「ごめんなさい、急いでて」
片方を見ると、なんかこう、身なりのキチっとしたのがきょろきょろしてた。
これ、ヤクザとかそういうのか?
「しっ」
「へ?きゃあっ」
彼女の帽子を取って自分でつけて、彼女を壁に押し付け、抱えるようにする。
外からは壁ドンしてキスしてるように見えるだろう。
帽子がキャスケットで助かった。男が付けてても変じゃないもんな。
「あ、あ、あの」
「静かに」
それだけ答える。
男たちが背中を通る。
少しこっちを怪しむが、どうやら過ぎていって人並みに向かっていったようだ。
「・・・・・・ふう、行ったかな」
「あ、あ、あ・・・・」
「あ、ごめんなさい」
顔を赤くした眼鏡の彼女を離して帽子を戻す。
「え、えと、庇ってくれたんだよね?あ、ありがとう・・・・」
「いや、その、ごめん、俺もあんなふうにしか」
気まずい。
なんで庇っただけでこんな事に。
いや、解ってるよ!庇い方ってんだろう!?
「あ、私はその、あー・・・・そうね、ミレディー・ド・ウィンター、商家の娘よ。よろしくね」
きゅっ、と帽子を
おいおい、アリスの次は三銃士かよ。
「俺は天城 空牙、よろしく」
「空牙ね、よろしく」
・・・あれ?
なんか、イントネーションが懐かしいというか。
「それじゃあ、私急いでるから」
ぐぅ、と腹の根が聞こえた。
「待てよミレディー・・・よければブレイクでもいかがかな?」
「・・・・え?いいの?」
ぱかーと開いたバスケットを見せると、少し逡巡したが、意を決したようにノってきた。
「いい場所があるわ!」
と、ノったが否や手を引いてくる。
そうしてついた場所は、港付近の切り立った場所だ。
「おお、いい景色だ」
「んふふ、でしょ?」
隣に座る。
眼鏡をかけてるが、それでも顔立ちの良さが目立つ。
いや、普通に可愛いな。アイドル級じゃないか。
オレこんな子にキスの演技してたの?嘘でしょ、やだ
「私、ここがお気に入りなの。ここって唯一この地に出入り出来る場所でしょう?
だから、ここに居れば、皆を見れるってことでしょ?」
「みんなを?」
そういわれて、つい頭にはサバゲー部の皆の顔が浮かんだ。
「っ・・・・」
「どうしたの?
「いや、なんでもないんだ、ちょっと昔のことを思い出した。大事な、友達の事を」
「その人の事、好きなのね?」
「うん、とても大事な友達だよ」
「いいなぁ・・・私も、ね、居たんだ。そんな友達」
「・・・“居た”、ね」
「うん・・・本当に大事で、どんな時でも一緒に頑張ってきてたんだ、でも・・・・」
膝を抱えて顔を伏せる彼女。
「最期には、裏切られるから」
「裏切る・・・・・・・・」
「ええ、その時は、本当につらかったわ・・・いえ、嘘ね。辛いなんてもんじゃなかった。
はらわたが煮えくりかえるって、ああいう事を言うんでしょうね」
「ミレディー・・・」
「でも、もういいわ!その時の事があって今の私がいるんですもの!」
救っと立ち上がる彼女。
日が差していて、とても綺麗だ。
ついつい見とれてしまう。
「あ、ええと、ほら食べようぜ、お、うっまそうだなあ!」
誤魔化す様にもふっ、とサンドイッチを食べる。
卵サンド旨い!
