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第十三話『そう思わせるくらい、この日の夢にはおっぱいが出てきた』

 ゴブリン・キングの首飾りを町役場の窓口に持っていくと、

 美人の受付嬢さんは驚いた表情をした後、

 成功報酬プラス特別ボーナスとして、5万ジェルをくれた。

 相変わらず相場が分からんから高いのか安いのか区別が付かない。


 でも深夜なのに役場が開いてるってのはいいよな。

 日本も真似したらいいのに。



 その後中年司令士はというと、微妙そうな顔をして一応はお礼を言い、

 剣士を病院に連れていくということで、もっと大きな街へ向かった。

 命を助けたも同義なのに、それだけでいいのかって話なんだけど、

 俺としては、森からこの町に帰ってくるのに、

 おっさんが乗ってきたっていう馬車に便乗させて貰っただけで十分だよ。

 暗い森の中を、またあれだけの距離歩くのは、勘弁してもらいたい。


 弓使いのアーニャと杖使いのパトリシアは、

 仲間になりたそうにこちらを見ている気がしたが、

 人のユニットを寝取る趣味は無いし、

 俺がノーと言う前から、ハルカが拒否するオーラをプンプンに発していたようだから、

 結局彼女達はおっさんと一緒に馬車に揺られて行ったよ。


 俺の戦い方を見て、あのおっさんが上達してくれればいい。

 なんて自惚れたこと言う気はないけど、

 あの娘達が、少しは契約を交わす司令士を選んでくれたらな、とは思うよ。



 さて、もうだいぶ夜遅い時間だし、

 役場に紹介してもらった宿へ向かうことにしよう。

 でも、5万ジェルで二人分の部屋取れるのかな?


「ハルカ、この国の物価ってどれくらい?」


 宿へ向かう道すがら、何となしに聞いてみた。


「物価? えぇっと……」


「あぁつまり、レストランで飯食うとしたら、一食いくらくらいが相場だ?」


「それなら、一食一人分で大体千ジェルくらいです」


「そっか、分かった。ありがとう」


「そんな、ありがとうだなんて、私はマスターのお役に立てたのなら、それだけで嬉しいです」


 赤面しながら俯くハルカ。うむ、可愛い。


 しかし飯が一食千ジェルって、日本とあんま変わらなくないか?

 相場が日本円と似てるとなると、色々助かるんだけどな。



 宿に着いて料金表を見ると、

 案の定、ジェルの相場は日本円と同じ感じだ。


「むむむ、一人部屋で一泊4千ジェルですか~」


 ハルカは料金表を指でなぞり、独り言にしてはやけにでかい声で言った。


「あれれ? でも二人部屋なら一泊6千ジェルですね~」


 こちらをチラチラと窺いながら、随分とわざとらしい言い方をする。


「一人部屋を二つ借りるとなると、えっとぉ、8千ジェル掛かっちゃいますねぇ」


「一人部屋を二部屋、一泊で」


 宿屋の主にそう告げて、貰ったばかりの封筒から1万ジェル札を取り出す。

 紙幣の大きさも手触りも日本円に似ていて、違和感が無いな。


「そんな! マスター、どうしてです? 二人部屋の方が2千ジェルもお得なんですよ!?」


 ハルカさん、君は前のめりになってそう言いますけど、

 2千ジェルと自分の貞操を天秤に掛けてみなさいよ。


 中学高校と、女子との触れ合いが少なかった俺でも、

 ハルカが俺に好意を向けてくれているのは分かる。


 自分に好意を抱いている赤髪ポニテの美少女が、一晩中、隣のベッドで眠っている。

 そんな状況になったら、流石に間違いを犯さない自信がありません。


 でも彼女の好意は、あくまで『司令士』として尊敬してくれているってだけだ。

 そこを勘違いして下心を抱くなんて、男として駄目だろ!


 ……いやちょっとまて、もしかしたら俺に襲われたところで、

 炎で丸焦げにできるって自信の表れなのかも。

 だ、だとしたら、なおさら別の部屋にしなければ!


「年頃の男女が、同じ部屋で一晩過ごすわけにはいかんからな」


 主からお釣りと部屋の鍵を二つ受け取り、

 そのうちの一つをハルカに手渡す。


「むぅ~、私はマスターと同じ部屋がいいのに……」


 子供みたいに頬を膨らませて、駄々をこねる姿は可愛いけど、

 それは聞けない相談ってやつです。



 鍵に書かれた番号の部屋の前に着き、扉を開こうとした時だった。


「マスター……」


 小さな声で呼ばれる。


「なんだよ、君もしつこいな。もう部屋の変更は――」


「同じ部屋になれば、前にマスターがした『命令(コマンド)』を実行できますけど……」


 伏し目がちに、口ごもりながら言うハルカは、

 なんだか妙に色っぽかった。


「前にした『命令』……?」


 はて、何か命令したっけな?

 全く思い出せないが……。


 そんな俺を見かねて、ハルカは顔を真っ赤に紅潮させながら、


「『服を脱いでみないか?』って命令を、マスターは下したでしょう?」


 口を尖らせて呟くのだった。


「あぁ、あれか……」


 確かに、「モンバス」をやり始めた頃にそんなことを言った記憶はある。


「あの時は急で、心の準備ができていませんでした。けど、今なら……」


 そう言って、ハルカは着ていた上着をはらりと脱ぎ落とす。

 そうして現れたのは、豊かな二つの丘が造り出す谷間である。


「いやいやいや! ちょっと待て!」


 あれは一種の気の迷いで本気じゃなくて!

 というか何でそれを君が知ってるの!?

 やっぱ君ゲームキャラなわけ!? いやそれよりまず、脱ぐな!

 そもそも「モンバス」は全年齢対象の健全なゲームだ!

 これじゃ怪しいエロアプリじゃないか!


「あの『命令(コマンド)』は解除だ! そして新たな『命令(コマンド)』! 今日はもう静かに寝なさい!」


 逃げるように自分の部屋に飛び込み、

 靴だけを脱いでベッドに潜り込んだ。


 タイトな服が作るおっぱいの谷間とか、

 ハルカがゲームの時の記憶を持っていたとか、

 やっぱあのまま全裸に剥いてやればよかったとか、

 そんなことを思い起こしつつ、

 いつの間にか俺は、疲れと混乱で眠りに落ちていた。


 ……やっぱ本物を見ときゃよかった。

 そう思わせるくらい、この日の夢にはおっぱいが出てきた。

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