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2-20

ちょっぴり長めです。

こんにちはエースストライカーの森山実留です。

族長と言う名のボールを祭壇と言う名のゴールにぶち込みました。

完全アウェイでのゴールは拍手喝采です。

まぁホームなんて何処にも存在しない上に

応援は3人しか居ませんがね。








「リース、キリルここで撃退するぞ」


俺は閃いた作戦を二人に伝えた。

準備に必要な時間がギリギリだろう。


俺とリースは魔法で出入り口の大扉から少し離れた部分から

祭壇の入り口まで氷を張る。

極限まで表面は滑らかにして摩擦係数を下げる。

氷の下部には土魔法で砂を混ぜ込み光の反射を抑える二段構造だ。

同時に室内の空気の温度を下げつつ

壁に灯されている明かり、多分魔法具だと思うにカバーを作成し光量を落とす。


キリルには有りあわせの材料から長いロープの作成だ。

残念ながら手持ちの布と紐に黒は無かったので

少々グロいが魔物の血で染める事にした。

泉の水を桶に溜めて魔物の血を入れ込み漬けて染める。

何体かを解剖し検証した結果、黒蜥蜴竜とマリラスネークの血が

赤黒さが強いので混ぜて使った。


漬けては風魔法で乾燥させるを繰り返す。

途中からリースに乾燥を手伝ってもらい何とか完成した。

完成したロープは≪黒魔染縄≫とかいうアイテムになった。


名前がそのままなのは良いとしてアイテム化したのは何でだろう?

神殿で入手した布とかを使ったのだがそれが影響したのか・・・・。


効果としては

・ある程度の長さまで伸縮可能

・ある程度の操作が可能

・かなりの強度

・軽度の自然回復機能


わーお、これかなり凄いんでない。

何ともラッキーだ。

念の為、他の布地で試してみたらただの黒いロープになった。

強度は上がったがそれぐらいだ。

量産すれば儲かると思ったのに・・・・。


ある程度の準備が終わった処で

リースとキリルに任せてご飯の準備をする。

戦う前に腹ごなしをしとかないとな。


久々の料理だ。

さて上手く出来るかな。


黒鍋に泉の水を入れる。

兵士の詰所にあった保管庫から入手した干し肉を細かく刻み

アイテムボックスから香草と野菜を取り出し煮込む。

リースとかはかなり食を制限されていたと思うので

胃にやさしい煮込みにした。


煮込んでる間のリースとキリルの顔が怖かった。

今、作ってるからね。

君たちの分もあるからね。

そんなに食い入るように見ても出来る時間は変わらないからね!




結論からすると俺の心配は杞憂だった。

二人はいつもの食欲を発揮しモリモリ食べた。

もちろんアリスも食べた。

いや、いつも以上に鬼気迫る食べ方だった。

なに?この子たち怖いんだけど?!


俺は配膳に尽力し煮込みは食べれなかった。

なので俺だけ別メニューで猪肉を焼いて食っていたら

それも奪われた。

オークも・・・・同じくだ。


俺がまともに食事を再開できたのは

三人共が食べ過ぎで動けなくなった頃だった。


そのまま二人を寝かしてあげて

アリスに警戒を頼み俺は室内の温度を保つ。

ちなみに全員ハイエルフの見張りから入手した

外套を装備しているので寒さは大丈夫だ。

外気温の変化に関わらず外套内を一定に保つ効果がある奴だ。

見張りには持って来いの外套だよな。




2時間後に扉から魔力の高まりを感じてきたので

二人を起こす。

水で顔を洗わせて持ち場に着く。

それから30分後、俺達は族長と対面した。








扉から外に出ると体を動かせない位に

疲労困憊したエルフが3人程転がっていた。

扉に魔力を注ぐ為に犠牲になったのだろう。


簀巻きにしようと近寄ると

見覚えのある顔に気が付いた。


・・・・彼奴だ。

森から出てきた中でも偉そうな態度の奴だ。


とりあえず三人共簀巻きにした上で

キリルに2人を他所に置いてくるように指示。

アリスにリースを任せ例の奴を連れ建物の裏に回る。


肩に担いで運び乱暴に投げ捨てる。

何か声を出しているが猿轡もしてあるので聞こえない。


俺はそっと耳打ちする。


「よぉ、覚えてるかな?

