第十八話『別にそこは悔しがるところじゃないと思うんだが』
『モンスターバスター』では、クエストの難易度が、
大陸毎に変更されている。
大陸ってのは、まぁ、ステージの呼び名のことだな。
で、大陸のボスを倒すと、次の大陸に船で進めるようになるというのが、
「モンバス」のゲーム内設定である。
そして司令士が最初に降り立つ大陸を『グリーンアイランド』と言い、
最も簡単な部類のクエストが受けられるステージってことになっている。
そしてここ、「王都・エアリーグ」が、
「グリーンアイランド」最後のエリアである。
つまりここでボスを倒せば、次の大陸に進めるってわけだ。
王都に到着すると、まずはその規模のデカさに驚いた。
流石、そのへんの普通の町とはケタ違いだな。
城下町の大通りは、東京の繁華街を思い出すほどの喧騒だし、
遠くに見えるお城は、浦安方面にあるテーマパークのお城より立派だ。
……まぁ、あれは造り物だしな。
俺とハルカの二人は、クエストを受ける為に戦士ギルドを目指し、大通りを進む。
しかしこんだけ店が並んでると、どこが戦士ギルドかわかんねぇな。
と、思っていたけど、意外にも戦士ギルドはあっさりと見つかった。
「モンバス」で「クエスト」を表す剣と盾を模したアイコンが、
そのまま看板に使われていたから、
ゲームプレイヤーなら誰でも分かるようになってるな、こりゃ。
ギルドの建物内に入ると、おそらく職員だと思われる人達が、
大きな足音を響かせながら、忙しそうに右往左往していた。
「あのぅ、僕達、今日王都に着いたばかりの司令士と戦士なんですけどぉ……」
受付らしきカウンターで事務作業に追われている職員に、
申し訳なさそうな声で話かける。
俺の声に反応して顔を上げた事務員は、
眼鏡の奥から、品定めをするような視線をハルカに送る。
なんか舐めまわすように見て、イヤらしくないかこいつ。
あ、今おっぱい見た! ような気がする……。
「すみませんが、他を当たってください。無駄な人的被害を出すわけにもいかないのでね」
ただそれだけ言って、視線を手元の書類に戻す。
はぁ?
こんのエロ眼鏡野郎……!
他を当たれるなら当たっとるわ!
こんな低ランクエリア、やりたくてやってんじゃないっつうの!
しかしここはアルバイトの接客経験が生きた。
内心憤りながらも、顔には笑顔を張りつけていられた。
だけど、そうもいかないのはハルカさんのほうで、
その顔はまさに鬼の形相。
今にも命令無しでファイヤー・アローをお見舞いしてしまいそうな勢いだ。
「マスターになんて口の聞き方……消し炭にしてやろうかしら……」と、
聞こえてくるのが更に恐怖感を煽る。
「そんなこと言わないで、仕事を回してくれよ。人手が足りないって言うからきたんすよ?」
ハルカを目で制しつつ、今度は少し強気に言ってみる。
「いくら人手が足りなくても、実力が未知数のパーティに仕事は回せませんよ」
事務員は眼鏡をキラリと光らせて睨みつけてくる。生意気な奴め。
「せめて、町を救って感謝状を貰うくらいの司令士なら、すぐにでも仕事を回しますがね」
斬り捨てるように言って、事務員はまた視線をデスクへと戻してしまう。
……ん、感謝状?
あぁ、ここでそのフラグが回収されるわけか。
実にゲームの会話イベントらしい、と感心しつつ、
かばんから、すっかり折れ曲がった感謝状を取り出し、
それをカウンターテーブルに叩きつける。
「ヘーリアの町の町長から貰った感謝状だよ、偽物なんかじゃないぜ」
この感謝状が目に入らぬかぁ! って、心の中で叫んだ。
声には出さなかったけど、一度は言ってみたいセリフの一つさ。
事務員は何度も眼鏡をクイクイと動かし、
用心深く感謝状を確認する。
こいつ、完全に疑ってやがる……。
「これは、本物……ですね。失礼しました」
観念したように謝罪の言葉を口にした事務員の顔は、
なんだかちょっと悔しそうだった。
別にそこは悔しがるところじゃないと思うんだが。