QUEST 2 『修行』
どこにでもある学校。なんの変哲もない教室。
ただ違うのは机には一台ずつPCが設置されていることくらいか。
放課後、机で頬杖をつきながら少年は少女と話をしていた。
「あのキラービーストってモンスター、初心者エリアには出ないんだってな」
「うん、あいつは上級者用の狩場に出てくるMOBで初心者エリアに現れるなんて
まずないかな」
「結局あの獣には逃げられるしで、なんかすごい気がかりなんだよな…
あのMOBなんか他のやつと
違うような感じがしてるっていうか」
「まあ実際IOのAIはすごいからねー、びっくりするのも無理ないよ
あんま気にしない方がいいって」
俺の名前は日暮翔。
先日、馬鹿親父が送ってきたVRマシンジェネシスと
IO(イデアオンライン)の ソフトを手に入れた俺はIOで遊んでるらしい親父を
一発ぶん殴るべくIOの世界に飛び込んだのであったのだが
ゲーム開始早々、初心者エリアにいるはずのないキラービーストに
襲われている最中、幼馴染優菜ことユゥと
そのパーティの協力もあって無事生還したのであった…
「以上、前回のあらすじでした」
「誰に話してんの?」
「気にすんな独り言さ」
「そんなことより今日もINするよね?なんなら戦いのレクチャーしてあげるけど」
「優菜、俺は生まれて一度もゲームするのに説明書は見たことはない!」
えっへんと胸を張る
「自慢にすらならないことを自慢しないでください~」
「ま、そういうわけだからしばらく一人でいろいろやってみるさ」
「そう、じゃあ困ったことがあったら連絡してよ」
─
…2時間後
「優菜!俺に戦い方を教えてくれ!」
「よし、じゃあまず話を聞こうじゃないかショー君」
ショーは何故かボロボロの状態で帰ってきたのだ
─
…30分前
東イデア ジョヴァ地方 名もない平原
このフィールドは比較的雑魚モンスターが生息しており
初心者たちの狩場となっている。
そんな平原に一人の少年はひたすら剣を振り続けていた。
「ふんっ!ていやっ!」
茶髪の蒼眼、青色のジャケット、顔は弄ってないため
比較的ナチュラルな印象を受ける。
少年の名は日暮翔、もっともこのゲームの中ではショーという名前で
プレイしているのだが
彼は何をしているのかというとキャラ強化である。
このIOは従来のMMOのシステムであるレベル制を取っていない。
全てのステータス、テクニックは反復使用で成長する熟練度方式をとっている。
狩場でMOBを狩り、MOBの沸きが止まったら今度は素振りを繰り返す
こうすることでSTRに熟練度が貯まっていきSTRが上がっていくのだ。
「だいぶ倒したな…アイテムもかなり手に入ったし」
「そっかーそれは良かったネ!」
次の瞬間、ショーの顔を何かが掠った。
「矢…だと?」
「あーりゃりゃ、外れちゃったカー!」
「お前、誰だよ」
金髪のツンツン頭、細マッチョでレザーアーマーを着込んで
その手にはボウガンを握っており、頭上にはスティーブと書かれていた。
「俺はモンスターじゃねーぞ狙うならあっちのMOBを狙え」
「あ?僕はMOBじゃなくて君を狙ったんだけド?」
そう言い捨てるとボウガンを構え矢を放ってきた。
矢がショーに襲い掛かる!
「ぐっ!」
「あーひゃひゃひゃ!次で終わりだなァ?!」
「黙ってりゃ好き勝手しやがってこれでも喰らえ!」
ショーは持ってる剣を振り回し金髪の男に一撃を与えた
…が、あまりダメージが出なかった
「…?」
「えっ」
ショーはテクニックを放ったつもりだったのだがその威力はあまりにも
低く情けないものだった
「あっひゃっひゃっひゃ!おまえテクの使い方も知らねーのかヨ!