何っていうんだろうな、クリーミーだけど、酸っぱくないんだよ。
俺、マヨネーズ苦手だったんだけどこっちのは好きなんだよね。
程よい酸味っていうのかな?でついつい食べてしまう。
「そ、そうね・・・おお、本当においしそうね・・・あなたが作ったの?」
「いや、世話焼きなメイドがいてさ、仕事熱心っていうか」
「え・・・あなたそういう趣味が・・・?」
「は?いやいや、アーティフィシャルの王様に宛がわれててね・・・」
「ふぅん・・・?ほんとかなぁ、男の子ってそういうのスキなんでしょ?」
「嫌いじゃないけど、そ、そういうつもりはないから・・・」
「ホントかなぁ・・・?」
「勘弁してくれ・・・」
「ま、ご馳走になるんだしこれぐらいにしてあげる♪」
なんか、やっぱりこう。
話してると雰囲気、というか、感覚が、”元の世界”感覚が・・・。
なんでなんだろう。
そう悩んでる横でひょいぱくひょいぱくと食べているミレディー。
「はむっ、ううん♪ほんと、美味しいわね、過度に飾らない辺り私好きかも、うん、美味しい」
「あ、あのさ?ミレディー?」
「んくんく・・・・ん?何かしら」
「俺さ、君と話してるととても故郷を思い出すんだけど・・・君の生まれってもしかして・・・」
「わ、私の故郷?それは・・・」
「それは・・・?」
「く、クインベル・・・よ?」
「・・・・」
なんか、動揺が見てとれるんだけど、なんでだ。
これは、もしかして本当に・・・。
「あのさ、もしかしてミレディーって」
「・・・・なに」
「・・・・いや、何でもない」
そんなわけない。
そうひょいひょいいるわけないよな、そんなの。
「ふふ、ホント変な子ね、君って」
「ソレ、ミレディーが言うのかい?」
「あ、ひっどーい!」
ぺちぺちっ、と叩いてくるミレディー。
「ちょ、ちょっと待って!はい、もう一個あげるから!」
「む・・むう・・・サンドイッチの出来に免じて許してあげる!」
「はいはい、ありがとう」
「んー、美味しいわねぇ♪」
ゴウン、ゴウン、と風の音と船の乗り付ける音が静かに響く中美少女と二人で遅めのランチというのは中々贅沢だなぁ、うん、照れ臭いけど。
「ご馳走様!あー、おいしかった♪」
「お粗末様・・・まあ、俺が作ったわけじゃないけど」
「そうね、じゃあちょっとお礼するわね♪」
すく、と立ち上がり、歌いだした。
すごい。
胸が湧きたつ。心が躍る。顔が笑む。
どうしてこんなに上手いんだ。
「―――、ど、どうだった、かな?」
「すげえ!!すげえよ!ミレディーそんなに上手いんだ!?」
照れながら聞いてくるミレディーに立ち上がり拍手喝采する俺。
「えへへ・・・そこまで喜んでくれると嬉しいな」
「そこまでも何もあるかよ・・・・・・ホント凄いって!」
「ほ、褒め殺しー?そんなことしても何もないよぉ」
とツンツン肘で突かれる。
「そういうの慣れてないんだな?」
「そ、そうかも、ほら、いつも人前だったし」
「人前?」
ん?と思う俺にしまったって顔。
じーっと見てみる。
均等の取れた顔立ちにぱっちり大きい眼にサラサラとした髪。
アイドル、っていうものの権化。とでもいうべきか。
心なしか汗をだらだら流してるような彼女。
そんな時。
「あーっ!見つけたぞ!」
「げっ」
さっきのヤクザみたいなのと思ってたのだ。
もう追ってきたのか、早いな。
「いい加減お帰りいただきますよ、アルファノーツ様」
「アルファノーツ・・・?」
「ん・・・何だね君は、こちらの方をどなたと思っている。
クインベル王、カレン・アルファノーツ様だぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
「バレちゃったか・・・・・控えなさい、彼は私の友人です。丁重になさい」
「はっ、失礼致しました」
「見つかっては仕方ありませんね・・・帰りましょう。では、クウガ様、また、学校で」
ウィンクして去っていくのを横目にポカンとする俺。
クインベルって、一番売れてる歌手が「王」になる変わった国だったよな。
え、ということは――――――ガチのトップアイドル?
「え、えええええええええええええええええええええええええ!?」
その日、その港に夕方に歌を歌う化物が出る、と噂されたのだった。
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