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勢いで書き続けてしまいました。


本日より狩人ハンターデビューする森山実留です。

甘露(母乳)を与えられず地上(外に)放り出されました。

天上(住処)から終われる身になるとは悲しいです。






狩り。

この言葉で思い出すと言えば

あれだ、あのゲームだ。

最大四人で大きな竜なんかを切ったり叩いたり撃ったりするあれだ。

魔法なんかを使わずにテクニックのみで狩るのは奥深い。

ゲームでは武器を使うが俺には持てる武器がない。

そもろも肉球しかなく武器を持てる手すらない。


そうは言っても俺にも武器はある。

それは牙と爪だ。

子犬よりは大きいとはいえ

まだまだ成犬にはなっていない体だが

腐っても野生動物。

なかなか鋭い牙も持ってます。

爪はまだ大きくはないがしっかりした形で

獲物を押さえつけるには十分に役立ちそうだ。


後は他の犬には無い俺だけの武器。


元人間としての知識。

元人間としての経験。

それこそが俺の最大にして最強の武器。

自分の食い扶持ぐらい何とかしてやるぜ。





「アリス、この付近で狩れそうな生き物は居るか?」


隣に浮かぶアリスに問い掛けると

フワっと浮かび上がり上空から周囲を見渡す。


「う~ん、虫か蛇か近くに居ます

 あとは少し先にウサギが見えますね」


「虫と蛇はちょっとなぁ

 ウサギにしてみようか

 案内してくれ」



アリスに案内を頼み歩き出す。

住処周辺から離れるのは初めてだ。

緊張と楽しみでドキドキする。

音を立てずに慎重に進む。


しばらくすると少し広めの草地に出た。

そこに草に頭を突っ込んでるウサギの後ろ姿が見えた。

どうやら一生懸命お食事中らしい。

耳がピコピコと動いているのは警戒をしているのだろうか。

頭部分が草で隠れている為に全長はわからないが

俺よりは小さいと思われる。


「あれならいけんじゃね?

 俺よりも小さそうだし」


「そうですね耳まで入れたら

 向こうの方が長そうですけどね」


「耳入れてもしょうがねえだろ

 そこそもウサギなんてもんは

 最初に狩る獲物としちゃゲームとか小説とかじゃ

 定番なんだぜ」


「なるほどなるほど

 定番とは王道、王道は外さないという事ですね」


「そそ、アリスもわかってるじゃないか」


「それでどう狩るんですか?」


「最初の獲物という事もあるから

 慎重に行こうと思うんだ

 アリスにも協力してもらおうと思う」


「物理的な補助は出来ませんよ?」


「わかってる

 作戦は簡単だ


 まず俺がバレない限界まで後ろから近づく

 アリスはウサギの上空で待機してて欲しいんだ」


「ほうほう」


「そこからはタイミングを合わせて一気に決める

 まずアリスがウサギの目の前に急降下して驚かせる

 そうするとウサギが逆方向に逃げようとするだろうから

 俺の飛び込みでカウンター気味に襲いかかるって手段だ」


「なるほどなるほど


 

 策士ですね」


「元人間がウサギ如きに負ける道理はないのだよ」


「「フハハハハ」」


アリスと俺は勝利を確認するのだった。








ウサギは上手い事に風上に居るようで

音も匂いも誤魔化してくれた。

これらも運が向いていると言えよう。


アリスは準備完了後に俺が指定位置に着く事を

確認すると急降下の姿勢に入る。


目の前にアリスが突然現れた事により

ウサギは食事を止め、後方に急転回を行い

逃げようとする。


「計画通りだ!もらったぁぁぁぁぁ」


視界の隅でアリスが不安な顔をしているが

俺は体全体を使い引き絞った弓のように

ウサギに襲いかかる。

アリスよ安心するが良い。

ここまで読みがバッチリだと心配する方が失礼だぜ。


ウサギの顔が完全にこちらに振り返ると

俺の頭の中に疑問がわき出る。

ん?あれはなんだ?



ウサギの額に角が生えていた。

角だ、ツノ、TUNOOOOO。


「うぉぉぉぉぉ、やべぇぇぇぇぇぇ

 さぁさぁるぅぅぅぅぅぅぅぅ」


体は既に空中にあり角の軌道上から逃げれそうもない。

それでも無理矢理にでも避けようとする。


「だぁめぇだぁぁぁぁぁぁぁ」


交差した瞬間、体に激痛が走る。

顔は何とか避けたものの左後ろ脚から尻にかけて

皮膚がザックリと裂けた。

どうやら足に刺さってからそのまま突き抜けたっぽい。


「いやぁぁぁ、いてぇぇぇぇ

 しぬ、しんじゃうぅぅぅぅぅ

 ありすぅぅぅぅぅ」


人生(と犬生)の中でも味わったことのない

痛みが体を襲う。

あまりの痛みに意識が飛びかける。


「実留さん!まだです!