 臭い臭いミックスの事なんてお偉いハイエルフ様は

 覚えてもいらっしゃらないかな?」


「ヴーヴーヴー」


「あれれ覚えてないのかな~

 どうなのかな~」


「ヴーヴーヴー」


猿轡を外す。


「貴様!ミックス如きが "ドゴン!" グハァッ」


腹を思いっきり蹴飛ばす。


「ん?何か言ったかな?」


「ミッ・・・・ミックスの貴様な・・・ "ドゴン!" グハァッ」


腹を思いっきり蹴飛ばす。


「ん?何か言ったかな?」


「・・・・・もう・・・やめて・・・・ "ドゴン!" グハァッ


此方から話しかけるのに

喋りだしたら腹を蹴るを繰り返す。

10回ほど繰り返したら大人しくなった。



「やめ・・・やめて・・・・くだ・・・さい・・・」


「そうそう、人はさ謙虚にならなきゃいけないよね

 俺が言っている事はわかるかな?」


「はい・・・わかります・・・・」


「そうか良かった良かった

 じゃぁさ俺の役にたってくれるかな?」


「はい・・・・何でも・・・何でもやります!」


「うんうん、良かったよ

 これで心置きなくハイエルフを食べれるよ」


「はい・・・・え?」




俺は両手を合わせて感謝の祈りを捧げる。


「頂きます」



ピローン


> スキル≪言語(エルフ語)≫を手に入れました。

> スキル≪深緑森の守護者≫を手に入れました。



そういやコイツも族長も最後まで名前知らなかったな。






リース、キリル、アリスの場所に戻る。

次の目的はこの村からの脱出だ。


「リース、この村からの出方はわかるかい?」


「・・・自分で出たことない」


ふーむ、どうしたものか。

村はそこまで大きくは無いものの

周囲を深い森に囲まれていて方角が分り辛い。

神殿が最奥だとすると逆に向かって進めば

出れるんじゃないかと考えられるが

どうも方向感覚が怪しい。

感知には村全体を囲う何かを感じる。

その何かを感知が突破出来ないのが不安だ。

多分、結界のようなものなんだろうけど・・・。


なんにせよ進んでみるしかない。


建物に隠れるように進んで行く。

村の外円部に辿り着くのはそう難しくなかった

霧が濃い為、神殿の場所がわからないが

辿ってきた建物の位置を考えるに

真逆の場所で良いはずだ。



そのまま外に向かって伸びる細い道を辿って進む。

少し進むと道が途切れる。

振返ると道が無い。

完全な森の中だ。


おかしい。

辿ってきた道すらも消えるとはなんだ?

駄目だ考えても何も出てこない。

これは結界の効果なんだろう。


どうしたものか・・・・・。

思考で止まっていた意識を現実に戻すと

村の外円部に戻っていた。

外に出る小道も建物もさっきのままだ。


頭の中は?で一杯だ。


「実留さんどうしたんですか?」


「いや、外に出ようとしたんだけど

 元に戻ってきたんだよ」


「え?・・・実留さん一歩も動いてないですよ?」


「なんですと?!」


その後も何回か試したが外に出ようと意識した瞬間から

結界の効力は発揮されるらしい。


さぁ、どうする。

どうすればこの結界を突破できる。





「村を出る方法を教えましょう」


声を掛けてきたのは1人のハイエルフだった。

物越しは柔らかそうだが目は深淵を見つめているような深さを感じる。

防具も無し武器も無しの全くの無防備だ。

それでも隙は無くある種の緊張感を覚える。

そんな人物だ。


「誰だ?」


「私はリースの母の親に当たります」


「それって」


「おじいちゃんっ!」


ああ、なるほどそういうことね。

その割にはリースが俺からくっついて離れない。


俺が怪訝そうな顔をしていたのだろう

祖父は悲しみを携えた顔で話し出す。


「私はリースに嫌われていますからね」



リースの祖父の名前はシャルム。

存命中のハイエルフの中では年次は高いらしい。

実の娘であるリーリア。

旦那であるクールス。

その間に生まれたリース。

娘夫婦とシャルムは近年は不仲だったそうだ。

全てはリースが緑色の眼を持って生まれたのが原因らしい。


強制的にリースは神に捧げる巫女にさせられた。

シャルムは神に捧げる事は名誉であり当然の事だと信じていた。

しかし両親は折角出来た子を神に捧げたくはなかった。

そこに軋轢が生まれた。

両親はリースを守り巫女にさせないように行動した。

シャルムは巫女に捧げよと強く強要した。

それらは幼いリースにも恐怖心を覚えさせるに十分はモノだ。


いよいよ巫女に成らざるえない所まで追い詰められた両親は

リースを連れて逃げた。

怪しんでいたシャルムは逃亡を察知し報告。

追っ手は直ぐに放たれた。


父親は逃げ切れないと悟ったのか

時間稼ぎに残り母子を逃がした。

結局は捕まり命を絶たれる事となる。


母親は覚悟を決めリースを抱えたまま

崖から身を投げ出した。


そう報告を受けたシャルムは娘夫婦の意志の

強さを改めて知った。

そして衝撃を受けた。

自分は何をしているんだと。

実の娘が命を掛けなければいけないまでに

追い込んだのは誰なんだと。


村の有り方について疑問を感じ始めた頃に

リースが戻ってきたと連絡が来た。

会いに行きたがったが神殿には入れない為

会う事は許されなかった。


それでもどうしてもリースに会いたくて神殿の近くを

夜になればウロウロしチャンスを伺った。


そんな時にうちらの襲撃があったわけだ。

シャルムは一部始終をずっと見ていた。


族長と巫女しか入れない神殿にうちらが入るところを。

巫女を生贄にするはずの祭壇に族長が放り込まれるところを。


今迄の掟はなんだったのか?

