3-12
8月も後半になりましたね。
今年は電気代が凄い事になってます。
早く涼しくならないかなぁ。
こんにちわアリスです。
皆さん、私の事を覚えていますでしょうか?
あんな組織に関わったばかりに出番が無いなんて・・・。
なんて嘆かわしい事なのでしょう。
え?堂々と出れば良いじゃないか?
嫌ですよ死にたくないですしっ!
部屋の一部の壁を指し示す。
「ここがそうなのか?
俺にはわかんねーな」
「そうだね・・・僕にもわからないなぁ
ホワイトはどうだい?」
「わがんねぇ
なにがのぢがらはかんじっけどもな
ふづうのめいぎゅうどおなじでねぇのが」
実はホワイトさん・・・・・・訛りがキツ過ぎて
あんまり聞き取れない。
≪魔天語≫なんだけど訛りはスキルで補正してくれないようだ。
所々、キュイに効き直しながら会話をしてる状態だ。
ホワイトさんと会話を続けていれば
いつかは訛り補正のスキルなんかが手に入らないだろうか。
神様、頼むよっ!
・・・・・・・・そこはピローンってなるとこだろうがっ!!
やはり俺以外の人は違いが分らないようだ。
他の壁と同じように見えると。
俺にしたって僅かな違和感で気が付けた位だから
他の迷宮だと分らなかっただろう。
「で、どうするんだ?
この先に何かあったとしても
迷宮の壁なんざそうそう壊せないぜ」
「とりあえず色々と試してみよう」
ザッカリアの攻撃やサリーの攻撃。
ホワイトさんの魔法や俺の魔力砲も試したが殆ど効果がない。
多少、煤ける程度で傷が付いてもチョッピリだ。
それすらも時間が経てば修復されてしまうだろう。
迷宮はそれ自体が生物のような物だから
ある程度の傷は自動修復されてしまう。
迷宮の修復能力を超えた破壊等があると
そのままになったりするらしく
朽ちた迷宮なんかはその結果だな。
この限られた状況ではそこまでの威力を出すのは厳しいだろう。
やれない事はないがこちらにまで被害が出そうだ。
俺のスキルを使っての突破も出来れば遠慮したい。
まだ今後にどう転がるかが見通しがたってないし
なるべくなら手札は隠しておく方が良い。
「やはり駄目そうですね
僕達の力じゃ壁は壊せそうにありませんね」
「あぁ、俺も武器がこれじゃぁな」
「ザッカリアの武器はそれじゃないの?」
「おう、俺は武器マニアでな色々とあるんだが
今回のは物理攻撃を重視した奴だ
手持ちで一番良い奴を持ってきてれば
いけたかもしんねーけどな」
「へー、それってどんな奴?」
「おう、武器としては大槌になるんだけどな
装備者の魔力と体力を生命力を限界まで吸収して
凶悪なまでの破壊力を伴った1発を放てる奴で
名前は"隕石落とし(メテオストライク)"って名前だ」
「名前からしてかっけーな
限界まで吸収ってどれくらいだ?」
「そうだなまず魔力が限界まで吸われて
意識が朦朧として各感覚が奪われる
次に体力が根こそぎ持ってかれて
無限に続く穴に落下したような浮遊感で
体が崩れ落ちる
んで呼吸してるのがギリギリ位まで
生命活動が低下するな」
「それってヤバいんじゃ?」
「多分、そこらの野良犬に噛まれて死ぬレベルだな」
「駄目武器じゃんっ!」
「いやいや、威力はマジすげーからっ!
使用者の素質によるけど俺が使えば
下手な砦とかなら1発で半壊させられるぞ」
「おお・・・・確かにそれはすげーな」
「だろ、難点としては機能を起動させないと
かなり重くて俺でも通常武器としては
使えないって事だけどな」
「それ武器じゃなくて城塞攻撃用の兵器じゃんっ!」
そんな突っ込みをしつつ準備を進める。
試作ナイフを取り出しただけだけどね。
「そんなナイフでどうするんだ?