 ウサギ来ます!」


え?横をみるとウサギが角を向けて

こちらにジャンプするところだった。


「だぁぁぁぁ」


それを無理矢理転がって躱す。

地面に擦れて足が痛い!超痛い!

痛すぎて逆に意識がハッキリしちゃうぐらい痛い。

駄目だ、ウサギつえぇ。


ウサギは完全に自分が上だと認識したらしく

逃げずに襲ってくる。

興奮しているのか目が血走って赤くなっており怖い。


何度か転がって逃げるものの緊張と怪我により

体力は限界を迎えつつある。


どうする。

どうすればいい。

このままじゃ。

このままじゃ。

気持ちは焦るものの体が思うように動かない。





何度目かの回避の際に右前足に角が刺さる。


「あ・・・・駄目かも・・・・」


精神の緊張も切れ一気に心が折れる。

痛みも鈍くなり体も動かなくなってきた。


足はすでに動かず立つのが精一杯。

頭を上げるのも厳しいほど追い込まれる。


視界がフェードアウトしそうになるのを必死に耐えては

いるが既に限界なのは傍から見ても判るほどだ。


もちろんウサギがそれに気がつかない訳が無い。

最後の攻撃とばかりに後ろ足に力を溜めて

飛び掛る体制をとっている。



俺の短い犬生もここまでか。

良くわからないまま事故で死んで。

良くわからないまま転生して。

良くわからないままウサギに殺されようとしている。



あはは、何か笑っちゃうな。

あ~ぁ、最後に実里に会いたかったなぁ・・・・。



最後の意識の一紐を手放そうとした時。

ぼやけてきた視界に今まで忘れていた存在が写る。



「うひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


雄たけびをあげつつウサギに向かって

光ながら突撃するアリスだった。


ウサギは最後の攻撃をしようとした瞬間に

自分に向かってくる光る物体に驚き

攻撃のタイミングがずれバランスを崩す。


「実留さん!今です!

 思いっきり叫んで!!」


「ウゥ・・・・ウォォォォォォォォォォォオォォォォォォォン!!!」


体に残っている僅かな力を総動員し

奥底から限界一杯の叫びを放つ。



そして俺の意識は闇に沈んだ。




















「・・・・・実留さん・・・・・実留さん・・・・・実留さん」


「だ・・・・れ・・・?」


「実留さん・・・起きて・・・起きてください」


「・・・・ん・・・・・・あ・・・」


うっすらと視界が戻ってくる。

そこは森の中で見覚えがある場所。


ウサギと戦った場所だ。

目の前にはフワフワとアリスが漂っているが

うっすらと透けているように見える。



「俺は生きてるのか?」


「はい、かなり危ない状態ですが大丈夫です」


「そ・・・そうか・・・・ウサギは?」


「最後の大声で逃げて行きました」


「アリスは・・・大丈夫・・・なのか?」


「はい、私は大丈夫です

 ただ光るのに魔力を使ってしまったので

 もうこれ以上は離れる事も出来ません」


「アリスが無事で・・・よかっ・・・・た」


「何言ってるんですか実留さんの方が危ないじゃないですか」


「だね・・・あは・・・ごめんね」


「本当ですよ!何が策士ですか!

 全然駄目じゃないですか!」


「い・・・や・・・それはアリスが言ったんじゃ・・・」


「謝ってください!」


「え?」


「謝ってく・だ・さ・い!」


「ごめんなさい」


「うふふ、分かればいいんですよ」


そう言って笑顔になったアリスは

俺の顔の前を弱げにフワフワと飛ぶ。


「さぁ、お家に帰りましょう

 今からなら暗くなる前に着けますよ」


「あぁ、そうだな

 よし帰ろう」


そう言って手足に力を込める。

どれくらい寝たかはわからないが

怪我は痛むものの大きな出血は止まっている。



さて帰ろう。





フワフワと飛ぶアリスだけを見て

一歩一歩に意識を込め歩いていく。



実留の初狩りは失敗に終わった。

まったく主人公は強くならないですね。

困ったもんです。

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