QUEST 5 『思考』
突然の出来事に呆然とする。
「これはまさか、誘拐……?!
誰が誘拐されたんだ?!もしかして、ユゥかい?」
「寒い、寒すぎますわ、旅行で行ったシベリア以上に寒すぎますわ」
ショーの北極級の寒いボケに
ミカエールのセレブっぽい突っ込みが冴えわたる。
……が、今は漫才をしている場合ではない。
「どどどどうしよう、交番、警察庁、自衛隊、SAT、FBI、119番
どどどどれに電話すればいいんだっけ」
「ショーさん、あなたは少し落ち着かれた方が良いと思いますわ
誘拐されたといっても所詮ゲームの中ですことよ」
混乱するショーにミカエールが落ち着くように促す。
「あぁ、そうだよな。とりあえず話を整理しよう
ユゥは何らかの手によって誘拐された。」
「でもそれっておかしくありませんこと?」
「うん、街の中のPK行為は基本禁止されている
だとしたらお菓子を餌にほいほい付いて行ってしまったとか」
「今時の高校生がお菓子で釣られるとは思えませんわ」
「いや、あいつならあり得る。
まぁ、その詳細も23時の「夜の帷亭」でわかることだろう」
「それもそうですわね
では、わたくしは周辺で何か不審なことがなかったか
聞き回りに行かせていただきますわ」
「あぁ、じゃあ22時30分になったらまたここで落ち合おう。」
─
メインストリートを逸れた路地裏に一軒のプレイヤーの経営する服屋があった。
店の名は『ファッションセンター・とらうま』
店のモットーは安く、着易く、ファッショナブルにだそうだ。
店主のスランプ氏は物腰柔らかく、腕も確かだ。
ただ、店名と店主の名前のせいで損をしていると思う。
ショーはこの店でさっき注文した装備を取りに戻っていたのだった。
「やぁ、お目当ての物は完成したよ。結果は大成功
この店が始まって以来の渾身の出来だよ、気に入ってくれると嬉しいな」
店主のスランプはそう言うと装備一式を手渡してきた。
どれどれと渡されたものを確認する。
NAME:サファイアヘルム
部位:頭
効果:防御+8 致命的攻撃を受けた時、生き残る時がある。
説明:額の部分に青い石があしらわれている額金。
NAME:サファイアジャケット
部位:体上
効果:防御+13 状態異常時STR+10
説明:両肩の部分にあしらわれた青い石がシャレオツなジャケット。
NAME:サファイアジーンズ
部位:体下
効果:防御+10 回避率+1%
説明:ベルト部分についた青い石のアクセがイカすジーンズ。
NAME:サファイアグローブ
部位:腕
効果:防御+6 クリティカル率+5%
説明:甲の部分に青い石があしらわれたカッコいい手袋。
NAME:サファイアシューズ
部位:足
効果:防御+7 移動速度+2% 回避率+3%
説明:青い石があしらわれた靴。
「なんだこれ、すごい性能じゃん。今着てる初期装備の数倍以上はあるぞ
これ、本当に貰っていいのか?」
「あぁ、一度出した物はひっこめない主義だからね
遠慮なく持っていくといい」
IOは完全スキル制なのでテクニックの反復使用以外でステータスを上げる場合
より強い装備を身に着けることが必要となってくるのだ。
そしてこれから始まるであろう戦いに備えるべくここに来たのだ。
「あーそれと、この服誰が作ったのとか聞かれたら
『ファッションセンター・とらうま』の店主に作ってもらったって言っといてよ」
「おう、まかせときな」
そう言って店を後にする。
なんかステマ(ステルス・マーケティングの略)の
片棒を担がされた気がするが良い装備が手に入ったし良しとしよう。
─
装備を整え終わり、噴水広場へ戻ってくる。
今度は遅刻せずに余裕をもって戻ることができた。
広場には亜麻色の髪とその上に浮かぶ光の輪、背中に翼を生やした少女がいた。
「ミカエールさん、今戻りました。」
「あら、そのお洋服どうなさいましたの?
なかなか、お似合いですことよ」
「『ファッションセンター・とらうま』の店主に作ってもらいました!」
さっそくステマを開始する。
これでとらうまも商売繁盛間違いなしのはずだ
「そんなことより、何か情報は得られたか?」
「えぇ、それはもうバッチリですわ」
ミカエール曰く、ユゥを攫ったのはここら周辺のフィールドで
冒険者とNPCから略奪行為を行う盗賊団が関与しているとのことだった。
そして、この街における彼らの拠点が酒場『夜の帷亭』というわけだ。
「そろそろ時間だな……いこう、夜の帷亭へ」
辺りはすっかり更けこみ、街は闇に包まれる。
ここ、酒場『夜の帷亭』はメインストリートの外れの路地裏にこっそりと建っていた。
中は賑わっており、ガラの悪い街の不良とか酒臭いおっさんとかその道の人とか
男なのか女なのかわからない今時でいえばオネエ系な人等がいて
色んな意味でカオスな場所だった。
「よぉ、ボウズ!