凄い切れ味なのは分かっているが
ナイフ位じゃ傷すらつかねーぞ」
ザッカリアが小馬鹿にしたような
口調で茶かしてくるが軽くイナす。
「まぁ、見てろって・・・・・えいっ」
俺はナイフを力みもせずに壁に突き刺す。
そう、壁に突き刺したのだ。
「えっ?なん・・・・なんだそれ?」
「えっ・・・・え?ミノル君・・・・え?」
驚く2人を放っておいてナイフをグリグリ動かす。
抵抗らしい抵抗も無いままに壁をサクサクと切りつけ
刃渡りが短いので円錐状に切り取る。
ショック状態から立ち直れないのか
呆然とこちらを見てくるが気にせずに
ドンドンドンドンドンドン切り取って行く。
ナイフの刃渡りが短いので時間は結構掛るな。
途中で迷宮の壁を齧って見たら
かなりの量の魔力変換が行われた。
これって結構な高品質な素材なんじゃね?
しかも意外と美味しい。
勿体ないので切り取った部分は収納していく。
ある程度深く掘れて来たら立体的に切り出しを行い
幅と高さも拡張していく。
もちろん壁はドンドン収納していく。
1人で作業しているので2人には総量は掴めまい。
ふふふ・・・・役得だぜ。
時間が経っても回復する気配はないので
自動修復値を超えているんだろう。
最初は呆れてたものの
余り説明をしないままに
一生懸命に壁を切り崩していく俺に
何も言わずに後ろで宴会を始めやがった。
基本的にボス部屋は他の敵が出て来ない。
更に言えばロックベアの復活も無いと思われるので
ボスの再登場も無い。
俺の作業スピードはそんなに速くない。
いや寧ろ遅い。
ナイフでチマチマと壁を削るんだから速い訳が無い。
それに壁の厚みも不明だからな。
それにしたって宴会はないと思うぞ。
5時間程、モクモクと孤独に掘り進めた結果は
何とか中腰で入れる程度の穴を作り上げた。
深さは1m程度で先はまだ見えない。
魔力量は問題ないが精神的に来るものが
あるので休憩を挟む事にする。
ザッカリアが良い感じに酔っぱらい
サリーが彼女団を呼び宴会しているので
気分転換に料理を作る。
そうは言っても料理器具が殆ど無いので
肉を焼くだけだけどね。
調味料を振って焼くだけだ。
しばらく時間が掛りそうなんで大量に焼く。
迷宮で取れた肉をメインに幾つか焼いておいたので
味も色々とあって飽きずにいてくれるだろう。
「やっぱりミノルが焼くとうめーな
俺やサリーのとは違うんだよな」
「そうだね、ミノル君の焼くと妙に美味しいよね
味が濃いと言うか深いと言うか」
「んだぁ、みのるのづぐっだ
ものはうんめぇだぁ」
「おいしーです」
「うんうん」
「うまかーうまかー」
ホワイトさんを含めた皆が言ってくれるが
本当に焼いただけだぞ?!
むむぅ、スキルって恐ろしいな。
「んで、そのナイフは何だ?」
「この流れでそれ聞いちゃう?」
「最初は良く切れるなって位にしか思ってなかったが
迷宮の壁をそんなに簡単に切れるなんざ
何かの曰くつきの武器だろ?」
う~ん、どうしたもんか。
何も考えずに使っちゃったんだよなぁ。
剥ぎ取り時もすげぇ切れるから凄いなとは感じたけど
まさか壁もサクサクとイケるとは思ってなかったし。
とは言え素直にいう訳には行かないしなぁ。
ここはあれだ、あの人に助けて貰おう。
「俺のマスターの祖先にドパール卿と言う人が居てさ」
「おぉ、あの稀代の発明家と言われた方だね
確かジャパネス族の」
「そうそう、その人が作ったナイフでさ
一族に伝わる護身剣として家宝にされてるんだ
それを今回借りたんだよね」
「なるほど、俺もその名前は聞いた事あるな
武器なんかも手掛けてたんだよなぁ
名品が多いと聞くが・・・・確かに凄いんもんだ」
「あぁ、これはあまりの有用さに
一族で秘匿されていたんだ
情報が漏れて狙われたりしたら不味いからね
2人を信用したから話したんだけど
ナイフについては一切話題に出さないでくれよ
もちろんマスターとの会話とかにも出さないでくれ」
「確かにね
そのナイフの存在が漏れたら狙われたりするのも
理解できるよ」
「まあな、俺もそいつが欲しくなっちまうが
そういう理由なら手を出すのは野暮ってもんだな」
「悪いね
代わりと言っちゃなんだけど
戻ったらちゃんとした料理を作ってあげるからさ」
「本当かい?!