まったく初心者ちゃんは可愛いナ!」
「ちょっ、タンマッ」
「じゃ、死ねッ!」
ボウガンの引き金の音とともに辺りは真っ白になり、気づいたら
復活ポイントであるジョヴァの街に戻されていたのであった。
─
「今に至る!」
「要するに戦い方がわからないうちにPKに初心者狩りされたと…」
PK すなわちプレイヤーキラー
本来倒すべきMOBではなくプレイヤーを殺す行為だ
イデアオンラインにおけるPKの利点は
殺されたプレイヤーの所持品、所持金の一部を奪えるという事だ
日本人は比較的PKを嫌う傾向にあり、VRMMOというリアルな世界なだけあって
当然というか必然的に忌み嫌われる行為なのだ。
しかし少なからずPKを楽しむ集団が存在しており
PK禁止区域から出るときは必ず二人以上組んで狩るのがセオリーなのらしい。
なお、運営の見解は「ゲームの中の問題はゲームで解決すべき」で
セクハラ以外のトラブルは基本運営は関わってこない。
「くっそ、このままじゃ悔しくて夜も眠れねえっ!」
「なんなら私が代わりにそいつを倒してあげてもいいけど?」
キラキラ目を輝かせながら笑顔の彼女は言う
「いや、それは駄目だ」
そう、これは自分自身の問題なのだ。
例え誰かが代わりに復讐してもらったとしてもこの腹に煮えくり返る感情は
収まることは無いだろう
「これは俺の力で倒さないと意味がないんだ!」
「ふーん、濡れちゃった…抱ぃてぃぃょ…」
そう言い、ユゥは顔を赤らめながらはだけようとする
「俺は真面目に話してんだよ、真剣に聞けや!」
「あーはいはい、それでどうするの聞いた話によると
相手は君より強いっぽいけど」
「だから雨宮、おまえに頼んでるんだろ、なあ頼むよっ」
「しょうがないなあ、言っとくけどあたしは厳しいよ」
─
ジョヴァの街 西の外れの空き地
「ショー、君がスティーブってPKに負けた理由ってわかる?」
「火力不足…か?」
「半分正解、半分ハズレね」
「つまり、どういうことだ?」
「ショー、君はテクニックを使わずに通常攻撃しか使わなかったってこと
それも子猫が猛獣に必死に猫パンチしてるレベルの…ね」
子猫が猛獣に必死に猫パンチしても大したダメージは出せない
つまりそういうことである。
「俺は今までテクニックを使ってさえいなかったのか…
どうすればテクニックが出せるようになるんだ?」
「一言でいうならイメージ力とでも言えばいいかな
ショー、君のステータスって今どのくらい?」
俺はメインメニューを開き、ステータスを開いた
NAME:ショー
HP:178
MP:50
SP:53
STR:78
INT:10
DEX:55
MIND:10
─
EQUIP
右手:ビギナーズソード(ダメージ5~15)
左手:なし
頭:なし
体上:ビギナーズジャケット(防御+2)
体下:ビギナーズジーンズ(防御+2)
腕:なし
足:ビギナーズシューズ(回避率+1%)
アクセサリ1:なし
アクセサリ2:なし
─
ダメージ:60~93
防御力:5
回避率:1%
─
所持アイテム:ビギナーポーション×2 固くなったパン
所持金:537イディア
「ま、これだけあれば十分かな」
ユゥは俺に顔を向けると妖しくニヤリと微笑む
…何か知らないが嫌な予感がする。
「今から近くの川で魚を捕ってきてほしいの」
「魚、釣ればいいのか?」
チッチッチと人差し指を振るユゥ
「釣る必要はないわ、あんたの持ってるその得物で
魚を捕ってくればいいの」
俺の持ってる得物?