おまえが飲めるもんはここにはねえぞ!」
客の酔っ払い親父がそう言うと、どっと店中に笑いが起きる。
「なにここ……、用事済ませてはやく帰りたい……」
「何言ってますの、はやく雨宮さんを探さないと」
「へへへ、お嬢ちゃん可愛いねえ、ちょっとサービスしてくれや」
「きゃあっ、なにをなさいますのっ!!?」
ガラの悪い酔っ払いがそう言うとミカエールのお尻に手を伸ばしてきた。
うらやま……いや、なんでもないです。
「少し、おいたが過ぎましてよっ!!!」
ミカエールはそう言うとガラの悪い酔っ払いにビンタを一発かます。
ガラの悪い酔っ払いは1メートル近く吹っ飛ぶ。
「痛てえじゃねえか……女だからって調子に乗りやがって
おまえら、やっちまえっ!!!!!」
ガラの悪い酔っ払いがそう言うと
一緒に飲んでいたその仲間たちが俺たちに襲い掛かる。
「っ!?街の中なのに戦闘ができるだと、一体何がどうなってるんだ?!」
状況確認のため、システムログに目を置いてみることにした。
*クエスト『酒場の乱闘』が発生しました。
*これにより酒場『夜の帷亭』は一時的に戦闘可能エリアになります。
なるほど、これが原因みたいだな。
良い機会だ、新装備の性能を試させて貰おう。
次々と襲い掛かる暴漢の猛攻をかわしていく。
体が軽い、まるでひらひらと舞う花弁のように動ける。
「米斬りぃッ!」
ユニークテクニック、米斬り。
米の字を書くように敵を斬る6連撃の接近系テクニック。
ちなみに、このテクニックで攻撃し終わる前にターゲットが
死んだ場合、残った連撃は近くにいる敵に当たるようにイメージしてある。
1、2発で死ぬ雑魚には実質範囲攻撃となる。
「おめえら、あの斬撃の発動中は脇ががら空きだ!そこを狙えっ!」
ほう、ただの酔っ払いだと思っていたが少しは頭がキレるようだ。
しかし残念。
「脇ががら空きなのはあなた方も同じですってよ!ヒュプノスランス!」
ミカエールは持っている槍に青い光が宿り
暴漢どもを一突きにしたと思うと光が暴漢達を包み、眠らせた。
あれもきっとユニークテクニックなのだろう。
そうこうしていると暴漢達は全滅し、他の客達は自分が巻き込まれるのを
恐れたのかみんな帰っていってしまったようだ。
「結局、なんかぐだぐだになっちまったな」
「まだこの酒場のどこかに雨宮さんがいるかもしれませんわ
手分けして探しますわよっ!」
というわけでミカエールは今いた1階を
俺はまだ探していない2階を探すことになった。
2階は宿になっており、3つくらい部屋があった。
1部屋ずつ探してると3部屋目で誰かがいた。
ユゥだった、ちなみに爆睡している。
ここでいう爆睡とはゲーム的な状態異常であって
この状態異常で自動ログアウトにはならない。
「おい、ユゥ!起きろ!」
「ぐはっ!?」
俺はユゥを軽く小突き、爆睡状態から解放させる。
「で、いったい何があったんだ?」
「いやー、まいったよお
広場で休んでて、いきなり背中をブスッと刺されたかと思ったら
まさか状態異常バグで眠らされてこんなとこにいるんだからー」
「状態異常バグ?」
「あれ、言わなかったっけ
街の中じゃ基本攻撃できないけど、状態異常系のテクだけは
他のテクのように街中で使うとダメージが0の代わりに
なぜか状態異常だけが発生するってバグ」
「そんなバグがあったのかよ!仕事しろ糞運営っ!!!」
「まぁ、状態異常系のテクはユニークテク限定だし
この手のテクは廃人レベルじゃないと使いこなせないから
運営もそんなに問題視しなかったんじゃないかな?」
しかし、ここで一つ疑問が生じる。
何故、犯人はユゥを誘拐したのか、ゲームの中で誘拐したって
身代金を請求できるわけがないしメリットも薄い。
悪戯にしては手が込みすぎている。
だとすると何か恨みがある者の犯行か?
その瞬間、ショーの背中に何かが襲った
…が、ショーは自分を襲ったそれを片手で掴み、受け止めていた。
「誘拐犯はあなたですね、……ミカエールさん」
そこにいたのは槍をショーに向けるミカエールの姿だった。
なんだろうこの推理小説もどき