宿屋まんまる亭③
黒田がまんまる亭を訪れてから3日経った。
「黒田さん、言いつけのとおり港町ポルタの簡易マップを作成しました。」
「ほう!なかなか早い。水色はまあまあ使えるな!」
水色ことニーナは黒田に作成するように指示された簡易マップを提出したところだ。
「ふむふむ、武器屋、防具屋、薬屋、魔法屋・・・それから冒険者ギルド。よしよし、メイン客層の冒険者たちが利用する場所が一目でわかるようになってるな。結構だ。これを宿屋のロビーに大きく張り出しておけ。いいな!」
「了解しました!」
ニーナは敬礼をして、カウンターを出て行く。
あれから黒田は、涙で俯く3人に対して「俺が店を立て直してやる!」と宣言した。
その勢いと妙な説得力と満ち溢れる自信に3人は、それを了承した。
黒田が出した条件は2つ「自分を泊めること」「自分が出した仕事の指示には逆らわないこと」だ。
「おい、黒田よ。新しく作成した、メニュー案だ。確認してくれ。お前のアドバイスとおり、人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、ボビット族、魔族、それぞれの好みの味付けをした魚料理だ。客が選べるように用紙に書いて一覧にして来たぞ。」
店主のオヤジがメニュー表を持ってやってきた。
「料金もバッチリ表示してある。なんの魚かは日によって変更するから、ここに追記できるようにした。」
オヤジはメニュー表の空欄を指差しながら言った。
「どれどれ・・・。よし、いいだろう。材料の仕入れ値と販売価格は俺の言ったとおりに設定したな?」
「ああ、料金は仕入れ値の1割増しで計算。さんかく亭の夕食と同価格帯になるように材料の仕入れ値を決定するんだろ?」
「そうだ。なかなか理解が早くて有能だな。これであとは料理の腕の勝負になる。価格も仕入れも同レベルなんだからな。腕には自信があるんだろう?」
「任せてくれ。同じ条件なら負けやしねえんだ。」
オヤジは胸を叩いて言った。
「しかし、これだけでは差にはならんな。あとは幾つかのデザートとドリンクも同じ要領で用意してメニュー表を作成しろ。」
「わかった任せてくれ。」
店主のオヤジは明確な行動指針が出来てやる気に満ちているのか、飛ぶように出て行った。
「ふう・・・」
(あの二人は中々に優秀じゃないか。俺の命令を素早くこなす能力がある。どうやら、無能な怠け者というわけじゃなくて、この世界特有の論理的思考の欠如というやつなんだろう。ミネルバがそんなような事を言ってたな。)
「さて、問題はコイツだ。・・・おい、ピンク!」
「は、はい」
セーラは相変わらず涙目で、ソロソロと黒田の方を向いた。
「・・・そろそろお辞儀ぐらいはまともにできるようになったんだろうな?水色は2日で俺の接客基本の教えを理解して、実行したぞ?」
「は、はい!お辞儀の角度は45度。笑顔でいらっしゃいませ、お客様。ですよね?」
「そうだ。やってみろ。」
「いらっしゃいま・・」ドカッ
セーラは柱に頭をぶつけた。
「はあ・・・お前、いわゆるドジっ娘ってやつなんだな。」
「うぅぅ。すいません。」
セーラは頭をさすりながら、謝る。
「あのなあ、ドジっ娘なんて2次元でしか許されない存在なんだよ。リアルでいたら鬱陶しいだけだ。ましてや接客業で、それは間違いなく邪魔でしかない。お前、外見がいいから許されると勘違いしてないか?」
「べ、別にそんなことは・・」
「思ってんだよ!お前が気がついてないだけで。お前は外見の良さから失敗を許されてきたんだ。周囲からな。だからそんな甘ったれたドジっ娘属性なんて身に付けちまったんだよ。」
「うぅっぅぅ」
セーラは完全に泣いている。
「いいか!?お前は無能だ!豚だ!繰り返せ!」
「りょ、了解しました。お前は無能だ!豚だ!」
「俺を罵ってどうすんだよ!?アホかぁ!?」
バァァン!!!!!
轟音とともに、机がバラバラになった。
「・・・仕方ない。お前の接客訓練は気長に続けていくとして、お前には接客以外に力を入れて働いてもらおうか。お前のメインの仕事は掃除だ。掃除は得意なんだったな?」
「は、はい。私、お掃除だけは得意なんです。」
セーラは涙目を辞めて、顔を輝かせて答えた。
「今までは、内装だけを掃除していたようだが、これからは外装も掃除しろ。あの汚さは致命的に印象が悪い。ボロくても懸命に掃除すりゃ、それなりに見れるようになるだろ。」
「了解しました!」
仕事を指示され、セーラは立ち去ろうとする。
「待て待て。」
呼び止められて、セーラは頭だけ振り返る。
「これは、俺が作成した宣伝用のビラだ。まんまる亭の位置、料金、サービスを簡単にだが記入してある。名前は伏せてあるが他の宿屋の平均宿泊価格との料金比較も載せてある。掃除が終わったら、大通りに出て、コイツを冒険者たちにバラ撒いてこい。全部で300枚ある。」
「紙なんて高級品をそんなに!?赤字になりませんか?」
「こういうのを先行投資って言うんだよ!それにこの紙を持ってきた客には宿泊とは別にビール1杯をサービスすると書いてある。用紙は、きちんと回収できるようになっている。」
「ほえ~」
「わかったのか!?あと、ちゃんと前見て歩け。こっち向いて喋りながら進むな!」
「了解しまし」ドカッ
セーラは豪快に柱にぶつかった。
「あぅぅぅ」
「はあ・・・」
(まだまだ、改善しなきゃならんことは山ほどある。70点に仕上げるのに2カ月はかかるな・・・)
黒田はセーラを見もしないで溜息をつき、問題個所と改善案をまとめた書類、資金の調達源泉と運用形態を記入したバランスシートを書き始めた。
とりあえず書いた分を投稿しました。
このあとは1日1投稿を目指します。




