第九話『別に良いけど。そこでじっとしてくれてさえいれば』
「よし、それでは攻撃を仕掛けよう」
中年司令士が動き出すようだ。
お手並み拝見と言ったところだな。
「ゴブリンは自然属性だ、そうなると同属性と水属性では、いまいちダメージを与えられない」
そのくらいは考えられる頭はあるんだな。
それならクエスト開始前に炎属性の戦士をパーティに入れておけ!
もしかして持ってないのかな?
だったら炎属性のザコドロップが出るまで、
素直にヘーリア草原でスラモン狩っとけ!
「よって、今回は無属性のロジャーに戦ってもらう。ロジャー、付いて来い! 他の二名は待機だ」
ロジャーと呼ばれた無属性の剣士は、中年司令士に付いてゴブリンの巣穴へと向かう。
待機を命じられた他の二名は、彼らに声援を送るばかりだ。
……は?
「いやいやいや! ちょっと待て!」
「どうした、新米君?」
新米君だぁ? いやそれは後でいい。
「なんで三人でパーティ組んでんのに、1体だけで戦おうとしてんだよ!?」
「君ねぇ、司令士なら属性の相性くらい学んでおくべきだよ? 親切な私でもそこまでは面倒を見きれない」
「いいからそこで見てなさい」と、
中年司令士は剣士だけを連れて巣穴へと向かってしまう。
俺が言いたいのはそんなレベルの話じゃないんだ。
確かにゴブリン相手に同じ自然属性と、
相性の悪い水属性ユニットじゃダメージは通りにくい。
だがこの二人は、支援を得意とする弓使いユニットと魔法使いユニットだ。
運用次第では剣士ユニットを援護して、
戦いを有利に展開することもできるってのに……。
「あぁ、そうか……」
所詮は『NPC』か。
思い出したけど、攻略サイトとかで、
「『NPC』が1体のユニットにしか指示を出さなくなる時がありますが、バグではありません」
って書かれてたことがあったな。
あれは、こういうことだったのか。
そう思うと、なんだか可笑しくなってくるな。
呆れながら笑っていると、
動物の鳴き声のような悲鳴が聞こえてくる。
これはゴブリンが攻撃を受けた時に発する鳴き声だ。
ロジャーとかいう剣士が、ゴブリンに攻撃を加えているんだ。
「あーあ。やっちゃったよ」
ゴブリンの鳴き声を聞き、思わずぼやいてしまう。
「マスター、やっちゃったって、何をですか?」
ハルカが問うと、待機を命じられた二人の戦士もこちらを窺う。
「ゴブリンはあの鳴き声で仲間を呼ぶんだ。だから、鳴く隙を与えないよう一撃で倒すのが一番良い」
「一撃で倒せない場合は、どうするんですか?」
名前も知らない自然属性の低レア魔法使いが、心配そうな顔をして聞いてくる。
「気付かれないように背後に回って、ヒットアンドアウェイがセオリーだな。時間はかかるけど、安全だ」
「では、真正面から斬りかかるっていうのは……?」
「最低の悪手だな」
待機中の二人の顔から血の気が引いていくのが分かった。
「君達、主人と仲間が大事なら、応援に向かう準備をしといたほうがいい」
「でも、私達は待機を命じられていますから……」
「あたしらが行かなくたって、ご主人とロジャーならやってくれます!」
水属性の弓使いが強気に言うと同時に、
ゴブリンの最期の断末魔が森の中に響き渡った。
「ほら、やった!」
巣穴の方を窺うと、二匹のゴブリンが地面に横たわっている。
たった二匹を倒しただけなのに、剣士の方はかなりお疲れだ。
これで残り八匹倒せるのか?
けどちょっと待て、少し様子がおかしい。
ゴブリンがあれだけ鳴き声を発していたのに、
仲間が出てきて応戦する様子が無い。
これは一体……?
確か、ゴブリンが鳴き声を発しても仲間が現れないパターンがあった。
なんだっけな。
「……そうだ!」
思い出した。
このパターンは、あれだ!
「前言撤回! 君達はここで待機しとけ、君らの主人は俺らが助ける!」
おそらくこの二人は俺が何を言っているのか、
意味が分からなかっただろうな。
別に良いけど。そこでじっとしてくれてさえいれば。