プロローグ『夜の星空を見上げながら、意識が遠のくのを感じていた』
『モンスターバスター』
それは、累計ダウンロード数ウン千万を誇る超人気スマホアプリゲームだ!
とは言ってもまぁ、概要はよくあるスマホゲーなんだけどな。
ガチャで強いカード引いて、アイテム食わせて育てて、ボスを倒すっていう。
でも俺はそんな『モンバス』に、
あぁ『モンバス』ってのは『モンスターバスター』の略称ね。
で、俺はこんな『モンバス』にドハマりしちまった。
どのくらいドハマりしてしまったかというと、
これに課金したいがためにバイト始めて、そのせいで勉強する時間が無くなって、
大学受験がボロボロになるくらいのドハマり。
そりゃ両親からは怒られたね。
過去生きてきた十八年間で一番と思うくらい怒られたよ。
でもま、バイトしながら予備校通うって泣きながら土下座したら許してくれたよ。
うちの両親はちょろくて助かる。
モンバス? あぁ、もちろん続けてるよ。
やめる気なんてさらさら無いね。そのくらい面白いんだもの。
なんたってキャラデザがいいよね。基本的に可愛い女の子ばっか。
そらムサっ苦しい男キャラも少しはいるけど、基本的に使わない。
別にキャラだけじゃないよ。システムだって面白いんだ。
ただポチポチ画面をタップするだけじゃないんだよこのゲーム。
音声認識を採用しているらしくて、俺が画面に向かって喋ると女の子が、
「はいっ! マスター!」って指示通りに行動してくれるんだ。たまんないよね。
……そら俺だって男だもの。
「服を脱いでみないか?」って指示を出したこともあると認めるよ。
でもその時は、
「マスターが何を仰っているのかよく分かりません……」だってさ!
画面からはよく分からなったけど、頬を赤らめて恥じらう姿が目に浮かぶようだよ!
……いや、分かってるよ。単に音声を聞き取れなかった時のテンプレってことくらい。
でも、脱衣機能がついていなくても「モンバス」は素晴らしいゲームなんだ。
俺はもう数えたくないくらいの金額を「モンバス」につぎ込んでいる。
その為にバイトをして、今だってそのバイトの帰り道さ。
昼は予備校、夜はバイトの二重生活は疲れるけど、「モンバス」があれば大丈夫!
バイトの給料のほとんどをこいつにつぎ込んできたおかげで、
最近はようやくランキングで1位を取ることができたんだ!
配信開始以来ずっと1位だった奴を陥落させたってことで、
ネットの隅っこのほうでちょっとしたニュースにもなったんだぜ。
ランキング1位のところで輝く『アレン』という俺の名前を見るだけで、
全ての疲れが吹き飛ぶようさ。
おや、午前零時を回ったね。
日付が変わると日替わりのイベントが始まるから、
すぐにログインしてチェックしなきゃ!
……あれ、おかしいな。ログインできない。
画面がずっと『Now Loading』のままだ。
回線が混雑してるのかな? それとも急なサーバーメンテ?
お、新しい画面が表示されたぞ…………ん?
『セーブデータが破損しております。あなたのゲームデータは全て消えた可能性があります』
これ、ドユコト?
「な、なんじゃごりゃああああああああああああ!」
夜遅いってのに叫んじまった!
「お、おおお、俺のおおおおおおお! セーブデータああああああああああ!」
だってしょうがないじゃん!
シコシコと課金して育ててきた大事なセーブデータが、
いきなり消えたかもなんて言われたら、誰だって発狂するだろ!
「ふっざけんなあああああああ!」
勢いそのままスマホを地面に叩きつける!
コロコロと転がるスマホ! 叫び続ける俺!
はっ! そうだ忘れてた!
IDとパスワードを控えていれば、データを復旧してもらえるんだった。
もちろん俺はちゃんと書き写してある。
そうとなると発狂している場合じゃねぇ!
地面に叩きつけちまったスマホが無事かどうか確認しなければ。
すぐさまスマホに飛びついて電源がつくかを確認。
あれ、やばい、画面が暗いままだ……。
その時、真っ暗なスマホ画面とは対照的なまぶしさが俺の目を襲う。
車のフロントライトだ。あ、ここ車道じゃん。
そんなことを思った時には、俺の身体は強い衝撃受けて吹っ飛び、
夜の星空を見上げながら、意識が遠のくのを感じていた。