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QUEST 4 『白翼の天使』

 何もかもが闇に包まれていた。

ここがどこかは定かではない。


─我……を……っ!


 頭に語りかけてくるかのように声が響く

以前、どこかで聞いたような声だ。


─我の名を叫べっ!!


正体不明の何かはそう頭に語りかけると

こちらに向かって襲い掛かる。


「うわああああああああああっ!」



 白い天井、壁にはゲームのキャラのイラストの描かれたポスター

机の上には携帯ゲーム機とそのソフトが散乱している。

頭にはVRハードであるジェネシスを被り伸びきった黒髪黒眼

いい加減なデザインのTシャツを着た少年、ショー、もとい日暮翔は

悪夢にうなされていたのかベッドから飛び起きていた。


「はぁはぁ、ゆ、夢か…。

 ん、頭にジェネシスが付いたままになってら

 そうか、俺寝落ちしてたのか」


 イデアオンラインではプレイヤーが寝落ちすると

自動的にログアウトするシステムになっている

みんながずっとログインしてたらサーバー維持とか大変だろうから

その緩和策なのだろう。よく考えている。


 時計を見ると午前3時、まだ夜は続きそうだ。


「……寝るか」


 そういうとまだ温もりの残る布団の中へと潜り

再び眠りの世界へ戻るのだった。


──


 どこにでもある白い建物。

ずらっと机の並んだ部屋にはタッチパネルの黒板

全ての机にはPCが設置されており、どれも最新モデル

…とまではいかないが教育には申し分の無い設備だ。

そう、ここは学校。我らの学び舎、学校である。


 授業終了のチャイムが鳴り、昼休みに入ったのか

生徒たちが食堂に集まってくる。

どこのテーブルも生徒で埋め尽くされているのだが

何故か一つのテーブル周辺の席だけ空いていた。


「テクをどんどん繋げて連続技(コンボ)として圧倒するべきか…ブツブツ」


 空いているテーブルの一席でぶつくさ言っている少年は

左手でメモ帳を読み考えつつ、右手でスプーンを持ち

カレーライス(定価250円)を食していた。

そんな彼の奇怪な行動に退いたのか生徒は皆、彼を遠ざけているように見える

彼の名前は日暮 翔、どこにでもいる普通のイケメン(ぼっち)である。


「おーっす、日暮ぇー!

 お、なんだ席空いてるじゃん、ラッキー!」


 図々しく席に座り、運んできた定食(定価300円)にがっつく彼女

見た目は美少女、中身はガチオタ、その名は廃ゲーマー雨宮優菜である。

しかし、そんな彼女に目もくれず、日暮 翔は持っているメモ帳を凝視していた。


連続技(コンボ)にするにしてもクールタイムとかも考慮すると

 やはりテクの数が足りないな……

 やはり、ユニークテクも積極的に使わないと…ブツブツ」


「んもーっ、さっきから何見てんの、見ーっせて!えいっ」


 優菜はそう言うと彼の持つメモ帳を奪い取った。

メモ帳には"IO徹底攻略丸秘メモ(俺専用、絶対見るな!)"と書かれていた。


「んな、雨宮っ、いつの間に!?

