第十七話『あれ、やばい。なんかまたハルカの機嫌が悪くなっている気がする』
洞窟の最深部には、やっぱり、それがあった。
劣等魔人の『ゲリライベント』は、クリアすると、
盗賊達が溜めこんでいたお宝を手に入れることができる。
そして、今俺の目の前には、金銀財宝、とまではいかないが、
1万ジェル札の束が入ったバッグが置かれている。
まさか現ナマとは、何とも言えない高揚感があるな。
「うぇへ、うぇへへ、たまんねぇなおい」
バッグの中の札束を、ごっそり掴み上げてみる。
ざっと5千万ジェルはあるだろうか、
これだけあれば、しばらくは金に困らんな。
本来ならすぐにでも数万円課金してレアガチャ引きたいけど、
今はそれができないんだよな、くそぅ。
「そうか、あいつらが人から奪った物を換金してここに隠していたんですね」
涎を垂らす勢いで目の前の現金を眺めていると、
ハルカは合点がいったような声を出す。
「その通りだよ……」
5千万って、どのくらい遊んで暮らせるかな?
いや、これを元手に新しい事業を起こした方が儲かるかもしれん。
とりあえず不動産投資か? それとも土地でも転がすか?
いや、株とか先物取引だってありだ。
というか株式会社ってこの世界にあるのかね。
ともかく、これは夢が広がる話だぜ!
「それじゃあこのお金は、被害に遭った人達に返さなくてはいけませんね」
……はい?
「え、それマジで言ってんの?」
真顔で聞いてしまった。
「え、それが普通じゃないですか」
た、確かに……。恐ろしいほど正論だ。
で、でも、落し物を警察に届けたら一割は貰えるって言うし、
500万くらい中抜きしたって、別にばれないよね……。
「きっと困っていた人達が大勢いますよ。お手柄ですね、マスター!」
ハルカは清々しいほどの満面の笑みを向けてくる。
よせ、そんな純粋な目で俺を見るな!
ネコババしてひと儲けしようなんて企んでた俺が、
まるで悪者のように感じられて肩身が狭い……。
「そう、だね。きっと皆困ってるもんね……」
「あれ? マスター、泣いてます?」
「別に、泣いてなんて無いよ」
泣いてなんかないやい!
強いて言うなら、君のピュアな心が目に滲みたのさ。
罪悪感と嫌悪感に駆られ、大金を持って町へと戻る。
役場の魔物討伐課に行って事情を話すと、
やっぱり、この町の住人が被害にあっていたみたいだ。
俺とハルカが持ち帰った金は、被害者の補填に当てられるとのこと。
俺達には、町長からの感謝状と、金一封が送られた。
中身は、10万ジェル……。
いやまぁ10万ジェルでも大金なんだけどね。
元が5千万、十分の一でも500万って考えると、なんだかなぁ……。
その差額が、おっさんからの感謝状って、
これで穴埋めしろってのは多少無理があるだろ。
どうせなら、受付のお姉さんからのご褒美のほうが……。
うわっ、ハルカがめっちゃこっち睨んでる。怖。
お姉さんをエロい目で見ていたのがバレたか。
ごめん、謝るから、反省するからそんなに睨みつけないで。
結局、あの盗賊団がボス扱いだったらしく、
この町で受けられる討伐依頼はもう無くなった。
確かヘーリア草原の次は、ウラヌ山という山脈ダンジョンか、
アルマフ湖という水辺ダンジョンでモンスター討伐をしたっけな。
ゲームでは、どちらから攻略してもよかった記憶がある。
となると、炎属性と相性の悪い水属性モンスターが多くいる水辺は避けて、
山から攻略しましょうかね。
と、勝手に自分で攻略の青写真を描いていたら、
「最近、王都のギルドが腕の立つ司令士を集めているようです。なんでも、モンスターが活発で手を焼いているとかなんとか」
受付の美人さんから、情報を提供してもらった。
はて、こんな会話イベントあった記憶はないが。
まぁいいや、目的変更。
ゲームだった頃は、草原と山と湖と、
更に荒野ダンジョンをクリアしないと王都には辿りつけなかったんだけど、
今は自分の意志で自由に目的地を選べるもんね。
これはゲームじゃ味わえない自由性だな。
てことで、俺とハルカは早速、
馬車を使って王都を目指すことにした。
王都にはギルドがある。てことは、
もしかしたらレアガチャも……。なんて事を考えていると、
あれ、やばい。なんかまたハルカの機嫌が悪くなっている気がする。