禁止行為は神が決めたルールでは無かったのか?


自分の何かが崩れるのが分った。

そしてどうして良いかが分らずに後をつけてきた。



「それはあれだな・・・

 神が決めたんじゃなくて族長が決めたルールじゃね?」


「と言いますのは?」


「神殿の壁に壁画があったんだよ

 確かに生贄は必要なんだ

 でも最初は森の恵みとして取った獣や魔物を

 供える事によって祭壇は機能していたんだ」


そう壁画に描かれていたのは

祭壇の本来の使い方だった。


それは色々な森の恵みを神殿に入れると

ホールを転がり落ちて祭壇に入る。

それによって祭壇は生贄を処理し力を発揮する。




つまり。



簡単に言えばゴミ焼却炉だ。

不要な物を投げいれば勝手に処理し更に森に力を還元してくれるという

非常にクリーンな施設と言える。


それを族長が良い様に改竄し村の掟としたのだろう。

何故、同族を生贄にしなければいけないかは

疑問を感じるがすでに答えられる人物はいない。


「今の話を信じるかどうかは貴方に任せます

 まぁ神殿に入ればわかりますけどね」


「そうか・・・今迄の・・・今までの

 犠牲は・・・なんだったのか・・・

 娘の・・・娘の命は・・・私が奪ったのか・・・・」


シャルムは孤独に嗚咽をあげて静かに泣いた。




シャルムの導きにより村を出た後は

見張りがいる場所を迂回し時間を掛けて崖まで出た。


「ここまで来れば大丈夫でしょう」


「助かりました・・・・と言っておきましょう」


「えぇ、お礼はいりません

 それだけの事をしていますから」


俺はここまで来てある事に気が付いた。

リースは今後、どうしたいのかだ。

俺と一緒に来るとも村に残るとも聞いていない。


「リース、これからどうしたい?

 村に残るかい?

 それとも・・・・・」


「お姉ちゃんと行くっ!

 村は嫌っ!」


シャルムは寂しそうな顔をするが

吹っ切れたのだろう。


「ミノルさん、リースをお願いできますか?」


「正直な所、自身は有りません

 それでも力の及ぶ限り守りましょう」


「ありがとうございます

 

 リースやこれを渡しておこう」


シャルムは懐から綺麗な細工のペンダントを取り出した。


「お父さんのだ!」


リースが奪うようにシャルムから受け取る。

ペンダントは半円で何かを象ったデザインだ。


それを見て俺の中で何かが引っかかる。


・・・・・ん!



アイテムボックスを漁る。


あった。


俺は似た形のペンダントを取り出す。


「お母さんのっ!」


やっぱりそうだったか。

オークの洞窟で見つけたんだが形見になっちまったな。


リースに渡してあげると両手に握りしめて涙を流す。


「リースやそれを貸してごらん」


リースが落ち着くのを待ってからシャルムが

ペンダントを受け取る。

二つを組み合わせると一つの柄が浮かび上がる。


「ハイエルフに伝わる子供が生まれた時に作るペンダントです

 両親がそれぞれ身に着けて子が成人した時に送る物だ

 想いが籠ったお守りとなる」


それを受け取ったリースは大事にとても大事に抱きしめた。









「それじゃうちらは行きます」


「リースよいつまでも元気でいておくれ」


「・・・・うん」


少しだけ見せたリースの笑顔にシャルムは

満足に頷き魔法を使う。


「重力軽減を掛けました

 緑の子は森の神に愛された子です

 魔法に優れた才能があります

 後はリースが何とかするでしょう」




「リース、頼んだぞ」





「うん!お姉ちゃん!」





4人は何の恐怖も感じずに崖から飛び出す。





そう鳥が巣から羽ばたくように。





森に両親を殺され森に愛されたハイエルフの子が

巣立ちの時を迎えたのだ。








リースは世界に向かって希望と期待の翼を大きく羽ばたいていく。






薄く明るくなってきた空の彼方から差し込む光が

その姿をキラキラと照らしていた。




実留君、完全にお母さんな気がします。


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