―ビギナーズソード
「……」
「……」
「俺は熊じゃねえええええええええ!!!!!」
─
東イデア ジョヴァ地方 名もない小川
茶髪蒼眼の少年は初期装備であるビギナーズソードを片手に川に向かって
剣を振るっていた。もうかれこれ300回以上振り回しているわけだが。
「だああああああああ!全然捕れん、やってられねええええええええ」
「だーかーらー、狙いを定めて金魚すくいの要領で魚をバーンとすくうの!」
「わかるか、そもそも俺は金魚すくいとかガキの頃から苦手なんだよっ」
「いい?今現実の私たちは頭にジェネシスを取り付けた状態で
寝てるのいくらゲーム内で体を動かしても現実はなにもしてないの
つまりゲーム内のあらゆる行動は脳内でイメージすることってことなの
要するに自己暗示して自分を騙すのよ」
「イメージねえ…」
IOではリアルで運動音痴な人でも想像力次第ではゲーム内で
そこそこの運動能力を発揮できる。
もちろんオリンピックの体操選手みたいな動きをするには
相応のステータスが要求されるわけだが
しかし、現実で運動ができる人はその動きのイメージが掴めてるため
運動能力はある方が有利なのは事実である。
ユゥの助言を頼りに再び川に向かって剣を構え
川を泳ぎまわる一匹の魚に狙いを定め
素手で魚を捕まえる熊のイメージをする。
そして集中を限界まで研ぎ澄ませる。
「そこだっ!」
バシュッと素早く剣を振ると地面に何かが落ちた。
*ジョヴァ鮎を獲得しました。
無機質なアナウンスが流れ、アイテム所持欄に魚が入ったようだ。
「よっしゃあああああああああああっ!!!」
「やるじゃん、とりあえず今の感覚を忘れないことね」
正直この漫画でありがちな修行みたいな事で本当に強くなるとは思えないが
ショー自身は今の達成感に満足しているようである。
「ていうか、さっきのは対人にはまったく関係ないよ
修行は始まったばかりなんだから!」
「まじかよっ!」
──
─
数日後
東イデア ジョヴァ地方 名もない平原
金髪のツンツン頭、細マッチョでレザーアーマーを着込んだその男は
スティーブと頭上に明記されていた。
そして、そのすぐ近くに茶髪蒼眼、青色の初心者服を纏った少年
ショーと頭上に明記されていた。
「へぇこの前の復讐に来たってわけかい
ただの初心者ってわけじゃなさそうだナッ」
「そういうことだ、おまえに奪われた金とアイテムはちゃんと返して貰うぞ」
「そうこなくチャッ!」
今、戦いの火蓋が切って落とされた。
「んっ…あれはなんだ…?」
ショーはスティーブの後ろの方を指を指す
「はっ、そんな見え透いたハッタリが俺に通用すると思っ…」
が、このスティーブという男は騙されていると気付いているにも関わらず
後ろを振り向いてしまったのである。
─テクニック『騙し』
敵を騙し敵を数秒間行動不能状態にする。
なお成功率はINTに依存する。
俺がIOプレイ初日にキラビ|(キラービーストの略)に襲われた時に
偶然覚えたテクニックである。
俺が川で魚を捕った後、ユゥにテクニックの使い方を徹底的に叩き込まれた。
テクニックには二種類あって、コモンテクニックとユニークテクニックが
その二つだ。
コモンテクニックはゲーム内であらかじめ用意されたデータであり
最低限ゲーム進行に必要なものが揃っている。
ユニークテクニックはプレイヤーが独自に作り出したテクニックであり
使い道の無いものから強力なものまで様々であるが強力なテクニックほど
高いステータスが要求される。
従来のMMOによくある「あんなこといいなできたらいいな」がこ
のゲームでは可能と成り得るのだ。
届かないところに手が届く、IOの人気の理由の一つである。
そして、俺の使ったテクニック『騙し』は基本的なコモンテクニックで
対人においては騙されているいないに関わらず、相手が一定確率で
数秒間振り向かせた状態にさせる。
NPCのモンスターには効くのに対人では使えないという矛盾を配慮した結果らしい
今度は騙されていないのに効いてしまうという矛盾が生じるのは
やはりゲームなのか。
「た、タンマッ!正々堂々戦おうゼ!?」
「お前が言うか」
俺は剣を構え、体勢を整える
川でやったあの修行を思い出す
「 熊 鮭 斬 り ! 」
いつもよりド派手なエフェクトが発生し、スティーブという男は
真っ二つに分かれ……消滅した。
クリティカルが発生したのが原因らしいまさか一撃で死ぬとは思わなかったが
スティーブが落としていった品を物色する
1万8000イディアとその他ポーションや装備品等々
「うわっこいつこんなにため込んでやがったのか、こりゃ当分金には困らないぞ」
「ふぃ、敵討ちは終わったみたいね」
物陰からユゥが出てくる、もし俺がスティーブに返り討ちにあったら
代わりに倒そうとしてたらしいが余計なお世話である。
「ところで熊鮭斬りってネーミングセンスださすぎだと思う」
「うるさい、おまえのとこのギルド名も大概だろ」
「なんですってぇっ!」
「あぁ?なんなら第二回戦、始めちゃうか?」
「望むところよっ!」
こうして、俺の対人戦初勝利は無事終わったのであった。
二話を投稿する際に間違えて一話の部分に上書きしたらしく
焦ったでござるまる