 うわあああ見るなああああエッチいいいいいっ!!!」


「おー、コモンテクの使用法にMOBの行動パターンから

 特徴まで細かく書かれてるー」


「隣、座ってもよろしくて?」


 二人がそうこう騒いでいると一人の女生徒が話しかけてきた。

金色の髪に両サイドをリボンで結んだツインテール。

そのツインテールはカールされており、手の込み様が窺える。

彼女の口調、そこから漂う強気なオーラはイメージにすると

お嬢様とでもいえば良いだろうか


「あー、どうぞどうぞ、席なら空いてるんで」


「日暮、この人と知り合いなの?」


「ははっ、知り合いも何も彼女は学校じゃちょっとした有名人だぞ」


「C組の雨宮さんでよろしかったかしら

 わたくしはA組の雲城(くもしろ) 美華恵(みかえ)という者ですわ

 以後、お見知りおきを」


─雲城 美華恵

大企業、雲城財閥の社長令嬢。容姿端麗、成績学年トップ、運動神経抜群。

現実では絶滅危惧種のお嬢様言葉を自然に使う様は

彼女が本物のお嬢様であることを示している。

ちなみに学校の美少女ランキングで上位にランクインしており

毎日のように男子生徒から告白を受けているとか


「雲城さん、俺たちみたいな学校序列(スクールカースト)ワーストの

 俺らと関わるのはあなたの立場的にも悪いのでは?」


「あら、わたくしはそんなつまらないものには興味はありませんわ

 わたくしが興味があるのはむしろあなた方といえばおわかりかしら?」


 突如周囲がざわめく、学校序列上位の彼女が

学校序列を下から数えた方が早いであろう二人に興味を示したからである。

ある男子生徒は発狂し「なんであんな冴えない野郎が雲城さんに!」とか

「雨宮だけじゃ飽き足らず雲城さんにまで手を出すなんて!

 あいつは悪魔とでも契約してるのか?!」

……とか聞こえた気がしたけど聞かなかったことにした。


「イデアオンライン、ご存じでして?

 あなた方がこのゲームをしていることを噂で耳にしましたの

 そしてわたくしもイデアオンラインをプレイしていますのよ

 今度、もし良かったら一緒にパーティでも組みませんこと?」


「同じ学校の生徒同士でパーティか、良いねえっ!

 じゃ、今日の21時に皇都『センティデア』の噴水広場で

 待ち合わせってのはどう?」


 ここで雨宮が雲城の話に喰い付く。

雨宮という人間は昔から友達を作るのが苦手なのだが

共通の趣味があると知ると急に馴れ馴れしく絡んでくる奴なのだ。

初めて日暮が雨宮と会った時もきっとこんな感じだったのだろう。


「よろしくてよ、それでは次会う時はイデアの世界で。

 またお会えになれるといいですわね。おーほっほっほっ!」


雲城は席を立つと高笑いをしながらどこかへ行ってしまった。


「いやあ、変わった人だったねえ」


「……はぁ、なんか知らんが疲れた」



 丸い円盤の上に海、島々、大陸が軒連ねる天動説の世界、幻想界(イデア)

イデアにはイディリア皇国というこの世界を治める統一国家が存在し

イディリア皇国は東イデア、西イデア、南イデア、北イデアの4つの地方

そして皇都『センティデア』がある中央イデアを合わせた

5つの地方で構成されている。


 茶髪蒼眼、濃いめの青のジャケットを着た少年、日暮 翔もとい、ショーと

青い髪にアメジストのような瞳、紫の魔法帽とローブを纏った女性、ユゥは

ここ、皇都『センティデア』に足を運んでいた。


「あー、やーっと着いたー」


「約束の時間よりちょっと早く着いちゃったねー。

 ここらで自由時間にしない?約束の時間の5分前には

 この噴水広場で落ち合うってことで」


「おう」


 皇都『センティデア』は周囲が強固な城壁に囲まれた巨大な城塞都市であり

各地方から様々な種族の冒険者が集まってくる。

そして内部の建物は壁は茶色い煉瓦、屋根は赤い煉瓦となっており

ヨーロッパの都市を思わせる作りになっていた。


 ショーは路地裏に一軒の店を見つける。

店の看板には"ファッションセンター・とらうま"と書かれていた。

名前を見た感じプレイヤーの運営する服屋のようだが

いかんせん、いろんな意味で不安にさせる名前だ。


「やぁ、いらっしゃい

 私は店主のスランプだ、よろしくね」


 店に入ると店主らしきプレイヤーが出迎える。

店の名前といい店主の名前といい、どうしてこうも不安にさせるのだろうか。


「服を作ってほしい、軽くてそこそこ丈夫な奴」


「オーダーメイドかい?