それは楽しみだね」
「あぁ、酒が進みそうな奴を頼むぜ
俺もとっておきの酒を出してやるからよ」
何とか誤魔化せた・・・・かな?
含みを持たせたからこの話が表に出る事は無いはずだ。
多分ね。
それから更に数時間かけて掘り進める。
宴会が終わり彼女団も帰り2人が寝に入っても
俺は掘り進める。
削って削って。
たまに齧ってまた削って。
そしてついに刃先が向こう側に抜けた。
穴を広げて向こう側を除いてみると
奥行や床なんかは見えないので通路かどうかの
断定は出来ないが薄ぐらい通路らしき空間があった。
うん、やっぱり先はあったんだな。
漂うラバリオの気配も濃くなる。
残り僅かだと思うと俄然やる気が湧いてくる。
身体能力を最大限まで補正し
作業スピードを上げていく。
ピローン
> スキル≪掘削≫を手に入れました。
おおう、ナイフで壁を削るのが掘削になるの?
入手後は明らかに削るのが簡単になった。
もうちっと早く入手したかったぜ。
ザッカリアでも何とか通れる位の穴が完成した頃には
2人も起きてきたので少し休憩を兼ねて準備をする。
こんな時に魔力があれば疲れにくい体は有りがたいな。
「この先はどんな感じだ?」
「最初は通路かなと思ったんだけど
どうやら下の階に行く階段なんだよね
先に調べようかとも思ったんだけどさ」
「なにがあるかわからないしね
単独じゃ危険だよ」
「うん、そうそう
だからまだ下の階は調べてないんだ
一応、ザッカリアでも通れる程度には
広くしてあるから
準備が終わったら降りてみよう」
迷宮の隠された階段。
実は全員が表にこそ出さないがワクワクしていた。
今迄は価値がないとされていた迷宮に
誰も踏み入れた事がない場所がある。
そこに思い描くのは財宝か武器かはたまた強敵か。
空けた穴を潜りゆっくりと階段を下りていく。
降りた先は広間になっていた。
いや、広間と言うよりは迷宮の1フロアが
ただ広がるだけの空間だ。
光源は不明だがうっすらと明かりがあるだけで見通しは悪い。
「これはまた凄い空間だな」
「ええ、演習が出来そうな程に広いですね」
「何も無い迷宮ってのもグッとくるモノがあるよな」
感嘆の声を出す3人。
そこにキュイが警告投げかけてくる。
《前方より接近する個体があります》
「前から何か来るぞっ!」
即座に武器を構え迎撃姿勢を取る。
薄暗い場所から人影が見えてくる。
どうやら人型のようだ。
「もう誰よ~」
そんな呑気な声が聞こえてくる。
女性の声だろうか一言しか聞いていないのに
妙に耳に残る声をしている。
ハッキリと見える距離に近づくと
それは確かに女性だった。
金髪でとても美しい顔をした女性。
「ミノルっ!
ヤバイっ!天使族だっ!」
「皆、おいでっ!!」
理由も分らずにザッカリアとサリーが
臨戦状態になる。
サリーの周りには彼女団が全揃いだ。
金髪美女は背中には純白の羽を携えていた。
俺は神様ではなく天使に遭遇した。
アリスが空気になってますね。