 素材はこっちが用意するけどお代は大丈夫かな?」


「金は……これで、あと俺の持ってるこの素材を主材料に使ってくれ」


 ショーはそういうと10万イディアとアイテム『青い結晶』×5を出した。


「おぉ、ずいぶん良いもの持ってきたねえ

 金も十分みたいだし、今私が持ってる最高級の素材を副素材として出そう」


 店主はそう言うと裁縫針を右手に装備し

メニューコマンドから生活系(ライフ)テクニック『裁縫』を発動させ

俺の持ってきた『青い結晶』を主材料に選択、副材料は店主の用意した素材を

いくつか選択する。


 IOにおける生産は主材料と副素材で決まるといっても過言ではない。

どんな性能の物が出来るかは基本ランダムなのだが

良質な素材を使うほど性能の良い物が出来やすくなる。

そして生成される装備のデザインは製作者のイメージ力で決まるため

センスのある生産者はどこでもひっぱりだこなのである。


「完成には現実時間で約1時間くらいかかる

 その間、どこかで時間を潰してておくれよ」


「あぁ、よろしく頼む」


 そう言って店を後にした。

頼むから失敗だけはやめてほしい。



 一方その頃、ユゥはというと

メインストリートでショッピングを堪能し噴水広場に戻ってきていた。


「ふぃ~っ、なかなか良い買い物ができたよ」


 ユゥは満足にショッピングができてご満悦の様子だった。

ベンチに横たわり束の間の休憩をとるユゥ。

そんな中、ユゥの様子をうかがう人影が


「あの、すいません」


「んん?……うぐっ?!う……ん……っ」


 後ろから話しかけられたユゥは振り向くと眠り薬を仕込んだハンカチで

口を押さえつけられる。

意識は徐々に失い、その人影はあろうことかユゥをどこかへ運び去ってしまった。



「やっべー、約束の時間に遅れるぅー

 雨宮と雲城さんに怒られるぅー」


そしてショーはというと、約束の時間に遅刻しそうになり

全速力で噴水広場に向かっていた。


「よーっし、噴水広場だー!

 遅刻はまぬがれ……どわぁあああああっ!!!」


噴水広場に到着し、遅刻は免れたもののショーは

一人の少女にぶつかってしまった。


「いっててて…うわあああああああああああああああ

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ」


「んもう、次からは気を付けてくださる?

 今のわたくしだったから許されたものの、これが現実(リアル)だったら

 今頃、あなたは……」


この今ぶつかった彼女、亜麻色の長い髪、キリリとした凛々しい目

白い衣の上に鉄製の胸当てを装備している。

さらに特徴的なのは頭の上に光の輪が浮かんでおり

背中の二枚の白い翼は今にも羽ばたきそうである。

そしてこの自然にお嬢様言葉を使いこなすのは間違いなく彼女しかいない。


「あの、もしかして……雲城さん?」


「えぇ、そうですわよ。というかあなた、何でわたくしの名字を知ってらして?

 あら……、あなたどこかで見たような……、もしかして日暮君?」


「ああ、やっぱりっ!

 もしかしてと思うんですが雲城さんの種族って」


「えぇ、わたくしの種族は天使。

 それと、ここではわたくしの名前はミカエールとお呼びくださいませ」


「おっと、そうだった。

 俺もここではショーって呼んでくれ。」


 IOにおける最初に選べる種族の一つ、天使。

MINDは5種族中最高、しかしSTRや接近戦関連は最低。

MINDが高いため、ヒーラーを始めるにはうってつけの種族である

この他にも天使は弓の扱いに長け、他の種族よりも弓系のテクニックの

成長のボーナス補正が全種族中トップなのも見逃せない。


「でも、雲し……、ミカエールさんは天使なのに弓じゃなく

 槍を装備しているんですね」


「えぇ、わたくしにはこっちの方がしっくりくるみたいですの」


確かにミカエールの装備している槍はこれでもかというくらい似合っている

さながら、神話に出てくる天使の兵、そんな雰囲気だ。


「ところで、ユゥ……雨宮の奴、見ませんでしたか?

 ここで落ち合う約束をしていたんだけど」


「あらっ、わたくしは存じ上げないですわね

 わたくしはてっきりショーさんとご一緒だとばかり」


「ま、あいつのことだから約束の時間を忘れて

 どっかほっつき歩いてるんじゃないかなあ

 ……ん、こんなところの紙が、何か書かれてるな」


 その手紙の内容は驚くべき内容だった。

"貴様の連れは預かった。助けてほしくば今日の23時、酒場『夜の帷亭』に来い"


お嬢様言葉を書くのに苦労しました。

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